政治に向かいあう言論

「日本の知事に何が問われているのか」/前三重県知事 北川正恭氏

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camp4_kitagawa.jpg北川正恭(前三重県知事、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表)
きたがわ・まさやす
1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。83年衆議院議員当選(4期連続)。95年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改善を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、早稲田大学マニフェスト研究所所長、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表。

第4話 シャープの液晶工場を誘致した背景

改革派知事が相次いだ時代というのは、情報公開が決め手でした。シャープの工場誘致問題では、九〇億円を県が出しましたが、これも考え方を変えた結果でした。大企業のシャープにであろうが、だれにあげようが、これまでは情報非開示の下では、背任、横領に決まっているじゃないかという話でした。役所の管理というスタイルからいくと、決められたルールに従い、国に言われたとおりにする、九〇億円の支出はコストとみる、などを当然に思っていたわけです。

しかし、それは情報が非公開だから駄目なのだ、というのが私の考えなのです。ですから、シャープの工場誘致問題では、最初から情報をオープンにしました。シャープは、来てくれたら、まずは一万二〇〇〇人の雇用が生まれると約束している。雇用の確保は公的セクターの重要な仕事です。出荷額は四〇〇〇億円だから、そこから生まれるような税収を得ることも公的に重要な仕事なのです。シャープの製品はテレビの完成品だから、関係の会社が一〇〇社来ないと最適な生産体制にならない。シャープが立地したら、放っておいても部品メーカーなどが来る。それは企業誘致という公的な重要な仕事です。

だから、私は九〇億円はコストとみていない、投資、つまりインベストメントとみている。しかし、九〇億円は公的な金だから、有権者、主権者にすべてオープンにして使わなければならない。それが私の発想です。そうでないと有権者は怒ります。

私が言っているのは経営の発想です。経営という視点でいったらどうか。そうした私の考えが受け入れられるまで、それは難儀しました。先行者利益というのはそうした考え方から生まれてくるだけの話です。後から一〇〇億円を出してもさして意味がない。補助金行政ってあまり褒められたことではないけれども、あれは先行者利益です。

実はシャープを引っ張ってきたのは、四日市の装置型産業のコンビナートががたがただったからです。県下の産業のファインケミカル化を私はかねて考えていたから、シャープのことばかり言っているけれど、狙いはそれが大きかった。フラット・パネル・ディスプレー(FPD)産業の集積で、クリスタルバレーという、シリコンバレーの向こうを張ったバレー構想で、ナノテクノロジーの選択集中を図ったのです。石油化学コンビナートは装置型で移すわけにはいきません。儲からない、変わらない、産業移転できない。そこでクリスタルバレー構想を打ち出し、成功したのです。それを経営感覚といえば、それまでのことで、それを実現しただけの話です。

私は何で生産性ということを考えたかというと、経営品質の発想からです。内発的に火がついてチョウチョウが飛んで、みんなが元気になって、個々の組織が響き合って最大化する。しかし、県庁という組織に乗っかっても、個々人が県庁のブランドより小さかったら、結局はシュリンク(収縮)して終わる。個々人が響き合って大きくはばたいたら、県庁のブランドが上がり、職員も行政改革のため量的削減すべきなどとは言わないだろう。そういう組織をつくるのが経営品質なのです。これを「価値前提」と言います。

どこに行政のウエートを置くか、政策的に町を元気にするため企業誘致したりするのがいいのか。それよりも、やっぱり地域が真に自立して頑張って生きる、そういう地域社会をつくることを選ぶ。それが新しい価値を生み出すと思うわけです。経済には変転がありますから、企業誘致は絶対的なものではありません。

その土地、その土地で自立を目指して努力していけば、山形県や岩手県でも時がくればまた新しい価値が生まれます。例えば産業でも、今やっと本州が満杯になって、九州も景気が良くなったから、今、トヨタは東北に行き始めています。そこには、水と土地と人があるからです。

シャープが来て地域が元気になると言う人には、あなた方は間違っていると私は言っています。地域産業の歴史のサイクルは長くて三〇年、短くて一〇年です。四日市のコンビナートは、儲けられるだけ儲けようとして公害を起こした。ああいうことをしてはいけない。亀山市(シャープの液晶パネルからテレビ組み立てまでの一貫工場がある)は徹底的に環境首都、日本一の環境の町をつくらなければいけません。そうした環境を条件としたり、シャープがつぶれても人材を残しておいてとか、そういうことを私は言っていた。三重県の志は高かった。それは県庁の組織、職員を改革していたからです、それが根本です。

8年間すべてが政策的に効果があったかというと、まだ花開いていないし、遅れているものもあります。しかし、私は職員たちの意識の変化にすべてをかけたのです。

その意識改革の文化は三重県には残っています。全国的には、私がつくったモデルが相当広がっています。例えば、評価システムからいくとか、ダイアローグでいくとか、公会計を採り入れるとか、そういうことでマニフェストを導入するとか、選挙開票作業においてコンマ一秒の努力でコンマ一秒を節約するコンマ一秒の運動とか、一連のものがそうです。つまり、三重県からも蝶々は飛び立ったのです。

全5話はこちらから

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