【対談】自立型社会への転換とNPO

2003年4月30日

kitagawa_m030423.jpg北川正恭 (前三重県知事、言論NPOアドバイザリーボード)
きたがわ・まさやす

1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。三重県議会議員を経て、83年衆議院議員初当選。90年に文部政務次官を務める。95年より三重県知事。ゼロベースで事業を評価し改善を進める「事務事業評価システム」の導入や、2010年を目標とする総合計画「三重のくにづくり宣言」の策定・推進など、「生活者起点」をキーコンセプト、「情報公開」をキーワードとして積極的に県政改革を推進。2003年4月、知事退任。

matsui_m030423.jpg松井道夫 (松井証券株式会社代表取締役社長、言論NPO理事)
まつい・みちお

1953年生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、日本郵船を経て87年義父の経営する松井証券に入社。95年より現職。経済同友会幹事、東証取引参加者協会理事、国際IT財団理事等を兼任。著書に『おやんなさいよ でも つまんないよ』。

概要

言論NPO主催のシンポジウム「NPOが日本社会を変える」の第2セッションでは、共に言論NPOのメンバーでもある前三重県知事(4月21日より早稲田大学大学院公共経営研究科教授)の北川正恭氏と松井証券社長の松井道夫氏が、「自立型社会への転換とNPO」をテーマに対談した。両者は、自立した個人が、企業組織あるいは行政組織と互いに緊張感のあるパートナーシップを構築することが早急に求められていると語る。

要約

戦後の日本では「政治家がパトロンで、その支援者がクライアント」であるという関係が続いてきた。政治家は支援者の利益にかなう政治を行い、行政にさまざまな働きかけをしてきた。右肩上がりの経済が終わり、このパターナリズムが機能しなくなった今でも、パトロンとクライアントの関係は当事者にとって居心地がよく、前例踏襲の官僚組織にとっても都合がいいために存続を続けている。だが、この排他的な関係は行政サービスを受ける側であるタックスペイヤーを無視したものになっている。そういったパトロンとクライアントの関係に別れを告げ、社会全体が公正なルールの下に透明性をもって運営されるようにしなければならない。そのカギになるのが、地方分権とマニフェストの作成であると北川氏は語る。

政治家、政党は選挙民との契約としてマニフェストを掲げ、議会で多数を握った場合は野党がなんと言おうと断固としてこれを実行する。そこに権力の集中が起こるが、それがなければ改革は何事も進まず、これまでの「庇護してあげる政治」、「それに依存する国民」という閉塞的な関係が存続するだけだ。

松井氏は、日本の閉塞感の一番の根本はメンタリティーにあると言う。そのメンタリティーとは、「敗者を認めない」社会だ。敗者を認めないということは、とりもなおさず勝者も認めないということ。弱者保護は必要だが、敗者を認めないと自己決定、自己責任は生まれない。敗者復活制度を担保したうえで、敗者と勝者の存在を認めないとマーケットも機能せず、日本経済復活の道はなくなると松井氏は強い危機感を表明する。

北川氏は、三重県知事としての立場から中央政府に権限委譲を働きかけてきたが、中央の官僚は「地方に任せると失敗する」からという論理でそれを拒む。地方にも「失敗する自由」を与えよと北川氏は主張する。そして、地方分権が進んだとき、公的なサービスを自治体が行うのか、NPOが行うのかについては、ケースバイケースで住民の選択に委ねればいい。そうした選択肢の多い社会が、豊かな社会なのではないかと語る。


全文を閲覧する(会員限定)