「第5分科会 発言要旨」前半

2006年8月05日

周牧之【中国側司会者】(以下、周【中】):
この第5分科会の目的は、第一に、アジアの青写真について共有すること、第二に、青写真のなかでの共通課題をはっきりさせること、第三に、共通の課題を解決方法を議論することである。

陳昊蘇【中国問題提起者】(以下、陳【日】):
わたしは問題提起者であるので、四つの問題を皆さんに議論を投げかけたい。

一つめは、地域統合の問題である。アジアの統合のための有利な条件、不利な条件とは何だろうか。また、実行可能な目標はどうすれば設定すればいいのか。そして、中国、日本がアジアの統合にどんな役割を果たせるだろうか。

二つめは、安全保障の問題である。東アジアは西アジアの教訓を学ぶ必要がある。ヨーロッパに近いほど介入され、影響が及ぶ。他地域から介入されないようにアジアの問題を自分で解決しなければいけない。この点、アメリカからの影響力が大きいことは必ずしもアジアにとって有利ではない。

三つめは、アジアの発展の見通しについてである。20世紀後半は、アジア経済の発展の時代ではあったが、20世紀の最初は世界中の中でアジアの地位は低かった。世界はアジア地域の発展に注目している。この中で日中の役割は大きい。

四つめは、相互信頼の構築についてである。日中は、長期にわたって文化面での交流は深まってきた。もっと親近感があってもいいはずではないか。文字は一緒であるし、歴史の中でさまざまなつながりがあった。アジア太平洋の世紀といわれている今世紀に、どうすれば相互信頼を築くことができるだろうか。

加藤紘一【日本問題提起者】(以下、加藤【日】) 
21世紀はアジアの世紀といわれているが、本当にそうか、という疑問がある。しかし、私はアジアの世紀だと思っている。まず、インド・パキスタンも含めて64億中32億がアジアの人口である。なおかつ、非常に優秀な人材も多い。アジアの将来はこの潜在力のようにいくだろうか。

アジアで大きな影響力を持つのは日中であるが、意思疎通ができない。それはナショナリズムがあるからである。私は、ナショナリズムには3種類あると思う。
まず第一に「戦うナショナリズム」。争い、反発し、領土や覇権を求める。究極的には戦争になる。この「戦うナショナリズム」は使いたくなるナショナリズムである。しかし、これは必ず、指導者につけがまわってくる。
第二に、「競争するナショナリズム」。スポーツや学力はフェアな競争をする健康なナショナリズム。だから、中国がサッカーに負けて暴動を起こしたことは、徹底的に反省してもらわなければならない。
第三は、「誇るナショナリズム」。日本は日本の自然崇拝。アメリカは自由を誇っている。それぞれが誇るナショナリズムを見つけてくれれば、良い。
指導者には使って良いナショナリズムと使って悪いナショナリズムを分けてほしい。それを考えると、今の日本のナショナリズムは十分に分析されているのだろうか。

王英凡【中国側コメンテーター】(以下王【中国】)
「アジアの世紀」という概念は整理しなければならない。中日両国が協力できなければ、アジアの世紀はあるのだろうか?アジアの協力について、日本が主導権を採るべきという人もいれば、中国という人もいる。もし、主導権をめぐって争うならばアジア協力はできない。

私は外交部で主にアジアについて担当したあと、ヨーロッパを担当した。そのとき感じたことは、アジアの勢いは素晴らしく、もっとも活力にとんだ希望のある地域であるということだ。今後中日が現在の困難を克服しないと、既存の協力枠組みはマイナスの影響を受けざるを得ない。 

信頼関係をどう構築するのか。われわれとしては古い考えを徹底的に捨てるべきである。WIN-WINという相互互恵のメカニズムにもっていかなければならない。中日関係とアジアの未来については、互恵、ウィンウィンというのが最も生命力がある考えである。それに基づいていれば前が開けるだろう。

鈴木寛【日本側コメンテーター】(以下、鈴木【日】)
日本の経済成長は環境や省エネに取り組みながら進めてきた。日本としては、エネルギー、環境問題に取り組む中であらゆる人材、技術を提供することによって、アジアや地球全体が抱える問題に取り組んでいきたい。

ASIAN UNIONを目指すときに、何をヴィジョンに掲げていくのか。西洋から起こった物質文明がいろいろな意味で限界に来ているので、アジアの文化多元主義やコミュニケーションから生まれるソフトパワーを進化させていくべきだ。共生というのは違う文化、宗教と生きていくことではないか。AUを目指すにおいて、こうしたことを考えていくのは意味がある。EUも鉄鋼石炭共同体から始まった。緊急性と重要性から考えて分野を限定して協力、共同をただちに進めていくことはできる。

また、新しい時代のためには、1つは新しいメディアを作ることが必要だ。たとえば、日本の若者に対して日中間の相互互恵の意義について語りかけていくというメディアがこのフォーラムの中から生まれてくればよい。

徐輝【中国コメンテーター】(以下、徐【中】)
アジアの中で重要なのは協力である。なかでも一体化というのは1つの大きな方法である。東アジアの未来は統合にあると思う。ただ、北東アジアの枠組みは空白である。これは日中双方にかかっている。ただ、アジアの一体化のプロセスは早すぎてはいけない。Step by stepはアジアにあっている。

「アジアの価値観」のなかには、民主的価値観というのはまだないだろう。今の段階では平和的に紛争を解決し、いろんな文化や歴史のなかで協力を進めていくという価値観は共有されている。紛争というと、領土の問題があるが、衝突のある地域を協力の地域に変えればよい。スプラトリー諸島のように、紛争をうまく処理していく。問題解決のモデルはゼロサムでなく、WIN-WINによって解決すべき。そうでないと、歴史的には誰もが見たくない結果が起こる。

民間レベルの協力には相互信頼が足りない。これがあって初めてうまくいく。

中谷元【日本側コメンテーター】(以下、中谷【日】)
2002年に防衛庁長官だったが、首相の靖国参拝で防衛交流である私の訪中がだめになったことが、安全保障関係者として、とても残念だった。わたしは、東南アジアや米国を訪問したが、日中の関係を非常に心配していた。

わたしは、東アジアの集団的安全保障を考える上で障害になる項目は3つあると思う。

一つめに、朝鮮半島の問題。これは六カ国協議がベースになるのではないか。経済支援などがうまく成功すれば東アジア安全保障の基礎となるだろう。

二つめに、海底調査や石油の採掘については、事前説明をすべきである。アクシデントが起こったときに緊張が高まらないようにしなくてはならない。

三つめに、中国の台湾との関係、武器輸出などの懸案がある。中国は米国と経済的関係が強くなってきていて、米国も中国が責任ある利害共有者となることを期待している。

張平【中国側コメンテーター】(以下、張【中】)
去年から始まった北京-東京フォーラムの趣旨は、現状に対する不安を解決するための議論のプラットフォームをつくることだった。結果として、共通認識が日本側とできた。中日間では、メディア同士、国民同士の信頼関係がなければ、ともに発展をしてアジアの世紀をむかえることも不可能である。

調査結果を見ると、民衆の親近感が下がっている。このように、お互いの親近感がますます浅くなっている一方、両国の民衆が有識者も含めて、中日関係は重要であるという認識がある。また、多くの人がお互いの国をあまりよく理解できていない。自分の国のメディアを通じて相手の国を理解している。メディアを通じてさまざまな報道をしているにもかかわらず、よく分からないという答えが多い。

メディアは新しい考えを持たなければならないということに賛同する。日中友好のスタビライザーの役割を果たすべき。火に油を注ぐようなことではいけない。

西原晴男【日本側コメンテーター】(以下、西原【日】)
私は、今の情勢から出発するのではなく、近い将来の予測をして、先取りをして今のことを考えるという思考方法を提案したい。

将来の予測として必ずそうなる分野は「科学技術の発達」である。科学技術は国境を越える。となると、国境がどうしても邪魔になってきて、国境が低くなる。すると国境を越えた紛争の解決が求められ、関連する両国の共通するほう規範が必要となる。はじめは協議機関から始まるであろうが、やがて共同管理という考え方が、強くなる。かならずアジアの中で起こってくることだと思う。

孫文が「日本は西洋覇道の鷹犬となるか、或は東洋王道の干城となるか」と大演説をした。われわれ北東アジアは王道であるべき。世界の第一線にアジアらしい哲学と思想を持って臨んでほしい。中国が若い社会の建設に官民一体となってまい進している姿は、王道でいこうという意思表示でしかない。日本は中国の動きに対してどのように呼応すべきか。

アジア的和の精神を根本において、世界で紛争解決にあたるべき。これを国の基本方針にし、周辺国にも広めていくべきだ。

林芳正【日本のコメンテーター】(以下、林(日))
私が大蔵政務次官だった当時、AMF構想がだめになった。その要因は、アメリカの反対に加えて、中国はまだ乗り気ではなかったからだと私は考えている。一方、チェンマイイニシアチブは、中国が積極的に乗り出したからうまくいった。EUでユーロの前に導入されていた「ECU」なる「ACU」をアジア地域で検討することが日中韓で合意された。これが実現すれば、ドルを介在せずに日本に資本家からのお金が韓国の映画会社に流れていくこともできる。

調査結果に関して、学生や有識者の心と一般の心がずいぶん食い違っているということを思った。一般大衆に働きかけるには音楽、アニメ、漫画などのコンテンツを通すことが大切である。

では、日中の共通課題とはなにか。それはナショナリズムをどう克服するかである。指導者はナショナリズムの誘惑に打ち勝つ必要がある。

そして、解決への道とは、本音の話ができるトラック2を大切にすることである。一方で、政府と政府では、たとえばアジアで原子力を平和的に利用するという協力ができる。安全保障についても北朝鮮問題をおわったあとも枠組みを残せる。それぞれが別々に違う目的で動くことで、全体として東アジア共同体ができる。