記者会見:日中共同世論調査結果について

2006年8月02日

第二回北京東京フォーラムに先立ち、言論NPOと北京大学は共同で記者会見を行い、今回の日中共同世論調査結果について公表。

 第二回東京北京フォーラム開催の前日の8月2日、会場となる東京のパレスホテルにて、言論NPOと中国日報社、北京大学が共同で記者会見を行い、今回、これら3者が日本と中国で共同で実施した第二回目の世論調査などの調査結果を公表しました。
まず、言論NPOの工藤泰志代表より、日本側で実施した世論調査と有識者アンケート調査について報告が行われました。世論調査は、日本全国の18歳以上の男女が対象で有効回収標本は1,000本、有識者アンケート調査は、世論調査よりさらに専門的な内容を加え、日本社会で活躍するインテリ層の平均的な意見を加えることで一般世論を補完するために実施したもので、回答数327件でした。

代表工藤はまず、今回のフォーラムを日中で立ち上げた背景などに触れ、単なる専門家による密室の議論でなく、両国の国民の見方や意識を反映させた議論を行い、両国民に発信するとともに、アジアでのこうした議論を世界に伝えたいとし、こうした目的のために行われた今回の共同世論調査が、昨年同様、その設問体系や設問について、言論NPOが北京大学などと協議し、合意に基づいて作成したものであることなどを説明しました。
その上で、日本側調査によって明らかになって点について、次のような報告を行いました。第一に、日中相互の交流経験や情報源については、日中は隣国でありながらも、もっとも遠い存在であり、両国民間の直接交流は少なく、双方のメディアにほとんどの理解が依存しているということです。
第二に、こうした中でお互いの理解については、日本が戦後、平和主義と民主主義を追求してきたにも関わらず、中国の国民は日本を軍国主義、民族主義と捉えており、日本側は中国を社会主義・共産主義という割合も多いものの、この一年では大国主義、覇権主義を中国の政治思潮として捉えるようになってきているということです。また、中国人は日中戦争を軸に日本の歴史を捉えているのに対し、日本人は中国の歴史について、天安門事件や文革以外に、この一年で、人工衛星の成功、原発実験・原発保有、国産自動車誕生など、経済的技術的問題に対する関心が高まっています。代表工藤は、非常に交流が少ない状況で、メディアによる理解の結果がこうなっているとしました。
第三に、双方の印象と日中関係に対する認識については、この一年で変化が見られたことです。中国側では日本のマイナスイメージが若干改善されたのに対し、日本側で増えているのは、「どちらとも言えない」、「分からない」という回答でした。昨年の反日デモなどの激しい状況の報道が減った分、中国への関心がこの一年で低下しています。代表工藤は、そこには、日本の一般世論の間に、中国に関心*持たない層の拡大と、もともと昨年から中国に良いイメージを持たない層が対中イメージを悪化させているという、二極分化が見られると指摘しました。
第四に、歴史問題については、その解決には日中双方とも未だに悲観的であるということです。むしろ、日本側では、この一年の間に、解決は困難という認識が高まったという回答と、中国に対して毅然とした態度を取るべきだとの回答が並んでいます。日本側では、半数が靖国参拝をしても良いと考え、中国側は靖国参拝には半数を超える人が反対していますが、今回の調査で分かったのは、双方の国民とも、靖国参拝だけでなく、他にも解決すべき問題があることを認識しているということです。日本では、40%近くが中国の教科書の問題を指摘しており、中国では南京大虐殺や日本の教科書問題が提起されています。
第五に、アジアの将来と日中関係については、日本側に中国の台頭に対する不安が高まっているということです。例えば、去年は日中の経済関係は互いに Win-Winと考えていたのが、今年は日本側では最も多かったのが「中国関係が日本経済を脅かしている」との回答でした。但し、これは直接交流のない世論ベースで出たもので、有識者調査では違った結果となっています。中国を軍事的脅威と考えている日本世論は、核兵器の保有、軍事力の増強をその理由としています。
以上の調査結果を踏まえて、代表工藤は、第一に、両国国民の直接的な交流の決定的な停滞の危険性を指摘しました。直接交流のない社会では「水が流れない水溜り」が生まれ、メディアによる間接的な情報が直接的情報を上回って独り歩きし、水が腐ってしまうように相互に対するイメージが悪化していく危険があります。第二に、先に指摘したような日本世論の二極化状況の中で、もともと中国への関心があった層の対中認識の悪化は、メディアの影響を大きく受けているということです。

 次に、北京大学国際関係学院の李玉氏より、中国側調査結果についての報告が行われました。李氏は、第一に、中国側からすると、全体として日本にしてネガティブでありながらも改善が見られているとしました。第二に、日中の交流は改善されているものの、直接ルートによる情報は限られており、その中で、メディアが大きな役割を果たすとしました。そして第三に、中国人には良識的な判断をしている層が確かに存在し、相当数の人が交流の促進を期待していると指摘しました。

 その後、記者の方々からの質疑が行われました。その中で、代表工藤が強調したのは、相互理解の改善のためには、交流を増やすしかないということです。クロスで世論形成の過程を見ると、日本の一般世論はほとんどテレビや新聞でしか判断できていないのに対し、有識者で訪中の経験がある人、中国の友人を持っている人はこれほど印象が悪くありません。また、メディア別によって非常に認識が異なっています。
代表工藤は、現在の悪感情については互いの情報発信を強めるしかないということと、戦後培われてきた認識形成に関する構造的なギャップがある状況は、政府の交流だけでなく、民間交流によって変えていかなければならないということを、重要なポイントとして指摘しました。
 この調査結果を反映させながら、8月3日の朝から、今年のフォーラムでの議論がスタートします。