言論NPOは創立以来、「私たち市民が強くなることで民主主義を強く機能させたい」と提起し、日本の民主主義の課題に取り組んでいます。
言論NPOが毎年行う日本や世界での世論調査では、日本の国民の多くが政治家や政党に課題解決を期待していないことや、政府・政党・国会・メディアなどへの不信が世界的にも広がっていることが明らかになっています。
日本の民主主義は半数程度が選挙にもいかず、政治は国民の信頼が失っています。その中で、既存の政党はいずれも支持を後退させ、新しい政党に期待が向かっています。それが、どこに向かうのか。日本の民主主義の未来はどうなるのか。私たちはそれを真剣に考える局面に立っているのです。
民主主義を守り抜くためには、私たち自身が当時者として日本に問われる課題を向き合うことが必要です。そのために、私たちは民主主義の困難に取り組むと同時に、日本の未来に向けた多くの課題に向けた議論を始めています。
今、取り組んでいる議論
日本の政治構造は変化したのか
「民主主義を強くする」では、日本の民主主義が抱える問題について考えます。その第一弾の試みとして、言論NPOは9月6日から「日本の政治・民主主義に関する世論調査」を開始しています。7月の参院選では国民民主党の他、参政党などの新興政党が躍進しましたが、これは日本政治の構造転換を示しているものなのか、それとも既成政党に対する一過性の批判に過ぎないのか、国民の意識から明らかにしていきます。この結果は10月下旬に公表する予定です。 しかしその前に、私たちが2017年から実施してきた様々な世論調査から、日本の政治と民主主義についてどのような国民意識が読み取れたのか、もう一度振り返ってみたいと思います。
政治に対する強い不信と民主主義への強い期待
私たちの調査でまず明らかになったのは、日本国民の「強い政治不信」です。政党や政治家に課題解決を期待できるという国民は、2017年の調査開始以降毎年1割から2割の間で推移しています。また、24年の調査では国民の8割は自分の意見を代弁している政党は「ない」と回答しています。政治家を自分たちの代表だと思わないという人も半数を超えています。こうした政治不信は、民主主義の様々な機関にも及んでおり、「政党」「国会」「政府」を信頼していないとの回答は6割以上にまで拡大しています。また日本の場合、民主主義を支える社会基盤の一つである「非営利組織」など中間団体に対する信頼が、欧米諸国と比べて低いことも特徴です。
私たちが22年に公表した世界 55 カ国民主主義調査では、こうした日本の政治不信の構造が世界的に見ても突出していることが浮き彫りとなっています。「自分の意見を代弁している政党がない」という回答は世界のワースト6位となり、政府や議会に対する信頼度はG7内で最下位でした。
しかし、私たちの調査からは、日本国民が民主主義に強く期待していることも明らかになっています。民主主義以外の「どんな政治形態でもかまわない」という人は例年1割に満たない状況です。世界55カ国調査でも「政府や行政の行動をより効率的にするために市民の自由が制限されてもかまわない」との見方には日本国民の84%が反対し、「議会や選挙を顧みない強い指導者を持つこと」には82%が反対しています。この数字は世界55カ国の中でもG7の中でも圧倒的に高いものです。
日本国民は、民主主義に対してはまだ多くの人が期待しながらも、政治に対しては強い不信感を持っている。これが日本の現在の状況なのです。今回の参院選の結果はその中で生まれたものです。
言論NPOは、「日本に強い民主主義をつくる戦略チーム」を結成し、すでに議論を開始しています。その共同代表である内山融氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)と吉田徹氏(同志社大学政策学部教授)の昨年の調査結果に関するコメントにつきましても再掲しますので、ぜひご覧ください。
言論NPO「日本に強い民主主義をつくる戦略チーム」共同代表コメント
内山融氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)
回答者の49%とほぼ半数が「代表制民主主義は日本で機能していない」と答えていることは、日本の有権者が政治家のことを自分たちの「代表」として信頼していないことを意味する。実際、「日本のどの機関を信頼しているか」との質問では、国会や政党への信頼が著しく低くなっている。衆議院は英語で"House of Representatives"(直訳すれば「代表の院」)だが、その名前に見合った役割を果たしていないということである。
代表制民主主義が機能していない理由として 「選挙のときしか国民を見ておらず、国民に向かい合う政治が実現していない」と答えた回答者が69%を占めている。このことは日本の民主主義における「熟議」の不足を示している。選挙のときだけでなく、常に有権者との熟議を重視する態度が政党・政治家には欠かせないだろう。
二大政党化と政権交代のしやすい選挙制度よりも、多様な民意をより正確に反映する比例代表制度を重視する人が49.3%と半数近くにのぼっているのも注目される。小選挙区比例代表並立制という現行選挙制度が政党システムの断片化を生んでいることを考えても、選挙制度のあり方を再検討する時期に来ているように思われる。
吉田徹氏(同志社大学政策学部教授)
「日本の代議制民主主義は機能しているか」という問いに、実に49%(前年比27ポイント増)が否定的回答をしていることに大きな危惧を覚える。機能していない理由としては、政党が国民に向かい合う政治が実現しておらず、課題解決能力も持っていないこと、政治参加の意識が低いということが挙げられており、民主主義の根幹をなす「競争」と「参加」の2つの次元で日本政治が期待に添えていないことがわかる。
日本国憲法は前文で「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と謳っているが、そのような理念がもはや空文化している状況にあるといえよう。
日本の政治不信は、これまでも他先進国と比べても決して低い水準にあるとは言えず、最近の地方政治での展開もこうした政治不信と無関係ではない。
代議制民主主義が機能するには、様々な中間団体(NGO/NPO、労働組合、宗教団体/組織)の介在が必要だが、これらに対する信頼も薄い。
他方で、統治形態としての民主主義に対する期待は依然として高い。日本は制度的には民主主義国として十分な資格を備えている。これからは、いかに実質的な民主主義を作り上げていくことができるかがますます問われていくことになる。