新型コロナウイルス分科会「日中両国やアジアでコロナ収束と経済再開をどう進めるか」 報告

2020年11月30日

 11月30日、午前の前回会議に続き、本フォーラム最初の分科会として、「新型コロナウイルス分科会」が行われました。「日中両国やアジアでコロナ収束と経済再開をどう進めるか」をテーマとしたこの分科会には、まさに今、新型コロナ対応に当たっている両国の政策担当者・専門家が一堂に会しました。現時点で比較的感染拡大抑制に成功している日中両国の対話ということもあり、世界からも注目を集める議論が展開されました。

参加者一覧

【日本側司会】
工藤 泰志(言論NPO代表)
【中国側司会】
高 洪(中華日本学会会長、第十三回全国政治協商会議委員)

【パネリスト】
押谷 仁(東北大学教授)
佐原 康之(厚生労働省危機管理・医務技術総括審議官)
香取 照幸(上智大学総合人間科学部教授、元厚生労働省年金局長)
詫摩 佳代(東京都立大学教授)

マーガレット・ チャン(前WHO事務局長、清華大学公衆衛生・健康学院院長)
蘇 偉(国家発展改革員会副秘書長)
高 福(中国疾病予防管理センター(CDC)所長)
呉 尊友(中国疾病予防管理センター(CDC)主席研究員)
張 維為(複旦大学特任教授、中国研究員委員長)
鄭 志傑(北京大学公共衛生学部長・教授)


A18I0606.jpg 冒頭、司会を務めた工藤は、新型コロナウイルスのような感染症は、人命にかかわる問題であるため、本来地球全体で協力すべきであるのに、WHO(世界保健機関)の機能不全もあり、協力ができていないことを指摘。その上で、「世界の中でも比較的感染拡大抑制に成功している日中両国が知見を出し合うとともに、今後に向けた知恵を出してほしい」と呼びかけ、議論がスタートしました。


「現場」にこだわったことが功を奏した

高福.jpg 高福氏は、中国の対応成功の要因として、「現場の末端レベル、コミュニティレベルの対応を強化したこと」を挙げ、疾病対策において、縦割りを排し、組織横断的な対応によって、「現場」にこだわったことが功を奏したことを紹介。

 中国の国際社会への貢献としては、データを積極的に共有することで、ワクチン開発に寄与しているとし、「中国はオープンで責任ある対応をしてきた」と誇示しました。

 一方で高福氏は、新型コロナウイルスの特性を「ずるがしこく、見えにくい」と評し、こうした厄介なウイルスに対してはグローバルな協力によって対処していくほかないとしつつ、「次のパンデミックもすぐにやって来る。日中もこれに備えるべく協力を積み重ねていくべきだ」と日本側に呼びかけました。


感染拡大の様相が変わる中、国際的な知見の共有は不可欠

A18I0653.jpg 押谷氏は、中国とは法体系も異なるし、強制力を持った対応が難しい日本は、早期にクラスター対策が有効であることを発見し、これを中心としたことや、自粛ベースの徹底による対策を進めたことが、感染第一波では大きな効果を発揮したと振り返りました。

 一方押谷氏は、10月以降の感染再拡大については、「クラスターが多様化、複雑化している」とこれまでとは異なる様相に注意を促しつつ、今冬以降を乗り切るべく、国際的な知見の共有が不可欠との認識を示しました。


アメリカ不在の中、日中が協力して多国間主義に基づく国際協力を牽引すべき

1.jpg マーガレット・チャン氏は、東アジア諸国が欧米諸国に比して感染抑制に成功した要因として、うがい・手洗い・マスク着用・ソーシャルディスタンス堅持といった基本的なことを市民レベルでしっかりと実行していたことが大きいと指摘。

 冬以降懸念される感染再拡大に対しては、上記基本の徹底とともに、PCR検査、隔離、治療という一連の流れを素早く実施することも繰り返していくしかないと語りました。同時に、インフルエンザの同時流行にも警戒を怠るべきではないとし、ワクチンの早期接種を推奨しました。

 マーガレット・チャン氏は、自身が事務局長を務めたWHOについても言及。機能不全に陥っているのは、国際協力から後退を続けるアメリカの姿勢が最大の要因であるとこれを批判。アメリカ不在の中では、多国間主義に基づいて国際課題に対応をしていくためにも、日中が協力しながらリーダーシップを発揮していくべきと提言しました。


公平供給により途上国ともワクチンを共有することは不可欠

A18I0688.jpg 佐原氏は、政策担当者として日本のこれまでの取り組みを評価しつつ、国際的な課題としてワクチン確保について問題提起。WHOなどが立ち上げた新型コロナウイルスワクチンの公平供給をめざす国際枠組み「COVAX(コバックス)ファシリティー」について言及し、多国間で共同購入し、途上国とも共有していくことが不可欠との認識を示しました。


経済対策でも「現場」重視

s.jpg 蘇偉氏は、中国の企業支援のあり方について解説。苦境に陥った企業に対する資金面の手当てや減税、金融、雇用対策などを、末端レベルにまで行き渡らせたことを紹介。高福氏が指摘したような「現場」を重視する意識がここでも徹底されていたと振り返りました。

 同時に、新型コロナウイルスが「常態化」しているとしつつ、コロナ対策と経済の二本立てを進めていく上では、日中両国が知恵を出し合いながら協力していくべきとも語りました。


自国だけの感染抑止は意味がない。「人権」とのバランスも課題

A18I0712.jpg 香取氏は、人類と感染症の歴史を紐解きつつ、「根絶」の事例はわずかであることを指摘。新型コロナウイルスに関しても「共存」していくほかないと切り出しました。香取氏は、その共存していくにあたっての留意事項として、グローバルに世界が結びついている以上、「閉じられた空間」、すなわち自国だけで感染抑止しても、他国で抑止できなかったら意味がないとし、そうである以上国際協力は不可欠であることを指摘。また、民主国家特有の課題としては、人権を考慮しなければならないことを挙げつつ、こうした課題にどうバランスを取りながら対応していくかを考えなければならないとしました。


「早期発見、早期報告、早期隔離、早期治療」が成功の要因

 呉尊友氏は、感染症対策で最重要なのは、スピードであるとし、「4つの早期」、すなわち「早期発見、早期報告、早期隔離、早期治療」を徹底したことが中国の成功の要因であると語りました。同時に、最先端デジタル術を活用した「健康コード」の有効性や、国境管理で人だけでなく輸入品にまで検査を徹底したことなど、個別具体的な取り組みについてもその有用性を解説しました。


アジア地域内での感染症対応枠組みの設立を

詫摩.jpg 詫摩氏は、ワクチンが開発された場合、それを資金力に勝る先進国が独占した場合の弊害として、途上国の推定死者数が二倍以上になることや、世界経済全体へのダメージも大きいことを指摘。佐原氏と同様にCOVAXによるワクチン共有の必要性を訴えました。もっとも、現状の課題として資金をどう確保するか、特許の問題をどうクリアするか、といった課題も多いことを指摘。香取氏と同様に、自国だけ収束しても、世界全体が収束しないと意味がないとしつつ、日中協力の重要性を強調しました。

 さらに詫摩氏は、WHO改革や、それを補完する形でアジア地域内での感染症対応枠組みの設立の必要性にも言及。情報共有や渡航制限基準の策定などを行うこうした枠組みづくりを日中両国が共にリードすべきと提言しました。


RCEPはアジアにおける協力深化の好機

2.jpg 張維為氏は、先般調印に至ったRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に言及しながら、日中韓とASEANが重要な経済パートナーになった今は、「アジアの、アジアによる、アジアのための枠組み」づくりの好機であると主張。「アジアの世紀」が訪れようとしている今こそ、詫摩氏が言及したような枠組みづくりの好機であると語りました。

 一方張維為氏は、香取氏が言及した「人権」に答える形で、中国の新型コロナ対策における人権概念について説明。それは「生命権」にほかならず、これを経済的自由権やプライバシー権よりも最優先したことで、多くの人々の生命を守ったのであり、強権的対応こそが必要不可欠であったとの認識を示しました。蘇偉氏も、これに補足する形で「個人の人権を守ることよりも大衆を守ることが優先であり、そのためには二週間程度の隔離もやむを得ない」としました。


民間レベルの協力が、日中協力全体の土台になる

 鄭志傑氏も、詫摩氏と同様に、アジアでの枠組みとWHO改革についての日中協力について提言。こうした協力を進めるためには平素からグローバル課題についての協力関係を深めておくことが大切であると語りました。

 また、鄭志傑氏は大学など研究機関同士の協力関係強化についても提言し、こうした民間レベルの協力が、日中協力全体の土台になると主張しました。


 パネリストの発言が一巡したところで、日本側からは今冬以降、中国でも感染が再拡大した場合について、ロックダウン等の措置を再び取るのかといった質問が寄せられました。


中国には広域的なロックダウンはもはや不要

 これに対し、マーガレット・ チャン氏は、「健康コード」によって「ロックダウンなしでも抑制できる」と自信を滲ませ、呉尊友氏は、「例えば、北京で感染拡大したとしても、北京全域をロックダウンする必要はなく、健康コードによって判明した経路を中心とした一部だけを隔離するなどいろいろやり方はある」、「入国管理についても同様で、一定数の感染が見られる国だけを制限すればいいのであって、すべての国を制限する必要はない」などと最新技術に裏打ちされた柔軟な対策を取るとの方針を示しました。

 続いて工藤は、新型コロナ対策において、機能不全が批判されるWHOに関して、「本来、WHO何をすべきだったのか」と疑問を投げかけました。

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WHO改革と同時に、国際協力再興に向けた各国の努力が不可欠

 押谷氏は、WHOが中心となって、世界各国が「ベストプラクティスを共有する」べきであったと解説。国境管理にしても、WHOが中心となって、リスクアセスメントをしながらどう国境を開いていくべきか検討していくべきだったのに、それができないから二国間、あるいは数カ国間で対応しているのが現状であると語りました。

 マーガレット・ チャン氏は、感染症対策は世界全体で取り組むべきところ、「政治問題化してしまった」ためにそれができなくなっていると嘆きつつ、自身の事務局長時代を回顧。エボラ出血熱への対応では、日本が国連やWHOの国際協調メカニズムを機能させる上で、重要な役割を果たしていたと評しつつ、コロナ対応においても同様の貢献を果たすことに期待を寄せました。

 一方で、新型コロナウイルスはもはや公衆衛生分野だけの問題ではなく、社会、経済など多岐に渡っているとも指摘し、こうした状況下ではWHO改革と同時に、世界各国の努力、とりわけ資金面での協力が問われていると語りました。


 議論を受けて最後に工藤は、グローバルガバナンスそのものが問われている中、「国際協力のあり方を見直すべき」と語りました。そして、中国の対策について「論理的に組み立てられていることが分かり、日本にとっても示唆するところは大きい」と評価。議論の成果に満足を示すとともに、「コロナ対応での協力を通じて、日中間で新たなドラマが生まれるのではないか」と日中関係全体への波及効果にも期待を寄せました。


※本日行われた「政治・外交分科会」の報告記事は12月1日に掲載予定です。