エクセレントNPO大賞 「組織力賞」審査講評

2012年7月11日

担当主査
武田晴人(東京大学大学院経済学研究科教授)



 「組織力賞」では、エクセレントNPOの評価基準に沿って、組織の使命や目的を示す文書によって組織の課題が明確になっているか、それらの方針や、その方針に基づく事業の成果がホームページなどで公開されているのかなど情報開示、資金調達の多様性や透明性などの点を中心に、審査が行われました。それは、多数の多様な関わりを持つステークフォルダー(事業の中核を担う指導的な人たちだけでなく、ボランティア、あるいは資金提供者)が、その組織の目標に向かって一体となって事業を推進する条件が整っているのかどうかを問いかけるものだと言い換えてもよいかもしれません。

 その問いかけにはさらに、その組織のあり方は、その組織の使命や目的に見合ったものなのか、そしてその組織は、その使命を持続的に遂行できる基盤を十分に持っているのか、という問いかけが含まれています。

 20世紀前半のアメリカの大企業について研究した経営史家アルフレッド・チャンドラーは、「組織は戦略に従う」という有名な命題を提示しています。これは営利企業の話ではありますが、営利企業は、その目的にふさわしい組織を作り出すもので、組織が先にあるわけではなく、経営戦略が組織のあり方を決めることになる、という歴史的な経験を一つの命題にまとめたものです。

 この命題は、非営利組織でも当てはまるようです。ただ、実際の非営利組織の中には、様々な法的な制度に対応する必要があって、使命に照らしてみるとあまりに過剰な組織体制をとっているものも見受けられました。反対に強いリーダーシップに支えられているとはいえ、組織の整備が未熟であるというケースも少なくありませんでした。非営利組織のそうした弱点を考慮して、組織力賞では、資金面での多様性など組織が持続していくための条件を重視しています。資金源の多様性は、「市民性」に関わる評価と共通するものですが、特定の資金源(たとえば、行政からの補助金、あるいは特定企業からの寄付)などに依存する場合には、その資金供給側の事情の変化によって、その非営利組織の活動が継続不能に陥るリスクを伴っていると考えているからです。特定の資金源に依存している組織は、その事情のために情報の公開や、課題の共有の明確さなどの、組織力に関する他の評価ポイントでは高い評価をうけるものがありました。しかしながら、今回の審査では、組織の持続性を重視するという視点から、このようなタイプの組織については、ノミネートの候補に挙げることはしませんでした。また、多様な資金源を獲得する努力を重ねていることは認められるとはいえ、その透明性に関する説明が不十分と考えられない組織についても、残念ながら候補から外すことになりました。

 このような考え方に沿った審査の結果、予備審査で組織力賞の分野での審査対象となった26団体のうちから、「組織力賞」を受賞したのが、 「スペシャルオリンピックス日本」です。

 「スペシャルオリンピックス日本」は、スポーツ競技会やトレーニングの場を通して、知的障害者の自立と社会参加をめざしています。1994年の創設以来、アスリート、ボランティアや寄付者など多くの市民に支えられていますが、こうした市民の支援を得るために、使命と目的を明確に伝え、情報開示や資金調達の透明性をもって説明責任を果たすための努力が着実になされています。


 受賞には至りませんでしたが、ノミネートされた他の3組織も、受賞に匹敵するような高い組織力を持っていると考えています。

 「子どもの村福岡」は、家族と暮らせない子どもたちを迎え、実の親に代わる育親(いくおや)を中心に「新しい家族」をつくり、自立するまで支えることを目的として2006年に設立されました。事業の具体的な展開という点では、まだこれからという面がありますが、専門化された運営組織の整備という点では、他の組織に大きな示唆を与えるものと思います。

 「Uビジョン研究所」は、高齢化社会のニーズに対応した施設の運営やサービスの質を向上させるために、認証制度を創設し、施設改善のための助言などを行うことを目的をしています。2003年に誕生した、まだ歴史の浅い組織ですが、組織の目的に沿って、複数の事業を展開することでえられる収入を基礎に組織の運営が、小規模ながら着実に実現されているように思います。

 「みやぎ・環境とくらし・ネットワーク(MELON)」は、1992年6月の 「地球サミット」での合意を宮城県内において市民レベルで実践していくことをめざし、 みやぎ生協などの協同組合と市民との協力によって結成された組織です。そこでは、地域の自然や水環境、くらし、などに関する調査や研究の実践、さらに県民、企業に対して、地域と地球環境に関する学習と活動の場を提供する活動が取り組まれていますが、この多様な事業を実現するために、プロジェクト単位の組織を柔軟に組織する一方で、多数の個人会員、法人会員を基盤にすることに成功していると思います。


 組織力を評価するという視点で見ると、どうしても大規模な事業を展開している組織の方が、そして、それなりの年輪を重ねた組織の方が、優っているように見えてしまうという面があります。このような外見的な印象に惑わされないように審査をすることは簡単なことではありません。審査の手法や、そのために必要な情報の収集について、次回以降さらに工夫が必要だと痛感していることを申し添えて、講評を終えたいと思います。