言論NPOとは

令和4年度事業計画

 世界は、政治的にも経済的にも分断に向かって動いており、世界の平和秩序自体がウクライナへのロシアの侵略で、壊れかねない事態に陥っている。

 私たちが昨年末、行った世界55カ国の世論調査では、民主主義への信頼が世界的に後退し、日本の政治不信が55カ国だけではなく、G7各国と比較しても際立って悪化していることも、明らかになっている。

 この状況に世界が力を合わせることができず、対立と分断の傾向を強めるならば、世界は自滅しかねない状況にある。そして、日本社会の後退はこれ以上、傍観できない状況にある。

 私たちは、当事者意識を持って課題に挑む、新しい動きをこの日本に作ろうと21年前に言論NPOを立ち上げた。

 自由と共通の規範に基づく、世界の協力や民主主義の強化、そして、言論の責任。それこそが、設立時からの我々の譲らぬ覚悟だが、その全てが今、歴史的な試練を受けている。まさに我々の存在理由をかけた取り組みが、令和4年度に求められているのである。


組織を抜本的に立て直し日本社会に対する発信力と影響力を構築する1年に

 私たちが目指すべき目標は、世界の分断をこれ以上悪化させず、アジアの紛争を回避すること、そして、民主主義の修復に向けた動きを始めることである。

 これは世界の誰もが希望する目標だが、誰も解決案を持っているわけでもない。

 ただ、我々が考えるべきことは、民間の場にいる我々に全く勝算がないわけではない、ということだ。

 私たちは非営利の独立のシンクタンクとして、世界有数のシンクタンクなどと世界的なネットワークを有しており、世界を代表する会議を運営している。

 さらに米国が戦略的な競争相手とする中国とは17年間、どんな困難にもかかわらず一度も中断せずに実施する世界が認める対話チャネルを有している。

 つまり、我々は、歴史的な作業に挑む有資格者なのであり、その責任を持つ場を運営している、ことを自覚すべきである。

 こうした対話の舞台を活かすことで、世界に我々の主張を伝え、この日本が世界的な課題解決に挑む作業を世界と共有することができる。さらに、私たちが、中国の行動を国連憲章の立ち位置や世界の協力の枠組みに参加させることへの環境づくりを行うことは、世界の分断回避の大きな一歩を踏み出すものとなるだろう。

 私たちがその役割を、この歴史的なタイミングで行うこと自体が、世界の多くの人が担えない、我々の使命なのである。

 日本の未来にために議論を行うことはこの国の未来の世代への責任である。そして何よりも、民主主義の修復は我々の創立時のミッションである。

 こうした作業に全力投入するためにも、私たちは組織を抜本的に立て直し、これまで十分な成果を生み出していない日本社会に対する発信力と影響力を構築しなくてはならない。

 私たちが、令和4年度に計画するのは、そのための作業である。


今年度取り組む3つの課題

 私たちが、この令和4年度に取り組む課題は次の3つである。

 第一は、言論NPOに参加する多くのメンバーや課題を共有する多くの力を加えて、組織自体を再活性化することである。

 ここでは理事会機能の強化やアドバイザリードメンバーの強化、さらにはメンバーの計画的な拡大が柱となる。

 第二は、社会への発信力を強化し、組織の参加基盤を拡大することである。

 我々は既に、「知見武装」という取り組みに着手している。いま世界やこの日本で起こっている歴史的な変化を自分で考えるための力を持とうという問題提起である。

 このために、議論の多面的な展開やフォーラムの運営、各種のニュースの発信を対面だけではなく、オンラインやSNS等も活用し、これまでにない取り組みを進める必要がある。

 これらの議論参加が、言論NPOの参加基盤を大きく増やすことに繋がるためのコンテンツの運営や発信は、計画的に目標を提示して展開する。

 そして最後が、取り組む事業の優先順位を組み直し、私たちの中核事業が世界への発信力や影響力を持つことにある。

 ここでは、言論NPOの中核的な事業だった「東京-北京フォーラム」に加えて、2017年に創設した「東京会議」を、言論NPOの中核事業に位置付け、世界を代表する競争力のある会議に成長させたい。そのために運営体制を強化し、23年度初めにそれを実現するための作業を開始する。


 令和4年度の事業は、これらの3つの課題を軸に構成されている。この際に貫く考えは次の二つである。

 一つは、言論NPOの組織運営や言論活動は幅広い寄付やこの活動に参加する会員の支援で賄う体制を早期に実現することである。

 「東京―北京フォーラム」や「東京会議」などの中核事業はこれとは全く別にそのプロジェクトのための体制や特別な助成や企業寄付などで、行うことになる。

 私たちが、覚悟を固めているのは、こうした運営体制が実現しなければ、言論NPOの活動は持続的なものにならず、途中で頓挫しかねない、ということである。それを回避するためにも、この体制は遅くてもこの令和4年度
から始まる3年で達成しなくてはならない。

 二つ目は、言論NPOの言論活動や様々な取り組みは幅広い層に支持され、影響力を持たない限り、その事業の目的は実現されず、新しい変化をこの国に作れない、ということである。そのためには言論NPOの外延に活動に共感を持つ層を大切に育成すべきということである。

 この共感を持つ層を我々は、「無料登録者」として位置付けており、言論NPOの多くの議論や活動への「参加者」であり、緩やかな「支援者」としての期待すべき層でもある。この層を計画的に育成できなければ、日本社会の中で私たちの言論が、より強い影響力を得ることは、難しいだろう。

 私たちが、ここで提起する数値目標は全て、この二つの考えに基づいて設計されている。


 今後3年間で以下の通りの目標を実現する。令和4年度はその初年度である。

1.gif

                        
 次に掲げる全ての作業は上記に掲げた二つの考えや、数値目標を実現するためのものである。


 まず、組織の再活性化では、幅広い人たちの協力を進めるために、言論NPOのアドバイザリーボードに世界的な視野や発言力を持つ経済人に加わっていただくために、6人程度を年内に増員することである。

 さらに、世界や日本が直面している課題に取り組む言論NPOのミッションに共感し、次世代の発言者になれるような若手・中堅、女性などのメンバー(基幹会員)を拡大することを目的に副理事制度を創設し、年内に15人程度(現状6氏)まで拡大することである。

 副理事は理事長を補佐し、理事会と共同で今年進めるメンバーの拡大、支援基盤拡大の展開を行うものとする。

 また、メンバーや会員間の交流やコミュニケーションは組織目標を達成するためにも極めて重要である。そのための会員フォーラムや懇親会、様々な会議を設定していく。


 第二に参加基盤を拡大するために、言論NPOの活動がより多くの人たちに理解され、共感を持って多くの人に参加していただくことが必要である。そのために、既に2つのことを始めている。

 一つは、参加型の議論の場の構築である。現在の日本では、真面目な言論空間が縮小しながらも、多くの市民は今の世界や日本国内が抱える問題を共有し、その答えを探し求めている。その傾向は若い層に多いことが、我々のサイト分析から明らかになっている。

 そうした共感を持つ人たちが参加できるような「言論フォーラム」を定期的に開催していくだけではなく、動画やコンテンツ、記事の発信などを、無料登録者以上が閲覧できるような仕組みに大きく転換していく。

 加えて、言論フォーラムとも連動する形で、代表・工藤のyoutubeチャンネルにおいて、国内外の課題を解説し、市民自身が自分で考える「知見武装」という動画を定期的に配信している。

 今後、フォーラム、工藤の動画にメールマガジンも連動させながら、会員や無料登録者が自分自身で国内外の課題を考えることができるような仕組みを年度内に定着させる。

 無料登録者への誘導は、一つは言論NPOのWEBサイトへの訪問者の拡大と、全てのコンテンツに無料登録を求めることで、実現を図る。 

 私たちの活動には、言論NPOのメンバーや会員、さらには寄付者が優先的に参加できるが、一般の人はほとんどの議論に参加するために無料登録を求められることになる。また会員種別によっては参加できる議論や中核事業が選べる形で、無料登録から会員への入会や寄付を誘導することになる。  

 また、コロナの動向にもよるものの、会員が参加して話し合えるような場を作り、会員としての言論活動の参加をより活発なものに注力していくつもりである。

 また、中核会員の議論の場として、言論NPOが展開する外交関係などの議論を共有できる、「スポンサーシップメンバー」(仮称)の創設するなど、活動参加の仕方により幅を持たせる、ことの検討を進める。


 会員の性格は以下のように定めることにした

2.gif


 最後の課題は、主要な事業の優先順位の入れ替えである。

 世界にはダボス会議やミュンヘン安全保障会議など、世界を代表する会議が存在してるが、既に1月のダボス会議、2月のミュンヘン安全保障会議、3月の東京会議、4月のライシナ会議、という形で言論NPOが行っている「東京会議」世界の会議に位置付けられていることは日本国内では知られてない。

 この「東京会議」は既に世界の視野に入っており、「東京会議」に参加する世界を代表する10のシンクタンクは、世界の最前線で議論を運営している。世界の知識層は、すでに政策コミュニティにネットワークのつながりを持ち、国や地域を越えた発信力を形成しているのである。

 「東京会議」は世界を代表する民主主義の10カ国のシンクタンク代表が集まる会議(D-10)で、世界の課題や民主主義の修復に向けた議論を行い、G7や、G20の議長国に提案を行っている。さらに、クリスティアン・ヴルフ(第10代ドイツ大統領)、アナス・フォー・ラスムセン(デンマーク首相、前NATO事務総長)等、欧米やアジアの大臣・首脳経験者が参加する「世界賢人会議」も併設し、東京発で世界に発信している。

 世界が分断に向かう中で、この分断を回避し、世界の課題に世界が協力し合うためにも、自由と民主主義的な規範を立ち位置とする「東京会議」の役割は、世界の中でも注目を集める存在になっている。この「東京会議」をより世界に影響力を持つ「世界会議」に発展させることは、令和4年度事業の最も大きな課題である。

 そのために、「東京会議」の会議としての性格をより明確にし、さらに影響力のあるものに作り替えるために、国際的な視野を持つ経済人などを中心とした実行委員体制を準備し、来年の3月には世界を代表する会議に発展させるための準備を進める。

 今年の「第18回東京-北京フォーラム」は、世界の分断を回避し、平和的な秩序を修復するためにも、歴史的な対話になろうとしている。ここで問われるのは、ロシアのウクライナ侵略とコロナ対策で揺れる中国を、国連憲章で謳われた立ち位置に立たせるためのチャレンジである。

 既に中国側とは、今回の全体テーマを「日中国交正常化50周年で考える~世界の平和、国際協調の修復と日中関係の未来~」とすることで合意しており、日中国交正常化50周年に合わせて日中関係の未来も考える貴重な舞台となる。

 さらに言論NPOは、アジアの緊張が高まる中で、米国と中国を同じテーブルに付け、この地域の紛争回避と平和に向けた「アジア平和会議」という、米中対立下でのアジアの平和構築という歴史的な作業も始めている。

 今後、我々の事業は「東京会議」と「東京-北京フォーラム」を主体に、「アジア平和会議」と「日韓未来対話」を併せた4つの会議を軸に運営することになる。

さらに、我々は昨年、世界55カ国で民主主義調査を実施したが、そこで明らかになったのは、世界で民主主義が多くの人の信頼を失っていること、さらにその中で、日本の政治不信が際立っていることである。

 民主主義の修復や自由を守るための議論を定期的に、計画的に進めることは、私たちの重大な課題である。


令和4年の主なスケジュール

3.gif