貿易、金融開放など、様々な分野で日中両国が前向きに協力していく姿勢で一致 ~経済分科会報告~

2019年10月27日

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 10月26日に開幕した「第15回 東京-北京フォーラム」は、午前の全体会議に続き、午後からは5つの分科会に分かれて議論が行われました。「世界における開放的で自由な貿易体制の強化と多国間協力の発展に向けた日中協力」を議題とする経済分科会は、日本側の司会を山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長)、中国側が前半は張燕生氏(国家発展・改革委員会学術委員会研究員)、後半からは魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長)が務めました。

 今回の議論全体を通じて、貿易、金融開放、第三国市場での共同プロジェクト、観光等、様々な分野における日中間の協力の可能性が言及されたほか、日中両国は協力に向けて前向きな姿勢で一致しました。


 まず、分科会の前半では、マクロの視点から日中の抱える課題を抽出するための議論を行うこととして、日中2人ずつ、4人の問題提起から始まりました。


日中間の首脳合意に従い、経済発展に向けて高いに責任を背負っていく

 中国中信集団有限公司(CITIC)董事長の常振明氏は、世界における経済の不確実性が高まっている一方で、日中関係は改善にむかっていると指摘。6月のG20では日中首脳が会談・合意をしたが、こうした合意に従って経済発展の責任を共に背負っていくべきではないかと語りました。また、経済連携を強化し、政治的な信頼の礎を作っていくこと、さらに相互の優位性を発揮することや、相互交流の促進が重要だと語りました。

 続いて吉林大学経済学院・横琴金融研究院院長の李暁氏は、日中間の課題として、第一にグローバルのレベルでの多国間貿易システムの改善・維持や金融システムのガバナンスを挙げました。第二に地域レベルでの課題として東アジアの三つの矛盾、つまり、市場機能の自発的発展と制度のギャップ、大国が連携において役割を十分に果たしていないこと、国と国の間のアンバランスさを指摘しました。第三に日中両国のレベルでの課題について、例えば一帯一路に対する認識や第三国における日中の連携などに関して言及をし、これらの課題にどう対応すべきか、議論の必要があると語りました。

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日中間の信頼関係の構築のためにも、中国の政策の不透明さの改善を

 日本側のJFEホールディングス株式会社名誉顧問の數土文夫氏は、米中関係の緊張において、米国の同盟国である日本がどういう役割を果たすのかと問題提起しました。さらに、中国人の日本への印象に比べ、日本人の中国への印象があまり改善されていないことについて、中国は企業の中に共産党を必ず持つことが定められていたり、日本人をスパイ罪で拘束しているがその理由が明確に提示されていないなど、中国の政策の不透明さ指摘。過去の日米の関係改善を振り返りながら、日中間でも国民レベルでの意思疎通、信頼関係の構築が重要だとの見方を示しました。

 続いて前経済産業省事務次官の嶋田隆氏は、現在の国際通商について、20世紀に作ったルールが21世紀の経済に合致していないと指摘した上で、各国の内政に合わせたWin-Winの体制を構築することが課題であると述べました。また、日米欧の首脳会談で行っているような国際ルール作りに中国にも参加してほしいとの期待を示すと同時に、日本は米中のどちらとも関係が良好であるというユニークな立場を活かし、国際世論を作っていくことに貢献したいと日本の役割を示しました。

 以上の問題提起を踏まえ、パネリストによるディスカッションが行われました。


WTOの足りない部分を、TPP11や日欧EPAなどで補足していくことが重要に

 李暁氏は、第二次世界大戦以降、日本はWTOを重視し、一定程度機能してきたが、今後日本はTPPを優先していくのか、何を優先してくるのかを知りたい、と日本のスタンスについて問いただしました。

 これに対して東京大学公共政策大学院特任教授の河合正弘氏は、現在のWTOの枠組みはグローバルなサプライチェーンの広がりに対応できていない、意思決定方法に難があるなどの問題点があると指摘し、改革の必要性を主張しました。ただし、WTOだけが重要ではなく、WTOで足りない部分をTTP11や日欧EPAなどが補足していくアプローチが良いのではないか、との見方を示しました。続けてNHK解説委員室解説主幹の神子田章博氏は、WTO改革に関連して中国国営企業の優遇は他国企業だけでなく、中国国内の民間企業にとっても不公平であり、中国自身の発展のためにも競争環境を保っていくことが必要であると述べ、中国企業側が改革するべきだと思っているところは何かを知りたい、と問いただしました。

 張燕生氏は、WTOのルールは誰が決めるのか、誰が発展途上国であると判断するのか、貿易戦争のメカニズムの機能はどのように保持するのか、など、意見交換をもっと行い、21世紀のルールを考えていく必要があると回答しました。

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日本の事例を参考に、中国もグローバルスタンダードに改善していく

 三菱UFJ銀行顧問の吉川英一氏は、金融ガバナンスにおいても貿易と同様に保護的な動きが出てきていることを指摘しました。數土氏は、経済、軍事、金融、情報などのあらゆる分野が入り組んできたことで、個々のルールだけでは対応できなくなっている問題を提示。大和総研執行役員の保志泰氏は、中国の金融開放において日本の過去の取り組み、特に開示などの透明化が参考にできるのではないかと述べました。

 吉川氏、保志氏の指摘に対して李暁氏は、日本の金融開放における好事例をもっと紹介してほしいとの見方を示し、張燕生氏もこれに賛同し、中国の最大の関心事項であると期待を寄せました。何迪氏も現在の中国政府の取り組みはまだスピード感が足りないとし、日本の事例を参考にしたいと語りました。

 これに対して三井住友フィナンシャルグループ執行役社長の太田純氏は、日本の銀行が指名委員会等設置会社に移行したように、中国もグローバルスタンダードに近づけていくことが重要であると説明。船岡氏は金融市場の開放に関連して、内需による成長の重要性に触れ、そのためにも制度のイコールフィッティグの問題の改善の必要があると語りました。

 中国グローバル化センター(CCG)創始者兼秘書長の苗緑氏は、日本から中国のTPP加入への助力を提案するとともに米中の架け橋としての考え方を問いました。これに対して數土氏は、TPPに加入する上で中国の財務諸表の透明化を進めることの重要性を指摘し、河合氏は、RCEP、日中韓FTAの構築を経たうえで、TPPに中国が本気で取り組んでいくことへの期待を示しました。


日米貿易交渉やバブルなど、過去の日本の経験から中国が学ぶことは大いにある

 この後、パネリストと会場の間でディスカッションが行われました。米国がデカップリングを進めた場合に日本が米中の架け橋になるか、日中韓のFTAにはどういう障害があるかとの質問が出されました。

 前者について河合氏は、米国のデカップリングの可能性が低いことを示し、デカップリングが起きた場合は中国国内からの企業の流出の危険性について強調しました。後者に対して嶋田氏は、日中がイニシアティブをとって取り組んでいく必要性を主張しました。

 こうした前半のディスカッションを踏まえ、日本側の司会である山口氏は、WTO改革をどうするか、金融の開放をどう市場メカニズムに即して行うかといった課題が共有された、としたうえで、貿易交渉やバブルなど、中国に示唆があると思われる過去の日本の経験の紹介の要望があったと総括を行い、これに基づいて後半の議論を行うと前半を締めくくりました。


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