政治に向かいあう言論

「日本の知事に何が問われているのか」/石川静岡県知事

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石川 嘉延(静岡県知事)
いしかわ・よしのぶ
1940年生まれ。64年東京大学法学部卒業後、自治省(現総務省)入省。静岡県総務部長、自治大臣官房審議官、自治省行政局公務員部長などを経て、93年静岡県知事に就任(現在4期目)。知事就任時から「行政の生産性向上」を重視し、日本で初めての本格的な「新公共経営」を確立。2003年には「政令県」制度を中核とする内政構造改革を提唱し、市町村合併の推進や権限移譲に取り組むなど、理論に裏打ちされた地域経営を実践している。

第5話 県だけのことを考えるのではなく、日本一や世界レベルを目指す県に

 東京や名古屋とはライバルというよりも、東京の人たちも、えっ!と思うようなものをやれば市場になるのです。最近、日本の港湾は世界の港湾物流の世界から取り残されてしまい、ひどい目に遭っています。例えばアメリカからアジアに届いた荷物が実は釜山に揚がります。釜山に揚がると、韓国の人は釜山の港から半日で届く。ところが、その荷物が日本に来ると、日本の最後の受け手のところには、釜山に届いてから3日かかるのです。韓国と比べて2.5日、時間的にロスしている。後れをとるわけです。出すときも同じです。

 そういう現象が起こっているのはなぜか。今まで日本というのは、全部、日本の中のことだけしか考えていなかったからです。ですから、地域で何かやるときも、例えば県立だから、静岡県の人のことだけを考えてやる。そのため、飛び抜けた事業というのはほとんどできない。今、国境ですらハードルが低くなっている時代に、静岡が静岡の人だけを対象にしたものをやっているようでは、誰も満足しない。東京の人も名古屋の人もあこがれて来るような、あるいは評価するようなものがなければ、静岡の人ですら満足せず、評価をしない。そういう時代になっています。極端なことを言えば、静岡県の税金を使うけれども、静岡の人がここへ行きたいというときには混んでいてなかなか入れない、使えないというぐらいの千客万来のようなものをつくっていかなければ、結果的には県民から評価されず、お金が無駄になる。そこで、がんセンターをつくるときも、私は、東京築地の国立がんセンターは、あらゆるがんで日本トップレベルですが、それにすべての点で対抗できないけれども、あるがんについては築地のがんセンターよりもすごいというようにやってほしいと考えて取り組みました。

 その結果、県立がんセンターは神奈川県や東京からも患者が来るようになっていますし、その近くには、東京でも人気のあるイタリアンレストランが立地し、来院関係者や近隣はもとより、関東圏からもお客が来ています。

 私は何でも日本一ということを強調していますが、こうした機運を高めるためにやっているのです。静岡の人というのはこの程度でいいやといって、小成に安んずる気風があるのです。今、世界的な競争が始まっているときに、この程度でいいやとなれば、何年かたってみるとひどい状態になる。これではだめだ、世界レベルを目指してやろうということです。ただし、世界レベルといっても、一気にその域には達しないので、まず日本一だったら分かりやすい。

 今年は、空港開港を控えて、これを利活用するためにも路線をもっと引くという年になります。また、地域経営という観点で考えると、医療については大体方向が見えてきましたが、あと残っているのは教育や文化です。それを高めるためには、東京、名古屋と比べて余りにも見劣りする都市的な高次機能を高める必要があります。静岡市と浜松市はそれなりの機能が集積していますが、これをもっと伸ばしていかなければなりません。ましてや、それより更に劣る東京寄りの東部地域の対策は急がれます。今後、民間の力も活用しながら高次の都市機能を集積させるようなことに力を注ぎたいと考えています。

 県職員との関係ですが、どちらかと言えば私は組織を引っ張って行くタイプでありますが、私も役人をやっていましたので、強権的にやると面従腹背になるということは分かっています。私に心服させるというよりも、私が言っていることについて納得させるということが大事です。それには合理性とパッションがないとだめだと考えています。パッションだけですと、言うことを聞かないと強権発動するようなことにもなりますし、その人がいる間はいいのですが、いなくなると、元の木阿弥になってしまう。パッションとロジックが必要なのです。

 私は、毎月2回開く主要課長以上の幹部職員会議を始めとして、できる限り多くの機会を捉えてそれらを伝え、意識と力のベクトルを同じ方向へ向けながら、行政の生産性向上に取り組んでいます。

全5話はこちらから

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