被災から復興に向けた日本のビジョンをどう描くのか

2011年4月22日

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BS11 本格闘論Face 4月17日(日)放送
参加者:
増田寛也氏(野村総研顧問、言論NPOアドバイザリーボード)
高橋進氏(日本総研副理事長、言論NPO理事)
早瀬昇氏(大阪ボランティア協会常務理事)
司会: 工藤泰志(言論NPO代表)

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被災から復興に向けた日本のビジョンをどう描くのか

工藤: こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。今日の『本格闘論Face』では、「震災復興のビジョン」と題してお送りします。早速、出演者の方々を紹介させてもらいます。日本総研副理事長の高橋進さんです。よろしくお願いします。

高橋: よろしくお願いします。
工藤: 前岩手県知事で、元総務大臣の増田寛也さんです。よろしくお願いします。
増田: よろしくお願いします。
工藤: そして、大阪ボランティア協会常務理事の早瀬昇さんです。よろしくお願いします。
早瀬: よろしくお願いします。

工藤: さて、震災後1カ月が経過して、ようやく政府の方で復興ビジョンに対する議論が始まりました。確かに、被災地の救済や原発の問題があって、まだまだ震災が現在進行中ということがあると思うのですが、出口に向かっての議論が始まるのは、非常にいいことだと思います。ただ、僕は、やはり遅すぎるという感じがしています。もっと早くやらなければいけなかったと思っています。ただ、僕たちも政府だけに任せて置くのではなくて、僕たち自身も議論しないといけないし、政府の復興ということを、きちんとモニタリングしていくことも必要だと思います。そういう視点で、この議論をしていきたいと思っています。
 まず、最初に、今の政府の取り組みを見て、増田さん、何か思うところはありますか。

政府は原発にし過ぎて、復興に向けた取り組みが遅れている

増田: 阪神淡路大震災に比べると、今おっしゃったように遅い。これは間違いありません。その多くは、あるいは全てと言ってもいいかもしれませんが、原発の方に目をとられて、津波災害の方に目が向いていない、ということが大きいと思います。それから、現実に3万人も亡くなったり、行方不明になっておられて、未だに十数万人の方々が、劣悪な避難所生活をしておられる。私は、このことをきちんと見ながら、この人たちの命を絶対に助けるという強い覚悟で、これからの復興の議論をやって欲しいと思っています。そっちが片付いたから、やれ復興だとか、そういう話ではありません。

工藤: ですよね。まだ、片付いていないというか、出口が見えませんよね。高橋さん、どうでしょうか。

高橋: 今、厳しめのお話があったので、あえて政府の弁護をさせていただくと、例えば、被災地が非常に広範にわたっていて、県をまたいでいる。それから、津波の被害があったので、コミュニティ機能まで流されてしまっているわけですよね。だから、政府として初動がなかなかできなかった、ということはあるとは思います。しかし、それにしても、もう1カ月経っているわけですから、早く復旧そのものを進めていただく。おっしゃるように、ちょっと原発に集中し過ぎたというか、同時にやらなければいけなかったのに、それができていなかったということは問題だと思います。いずれにせよ、復興構想会議が立ち上がったわけですが、私が危惧しているのは、本当にここがきちんと機能して、一種のビジョンをつくるのが役割だと思いますが、それがちゃんと現場とうまく連携してやっていけるのかどうか。その辺が、これからの焦点かなと思います。

工藤: そうですね。それについては、後から徹底的に議論したいと思います。阪神淡路大震災の時に135万人ぐらいボランティアが集まりました。その人達を被災地の作業につなげるために、被災地の人々を応援する市民の会というのを、経済界も含めて立ち上げたのですが、早瀬さんはその時の代表です。どうでしょうか、これまでの政府の対応について、かなり遅いと思っていますか。

早瀬: 確かに、今、高橋さんがおっしゃったように、全般的に全て5倍ですよね。被災地の広さ、無くなった方たち、あるいは行方不明の方たちも5倍です。更に言うと、アクセスが、阪神淡路大震災と比較すること自体がどうかと思いますが、阪神淡路大震災の時には、翌日には西宮と長田には東西から電車が走っていました。その差が非常に大きくて、我々自身も含めて、ボランティアの初動も遅れた部分はあります。その点では、政府がどうのこうのということを言えない部分ではあります。ただ、原発など色々なことが足を引っ張っているな、と思います。

工藤: そうですね、ただ、阪神淡路大震災と比較してみると、本当に違うのですよ。つまり、1カ月経ってしまいましたよね。阪神淡路大震災の時には、1カ月の間に復興法案も全部決まっていました。更に、構想会議だけではなくて、実施の閣僚会議とか、省庁連絡会議とかが全て国会で決まって、それを踏まえて、翌月には復興基金までできるという形でした。そして、構想ができあがったときには、避難地の人達が仮設住宅に全部移っている。やはり、工程をベースにしてということを考えると、確かに、規模とか複雑な構造はあるにしても、やはり司令塔がきちんとしていないのではないか、と思いますが、そう感じませんか。

司令塔の組織はシンプルに

増田: こういう時は、本当に国民が気持ちを一つにしてやっていかないといけないと思うのですが、たまたま私は昔、建設省におりましたので、当時の仲間は現役で、様々な司令塔の本部の中に参画しているのですが、その1人と話をしたときに、3つも4つも本部会議があって、これからまた2つ出なければいけないと言っていました。会議があれば議事次第と、配席表とか、しかも非常に数が多いので、間違えると怒られるのですが、そういうものを若い人にずっとつくらせていて、その繰り返しだと言っていました。色々な難しい問題があるのですが、私は、こういう時こそ組織をシンプルにして、そこでパッ、パッ、パッと決めるようにする必要があると思います。私は、民主国家で分権だと言ってきましたが、こういう時は、ある種、独裁でもいいと思います。その人が、パッ、パッ、パッと決めて、被災者の人たちの生活がしっかりと立ち上がったら、後は、民主的に地域の意見を聞きながら、復興の絵をじっくりと描く。そこの関係がうまくできていないと思います。会議ばかり多くできているということがあると思います。

高橋: 私も聞いたのは、閣僚の方々が考えて色々と動かれる。そのことと、役人の方たちの間に相当の溝があって、動いていなかったと。ただ、仙谷さんが官房副長官として官邸に入られて、相当、仙谷さんのもとに各省庁の連絡会議のようなものができてきて、動き始めていると。だけど、一方で復興構想会議があって、そことどうやってつながっていくのかと。政府が独裁でもいいぐらいの1つの大きな権限を持って、きちんと切り回していけるような状況には、まだならないのかなというのが非常に心配です。

工藤: 政府がそうなってくると、被災地で現実に避難されている方からすれば、出口が見えなくて、不安ですよね。

増田: どこに言ったら動くのか、あるいは伝える先を、おろおろとしながら探しているという状況があるのではないでしょうか。

早瀬: 生活を支える基盤としての行政・中央政府の役割と、個々の市町村の役割は違うと思います。そして、中央政府と市町村が復興のビジョンをそれぞれが決めるべきだと思うのですが、そちらの方との連動がうまくいかないといけないのですが、何か上から中央集権的に動くような感じの懸念が今回は見えますよね。

高橋: ボランティアというのは、阪神淡路大震災の時には非常にうまくいった、とよく言われているのですが、今回と比べてどうだったのですか。

ボランティアが入る段階まではなかなか達していない

早瀬: 逆に、ボランティアというか、当時はNPOという言葉がありませんでした。それに比べると、今回は、震災の3日後には主要な団体が集まって連携していました。そういう点ではよかったと思います。ですから、団体間の連携はうまくいっていると僕は見ているのですが、ただ、確かに現場がひどいので、ある意味で大変だと思います。でも、ボランティアというのは、根本的には被災者の人達に寄り添う存在であって、主体ではありません。やはり、被災者の人達自身が、次のビジョンをどう考えていくか、ということを考えるステージを、地域ごとにつくっていく体制が必要だと思います。

工藤: 何で、こううまくいってないのですかね。

増田: 岩手県は、しばらくボランティアの人達を受け入れられないということでした。通常、地元は社会福祉協議会が中心になって動きますよね。ところが、その社会福祉協議会の人が誰もいなくなっている。ですから、今回のかなり大きな津波によって、本来の動くべき機能が全部破壊されたということが1つあると思います。

工藤: だったら、順序として行政機能の復権をまず優先して、他の自治体から職員に入ってもらえればいいのではないですか。

増田: ただ、その人たちを受け入れて、自立してやれるのかというと、泊まる場所も何もないわけですよね。食糧を持ってきてやれるというのは、最初は自衛隊しかいないわけです。ですから、ボランティアのみなさん方が、次に出てくる状況をいかに早くつくるか、というところが、大事だと思います。

工藤: 確かにそうですね。
早瀬: 最初の救命期の時期が、非常に長かったという影響が大きいですね。

工藤: ただ、避難所で亡くなっている方がいらっしゃいますよね。だから、これはやはり急がないと、まずいという感じはしますよね。

増田: もちろん、みんな急ぎたいと思っています。だけど、行政基盤と被災者の日常的な生活支援を全部やり遂げて、ボランティアの人達が寄り添うと。そういう人達がいなければ、絶対に日常の生活支援ということはうまくいきませんから、その点をどうやって早くやるのか。多分、これは今までで未経験のことだと思います。

工藤: 復興に伴う、法的な枠組みはあったけど、まだ国会内で復興関連法案を含めて決めるという動きではないですよ。すると、それができないと...今回の補正予算はかろうじてできても、その次はどうするのかとか、色々な政治の取り組みの問題が出てきますよね。

早瀬: たまたま、統一地方選挙の二期目があって、連休明けじゃないと動きにくいのではないでしょうか。

増田: やはり、菅さんは戦後最大の危機だと最初に言いましたよね。前例のない取り組みをするということは、法律がないから動けないとかいうことではなくて、超法規的にさっきの、独裁者がいいかどうかは別にして、やや独裁者的に法律を待たずにやる、ということではないでしょうか。

工藤: 独裁者というのであれば、政治の機能がちゃんと求心力を持って動かないといけませんよね。

増田: そうですね。トータルで見れば、民主主義であって、こういう危機的な時はそういう人に全部を委ねる。でも、ある時期、民主的な手続きで地域の声を聞いていこう、という時には、きちんとそちらの方に移行する。それが全体として捉えた場合に、民主主義の強さだと思います。

    


今回の震災を、行政の視点、エコノミストの視点、市民の視点から、救済についての問題、未曾有の被害から、東北地方の復興にむけた青写真を描き、どのような道筋で復興を進めていけばいいのか。また、被災地の復興のみならず、日本の復興に関する議論まで踏み込んで議論しました。(BS11 本格闘論Face 4月17日放送)
参加者:増田寛也氏(野村総研顧問、言論NPOアドバイザリーボード)
    高橋進氏(日本総研副理事長、言論NPO理事)
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