【インタビュー】政治の介入を排除し規制緩和を徹底せよ-金融ビッグバンを再評価する-

2002年7月11日

sakakibara_e020222.jpg榊原英資 (慶応義塾大学教授)
さかきばら・えいすけ

1941年生まれ。64年東京大学経済学部卒業。65年大蔵省入省。69年ミシガン大学経済学博士号取得。94年財政金融研究所所長、95年国際金融局長を経て財務官就任。99年退官後、慶応義塾大学教授就任。「グローバルセキュリティ・リサーチセンター」を設立しディレクターを務める。アジアを中心に世界の市場分析を行う。

概要

97年から始まった「日本版ビッグバン」は、昨年末で一応の目標を達成した。外為法の改正に始まる一連の規制緩和の結果、外国銀行が参入するなど、金融の自由化は急速に進展した。しかし、当初イメージされていた個人投資家の市場への参加はそれほど進んでおらず、何より経済は活性化するどころか、ますます不安が高まっている。当時、財務官として中心にいた榊原英資・慶大教授がビッグバンを再評価する。

要約

ビッグバンは金融業界の自由化にその主眼があった。他業種や外国からの新規参入を促進したことは1つの成果といえる。しかしその後、政治の圧力を受け入れてぺイオフ解禁を延期したのは大きな失敗だった。護送船団方式から脱却するためにこそ、検査・監督を業務とする金融庁を独立させたのだから、政治の介入に屈して同じ過ちを繰り返しては元も子もない。一方で誤算だったのは、新規参入が進んだにもかかわらず顧客が集まらなかったこと、要するにカネが集まらなかったことだ。その原因は3つ考えられる。1つは個々の企業経営者たちの資質あるいは努力が欠如していたこと。経営者たちはリーダーシップを発揮し、システムの外注など、グローバルな視点をもって企業内改革を進めるべきだった。持ち合い株の保有も同じだ。過去のしがらみにとらわれて、早く処理すべきところをそうしなかった。さらに、ビッグバンをきっかけに実のある合併ができたはずなのに、仲良し感覚でまとまってしまったのも経営者の責任だ。外資との合併など、経営改善する方法はいくらでもあったのではないか。2つめの原因は、やはり政治の介入だ。「弱いものを助けろ」を錦の御旗に、中小企業保護行政を私企業に担わせるのはおかしい。弱者救済はあくまで政府の仕事である。そういった規制こそが、銀行による適正な金利設定を妨げ、ひいては銀行の収益増を阻んでいる。金融庁は長官を民間から登用し、完全に独立させ、政治の介入を排除せねばならない。3つめの原因は、証券会社の失敗だ。機運が高まりつつあるときに、投資家に大損させてしまった。投資家保護を怠り、保身を図るばかりでは顧客が集まるはずもない。とは言え、カネが集まらないのは金融だけの問題ではなく、日本経済全体の問題である。金融だけでなく、流通・建設・医療など、あらゆる規制産業で規制緩和を完遂することなしに、経済の活性化は望めない。既得権益を守ろうとする政治家に対し、マーケットが圧力をかけると同時に、選挙でも圧力をかける。要するに、構造改革を進めることが不可欠だということになる。 金融ビッグバン後の日本は変わったのか。


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 97年から始まった「日本版ビッグバン」は、昨年末で一応の目標を達成した。外為法の改正に始まる一連の規制緩和の結果、外国銀行が参入するなど、金融の自由化は急速に進展した。しかし、当初イメージされていた個人投資家の市場への参加はそれほど進んでおらず、