「第4回非営利組織評価研究会」 報告

2008年2月24日

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 2008年2月8日、東京・永田町の衆議院第二議員会館で、第4回非営利組織研究会が開催されました。

 今回はNPO法の制定に深く関わった衆議院議員の加藤紘一氏をゲストに迎え、言論NPOの工藤泰志代表の司会のもとで、NPO法制定後10年の総括と、今後の市民社会の在り方とNPOの可能性について、真剣な議論が行われました。

概要

080208_kato.jpg 加藤氏はまず10年前のNPO法の制定に関わった経緯について触れ、NPOが日本社会の中で生まれた背景として、日本の風土には本来、パブリックを担う風土が豊かだったことを地元の山形県の例をもとに説明しました。この中で加藤氏は自民党保守の基盤というのは本来、地域社会の存続に責任を持とうという人たちの集まりであり、パブリックなことに貢献する人々の集まりであったとも述べました。

 また、政治は「小さな政府」を志向しており、官から民への流れの中で、公(おおやけ)の担い手に関して隙間ができることになるが、それを埋めるものがうまく育っていないとぎくしゃくした社会になる、とし、「公的な活動を積極的に担う人々を支援するためにもNPO法の制定は重要だった」と語りました。

 NPO法人については法人数の増加など量的な拡大傾向にあり、質の面でも変化が起こっていると指摘し、その一例としてシングル・イシュー型、すなわち環境や福祉など特定のテーマにもとづいてNPOが作られ始めていること、さらにそうしたネットワークが横に伸びて共通の課題に取り組み、地域縦社会の行き詰まりを打破するようなNPO活動も始まっているとの特徴にも触れました。

 同時に加藤氏は、NPOが現在陥っている3つの課題についても指摘しました。課題の第一はNPOの名称の問題で非営利組織(ノンプロフィット・オーガニゼーション)という名称ゆえに、そこで働く人々がボランティアで給与をもらうことがおかしいというよう誤解を残しており、自律的な経営体としての認知が進んでいないこと。

 第2に、役所との関係の距離感の問題を掴めないために、NPOが行政の下請け化する傾向があり、それをNPOの中でも当然視する風潮が続いていること。

 第3に多くのNPO法人は経営体として自立できず、脆弱な財政基盤に陥っていることこと、です。

 加藤氏は、パブリックなものを人々が役所に依存するのではなく率先して担い、それを周囲の人々が認めるような社会が非常に望ましいとした上で、「お上とは関係ないところで、自らが公共を担うことが嬉しくなるような仕組み」が必要であると述べました。

 一例として加藤氏が上げた支援策は、現在日本では市川市が実施しているハンガリー方式の税制です。これは住民が、市民税の1%をNPOや住民の主体的な社会貢献活動に寄附することが選択できる仕組みですが、地域の事情に応じてその比率を調節して、各自治体で行えばいいのではないか、と加藤氏はのべました。


 その後、研究会のメンバーとの間で意見交換が行われました。

 この中では委員から、租税に頼らない新たな公共領域をつくることを目標に掲げるのであれば、認定NPO法人の要件緩和のあり方には疑問がある。例えば、パブリックサポートテストは、総収入に占める寄附が一定以上占めることによって「公益性」を判断するという制度だったのに、寄附に加え公的補助金を計算式に含めることができるようにしてしまったのは、先の目標と一貫性がなくなるのではないのか、などの問題提起が出されました。

 これに対して、加藤氏は、こうした要件緩和の際に大きな議論があったことを認めた上で、寄付の概念に公的補助金を入れるのはオカミの下請け会社化を追認するもので、市民の自立の思想とは異なる、寄附をベースに考えるのが筋であるが、当時はNGO団体からそれを主張する向きもあり、やむをえないと判断したなどと当時の経緯を説明しました。

 また、この研究会の代表で日本NPO学会副会長の田中弥生氏からは、寄附は金銭によるものだけではなく、ボランティア(無償の役務)も一種の寄附であるのだから、パブリック・サポート・テストの計算式に無償の役務を貨幣換算して計上してはどうかと提案がありました。これに対して、加藤氏は強い関心を示し、新公益法人制度にこの考え方が導入されていることなどから、この提案が不可能なことではない、研究すべきと語りました。

 また新公益法人制度に向けた法整備が進む現状で、今後のNPO法の行方がどうなるかも、山内直人氏(日本NPO学会会長・大阪大学大学院教授)などから質問されましたが、加藤氏は、「NPO法は議員立法だが、官僚もそれについてきちんと議論している。NPO法人はまだ未熟ではあるがこれを今は育てるべきだ。そのため、NPO法は将来的に新公益法人制度と合体するにせよ、当面は機能していくだろう」と述べました。

 その上で、日本の市民社会の可能性についても言及し、市民活動が成熟すれば、効率的な税の使い方がなされ、公共事業も減る、さらに議会が形骸化する局面では、政策提案型のNPOが議会制民主主義をチェックするようになるなど、NPOには多面的な可能性が広がっていると、語りました。

 今回の研究会は、NPO法制定10年を振り返りながら、NPOが直面する課題と解決の方向についてお話いただきました。加藤氏は、日本の目指すべき社会像について、豊かな自然の上に、地域コミュニティを維持してきた日本の原点をふり返り、地域に働くことに誇りが持てるような社会を目指すべきではないかと述べています。「人々がパブリックなことを率先して担い、それをオカミと関係なく、うれしくなるような仕組み」として、ハンガリー条項や税額控除、そしてパブリック・サポート・テストへの無償の役務の導入など具体的な政策にまで議論が展開されました。わが国のNPO政策を考える上でも重要な論点が提供されました。


 次回は3月13日、上野真城子先生(関西学院大学、元アーバン・インスティチュート)を講師に「変貌するアメリカの資本主義とデモクラシー、市民社会の関係」をお話いただく予定です。