政治・外交分科会「不安定化するコロナ禍の世界と日中両国の責任」報告

2020年12月01日

 11月30日午後、政治・外交分科会が行われました。この分科会では、「不安定化するコロナ禍の世界と日中両国の責任」をテーマとした議論が展開されました。

参加者一覧

【日本側司会】
工藤 泰志(言論NPO代表)
【中国側司会】
楊 伯江(中国社会科学院日本研究所所長、中国日本学会常務副会長)

【パネリスト】
川口 順子(武蔵野大学国際総合研究所フェロー、元外務大臣)
中山 泰秀(防衛副大臣)
古川 禎久(衆議院議員、元財務副大臣)
玉木 雄一郎(国民民主党代表)
宮本 雄二(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)
木寺 昌人(元駐中国大使)

楼 継偉(元財政部部長、中国人民政治協会第13期全国委員会が維持委員会主任)
劉 洪才(政治協商会議第13期外事委員会副主任、中国国際交流協会副会長)
曹 衛洲(第12期全人代常務委員会委員、外事委員会副主任委員)
周 明偉(中国翻訳協会会長、政治協商会議第12期外事委員会委員、元中国国際出版集団総裁)
程 永華(前駐日本特命全権大使、中国人民政治協商会議第12期全国委員会外事委員会委員)
賈 慶国(北京大学国際関係学院元院長、第13回政治協商会議常務委員)


A18I0605.jpg 冒頭、司会を務めた工藤は、「米中の対立が深刻化し、世界に分極化が見られる中で両国は世界経済の安定のためにどのような努力を行うべきか」、「世界は現在、どのような困難に直面し、両国はそれにどう対応していくべきか」と両国のパネリストに問いかけました。


「米中対立」と「経済・安保の一体化」を乗り越えるため、日中協力は必須だが、日本側の対中不信の払拭が課題になる

A18I0853.jpg 日本側から最初に問題提起を行った玉木氏は、世界が直面する困難として「米中対立の深化」と、「経済と安保が結び付いてしまっていること」の二点を提示。その上で、こうした状況の中、日中協力を進めるべきとしつつ、そこには障害があることを指摘。「第16回日中共同世論調査」結果が示しているとように、中国国民には日本との協力発展に対する期待が高いものの、日本国民の期待度がやや低いなど「非対称性」があるとしつつ、その背景にはまず連日尖閣周辺海域に侵入してくる中国への不信感があるとしました。同時に、RCEPにしても、調印自体は成果としつつ、ソースコードの開示、データフリーフローまでは踏み込めていないとその不十分さを指摘し、背景にはやはり中国への不信があると解説。したがって、日中協力を深めるためには、こうした諸々の不信感を払拭し、信頼を醸成することすることから始めるべきと語りました。


綻びが見られる国際ルールと協調を修復することが、世界が直面している課題

 中国側最初の問題提起に登壇した楼継偉氏は、綻びが見られる国際ルールと協調を修復することが、世界が直面している課題であるとしつつ、その大きな要因となった米中対立に関しては、中国はアメリカの挑発に乗らず、五中全会で決定した「国民経済及び社会発展第14次五カ年計画」および「2035年までの長期目標」を念頭に置きながら「戦略的平常心」を保つべきとしました。同時に、ジョー・バイデン氏の次期米大統領就任により、アメリカが国際協調の軌道に復帰すると期待を寄せ、中国もそれに歩調を合わせながら、国連中心の国際秩序を擁護していくべきとしました。

 一方、共通利益の多い日中両国は協力拡大する余地は大きいと語り、そのためには尖閣など認識の違いを管理しつつ、協力のあり方を探っていくべきと語りました。


西洋近代モデルの行き詰まりをどう超克するか。東洋思想を共有する日中の出番

A18I0909.jpg 古川氏は、新型コロナに限らず、世界には温暖化や資本主義の行き詰まりと格差、貧困の拡大など問題が山積みであることを指摘。こうした問題の根本には「西洋近代モデルの行き詰まり」があるとし、「我々は文明史的な岐路に立たされていることを認識すべきであり、これをどう超克するかを考えなければならない」と問題提起しました。

 その上で古川氏は、日中両国は東洋思想をベースにした"同志"であるとし、共に新たな国際協力を進めていくべきと主張。具体的には、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を、日本が2050年、中国が2060年に達成期限を設定していることを踏まえ、これを足掛かりとして協力を始めていくべきと提言しました。


「競争から協調へ」の精神を忘れずに

c1.jpg 程永華氏は、新型コロナによって世界の変化が加速しているように見えるとしつつ、それ以前から保護主義の台頭など、グローバルガバナンスの揺らぎは見られたと指摘。こうしたグローバルなチャレンジに対しては、日中両国が共に協力することで乗り越えていくべきとしました。

 2010年から19年にかけて、歴代最長の9年3カ月にわたって駐日中国大使務めた程永華氏は、この間、「紆余曲折はあったが、両国の努力によって正常な軌道に戻った」と感慨深そうに回顧するとともに、具体的な協力メニューを提示。新型コロナ対策やデジタル経済、地域経済協力のさらなる強化などを挙げ、安倍前首相が掲げた「競争から協調へ」の精神を両国が常に意識すべきと語りました。

一方で程永華氏は、日中関係改善の阻害要因を「米国ファクター」としたり、デジタル経済に関しても「人類共通の資産とすべきであり、特定企業だけを締め出すべきではない」などと語るなど、アメリカに対する牽制も忘れませんでした。


米中対立のリスクには、日本の積極対応も不可欠

川口.jpg 川口氏は、世界を取り巻く三つの危機について語りました。まず、一つ目として、「人類の生存に対する挑戦」を挙げ、これには新型コロナだけでなく、気候変動や大量破壊兵器の拡散も含まれると指摘しました。次に、「国際秩序に対する挑戦」を提示。バイデン氏に国際秩序回復を期待しつつ、手当てが必要なのは貿易など経済面のみならず、国際法体系全般の維持・強化が必要であると語りました。最後に、「米中対立」のリスクについても言及。とりわけ、現場で不測の事態が起こることを強く懸念し、「一時的には米中が対応すべきだが、両国と深い関係がある日本もできることはやっていくべき」とし、それは日本の国益上も不可欠であるとの認識を示しました。


「棚上げ論」によって、尖閣での対立を回避すべき

c2.jpg 賈慶国氏も、川口氏と同様の視点で人類が直面している挑戦について概観した上で、これを日中協力で乗り越えるべきとしましたが、同時に日中関係発展を阻害する要因として、依然として尖閣諸島問題が大きいことを問題視。鄧小平氏の「棚上げ論」は依然有効な考え方であるとしつつ、制度やルールによって不測の事態を阻止したり、資源の共同開発などを通じて、情勢の安定化を図るべきと主張しました。


 各氏の問題提起を踏まえて、次に工藤は「では、日中は何を協力すべきなのか」と問いかけ、ディスカッションに入りました。


変化を踏まえた新しいルールづくりは日中協力の好機

c3.jpg 劉洪才氏は、壊れた国際秩序の回復で協力すべきと提言。そこでは、アメリカがつくった国際秩序を、当のアメリカ自身が破壊している、とパリ協定などを例示しながら批判。WHO批判を繰り返し、新型コロナ対応での国際協力をアメリカが阻害しているとも語り、「国際情勢や時代の変化を踏まえた新しいルールが必要になってきており、そこに日中協力の機会は多い」としました。

 曹衛洲氏は、これに捕捉する形で、日本は同盟国としてアメリカが過激な行動に出ないように説得するべきと注文を付けました。


メニューはすでにある。言葉よりも行動、行動よりも結果

宮本.jpg 宮本氏は、協力のメニューはすでに4つの政治文書(日中共同声明、日中平和友好条約、日中共同宣言、日中共同声明)に詳細に書き込まれているのであり、必要なのは、「それらがこれまでどの程度実行されてきたのか、その検証と反省だ」と指摘。同時に、「もはや耳障りの良い言葉は要らない。言葉よりも行動、行動よりも結果だ。結果が出れば国民間の相互信頼も高まる」とし、日中協力は具体的な結果を出すことを厳しく問われる局面に入っていると強く訴えました。

 玉木氏も、「結果が大事」という宮本氏の主張に同意。同時に、2018年6月に運用が開始された「海空連絡メカニズム」について、「結果は出ているが、それがきちんと機能しているか、不断にチェックし続けることが必要だ」と指摘しました。


生活モデルの模索など、より身近な課題でも協力は進めるべき

 川口氏は、"ポストコロナ"の世界では、人々の生活が大きく変わるとの見方を示した上で、日本人も中国人も「どのような暮らしをしたいと考えているのか、考え始めているのではないか」と分析。新たな生活モデルを共に考えていくことも協力メニューになると語りました。

 また、国際的なルールづくりにおける協力についても賛同しつつ、それは単なる制度面ではなく国際秩序そのものの構想にもつながっていくものであるべきと主張。これまで秩序を一国で担ってきたアメリカの負担を慮りつつ、新たな大国・中国のみならず、世界全体で国際公共財をどう協力しながら担っていくかを考える議論が必要とも語り、そこでは有識者の役割も大きくなると居並ぶパネリストたちに呼びかけました。


 次に工藤は、日中協力の発展を両国民が強く望んでいることは、世論調査結果が示している通り明らかだとしつつ、しかし、日本側は依然として中国側への不信が根強いとし、「ここに協力進展の足枷がある」と指摘。その上で、こうした不信を払拭するためにどのような努力をしていくべきかを問いかけました。


安全保障面での懸念払拭のため、対話が必要

nakayama.jpg 中山氏は、現職の防衛副大臣として、中国の止まらない軍拡や、東シナ海での領海侵入、軍事動向が透明性に欠けることに対する強い懸念を表明しつつ、これが日本側の信頼欠如にもつながっていると指摘。透明性を向上し、信頼を構築するためには、対話が必要と述べるとともに、とりわけ防衛当局間の対話が必要と語りました。

 同時に、外交が国民の声によって支えられながら行われる以上、世論に対して答えていくことが重要と指摘しつつ、「それは日本世論に対してだけではなく、国際世論に対しても同様だ」と注文を付けました。


世論調査結果になすべきことは示されている

 劉洪才氏は、世論調査では、両国民の中に「日中関係を妨げるもの」として尖閣諸島問題を挙げ、「日中関係向上のために有効なこと」として政府間の交流や信頼向上を挙げる声が多いことを踏まえ、「そうである以上、こうした課題に取り組んでいくことが信頼向上につながる」と語りました。

 一方、中山氏の懸念に対しては、「中国は平和発展を希求しているし、覇権も求めていない」と回答。宮本氏の「4つの政治文書の成果確認」という発言に対しては、両国民に改めて文書の意義を伝えるとともに、政府の行動に具体的に反映させるべきと応じました。


メディアの役割も重要

c4.jpg 曹衛洲氏も、政治文書を両国の政治指導者が再確認し、具体化に向けた行動を取ることが不可欠と主張。同時に、メディアの役割にも言及し、「日本側で印象改善が進まないのは、メディア報道の影響が大きいのではないか。メディアがポジティブな報道をするように政府が指導すべき」などと注文を付けました。


日中関係の基盤は強固。特別なことではなく、地道なことを続けていくべき

木寺.jpg 木寺氏は、自身の駐中国大使時代を「最も日中関係が厳しい時期に赴任したこともあって、頻繁に外交部に呼び出されていた」と苦笑しながら振り返りつつ、しかし、そうした中でも閣僚レベルで真摯な対話ができたことや、常務委員レベルから改善に向けたシグナルをしばしば送られたエピソードを紹介。「日中関係には長い積み重ねがあり、簡単には壊れない基盤があることを折に触れて実感した」と述べました。

 同時に、事務レベルの協議が粛々と続けられていたことも紹介し、特別なことをする必要はなく、「これからも地道にやっていくことが一番だ」と語りました。


今こそアジアで課題解決型の地域ガバナンス構築を

c5.jpg 議論を受けて楊伯江氏は、政治・安全保障面での信頼関係構築は途上であり、日中関係全体の状況は依然として悪いとしつつ、最悪期は脱し、改善基調は続いているため、「悲観するような状況ではない」と指摘。さらに、米中デカップリングの懸念はあっても日中デカップリングの可能性は全くないとも語り、両国の結びつきの強さを強調しました。

 また楊伯江氏は、新型コロナウイルスをめぐっては、「これまで先進的とされてきた欧米が対応に失敗し、逆に後進的なアジアでは成功している」とした上で、今こそ「アジアで課題解決型の地域ガバナンス」を構築することを提唱。こうした枠組みづくりでも日中協力のチャンスはあるし、将来、新たな感染症が出現してくることに対する備えとして、これは急務であることを強調しました。


 工藤は、世論調査で最も重要なポイントは、日中協力拡大に期待を寄せる両国世論であるとしつつ、楊伯江氏が語った課題解決型の地域ガバナンス構想に賛同。単なる交流にとどまることなく、実際に協力を共にすることが真の理解にもつながるとしつつ、「それを確認でき、意味のある対話となった」と評し、白熱した議論を締めくくりました。