アジア平和会議自体が信頼醸成の舞台となる
~「アジア平和会議」創設会議 報告~

2020年1月22日

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 言論NPOは2020年1月21日、構造的に不安定な北東アジア地域に平和秩序を実現するため、日米中韓4カ国から外交・安全保障の専門家18氏が参加し、「アジア平和会議」を立ち上げました。

 現在、北東アジアには構造的な対立と緊張があり、多くのホットスポットがあるにも関わらず、二国間関係は不安定化し、安全保障に関する信頼醸成の仕組みや多国間の協議が枠組みすら存在しません。
 こうした不安定な北東アジア地域で紛争の可能性を減らし、偶発事故を抑制する危機管理の仕組みを高めると同時に、持続的な平和の仕組みを作るための作業を多国間で行うため、「アジア平和会議」を立ち上げました。このような多国間の民間の取り組みは、歴史的に見ても初めての挑戦です。

 1月21日午前に開催された「第1回アジア平和会議」では、かなり激しい議論もありましたが、多くのことで合意しました。
 まず参加者全員が、北東アジアに構造的な対立と緊張があり、多くのホットスポットがあるにも関わらず、二国間関係が安定的にものになっておらず、また安全保障に関する信頼醸成の仕組みや多国間の協議が枠組みすら存在しないことへの懸念を共有しました。その上で、この会議自体が信頼醸成の対話の舞台になると同時に、この地域の危機管理メカニズムの向上や将来の安定的な平和の枠組みに向けて作業を開始することを合意しました。
 この中では、北東アジアでは偶発的な紛争リスクは高まっており、こういう時だからこそこれまで以上の各国間の交流が必要であること、さらにこうした紛争を予防して、防止するために拘束力の高い仕組みを二国間でより強化する必要があることを確認し、この地域の危機管理の状況を、このアジア平和会議では定期的なレビューを行い、こうした努力を通じて最終的にこの地域全体で共有できる枠組みを目指す、ことも合意しました。
 また、この北東アジアが将来、目指すべき平和の原則を、不戦と反覇権、そして法に支配とすることにし、これをもとに、どのように平和を目指すかを、今後、日中、日韓、日米の二カ国間の会議でさらに議論し、来年の第二回目の会議に向けて準備を始めることも申し合わせ、宣言として公表したのです。

⇒合意された「宣言文はこちら」


 今後、アジア平和会議は毎年開催すること(次回は2021年1月)で合意しました。


「北東アジアで懸念される紛争の可能性と目指すべき危機管理の姿」

 第一回の会議として21日午前に開かれた非公開対話の第一セッションでは、「北東アジアで懸念される紛争の可能性と目指すべき危機管理の姿」をテーマに議論がなされました。日本側の元防衛関係者は、冷戦時代の20年間、ソ連と対峙してきたが、当時は、日米・ソ連の3者で対話すればよかったが、今は米、中、日、韓、東南アジア諸国のそれぞれが国益を主張し、どこのチャンネルに焦点を当てていいのかわからない、と現状を説明しつつ、「今回のアジア平和会議は、そうしたチャンネルの重要な一つして機能するだろう」との見通しを示しました。さらに、もう一つの重要なこととして、米国の香港法案を巡り、中国は米軍艦の香港寄港を認めない等、人権問題と安全保障問題を一緒にしており、一番大事な軍同士のチャンネルが閉ざされていることを指摘し、中国の姿勢に注文をつけました。

 これに対して中国側のパネリストが、「リスクをどうやって現実的に回避するのか、危機管理の基本原則についても合意しなければいけない。何より我々が重視すべきは、管理よりも危機の予防の方が大事だ」と主張します。その理由として、一旦、危機に陥ってしまうと、国と国との関係にも深刻な影響がある点を挙げました。その上で、今こそ、中日・中韓間において危機のメカニズムを作るべきで、米中の関係では、軍と軍の関係を継続することが重要だ」との認識を示しました。

 日本側のもう一人の防衛関係者は、日本と中国との間のホットラインについては、中国の意思決定プロセスが不透明すぎて、いくら危機管理のメカニズムが重要と言っていても、受け入れられなくなる、と主張。さらに、中国の法律には海上民兵があると書いているのに、中国当局は、海上民兵の存在を否定するので、海空メカニズムを作っても、そうした不透明な部分を補う必要がある、との意見が出されました。

 中国側の対応について、米側からも現在のコミュニケーションチャンネルには、欠陥がある、との疑問を投げかけました。危機管理においては、お互いの立場・認識について理解することが重要で、もっと懸念点について認識し合う必要があるとしつつも、米国の視点からは、中国が約束を守らないのではないかという懸念がある、と強調しました。

 ここで司会の言論NPO代表の工藤泰志は、より拘束力のある仕組みを作るために、米中間で、米ソ海上事故防止協定をモデルに、そうした協定をつくれないのか、また、二国間の取り組めをマルチ化できないのか、との疑問がぶつけられました。これに対して米側のパネリストは、事故防止協定は元々、ソ連の海軍が、米国の近いところで行動していたため、衝突を回避するという利害が一致していた。今の米中関係は、そうした衝突の危機があまりないために、中国もそうしたメカニズムを作ろうとしないのだろう、と解説しました。

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ナショナリズムが台頭すると、正しい判断ができなくなる

 こうしたやり取りが続いた後、日本側のパネリストは、国際的取り決めに違反した場合、不利益を被らせるメカニズムを定めることが重要で、危機の防止や管理を実行するには、相手の意図について正しい判断を行うことが大事だと説明。そのためには、正確な情報と情緒が重要になり、ナショナリズムが台頭すると、正しい判断ができなくなる、と危機管理への基本的な姿勢を語りました。

 これに対し、集中砲火を浴びせられているような中国側は、「中国政府は国際法を遵守しているが、中国政府は国際法を守らないというイメージが広められている」と弁明。「一段一段のアプローチが必要で、二国間関係からマルチへ、現実的対応が必要だ」と、周囲に理解を求めました。日本側からは、中国と米国との意思決定メカニズムが違うために、意思決定のメカニズムをどう相互に理解し合うのかが重要であり、意思決定を取り巻く政治社会環境に対する理解がない中で、ルールだけを導入しても意味がないのでは、との疑問も投げかけられました。

 非公開対話では北朝鮮問題も議論がなされました。まず、米国のパネリストは、これまで18年間経っても議論が終わらないことから、何が上手くいき、上手くいかなかったのかを改めて整理すると同時に、北朝鮮がルールを守らないという行動を取っていることについて、事前に日米中韓露で意見をする合わす必要があるとの認識を示しました。これに対し中国側は、「朝鮮半島では協議が膠着状態で、米韓が大規模な軍事演習をやめることが重要だ。また台湾海峡に関しては、中国は平和裏の再統一と言っており、現状に対する唯一の解決策は、一国二制度の維持が重要だ」と強調。南シナ海では、中国とASEANが行動規範をまとめており、そうした行動規範が必要だと、それぞれの主張が続きました。

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「北東アジアに平和秩序を作るとしたら、どのような道筋や原則が考えられるか」

 続く第二セッションでは、「北東アジアに平和秩序を作るとしたら、どのような道筋や原則が考えられるか」をテーマに議論がなされました。

 日本側のパネリストは、平和秩序を作るという共通目標に関しては異論がないとしながらも、どのように実現するのかの道筋を示すことがこの会議の目的で、軍事的な行動をしない、つまり自制することが需要であり、領土・領海を巡る考え方の違いがあるので、他国が実効支配している場所には、手を出さないことが重要だとの基本的な態度、原則を述べました。

 これに対し中国側は、北東アジアの平和維持について、一つの解決策はなく、多国間のアプローチを考えて、政治レベルのメカニズムを強化し、推進することが重要だと指摘。さらに、北朝鮮の核の問題についても、核の問題だけを追い求めるのではなく、地域の枠組みで解決することが重要だ、と強調しました。さらに、「東京-北京フォーラム」に何度も出席している中国のパネリストは、「覇権」の概念に関しては言葉については合意しても、解釈の相違が存在しており、それに代わるものとして、コミュニケーションと協議を原則とすべきだと主張。その原理原則は全ての国が同意できることであるが、その前提が崩れてしまうと中国政府は、もしかしたら我々の議論を止めようとするかもしれないと危惧しました。その上で、「中国は、既存の国際秩序に関わっている国で、その意味で重要なことは、より現実的、客観的な理解に基づいて中国を理解することです」と、今の中国に反省をこめながらも、理解を求めました。


中国とは何者か、ルールを書き直すのか

 軍事問題に詳しい米国のパネリストは、欧米が気にしていることは、中国の台頭が、ルールを書き直すのではないか、という点にあると指摘。さらに、安定的なメカニズムを構築するためには、ARF(ASEAN地域フォーラム)のように、現在存在しているメカニズムを最大限活用すべきだとの見解を示しました。日本のパネリストは、「平和秩序の作り方で、共有できる規範は何なのか、何が秩序の構築を邪魔しているのか、という点についても確認すべきだ」と主張。特に中国語の「覇権」の定義(中国語では「力を恃んで、自分の意志を押し付けない」)に気を付けるべきだと指摘しました。

 また、米国のパネリストは、米国の視点からは、中国の開発援助のあり方が、途上国を助けるのではなく、中国の過剰生産能力を途上国に吐き出したり、東南アジアのエリート層を取り込み、影響力を拡大しようとしているように見えること、と述べた上で、「その認識を払拭する一つの方法は、開発援助の透明性を上げることだ」と、中国側に注文を出しました。


アジア平和会議自体が信頼醸成の舞台

 最後に司会の工藤は、「北東アジアで大きな流れを作ることが、アジアの流れを変えることになる。中国との間で15年も議論をしてきたが、コミュニケーションを通じて、今では、相手が何を考えているのか分かるようになってき。お互いの国が、力で相手を屈伏させることはダメであり、今日の議論を聞いていて、原則を重要とした制度設計に入れるのではないか」と語りました。さらに、このアジア平和会議自体が、信頼醸成の舞台となり、これを利用して、次のステップを踏み出していきたい、と大きな抱負を述べ、非公開対話は幕を閉じました。

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