5年前の消極的な「不戦の誓い」から、積極的な「平和宣言」へ~「第14回 東京-北京フォーラム」を振り返って~

2018年10月15日

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kudo.jpg工藤:皆さん、お疲れさまでした。「第14回 東京-北京フォーラム」が無事に閉幕し、「東京コンセンサス」を採択、発表することができました。私たちとしては非常に満足した内容になりましたが、それにもまして、今回、議論のレベルが高い、特に分科会報告のレベルが高かった。こうしたレベルが高く、世界最前線のテーマについて当たり前のように議論が行われていることに、非常に驚き、感動しました。
 まず、皆さんにとって、今回のフォーラムがどうだったのか、ということをお伺いしたいと思います。


議論に臨む姿勢や議論の内容に表れた中国側の変化

akashi.jpg明石: 私も、いろいろな意味で感慨深い思いです。両国のパネリストが率直に意見を出していたし、それにも関わらず建設的でお互いの立場をよく理解した、非常に前向きな議論ができたと思います。14年目になって、やっと我々の蒔き続けた種が目を出し始めた。そういう意味では、工藤さんの努力も、やっと報われ始めたのではないかと思います。

 しかし、これで全てを楽観視して、全てが良くなるというのは幻想だと思いますが、とにかく日中関係は大きな峠をこしたな、と感じました。これから、我々の議論は、実際的に、具体的になっていくと思いますし、実りあるものになっていくのではないかという期待感を持っています。

miyamoto.jpg宮本:14回目を迎えて、中国、あるいは日本においても「東京-北京フォーラム」の存在意義が、真正面から認められてきたということではないでしょうか。中国側も「継続は力なり」ということを何度も言っていましたが、これまで続いてきたことによって、中国側に全面的に認知を受けた。つまり、民間でこのような対話を行うことに意義があるのだと。とりわけ、米中関係がこういう状況だからこそ、日中関係をさらに改善しようという大きな節目の中で、「東京-北京フォーラム」が持っている意義が認められたのではないかと思います。

 考えてみれば、工藤さんが45歳の時に始めて14年、弛むことなくやってきた、その成果だと思います。

ogura.jpg小倉:今回、歴史認識の話が出てこなかったのは、これまでで初めてではないでしょうか。私は、過去の問題は克服できるとは思いませんが、少なくともこういう対話で議論するよりも、過去の問題は頭の中に置いておくという話だと思います。今回は、ある意味で、乗り越えた議論ばかりが出た。それが、非常に興味深かった。

 もう1つは、中国側に自信とゆとりが出てきたことを感じました。例えば、中国人の発言の中に、「中国の大国主義はよくない」「中国は自己抑制しなければいけない」「中国人の相手国への印象は、本当は改善しているといえないのではないか」など、中国人自身の中に、現状に対する迷いなどがあるのではないか。そういう自己分析が中国側から出てきたということは、非常に面白いな、と感じました。

 他方で日本は、日本の将来は高齢化という問題はありますが、それよりもっと、日本の将来をどう考えるか、ということについてはっきりしないために、それが日中関係にも反映されているという側面があるということを感じました。

yamaguchi.jpg山口:私が今回感じたのは、中国側がこの「東京-北京フォーラム」という場を使って、日中の間の信頼関係を築きあげる上での礎にしたい、という思いが強いように感じました。そういうことからすると、継続は力なり、14回続けてきたことの成果ははっきり表れたなと思います。

 経済について言えば、既に中国との間については、実務的、具体的な話をしていこうという話は、昨年、あるいは一昨年あたりから出ていましたが、今回、飛躍的にさらに進歩したという感じだと思います。

工藤:今、皆さんからいろいろと意見をいただきました。先ほど小倉さんがおっしゃっていましたが、私も同じようなことを感じました。確かに、過去の話よりも未来の議論をしていました。しかし、この未来というものが厄介で、どういう風なビジョンに基づいてやっていくのか、ということがお互いの考えが固まっていないだけに、パネリスト間でも意見が違う。だから、未来に向けてみんなが模索して、挑んでいるという激しさ、情熱みたいなものを私は感じました。我々は「東京コンセンサス」の中で、協力を深めて、アジアの平和に対する作業を開始しようという話を合意しました。この「東京コンセンサス」の内容が持つ意味と、将来を見据えた時の、このコンセンサスの意味をどういう視点で考えればいいのでしょうか。

 5年前の「不戦」という消極的な誓いから、「平和」という積極的な宣言へ踏み出すことができた大きな一歩

明石:今、世界が直面している課題が新しくて、解決が困難であるがゆえに、日中の対話のみならず、アジア諸国、世界での対話において、現在や未来の課題に議論が集中し始めたという感じはその通りだと思います。にもかかわらず、残念ながら日本の社会の中で、特に若い世代の内向きな態度が、世論調査結果でも歴然として表れています。世界の人たち、アジアの人たちが未来向きになっているのに、日本だけが内向きであるということは大変残念です。

 一方、中国などで起きつつある改革への歩みというものに対しては、恐怖というものを感じます。日本には淀んだ空気があって、そうした改革を素直に受け入れないようなところがあるので、そうした点は改善していく必要があります。益々、対話が民衆の間の対話になっているときに、これではいけないという感じを持っているからです。

宮本:米中の衝突が、ここまで本格的になったということが中国の人たちに大きな影響を及ぼしている、と感じました。彼らがこれまでやってきたこと、これからやろうとしていること、その根幹が壊れてきている。日本も似たような感覚を持っていますが、それよりはるかに大きなものを彼らは持っている。そうした中で、日本との関係をもう一度考え始めたのだと思います。

 小倉さんがおっしゃったように、中国は自信を持っているのだと思います。一方で、自信を持つから反省できるのだとも思います。そういうものが、今の中国にはあると思います。そうした状況下だからこそ、日本を再認識するし、日本の良いところがもう一度見えてくる。そいう意味も含めて、日本に対する意識が上がってきたのだと思います。

 そうした中で、この「東京-北京フォーラム」は、まさに問題解決、議論だけではなくて、次に何をするのか、という明確な目標をもっています。「東京コンセンサス」で目標を打ち出すことができたということは、混迷を深めている東アジアにおいて、我々はいい一歩を踏み出すことができたと思います。

小倉:「東京コンセンサス」の大きな意味は、日中関係をアジア全体の中に位置づける、ひいては世界全体の中に位置づける、ということが非常に明確に出ていて、これは大きな意味があると思います。そこからさらに、次のステップとして、東アジアや、ひいては世界に秩序を作るために、日中が本当に協力できるのか、という点に行き着きます。だから、今回の「東京コンセンサス」は出発点だと思います。

 問題はアメリカの役割です。日本はまだまだ国際秩序というと、アメリカのことを考える、中国はどちらかというとアメリカのことも考えるけど、中国自身が新しい秩序をつくるということを考える。それに対して、日本がどのように対処するかということになる。これは1つの大きなステップだと思います。ですから、今回の「東京コンセンサス」は、いろいろな意味での第一石、1つの基礎になるのではないかと思います。

山口:「東京コンセンサス」の意味というものは大きいと思います。5年前、「不戦の誓い」を必死の思いでつくりあげた。「不戦」、戦わないという言葉としてはやや後ろ向き、消極的な誓いから、平和をつくっていくという積極的な、ポジティブな方向への一歩を踏みだというということですから、その意味は大きいのだと思います。

 経済のことにかかわる範囲で考えてみても、もっと実務的、もっと具体的ということを意識しながら、そういう方向に向けての大きな一歩を踏み出すことができたと思っています。一方で、冷静に今回の経済分科会を見ていると、中国側の熱意や情熱に比べると、日本側は少し冷静だったように思います。中国側が置かれている環境、中国側が対応していかなければならないという危機感、これに比べると相対的には日本側はやや保守的であり、今までの延長線上の中での議論に終始していたな、ということを感じました。


専門家と一般市民との間をいかに埋めていくか、という大きな課題に直面している

工藤:最後の質問は、山口さんの発言に関係しますが、次に、このフォーラムをどのように発展させていくべきか、ということです。確かに、皆さんがおっしゃったように、私も政治分科会に参加しましたが、今まで、日中関係の議論をすると、バイの話だけで、日中関係の信頼醸成ということに限定する傾向にあったのが、今回はそうではなくて、平和秩序をつくるとか、多国間的なことに中国の方が積極的で日本側の方が受けてしまうような現象がありました。

 私が心配なのは、一般の市民層の話です。今回の世論調査でも、「わからない」と回答している人が圧倒的に増えました。WTO改革といっても「わからない」、その他のことについても「わからない」という回答が多い。これはメディア報道とも連携していると思うのですが、我々の元々のミッションは、一般の人が日中関係や課題解決を考える、という世論をつくることによって、政府間外交をより強いものにしよう、ということで始めました。まず、先進的な有識者の間では議論ができた。しかし、後ろを見たら、はるか後ろの方に一般の人がいるというのでは、逆に我々が浮き上がってしまいます。こうした問題に対処しながら、この対話のレベルアップを図っていかなければいけないという、いろいろな問題を抱えています。

 民間にいる以上、そういうことを考えるのは当たり前だと思っていますが、皆さんはどのようにお考えでしょうか。

明石:市民の対話という言葉が、こんなに聞かれたことは今までになかったと思います。市民と市民、もちろん政府と政府の関係はとても大事だし、最終的には政府関係に及んでいかなければいけないのですが、市民の声というものが強くなってきていると思うし、非常に多岐的なものになっている。国境を越えた市民の交流、対話というものに対して、我々はもう少し習熟していく必要があると思います。

 それから、山口さんが経済問題を扱いながら、「経済戦争」という言葉をあまり使っておられなかった。こういう配慮は非常に大事だと思います。「経済戦争」と煽り立てるのは簡単なのですが、我々にとっては「経済衝突」という捉え方で、冷静に米中間の争いがどうなろうとも、日本はもう少し落ち着いた面から、グローバルな視点から、見続けるという距離感を保つことによって、日本は益々客観的に、また地球的な見地から見ることができるし、

 他の国に対して、率直に言う可能性も出てくると思います。そういう冷静なスタンスを持ち続けることが、極めて重要になっていると思います。

宮本:私は先日、金融分野のある会合に出たのですが、ほとんど理解できませんでした。私が外務省の課長時代に軍縮を担当していたのですが、世の中に始めて文章を問うということで、主婦でもわかる文章を書く必要性に迫られ、原稿を奥さんに見せたら、1ページで20か所近くわからないと言われました。ですから、いかに専門的な分野で議論している人と、一般国民との関係は、やはり努力をしないと、一般の国民に伝わるようなメッセージは届けられないということだと思います。

 したがって、我々はこれからいろいろと議論していく上で、いかにしてより多くの方々にわかってもらうか。私が金融の分野で経験したのと同じように、外交の分野でも他の方々にとってはわかりにくい、難しい言葉もあると思います。こうしたことをいかに回避しながら、国民の方々への判断の材料をお届けする。これはマスコミ全般が当然やるべき仕事だと思いますが、そこが不十分だという現状に照らして、言論NPOがそういう形での国民の理解の促進など、わかってもらう努力を我々自身がしていく必要があるなと思っています。

小倉:山口さんも言われましたが、今回のフォーラムでは、中国側が非常に使命感を持っていると感じました。その背後にあるのは、中国という国は、個人個人が常に考えているということだと思います。一方で、日本の場合は、一般的な日本の知識人ですら、内向きになっている人がたくさんいるわけです。ですから、こうした対話をやること自体が、日本人を世界の状況や地位を考える触媒になるのではないかと思います。だから、中国と何を一緒にしようか、という議論も大事なのですが、同時に、この対話自身が日本を変えていくためにも役に立つのではないかと思います。

 具体的な提案として私は、市民交流というのは友好交流や実務交流になってしまっているので、知的な交流と市民交流をもっと結び付ける必要があると思います。例えば、このフォーラムでも特別分科会などで青年だけで議論する場をつくるなど、若者交流としてアニメなどの話もいいのですが、知的な交流をやる場をうまく設定してあげることが大事だと思います。

山口:中国側の熱意に比べると、日本側が少し冷めていたなと感じましたが、多分、対話に出た日本側の人たちは、中国側の情熱に打たれたと思います。その結果、我々も何かしなければならない、もっと動かなければ、考えなければいけない、という方向に傾いていくのだと思います。そういう方向間で、リードしていけるような役割を果たしていけるように、このフォーラムを持っていかなければいけないと思っています。

工藤:私は今回の議論はもったいない、社会にもっと伝えなければいけないと思いでいっぱいです。来年に向けて、今回のフォーラムから更にステップアップして、強い流れにしていく努力をしていきたいと思っています。皆さん、来年もよろしくお願いします。

 ありがとうございました。