政治に向かいあう言論

「日本の知事に何が問われているのか」/井戸兵庫県知事

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080104_ido.jpg井戸敏三(兵庫県知事)
いど・としぞう
1945年生まれ。68年東京大学法学部卒業後、自治省入省。鳥取県、佐賀県、宮城県、静岡県、国土庁土地局、自治省税務局を経て、運輸省航空局、自治省行政局、財政局、大臣官房各課長を歴任。1995年自治大臣官房審議官、96年兵庫県副知事(2期5年)、01年兵庫県知事に就任。現在2期目。著書に「随筆集 一歩いっぽ」「随筆集 歩みながら」「随筆集 歩みながら続」、「地方自治総合講座」(編集代表)等。

第4話 道州制よりもまず、都道府県に権限と財源を与えよ

 理想的な形で、国の権限を縮小し、内政は全部地方に任せるというような意味での道州制を実現できるなら、それも1つの選択だと思います。ただ、私が今のところ反対、あるいは非常に消極的なのは、下手をすると結論だけ取られて、結果として国の権限は全部残り、都道府県を合併しただけの道州になってしまう危険が非常に強いからです。三位一体改革の経過をたどってみてもそうでした。三位一体改革の概念そのものは非常によかったし、理想的だったのですが、結果はいろいろ問題がある形で落ち着いてしまった。しかも交付税だけポンと減らされた。そういうことになる危険をどうやって排除できるのかと思います。理想論だけでなく、私は、こういう闘争は現実を見るほうが大事だと思っています。それを考えると、今の国の姿勢は、そんなに生易しいものではないのではないでしょうか。

 地方分権の進め方についていえば、私は、国が思い切って権限と財源をもっと渡せばいいと思います。それをやろうとしているのが内閣府の地方分権改革推進委員会ですが、各省のレベルで議論してしまうとなかなか動いていかない。今の分権委員会とタイアップして、国会の中で地方分権特別委員会のようなものをつくって、強力に国会の中で動いてもらわなければ動いていかないのではないか。政府任せではなかなか動かないのではないでしょうか。

 その場合、受け皿をどうするのかという話にすぐなりますが、道州というものも1つの方法です。ただ、私はもっと現実的です。もう少し47都道府県を尊重し、47都道府県にもっと権限と財源を渡せばいいではないかと言いたい。今、我々は一生懸命勉強して、できれば関西で広域連合をつくろうではないかという方向で検討しています。関西の3つの空港は一元管理したほうがいいのでしょうし、今回、神戸港や大阪港などが一つの阪神港として開港しましたが、運営自体は相変わらずそれぞれですから、1つの管理者で運営するようなこともできるでしょう。試験研究機関や、広域観光、広域防災体制など、広域連合をベースにして現実的に進めていく。国もそういう広域連合に権限や財源を与えていく、そういうこともあり得るはずです。

 今、国の仕事の進め方で一番おかしいと思っているのは、国土形成計画のブロック計画を国土交通省近畿地方整備局がつくっていることです。国土交通省所管の部分も多いのかもしれませんが、こういうものこそ、地方自治体が担うべきであり、もし広域連合がつくられているとすれば、そこでやるべきです。広域連合というのは都道府県がつくるわけです。ですから、都道府県にもっと権限と財源を与えるという現実的なアプローチは十分に考えられます。

 もう1つ地方自治体のあり方として問題なのは、政令指定都市制度をどう考えるかということです。政令指定都市はすごく大きな塊になってしまい、区が普通の市の規模を超えているにもかかわらず、市民が区の仕事に対してほとんどタッチできない仕掛けになっている。それでいいのだろうか。特に、危機管理のときに機能するだろうかという気がします。政令市を分解しろということです。あるいは、東京23区と都のような制度を導入したらいいのではないでしょうか。

 兵庫県は5つの国から成ると言われています。神戸を中心とした阪神間、丹波、但馬、播磨、淡路です。県を飛ばして、国がダイレクトにこうした大小のある市町村に対応できるかというと、できないと思います。ですから、中間的な機能というのは絶対に残らざるを得ない。残らざるを得ないときに、どの程度の単位で残すのか。道州制のようにするのか、今の都道府県のような単位で考えるのか。

 都道府県がさらに大きくなってしまうと、住民自治ができるのか。地域の人たちの声が届くのか。そういう疑問があります。道州制のようにブロック単位になれば、そのブロック単位で投資ができるため、相当の規模の投資ができるようになると財界の人たちは言います。しかし、今、我々にそれができないのは権限を与えられていないからにすぎません。我々が新しい大プロジェクトを共同でやると言ってみたところで、今の状況ではなかなかできない。国と調整しなければいけないからです。国が「うん」と言わないとできないことが多い。我々がやれるような仕組みになっていないからだと私は思っています。

 今、大阪の梅田に商業施設や大規模ビルが随分と計画されています。梅田の吸引力が非常に強くなっています。そうしたときに、我々神戸の三宮、元町という商店街の持っているポテンシャリティーをどう生かしていくかということを考えなければいけない。そういうことが今後、地域経済にとっての課題になります。それは敵対するのではなく、いい役割分担ができればいいわけです。

全5話はこちらから

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