パネルディスカッション 「ジャーナリストは平和の推進者たりえるか」に参加

2008年4月07日

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 4月5日、港区赤坂のドイツ文化会館ホールにて、ドイツ文化センターなどが主催するシンポジウム、『「平和の推進者」かあるいは「パウダーモンキー」か―戦後史におけるメディアの役割』が開催され、言論NPO代表の工藤泰志がパネリストとして参加しました。

 シンポジウムでは鄭求宗氏(東亜ドットコム社長)らによるラウンドテーブルが行われたのち、2部構成のパネルディスカッションが行われ、工藤は第2部「ジャーナリストは平和の推進者たりえるか」のなかで、講演者の若宮啓文氏(朝日新聞社コラムニスト)、パネリストの朴喆煕氏(ソウル大学教授)、さらに会場の参加者とおよそ2時間にわたって活発な議論を交わしました。


 このパネルディスカッションではまず若宮氏が30分ほどの講演を行いました。若宮氏は、ジャーナリズムとナショナリズムの分かちがたい関係について、ご自身の経験やこれまでの記者生活の中で心がけてきたことなどを述べたのち、ジャーナリズムはナショナリズムの道具であってはならず、狭い国益や偏狭なナショナリズムにとらわれることは絶対に避けねばならないと強調しました。そして、日本のジャーナリストは、中国・韓国・北朝鮮といった国の人々が過去の戦争をめぐって抱いている複雑な感情・ジレンマを理解したうえで報道しなければならないと述べました。


 次に、工藤が言論NPOが中国メディアなどと共同で過去3回行ってきたの「東京-北京フォーラム」の経験を踏まえながら、日中間の新しいコミュニケーションの進め方について講演しました。このなかで工藤はまず、メディアとジャーナリストは同義ではないことを指摘し、両国関係の改善に向けてジャーナリスト自体は個人的に取り組んでいる人は多いが、メディアはむしろ結果的には感情的な国家主義的な対立のイメージを補強する役割を果たしてきたのではないかと、問題提起しました。

 工藤はフォーラムごとに毎年、両国民を対象とした世論調査の内容に言及し、両国民間は直接交流はほとんどなく、相互認識や理解の大部分を自国のメディア情報に依存していること、世論の中にはお互いを脅威に感じ、中国国民は日本を未だに軍国主義ととらえたり、日本人は中国の大国主義的な傾向に不安を強めており、こうした無理解や不安定な認識はメディア報道にかなり影響を受けている、と語りました。

 工藤は、こうした状況を解きほぐすには、メディアの役割も大きいが、それ以上に多様な見方があることを認め合う関係を作っていくしかない、そのためには多様なコミュニケーションチャンネル・情報源が両国民になければならず、これは市民社会が取り組むべき課題だ、と主張しました。


 そして最後に、「東京-北京フォーラム」を作っていく過程で日中間の議論を重要視する人が中国にも数多くいることがわかった、友好という表面的な活動ではなく、お互いが尊重し課題解決に向かい合えるような本音の対話やそのための舞台が必要であり、ジャーナリストの協力が不可欠であると述べました。


 続いて、朴氏が日韓両国の間の様々な誤解を解くために、ジャーナリストが果たすべき役割について講演しました。こののちにシンポジウムは会場の参加者も含んだフリーディスカッションに移り、東アジアにおける歴史的和解における政府やジャーナリスト、市民社会の役割や、靖国神社参拝問題、日本のナショナリズムにおける被害者意識などについて、終了予定時刻いっぱいまで白熱した議論がなされました。


文責: インターン 水口智(東京大学)