政治に向かいあう言論

「日本の知事に何が問われているのか」/平井鳥取県知事

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080125_tottori.jpg平井伸治(鳥取県知事)
ひらい・しんじ

1984年東京大学法学部卒業後、自治省入省。福井県財政課長、自治省選挙部政党助成室課長補佐、カリフォルニア大学バークレー校 政府制度研究所客員研究員鳥取県総務部長、副知事、総務省自治行政局選挙部政治資金課政党助成室長を歴任後、2007年 2月に総務省を退職し、4月鳥取県知事選挙初当選、鳥取県知事に就任。 

第3話 一県だけで完結する時代から連携の時代に

 もう、鳥取県という一県だけで物事を全部済ませられる時代は終わっていると思います。例えば観光客の誘致や産業の振興、あるいは職員の研修や住民に対するPRなど、そういうソフト的なものも含めて、周りの県と連携して一緒になってやっていけるし、やっていかなければならない時代に入り始めたと思っています。今、観光地のお客さんも、日本人だけではなくなってきました。中国から、韓国から、リッチな方々が入ってくるようになります。そのときに、何々県です、と言ってやっているだけでは、インパクトに欠けるし、本当の意味で国際的なリゾート間競争に勝っていけません。ですから、道州制の話はともかくとして、これからは、連携すべきところは、もっと強固な連携体制を各県の間では結んでいかなければいけない。

 この強固な連携とは、合併を意味しているわけではありません。私は、大きさには2つのベクトルがあると思うのです。1つは効率性のベクトルです。これは数が大きくなれば、スケールメリットが働くというベクトルです。もう1つベクトルがあって、それはみんなが納得して、自分たちも関わって意思決定に参画できるというデモクラシーの大きさです。このベクトルも必要だと思うのです。

 この2つのベクトルは比較的相反するところがあります。また、スケールメリットについても、大きければいいというものではありません。例えば、高齢者の介護の中で、一通り施設をつくろうとしたときの単位で考えると、例えば10万人といった単位があればいいではないかというように、いろいろな議論があります。ですから、これの組み合わせでいくのだと思います。

 今の都道府県の単位は、デモクラシーのスケールとしても、スケールメリットを考える上でも、それほど決定的に間違ってはいないと思いますし、47 都道府県で明治以来やってきているので定着性もあります。メディアをみても、大体、都道府県単位にあります。テレビ局も新聞社もそうです。このように、民主的な議論を住民が行う一つのステージというのもができ上がっています。このことも決して無視はできないだろうと思います。

 ですから、当面、やるのであれば、分野ごとに他県と連携していくということではないかと思います。例えば、鳥取県と島根県とで我々が始めたのは、共通の海である中海、これを鳥取だけでなく、みんなできれいにしましょう、という取組みです。NPOもそうです。アダプトプログラムというものを導入して、ここの範囲はうちの会社、うちの団体が責任を持ってきれいにしましょう、これを中海で段々広げているわけです。共通のところはラムサール条約の指定も受けました。このように両県連携してということはあります。

 観光もそうです。今まではバス路線など、いろいろなものが県境で切れていました。こういうものは本来ぐるぐると回らないと観光客のニーズには合わないかもしれません。 こういう視点が今まで欠けていた面は否めないと思います。工場であれば県境を越えていてもごく近いところと連携します。お互いの行政が違っているためにコミュニケーションがうまくできていないといった問題点を取り払っていく必要がある。

 島根県知事の溝口善兵衛さんは、私の言っていることを理解してくれます。今までいろいろな意味で両県にまたがる問題があったのは事実です。例えば、中海の干拓をやめるとなると、では、どこまで元へ戻すかということになる。これは両県の世論が隔たりのあることもあったし、今もないわけではありません。しかし、溝口さんに代わったし、私のほうも代わったので、例えば、観光であれば共通のクーポンのようなものを考えるといった取組みを始めるべきではないでしょうかと言っています。

 実現したのは、子育てを応援するパスポートをつくりましょうということです。島根県もつくって、我々も07年11月からスタートさせました。これは地域のお店、例えば焼き肉屋へ行くと、ソフトクリームをお子さんにはプレゼントします、あるいはレストラン10%割引、ベビーカー・サービスなど、お店が中心になって地域の力で子育てを応援しましょうという運動です。パスポートを持っていくと、そういうサービスが受けられることにしたので、地域のモラールも高まるし、持っている方には大変お得感もあって子育てに元気が出る。そういうねらいです。これを両県でやるということで取り組みました。

 鳥取県で実施するに当たって、溝口知事に相互乗り入れをお願いしました。県境はあるけれども、鳥取県民が松江市に買い物に行くことがあるでしょう。あるいは、安来の方々が鳥取県内のお店に行くこともあるでしょう。ですから、相互に使えるお店を募集しましょうということで、鳥取県では200店舗ぐらいがその募集に応じています。相互乗り入れに賛同してくれるお店をそれぞれにつくり、両県またがって児童福祉の仕事をやるというのは余り例がないと思います。

 それぞれの県が自立するのは当たり前ですが、ウイン・ウインで、1足す1が3になるようなシナジー効果というものを我々は本来目指すべきではないか。今までは、県境があるがために、1足す1が2になるどころか、1足す1は1.2ぐらいになっていたと思います。それが次世代型の改革だと思います。

 一つの地域が垣根を持った考え方はだんだん時代遅れになってくると思います。既に経済の分野はそうです。JAでも県境をまたいで、例えば鳥取のJAと岡山のJAとが一緒になってやるということが始まっています。そういう意味で、垣根は越えなければいけない。実は東のほうも今やっています。兵庫県の井戸知事と京都府の山田知事と3人で3府県知事会を07年8月に初めてやりました。

 鳥取県は山陰から東に伸びていきます。そして、北近畿、但馬に入って丹後に入っていくという、一連の海岸があるわけです。この3府県で連携して、例えば山陰海岸ジオパークをという構想があります。今、世界的にジオパークという運動があり、これは世界遺産のようなものなので、これに加盟申請をしようではないかとか考えているのです。

 京都や兵庫は、やはり南北問題があるのです。北側と南側とでは、開発の深度や経済の成熟度に大きな差があります。舞鶴と京都市を同列に論ずることもできない。これはしかたがないことですが、ただ、北側が取り残されていることに対して、やはり共通の認識を持つべきではないかと思います。国家戦略として間違っているということをこれから言わなければならないと思います。また、この地域は今、高速道路をつくろうとしていますが、高速道路を軸にしながら、くし刺しにして、一緒になって地域振興をやっていく必要があると思います。そういう意味で、3府県の知事会を立ち上げました。福井県の西川知事にも入ってもらい、今度は4府県でやろうかと言っています。

 鳥取、兵庫、京都の連携と、鳥取と島根の連携という形で、東も西もつなげていくべきではないかとか考えています。今まともに高速道路が来ていない県庁所在地は全国で鳥取市だけです。それがもう2年ぐらいすると、全通ではありませんが、中国縦貫自動車道からつながり始めるという時期になってきます。ようやく近畿圏とくっついてきます。私はもっと近畿や山陽方面とくっついていくことを真剣に今の時期にやる、それが政策課題だろうと思っています。経済圏的には、鳥取県は広島資本よりも、大阪、近畿のつながりのほうが深いと思います。また、岡山県とも結構つながっています。

 そういう意味で、近畿の知事会と連携していく、ないし私が近畿知事会の一角に入ってもいいのではないかとも思っています。今までどうも古いカテゴリーで考えていたと思います。そのカテゴリーの中に収まってしまうと、伸びていくような地域振興にとっては限界が多過ぎると思います。ですから、見方を変えていく必要があると思っています。

全5話はこちらから

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