「第14回 東京-北京フォーラム」は、平和宣言を採択して閉幕

2018年10月15日

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 10月14日、都内のザ・プリンス・パークタワーで開幕した「第14回 東京-北京フォ―ラム」は、15日最終日を迎えました。


日中両国が社会保障や社会福祉分野で協力し、課題を乗り越える局面に

masuda.jpg まず日本側から基調講演に立った元総務相の増田寛也氏(野村総研顧問)は「少子高齢化社会への対応」をテ―マにしました。前日、政治・外交分科会に出席した増田氏は、「日中の相互理解を相互信頼に高めるには、政治家と青少年の交流、そして政策間の交流も深めるべきだという話があった」ことを紹介。近い将来に日中双方が抱えなければならない問題は、政策間交流を行う上で相応しい題材となる、と語りました。
 
 増田氏は、「少子化、高齢化は、別々に議論される話だが、これが両方合わさると大変な危機になる。日本の人口減少は世界最速だ」と注意を呼びかけます。2100年には人口が半減し、20,30代の女性の数は年々、減っています。それに東京への一極集中で、地方での更なる人口減少もあります。2.1以上であれば人口は増加傾向にあると言われる合計特殊出生率(TFR)は、東京が1.21で、日本全体も1.43と高齢化の危機も本格化すると指摘。「人口減は中国でも深刻化し、一人っ子政策を止めて、今は二人まで容認されているにもかかわらず、北京の出生数は63万人減っている。日本では2000年に介護保険制度がスタートしたが、同制度は、中国にはまだなく、老人ホームなどの整備はかなり進んだが、中国はまだまだ。こうした問題は、日中両国間に存在するということを認識する必要がある」と、増田氏は聴衆に訴えます。

YKAA9780.jpg この問題の解決のカギは、「事実を可視化すること」と言う増田氏は、『東京消滅 ―介護破綻と地方移住』、『地方消滅と東京老化』などの著作で、日本の市町村が消滅する危機にあるということを発表してきました。1800近い自治体の半数ほどが、2040年に消滅するとの試算を紹介し、「事実を可視化し、国民に危機意識を正しく持ってもらうことが必要で、国家全体として対策を持つということが重要」と力説します。今では、全国の自治体が総合戦略を作り、対策に取り組んでいます。前日のパネルディスカッションに出席した石破茂氏は、この問題の初代の担当大臣で、2015年からの第一期5カ年計画の総合戦略を作り、2020年からは第2期の計画に取り組むことになっています。

 今後の問題として増田氏は、①安倍首相が消費税の引き上げを15日に発表するが、財源をどう確保するか、②外国人も入れて、支える人の量と質を確保できるか、③人口頭脳など最新のテクノロジーをどう使うか、④コンパクトな街づくりによって、介護しやすい街が大事で、国と地方が一緒に総力で取り組むべき、と提案します。

 さらに、「日中で第三国支援の共同実施の話し合いが進んでいるが、シンガポール、韓国なども少子化で悩んでいる。GDPが2、3位の経済大国が、経済のみならず、社会保障、社会福祉でも協力し、アジアをリードする局面に来ている。ぜひ、中国の皆さんと共同して乗り越えていきたい」と、日中共同計画に期待する増田氏でした。


日中両国はオリンピックで協力し、様々な分野で交流できるメカニズムを

c1.jpg 少子高齢化を先に迎えた日本の経験を学びたい中国ですが、スポーツ界では、2020年に東京五輪が、そしてその2年後には北京冬季五輪が開催されます。「これは両国にとってチャンス」というのは、次に登壇した北京冬季オリンピック組織委員会秘書長の韓子栄氏です。「スポーツでの奮闘を通じて、団結と友情、理解と抱擁の心を身につけ、アジアと世界に平和を呼びかけることができる。スポーツの祭典だけでなく協力の機会でもある」と、明るく声を弾ませます。習近平国家主席の指示で、競技場とインフラ施設の準備は順調に進んでいることを紹介。「2020年の東京オリンピックの経験を、私たちも学べるだろう」と話す韓氏は、YKAA9841.jpg習近平国家主席と安倍首相が双方のオリンピックで協力を強め、観光、文化、青少年交流に努力するメカニズムを作るべきだと提案。「これからも関係をより密にし、日本側の経験を分かち合い、青少年分野などの人的交流を深めて、オリンピック精神を広めていきたい。また、オリンピック停戦など異なった文明間の対話も意義があり、積極的に連携することで、オリンピックは友情を伝え、未来を作る。人類の運命共有体に新たな貢献をしていきたい」と終始、聴衆に笑顔を振りまきながら、基調講演を行いました。


グローバル化と自由貿易体制の強化こそ、保護主義とナショナリズムへの強力な対抗軸に

yamaguchi.jpg 次に、前日の経済分科会で日本側の司会を務めた元日銀副総裁の山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長)は、日中貿易を頭に置きつつ、経済協力について話しました。「昨日は全体会議、政治、経済、メディア、特別分科会とも活発な議論で実りが多かった。日中は現在、政治・経済的に良好な関係にある。これをいかに自国第一主義、ナショナリズムへの対抗軸にしていくかがカギだ」と今後を展望する山口氏は、まず世界経済の現状を説明しました。「アメリカは企業への減税を背景に堅調に推移している。一方、日本は自然災害で、やや弱含みで、欧州もスローダウン。中国もインフラ関連投資と住宅の伸び悩みで、減速ペースが加速化しており、その他の国々も下振れが目立ち、世界経済は全体的に弱さが目に付く。リスクが多様化して、大きくなっている」との分析を紹介。

 山口氏は直近のリスクとして、①世界の金融市場の不安定化と下振れリスク、②"合意なきブレグジット"に伴う欧州経済の混乱、③中東、東アジアの地政学的リスク、の3つによりグローバル企業の投資行動を抑制する恐れがあるとの見解を示しました。その上で、「世界経済を取り巻く環境は、非常に険しい。いつグローバル経済に大きなリスクがあってもおかしくない。米中貿易摩擦は貿易戦争と言っていい状況で、更に米中の緊張が深刻になった場合、その悪影響は世界経済全体に及ぶ、最大のリスクだ」と、先行きに慎重な山口氏です。

 さらに山口氏は、「貿易戦争に勝者はなく、敗者ばかり。先の三つのリスクが顕在化すると、ネガティブなインパクトは計り知れず、これ以上の深刻化は回避したい」と指摘し、今こそ、多国間主義と自由な貿易体制の良さをかみしめてほしい、と聴衆に投げかけました。

YKAA9856.jpg その上で、山口氏は、日中の新しい経済交流では、ミクロの産業、企業レベルでどのような協力ができるかが重要で、日本は環境問題、人口問題などでの知見を中国に提供できるし、中国は急速に進展するITを、日本に提供できる。こうした相互補完、協力分野を拡大していくことが必要だ、と指摘しました。更に、健全で公正な競争関係を築き、グローバル化と自由貿易体制の強化が必要だとして、これが保護主義とナショナリズムへの強力な対抗軸となり、日中のWin-Winだけでなく、第三国を含めたWin-Winで、三方よしの関係を築くことができると説明。重層的な信頼があって初めて可能となる、と経済協力の理想像を語る山口氏でした。


中日両国は協力して、人工知能の力でより良い社会を作っていきたい

c2.jpg 今年のフォーラムの特別分科会では、デジタル経済と脱炭素技術が取り上げられました。人工知能(AI)などデジタル技術を活用した分野で中国は、日本よりかなり先を行っていると言われ、翻訳分野で業界をリードする科大詢飛股份有限公司高級副総裁の江涛氏が同分科会に出席。この日も基調講演しました。

 科学技術大AIラボの出身で1995年に会社を設立。テレビやスマホを含め、全ての電気製品などを繋ぐことを目標に努力してきた、と自己紹介。東大とも協力し、AIの力で中日、手を携えてより良い社会を作りたいと抱負を述べました。「企業のCEO(経営責任者)は、高いIQと知力が求められるが、そうでない仕事も存在している。運転手や飲食店員などシンプルな作業は機械がやり、労働生産性を高められる」と指摘。具体例として、今年一月、CCTVが制作した『イノベーションの中国』というドキュメンタリー番組で、アフレコをしたのは53歳で亡くなった有名な声優の声を、AIに訓練させ完全にマスターさせたものだと紹介。再現された声を聞いて、声優の弟子たちは泣き出すぐらい、声が似ていて感動したというエピソードを紹介しました。

YKAA9970.jpg さらに、今回のフォーラムでも自動通訳器を会場で実演。江涛氏の『日本は高齢化が進み・・・』と言った中国語が、日本語となって会場に流れると、見事な日本語に会場の聴衆は、呆気に取られたようでした。

 そうした事例を紹介しながらも江涛氏は、「中日は、雨風あっても技術面、産業面で協力し、人工知能の力でより良い社会を作っていきたい」と、データ社会での日中協力の発展を願い、挨拶を締めくくりました。

 中国側司会者は、「司会が人工知能にとってかわられるのか危惧している」と笑いを誘い、4氏の基調講演は終わりました。


日中両国の代表者が、各分科会で白熱しが議論が行われたことを紹介

 この後、前日の各分科会で司会を務めたパネリストから、議論内容や今後の課題について報告がありました。

 政治・外交分科会の報告で増田氏は、日本側から「相手が嫌がることをやる、それが覇権ではないか。鄧小平が言った"韜光養晦"(才能を覆い隠す)と、今、中国が行っていることは矛盾しているのでは」と指摘があったことを紹介。覇権の定義についても、日中で差異があったものの、お互い冷静に現実に即して日中それぞれの主張を述べ合っていった、との感想を述べました。

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 メディア分科会の小倉和夫氏(国際交流基金顧問)は、「軍事大国、経済大国と言うが、相手に脅威を感じるのは、共に相手を大国と見るからだ。"小さな中国""小さな日本"という視点をもっと持つべきだ。もっと普通の市民が何を感じているか、という視点が必要で、それでなければ日中の議論は深まらない。また、"報道しない自由"も考えなければいけない」と報告したのが印象的でした。

 この他、経済、安全保障、特別分科会からそれぞれ報告がありました。


 その後、日本側主催者の言論NPO代表の工藤から、日中平和友好条約40周年の節目の年にふさわしい、「東京コンセンサス(平和宣言)」が発表されました。


 続けて、閉会の挨拶にたった工藤は、「今回、率直に感じたのはフォーラムの議論のレベルが、これまでとは比べ物にならないほど高いものとなっていたことだ。そして、私は確かな手応えと、その情熱と息遣い、気迫を感じた」と今回のフォーラムを振り返りました。さらに工藤は、「私たちは、新しい日中関係のスタートに責任を果たすために、ここに集まった。そして、議論に参加した日本と中国のパネリストの皆さんの思いと力が一つになり、真剣な議論を作り上げた」として、パネリストに感謝を示しました。加えて、フォーラムの聴衆、裏方としてフォーラムの成功を支えてくれた、日中両国の学生ボランティア、スタッフに感謝の意を表し、「来年、北京でお会いできるのを楽しみにしている」と、来年のフォーラムに思いを馳せ、「第14回 東京-北京フォーラム」は幕を閉じました。

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