「第5回非営利組織評価研究会」 報告

2008年3月14日

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 2008年3月13日(木)、都内の学術総合センターにおいて、非営利組織評価研究会が開催されました。第5回目となる今回は、米国の有力シンクタンクであるアーバン・インスティチュート元研究員の上野真城子氏(関西学院大学)をゲストスピーカーとして迎え、「変貌するアメリカの資本主義とデモクラシー・市民社会の関係」をテーマに議論が行われました。

概要

上野真城子氏 上野氏はまず、米国における非営利独立シンクタンクの活動を含めた政策研究評価産業の展開について述べました。各省庁による政策評価については、 1966年に当時最大の省であった健康教育福祉省(HEW)の児童福祉関連法に1%政策評価保留条項が盛り込まれたことに触れ、これを契機として、全省庁において一定の事業予算を外部組織による政策研究と評価検証に充てるという考え方が定着し始めたと述べました。そして、立法府である議会の議会予算局(Congressional Budget Office)も政策分析・評価に関与していることを指摘した上で、米国において何よりも重要なのは、政府の外部でそうした活動に従事する数多くの非営利独立シンクタンクの活動であることを強調しました。

 上野氏は、「政府を機能させるのは我々市民の責任である」という思想こそが米国の強さの根本的要因であるとし、その思想の下、これらの非営利独立シンクタンクに巨額の資金が流入していることを指摘しました。このように、「公共財を生み出すための産業と市場が存在している」ということは、米国におけるデモクラシーのダイナミズムを動かす駆動力になっているとし、「政策評価はチームワークで行われるべきものであり、組織的に対応していかなければならない」と述べました。
 
 その上で上野氏は、米国のように非営利独立のシンクタンクのない日本では政策研究・政策評価が決定的に遅れているという現状に懸念を表明し、「政策評価 1%保留資金制度の創設」や「国会予算政策分析機関(CBOモデル)の設立」など、いくつかの具体的な提案を行いました。

 その後会場では、本研究会のミッションであるNPOの評価について議論が行われました。その中で上野氏は、2008年はNPO法成立から10年の年であることに触れ、「この10年間で市民はどのように変わったのか。非営利組織を評価する際のinidicator(指標)の一つとして、『市民にどのような影響を与えたのか』『どのように、どれほど市民性を育てたか』を加えてもよいのではないか」と述べました。これに対して、代表工藤を含めて参加者は賛意を示し、また本研究会の代表である田中弥生氏も、「今後この研究会でも評価のための指標について議論を重ね、具体的にこれを提示したい」と述べました。

 さらに代表工藤は、「政策評価1%保留資金制度を創設すべきである」との上野氏の指摘に関して、「租税をベースとした公共財供給のシステムを前提として政府が非営利組織に1%を給付するよりも、寄付をベースとしたシステムをも組み込み、市民が主体的に資金の提供先を選択できる制度を設計することが必要ではないか。その一つとして、税額控除の仕組みがある」と指摘しました。これに対しては上野氏から、「その仕組みを整えることもたしかに必要だろう。ただ一方で、米国においてはあらゆる情報を公開することによって、そのように政府から資金提供を受ける非営利組織も独立性を確保している。政治家、官僚、メディア、学術研究者、有権者といった情報の利用者からすべての活動が見られているという緊張感の中でいい加減なことをやると、次の契約も取れないし、社会的評価も失うことになる」との指摘がありました。

 欧州における市民社会の現状をテーマとした第二回研究会とあわせ、本研究会では他国における市民社会、非営利組織のあり方について深い議論が行われてきました。こうした議論で得られた知見を大いに参考にしつつ、日本の非営利組織をどのようにとらえ、いかに再設計するかが本研究会のミッションです。言論 NPOは、今後もこの研究会での議論が非営利組織の発展に資する活動を継続していきます。


 次回は、辻中豊先生(筑波大学教授)をゲストスピーカーとして迎え、5月に開催される予定です。


インターン 山下泰静(東京大学)