言論NPOとは

令和5年度事業計画

 私たちの取り組みは、これまでにない形で大きく動き始めている。昨年、私たちは、日本社会の未来や世界課題に全力で取り組むため、言論NPOの組織をより影響力や持続性のあるものに抜本的に変えたいと考え、新しい3か年計画に着手した。


 その初年度である令和4年度に取り組んだのは、世界を代表する10のシンクタンクと世界課題の解決にこの日本で取り組む「東京会議」を言論NPOの最重要の取り組みに据え、これまでの「東京-北京フォーラム」と二枚看板に並べることだった。そして、言論NPO自体の活動を次世代に繋げるより持続性のある組織に刷新する努力を始めることである。

 この努力は間違いなく、私たちの活動の幅を広げ、世界にいくつもの決定的な話題を提供するに至っている。

 二年目となる令和5年度の新しい計画は、さらにこれらの目標達成に向けて、活動をどのように加速させるか、で構成されている。

 すでに新しい一歩を踏み出した「東京会議」や「東京―北京フォーラム」などの民間外交には、それぞれを軌道に乗せるための新しい目標があり、より世界で影響力や競争力を持つ世界会議に発展させるための努力は、今年度も引き続き取り組むべき課題である。

 だが、この令和5年度、それ以上に私たちが重点的に取り組みたいと考えるのは組織の活性化である。

 どんな課題でもそれに言論NPOが、独立して取り組むためにはしっかりとした組織や資金基盤、さらには強い影響力が不可欠である。ただ、私たちには今回、それ以上の決意がある。この運動を一過性で終わらせるのではなく、課題に挑むこの日本社会の健全な言論インフラとして、今後も機能させたい、という強い思いである。そのためには、言論NPO自体の経営を次の世代に繋げる持続性のあるものとして確立しなくてはならない。今こそがそのタイミングだと考えたのである。

 そして、この課題にいよいよ本格的に取り組むのが、今年度の事業となる。


 私たちはこの3か年計画で二つの組織目標を掲げている。

 一つ目は、言論NPOの言論活動や組織活動の全てを、言論NPOへの会費や寄付で賄う体制を確立することである。

 現状は多くの国際会議の成否に本体財源が依存しており、この状況では、言論NPOの事業の中立性や持続性を確保することは難しい。この目標の達成度は昨年度でまだ半分程度であり、今年度は、目標達成を目指し、会費や寄付の増強を加速させなくてはならない。

 このためには、まず、組織の活動自体を活性化し、より多くの会員が活動に参加しやすい環境をつくるべきだと考えた。

 言論NPOの活動は、民間外交や言論活動を支える多くの専門家だけで構成されているわけではない。言論NPOの会員や寄付者も言論NPOの取り組みに参加し、意見交換をし、議論もできる。組織自体がコミュニティ化して活性化し、取り組みの輪を広げる必要がある。それが、組織力強化のための必要な課題である。


 二つ目は、私たちの取り組みを単なる知識層の言論活動に留めるのではなく、課題解決に向かう市民社会の新しい動きに広げることである。そのためには、より多くの人に言論NPOの取り組みを理解していただいて、その輪を広げ、多くの理解者を得なくてはならない。

 この目標を達成するために、言論NPOの活動の意味や内容を様々な媒体で多くの人に伝え、言論NPOの取り組みへの指示を広げ、多くの市民が世界や日本の課題を考えられるような議論の舞台を活発にする必要がある。

 この二つの課題が、組織課題の取り組みの目的となる。


令和5年度の組織課題の取り組み

 まず、取り組むべきことは、言論NPOの組織自体の活性化であり、多くの会員や寄付者にとっても魅力的な参加の基盤を広げることである。

 そのために、個人メンバーや法人会員、寄付者が参加できる3つの勉強会を稼働させる。


 言論NPOが今年、日本国内や世界、アジアで取り組む課題は、次の3つである。

 一つは、世界の分断をこれ以上悪化させず、世界が協力して課題に取り組むための「東京会議」、アジアで紛争を起こさせず、多くの課題で北東アジアの周辺国と対話を行う、「東京-北京フォーラム」や「アジア平和会議」と「日韓未来対話」である。

 そして、民主主義の修復や、多くの市民が政治や日本の課題を判断するための民主主義強化の取り組みである。

 今回稼働させる勉強会はこの3つの事業に対応しており、独自に毎月、様々な勉強会を開催し、意見交換を行い、その声を実際に中核事業に反映させるための組織コミュニティとして、機能させる。

 すでに稼働が決まっているのは、①「中国勉強会」(座長・木寺昌人元中国大使)、②「国際問題勉強会」(座長・藤崎一郎元駐米大使)、さらに③「安全保障勉強会」(座長など、未定)である。

 こうした勉強会を設置するのは、言論NPOの中核事業に多くの言論NPOの参加者がより積極的に加わることで、活動への理解をメンバー等に広げると同時に、言論NPOの中核事業に参加する次の世代の発掘することにある。

  このほか、言論NPOの組織活動に、より多くの若手研究者や多くの専門家が参加する仕組みを拡大するために3つの研究会を立ち上げる。

 「国際協力に対する現状を評価する研究会」は、気候変動やパンデミック、自由経済などの世界の課題での国際協力の現状評価を行う若手研究者のグループで、「東京会議」の場での年次評価の公表を検討する。また、民主主義の強化に対する今後の取り組みや議論を準備するための「民主主義の点検委員会」、「マニフェスト評価委員会」も立ち上げる。

  言論NPOでは、昨年から「知見武装」を呼びかけ、日本や世界の課題を市民一人一人が自分で考えるための場としての、一般向けの勉強会として、年間、30回近くの「言論フォーラム」を行っている。令和5年度も、同様の回数で実施予定だが、こうしたフォーラムの企画や運営を、順次こうした研究会や勉強会とも連動させることを検討する。

 こうした努力を通じて、言論NPOへの会員や寄付者が、言論NPOの取り組みに参加する機会を増やしていく。


 次に重点的に取り組むのは、言論NPOの活動をより多くの人に知らせ、理解を広げるための広報への取り組みである。

 言論NPOの民間外交などの取り組みは年々、高度で専門的になり、複雑になっており、若い層には敷居が高くなり始めている。活動の内容が、多くのメディアに取り上げられるようになったが、一般には分かり難いとの声が出ている。

 こうした状況を抜本的に見直すことがここでの課題になる。言論NPOの取り組みの意義や内容を分かりやすく、理解を広げるために、若い世代の参加者も含めた専門チームで発信の仕方を考えていく。さらに、これまでのWEB議論に加えて、言論NPOの活動を映像などで伝えたり、参加型の積極的な議論を発信していく。

 具体的には、言論NPOの取り組みや主張を理解できる動画、SNSの積極活用、メッセージ性のあるPR戦略、時局解説などを数多く展開する。これらの参加者をオンラインサロンなどの議論参加に計画的につなげていくことである。


 これらの取り組みはそれぞれ達成すべき目標があり、それを意識した取り組みとなる。

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令和5年度の言論NPOの民間外交について

 言論NPOは、令和5年度で予定する民間外交は以下の4つの取り組みである。

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01.jpg 「東京会議」の目指すべき目標は、民間主催の会議でありながら、世界の政府間外交の舞台になっている「ミュンヘン安全保障会議」である。

 このミュンヘン会議が世界の政府間外交を動かす舞台にまでに成長したのに、80年近くかかっているが、私たちは「東京会議」を、日本ならではの特徴と日本発の、競争力を持った世界会議に段階的に成長させたいと考えている。

 この「東京会議」で実現したいのは、世界の分断を回避し、世界の平和と協力を立て直し、世界が結束するための議論を先導する舞台である。

 すでに、この会議は昨年、体制が整い、共同声明をG7議長に提案することで、世界を代表する10カ国のシンクタンク代表が協力することで合意し、日本の経済人や要人が参加する評議会も発足した(※)。今年度はこれを15人程度まで拡大、開催の資金源の安定化のための努力を行う。


yomiuri.gif この会議が、世界でも例の無い形で機能しているのは、その前に世界で最も影響力を持つ中国との本気の対話の舞台である「東京―北京フォーラム」を開催し、この二つの会議の議論が連動しているからである。

 昨年、私たちは中国を説得し、私たちが行う中国の世論調査で、ロシアのウクライナ侵略に対して、中国国民の半数以上が賛成していないことを明らかにした。これは、世界的なニュースとなり、中国と世界の平和と、国際協調の修復に向けた議論を行うことが、「東京-北京フォーラム」のメインテーマとなった。

 3月末の「東京会議」の共同声明ではウクライナ戦争終結に向けて「あらゆる国が力を合わせる」という世界10カ国のシンクタンクが合意し、日本が議長を務めた5月の広島サミットでのデカップリングに反対する姿勢に繋がっている。


02.jpg 今年の議論も「平和」が4つの会議でテーマとなる。「東京―北京フォーラム」は4年ぶりの対面での開催になるが、日中平和友好条約45周年に、世界とアジアの平和を日中が考え、中国とは核の問題で議論することを協議中である。そして、今年の7月と9月には、米中が同じテーブルに座る日米中韓の4カ国間会議、「アジア平和会議」と「日韓未来対話」も行う。この場で私たちはアジアの紛争回避とこの地域での持続的な平和の実現を模索する。

 私たちのこうした民間外交は、日本や海外で多くのメディアに取り上げられ、その影響力も高まっているが、こうした対話をこれからも安定的に開催し、その競争力を高めるために、それを運営する事務局体制や、言論NPOの組織自体の強化が不可欠となっている。

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言論NPOの組織体制の強化について

 言論NPOの組織体制には二つの課題がある。まだ脆弱で多くの課題に取り組めないこと、さらに次の世代に向かう新しい体制の構築が遅れていることである。

 これに対して、計画的な準備を始めるのも、今年度の目標である。

 すでに、言論NPOは昨年から、理事長の職務を補佐する副理事を創設し、メンバーの勉強会や広報強化などを担当する5氏が就任している。

 これらの副理事制度等を利用して、メンバーの中から積極的に言論NPOの業務をお願いし、執行面での役割を多くの人が担える体制を構築していく。

 さらに、事務局から理事就任ができるように、定款に基づく運営規則を改定し、事務局から次の言論NPOの執行に携わる人材の登用に道を開いている。

 多くの会議や研究会のメンバーにも若手や女性を意欲的に採用することにしており、次の世代に繋がる取り組みに着手している。


 2023年の言論NPOの年間スケジュール

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※「東京会議」評議会メンバー
岡本 薫明 (前財務事務次官)、川口 順子(武蔵野大学国際総合研究所フェロー、元外務大臣)、國部 毅(株式会社三井住友フィナンシャルグループ取締役会長)、田中 達郎(アポロ・グローバル・マネジメント日本法人会長)、東原 敏昭(株式会社日立製作所取締役会長 代表執行役)、藤崎 一郎(日米協会会長、元駐米国大使)、三毛 兼承(株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役執行役会長)、武藤 敏郎(株式会社大和総研名誉理事、元日本銀行副総裁)