約一カ月で見えてきた、被災地支援の課題

2011年4月06日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、スタジオにボランティア組織の代表3人(ワールドビジョンジャパン・片山信彦氏、難民を助ける会・堀江良彰氏、シャンティ国際ボランティア会・関尚士氏)をお迎えして、3月11日に発生した東北関東大震災を受けて、現状報告と今後市民が出来ることはなにか考えました。なお、この放送は3月30日に収録いたしました。(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で4月6日に放送されたものです)
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。


「約一カ月で見えてきた、被災地支援の課題」

工藤:おはようございます。ON THE WAYジャーナル水曜日、言論NPO代表の工藤泰志です。さて、この番組が放送される4月6日は、震災の発生から20日を超えています。現地では、被災者の救済、支援が懸命に行われていると思います。ただ、割り切れない思いになるのは、色々な支援が動いているのですが、この支援がどの段階にきていて、いつになったら出口が見えてくるのか、ということがなかなかわからない。僕が分からないということは、現地の人は全然わからない、非常に不安なのではないかと思います。そこで、ON THE WAYジャーナルでは、一度このタイミングで、今の状況がどうなっているか、ということを冷静に総括した上で、本当に今必要なのはなんなのか、その出口に向かって、どのように動けばいいのかということを、みんなで考えてみたいと思っています。今日は、日本を代表するNGOの方々にスタジオに来ていただいています。彼らは、既に被災地に支援に入っていらっしゃったりして、現地の色々な状況を見てこられています。その人達の話を伺いながら、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
 ON THE WAYジャーナル「言論のNPO」。さて、今日はスタジオに、被災地に行って支援活動を行っている、国内を代表するNGOの代表方3人に来ていただきました。
 まずは、ワールドビジョン・ジャパンの片山信彦さんです。よろしくお願いします。


国内の3つのNGOの代表が見た被災地の課題

片山:よろしくお願いします。

工藤:そして、この前も来ていただいたのですが、難民を助ける会の堀江良彰さんです。よろしくお願いします。

堀江:よろしくお願いします。

工藤:そして、シャンティ国際ボランティア会の関尚士さんです。よろしくお願いします。
関:よろしくお願いします。

工藤:みなさん、今日はよろしくお願いします。ということで、今日はNGOのみなさんをお迎えして、「被災地のために、今、何が必要なのか」ということを、みなさんと考えていきたいと思います。早速ですが、みなさん被災地に行き、色々な被災の状況を把握していると思うのですが、この20日余りで、被災地の状況がどのように変わってきたのか、また、今どこに問題があるのか、ということについてお話を伺いたいのですが、片山さん、いかがでしょうか。

片山:そうですね、やはり最初の段階は、人命の救助と安否確認です。まだ、安否確認は続いていますが、人の命に関わることが最優先です。その次のフェーズには、助かった方々を、いかにケアするかという意味で、食料や水など救援物資を送ることが必要です。その物資も、初期の頃と最近とでは、かなりニーズが違ってきていて、初期の頃は、水や食べ物が必要で、パンでもおにぎりでもあれば、みなさん喜んでいたのですが、今となってはそれ以外のもの、例えば温かいものが食べたい、などの声が沢山出てきています。それから、着るものについても、みなさん着の身着のままできていますから、下着とか着替えが欲しいとか、ニーズはどんどん変わってきています。それから、既に始まっていますが、次のフェーズが仮設住宅とか、少し安定した場所に一次的に住んでいただけるようなフェーズ、つまり、復興に向かうようなフェーズですね。それが終わると、本当の意味でのまちづくりにいける、こういう風になっていくと思います。

工藤:僕たちも番組をやっていたら、いろいろメールがありまして、食事が少なくて、パンを分け合って食べているとか、そういう話をつい最近聞いたばっかりなのですが、食料などの物資は、かなり届いているということなのでしょうか。

片山:僕の感覚だと、絶対量としてはかなり届いているのではないかと思います。ただ、避難所によって、届いているところと届いていないところ、それから、避難所に入らないで、自宅にいる方には食料はない。特に、東北地方は、お年寄りが多いので、例えば、避難所にパンやご飯がありますので、取りにきてくださいと言っても、取りに出てこられなかったりするわけです。そういう意味では、絶対量はあるけど、あるところと無いところの差が出てきています。

工藤:地域的な偏在があるわけですね。堀江さんはどうですか。

堀江:私も先日、相馬市と仙台市、そして陸前高田に行ってきました。やはり、大きな避難所には物資は届いています。ただ、個々の家々にあるかというと、家の中で避難していて物資が届いていない人はいるように思います。それは、燃料不足が続いているということ、当初に比べると、多少は改善してきていますが、まだ、被災地にいるそれぞれの方々が移動するためのガソリンを簡単に入手できるような状況ではありません。そのため、避難所にものがあっても、取りに行けないという状況になっています。そういった意味で、物資は一応は届き始めてはいますが、全体に行き渡っているかといえば、まだばらつきがある状況だと思います。それから、避難生活が長引いていますので、色々なストレスやプライバシーの面、そういった面でのネガティブなところが出てき始めています。これからは、そういったところにも対処していかないといけない、という状況だと思います。

工藤:なるほど。関さんはどうですか。現地には入られたのですか。


物資は届き始めたが、それを繋げる仕組みは遅れている

関:私自身は、4月4日から拠点の立ち上げのために入っていく予定です。私たちのチームは、3月15日から第1陣、第2陣と人を送って、気仙沼を中心にサポートを始めています。物資の状況に関しては、お二方がおっしゃっていただいた状況かなと思います。ただ仙台などを中心として、物資倉庫にはかなりのモノが備蓄されてきていますが、それを供給する仕組み作り、つまり配送する仕組み、避難所のニーズを集約していく仕組み、それに伴う人繰り、それからガソリンが供給できないということが、もうすぐ3週間という時間が経過するにもかかわらず整っていないことが、これまでの国内災害に見られない様相です。普通であれば、10日経てば常態に回復していくものが、現在も続いている状況だと思います。

工藤:関さんが言ったことに関わるのですが、全体像の中で、避難所が何カ所あって、ほとんどの避難民はそこに収用されているのか。新聞を見ていても、行方不明者の数字が毎日変わっていくじゃないですか。ということは、戸籍や住民台帳が無くて、その確認からまだまだ広がっていく、という状況がありますよね。それから、避難所への収容は一応終わったとみていいのでしょうか。それから、大きな避難所には物資は届いているのだけど、今、関さんがおっしゃったように、備蓄倉庫にはあるけど、非常に小さな町などに、それが届けられる仕組みがない。そういった全体像は、誰が把握しているのでしょうか。

片山:一応、今、安否確認ができていない人が1万人近くいらっしゃいます。それは、行政の方で確認作業を行っていますが、例えば、ご遺体などが瓦礫の中に埋もれていて確認ができない、それから、行政の人達も自分の家族などが被害を受けていて、なかなか機能していないわけです。ただ、本来的に行政が行う仕事だと思いますし、市町村や県で集約しようとしていると思います。

工藤:今日、スタジオに来られているお三方は、はっきり言ってプロなのですね。プロというか、今まで国際的にも色々な活動をやられている。だから、その人たちが先行して、現地に入るということは非常に分かるし、そうでないと活動ができないと思います。ただ、それだけではいけない。その人たち以外に、多くの市民の参加が必要とも思うのですが、こういう方たちはどのようにコーディネートされて動いているのでしょうか。そのあたりは軌道に乗っているのでしょうか。


ボランティアの受け入れもまだ始まった段階

片山:おっしゃる通りで、初期の頃からボランティアに入りたいという声を、随分多く聞きました。私の知っているNGOには3500人以上のボランティアが登録しているそうです。で、いつでも現地のニーズに合った形で出したいという風に言っているのですが、ある程度NGOやNPOがまとめて、ボランティアの人達の調整をして現地に送っているということは始まっています。ただ、全体的には、行政の側、つまり社会福祉協議会が窓口になって調整をするということになっています。ですから、そこへ登録をするなり、問い合わせをして、「どこそこへ行って下さい」という形で、ようやくボランティアの受け入れ体制が整い始めたかな、という感じですね。

堀江:現地では、社会福祉協議会等があって、そこで現地に住んでいる方々のボランティアの受付をされています。うちにも、荷物が着いて荷下ろしをする際に、そういったところのボランティアをかなりの人数お願いして、下ろしてもらったりはしています。ただ、東京や大阪など、被災地以外からボランティアを送ろうとすると、まだ、その人たちの滞在場所が確保できないという状況があります。我々のスタッフ10名強が岩手県と宮城県に行っていますが、彼らの宿泊場所の確保もかなり大変な状況がありますので、この段階で、ボランティアの方々が100名、200名単位で来られてしまうと、彼らをどうやって滞在させて、食事を出していくか、ということは、まだ解決できていない問題になっています。

工藤:堀江さんの所は10人強の人を送っているということですが、最終的にはどの程度の規模を出したいのですか。

堀江:スタッフとしては15人ぐらいになるかと思います。今、岩手県の全域の障害者施設、高齢者施設を1軒1軒回ろうとしています。宮城県につきましては、既にかなりの施設を回っています。その2カ所で15人ぐらいの人数で展開をしたいと思っています。ただ、それは、スタッフの数であって、それぞれの施設なりに訪問してもらうなど、色々なことを行なってもらうボランティアの方々はこれからもっと必要になってくると思います。そういう意味では、ボランティアの方は数十名は必要になってくるのではないか、と思っています。

工藤:関さんどうでしょうか。今、10人でもケアする態勢づくりをするのは大変だとうことですが、本当の現地の受け皿をつくらないと動けないですよね。


善意を受け入れる態勢は支援の広がりに追いついていない

関:私たちも今から16年前の阪神淡路大震災の初期的な取り組みからお手伝いをしましたが、その時からの教訓としてもそうですが、まず、多くの善意を受け止めるための態勢を整えていかないといけない。それが整わないうちにボランティアを受け入れてしまうと、二次的な混乱を呼び起こしてしまう。そのために、私たちも気仙沼市の社会福祉協議会が立ち上げている災害ボランティアセンター、本来であれば、これは一市町村、あるいは県が被災した場合には、近隣県や全国ネットワークで応援が入り、人的なサポートが入ってくるわけなのですが、これだけ広域になると、その人材も追いつかない。その中で、時間を要していますけれど、ようやく3月28日から一般の市民ボランティアを受け入れています。ただ、まだ県外からは受け付けていません。県外の人達が活動できる状況は4月の下旬を目指してやっています。また、態勢の問題以外にも、先程もおっしゃっていたようにガソリンもない、それから宿泊場所も確保できない、被災された方々の生活がそういう状況におかれている中で、もう少し地域の方々ががんばって、あるいは県内の人達に支えていただく状況の中で乗り越え、県外の人達のサポートまで息長く続けていけることが求められているのかな、と思っています。

工藤:阪神淡路大震災の時もそうですが、ボランティアは135万人ぐらいですよね。それを上回るような規模の人達の支えが、しかも中長期的に継続しなくてはいけない。そのための受け皿となる態勢は、まだ始まったばかりということですかね。

片山:一応、政府にも首相の補佐官として辻元議員が入っていますよね。やろうという思いは政府の側にもあるし、今、関さんがおっしゃったように、社会福祉協議会が窓口となって調整しようということで、一応の青写真みたいなストーリーはあるのだけど、現実は全然追いついていません。おっしゃったように、ボランティアで入りたいという人は、沢山いらっしゃるのですが、まだそういう人を受け入れたり、コーディネートをしたりする態勢は整ってはいません。

工藤:私たちのところに届いたメールには、お金とかものを早く送ってくれという声も多いです。これらはどういう仕組みで動いているのですか。みなさんのところに来たものは、被災地に届けるわけでしょ。

関:基本的には、災害対策本部の各救援物資倉庫があるわけですが、実態は非常に厳しいわけです。なぜかというと、整理がついていかない。


救援物資は日々運ばれても、倉庫の仕分けが間に合わない

工藤:とにかく、物資がぶち込まれているだけの状況ですか。

関:そうです。今は、多少収束しつつありますが、昼夜問わず、救援物資がトラックで運び込まれてきます。そうすると、自治体の方、自衛隊の方が、益々疲弊していくわけです。整理がつかない間に、モノがどんどん仕分けされない状況が続いていくと、極端な話をすると、二次災害的なものになってしまう。善意がそういう形になってしまっている状況です。ですから、そういう事実もみなさんに少し知っていただくということが重要なのだろうと感じています。

工藤:なるほど。確かに、今回の善意の盛り上がり方は半端じゃなくて、みなさん何とかしたいと思っていますよね。しかし、それが被災地にちゃんとつながらないという状況があるわけですよね。

片山:昨日、政府の被災者対策本部で話を聞いたのですが、今、関さんが指摘されたように、物流が滞っているということがあります。物流の専門家は、ロジスティクスと言いますけど、その専門家を各所に政府で派遣した、と。それで、調整がつき始めているようです。

工藤:遅いですよね、凄く。

片山:ちょっと遅いですね。そして、もう1つの問題は、県のレベルにはものがきているけど、市とか避難場所に運ぶ手立てがなかなか確保できない、ガソリンが無いということも関係しています。それで、3月29日から一般の宅配業者に委託をして運ぶようなこともして、もう少しきめ細かな対応をしようとしています。

工藤:企業が結構動き始めたということですよね。電車も日本海側から通れるようになったとか。しかし、今、話を聞いてみても、折角みんなが何とかしたいと思っているのに、現地とちゃんとつながらない。この問題を解決しないといけない、という1つの課題が見えてきたという形ですよね。

堀江:ミスマッチが起こっているので、必要なものは必要なところに送らないと、逆に混乱を招いてしまいます。


義援金(お見舞金)の配分もまだこれから

工藤:今後、この問題をどのように考えていけばいいかという話になります。あと、お金の問題というのはどうなっているのでしょうか。つまり、1つは、義援金は赤十字ベースで分配されますが、これはまだ配られる段階ではないわけですね。

片山:まだできないですね。

工藤:阪神淡路大震災の時は、すぐにやりましたよね。

片山:やはり、阪神淡路大震災の時と比べて、地域が広いことと、まだ完全な安否確認もできていません。そして、さっき工藤さんがおっしゃった、自分の身分を証明するものすらないということもあって、幾ら配ったらいいかということもわからない。まだ、協議会というか、委員会もまだ立ち上がっていません。

工藤:つまり、民間の力、善意の動きをコーディネートするなど、救援のためのロジスティクスを含めた形で課題が見えていますね。これはやらなければいけない。それと、行政の機能を早く回復させなければいけない、という大きな問題があるということですね。

片山:おっしゃるとおりです。


行政機能の立て直しも急務

関:そうですね。ただ、各市町村の状況を伺うと、先程、片山さんがおっしゃられましたけど、役場の多くの方たちがなくなり、上役の人達がほとんどいない状況で、不眠不休の状態でやっています。避難所にも、1000人規模の町の中で職員が20人しかいないという場所もあって、もう限界を超えているわけです。応援の方たちも入っていますが、これはもう少し時間を置いて、支えて見守っていくことが必要かなと思います。


次週もこの議論は継続します

工藤:20日余り経って、今、現地の状況を把握しながら、課題が明確に浮かび上がってきている感じがしました。この話は、次週も続けてお送りします。僕たちなりにどうしていけばいいか、ということを考えていきたいと思っています。今日は、どうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)