非営利セクターに何が求められているのか

2013年10月01日

2013年10月1日(火)
出演者:
田中弥生氏(日本NPO学会会長)
伊藤智章氏(朝日新聞編集委員)
矢野正広氏(とちぎボランティアネットワーク事務局長)
塚本竜也氏(トチギ環境未来基地代表理事)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


議論で使用した調査結果はこちらでご覧いただけます。


工藤泰志工藤:言論NPO代表の工藤泰志です。言論NPOでは昨年、「エクセレントNPO大賞」という賞を立ち上げました。これは評価を通じて日本の市民社会にきちんとした良いNPOがあるということを、多くの市民に知ってもらいたい、さらには日本の中に強い市民社会を作りたいという思いから始まりました。その第2回大賞の応募が先月から始まっています。これを契機に、私たちは日本の市民社会について、議論を開始したいと思っています。

今日は「日本の非営利セクターに何が問われているのか」と題して、ゲストの皆さんと話をしてみたいと思います。

それではゲストの紹介です。まず、日本NPO学会会長で、大学評価・学位授与機構教授の田中弥生さんです。次に、朝日新聞の編集委員の伊藤智章さん。そして、とちぎボランティアネットワーク事務局長の矢野正広さん。最後にトチギ環境未来基地代表理事の塚本竜也です。皆さんよろしくお願いします。

さて、NPOは、現在、日本に4万7千団体くらいあります。ただ最近、いろいろな形で、不祥事などNPOに関する悪いニュースが出てきています。当然、頑張っているNPOもたくさんあるのですが、日本社会でNPOに対する否定的な評価が広がっているのではないか、ということを私たちは非常に危惧しています。

そこでまず皆さんにお聞きしたいのは「今、NPOという存在をどのように評価しているのか」ということです。


「玉石混交」のNPO

田中弥生氏田中:私は日本NPO学会会長という立場からやや厳しく評価していきますので、そこは少し斟酌してください。まず、NPOについて、少し現状を説明しますと日本には4万8千強の団体があります。収入の規模から見ると、0円から50億円くらいの間に分布しているのですが、その内の6割は500万円未満の弱小団体で占められていることが特徴といえます。もう一つの特徴は、「市民性の欠如」です。寄付金を全く集めていない団体が5割を超えている。それから、内閣府の調査ではボランティアが全くいない、という団体が全体の4割を占めています。寄付とボランティアというこの2つの要素はNPOが「広く市民に開かれているかどうか」、という指標なのですが、市民とつながっていない、自分の仕事をこなすので精いっぱい、という団体が圧倒的に多い、というのが現状です。

また、NPO法は認定要件などの面において、非常にハードルの低い法律なので、使いやすいという利点はあります。しかし、その分、本来想定されていた市民による主体的な社会貢献やボランティア活動を促進して、公益をより拡大するという本来の目標からかけ離れた団体が目立っています。すなわち、NPO法を悪用して法人格を取得するような団体が以前から増えているのです。実際にNPOにアンケートを取ってみると、自分たちのセクターであるにもかかわらず、NPOの質の現状について、「玉石混淆している」というように自己評価をしている団体が全体の4割を超えており、何が良い団体で何が悪い団体なのか、ということがよく分からない状況になっています。

工藤:田中さんは2,3年前からNPOの実態を調査されているのですが、この間、NPOという領域において変化があったと思いますか。

田中:私はあると思います。それはやはり、3.11の震災が一番大きかったと思います。

工藤:伊藤さんは、その震災後のNPOに関する取材をされていますが、その活動を通じて、NPOに対する印象の変化はありますか。

伊藤智章氏伊藤:私は他の出席者の皆さんと違ってNPOの専門家ではありません。名古屋を中心に新聞記者として活動して、長良川河口堰に関する問題をきっかけとして全国のダム問題を取材するうちに、NPOや環境保護団体の方々と接点を持ったことで、NPOと関わるようになりました。それから、震災を機に岩手県の被災地に2年間住み込んで取材をしました。その時にこれまで出会ってきた団体とはまた違う、さまざまなNPOやボランティアの活動を見て、市民社会の強さを感じました。

しかし一方で、NPOによる不祥事も多く、負の側面も見てきました。したがって、この2,3年で評価が変わったのか、という問いに対しては、まさに「玉石混交の世界だ」というほかなく、NPOと市民社会に期待しなければならない社会情勢ではあるのは確かですが、現在、NPOは一つの壁に突き当たっているのではないか、という気がしています。これがNPOに関しては第三者の立場から見た私の感想です。


変化の兆しを見せるNPO

工藤:今回、事前に言論NPOに登録している有識者の方々にアンケートを取ってみました。まず、「あなたは、NPO(非営利組織)に対してどのような印象を持っていますか」と聞いたところ、「どちらかといえば良い印象を持っている」という回答が63.5%で、「良い印象を持っている」という回答が21.2%なので、8割以上の有識者がNPOに対して良い印象を持っていることになります。

その次に、「あなたのNPO(非営利組織)に対する印象はこの2、3年で変わりましたか」ということを聞いたところ、最も多かった回答は「変わらない」の50.0%なのですが、その中でも「どちらかといえば良い印象に変わった」が22.1%、「良い印象に変わった」が8.7%と印象の好転を示す回答が3割以上ありました。逆に「どちらかといえば良くない印象に変わった」という印象の悪化も10.6%ありました。

ややプラスの評価が多すぎるのではないか、という疑問もありますが、このような有識者の見方についてどう思われますか。今度はまさにNPOの当事者であるお二人に聞いてみたいと思います。

矢野正広氏矢野:8割がNPOに良い印象を持っているということですが、栃木県内のいろいろなNPO団体を見てきた経験から申しますと、NPOの実態をよく分かっている人はこのように回答するのではないか、という印象を受けました。この結果には期待値も入っていると思いますが、私も「NPOにも良いところはある」と思っています。「玉石混交」というのは確かにその通りです。ただ、2年くらい前からNPO法人会計基準ができて、内閣府も含めてWEB上での情報公開が進んできていますので、いろいろな不祥事を起こした団体を調べると、「ここに仕事を委託するのはまずい」ということはちゃんと分かるようになっています。しかし、私のような見方はNPOとは特に関係のない、一般の方々にはよく分からないのではないかとも思います。

塚本竜也氏塚本:この2,3年間、NPOの細分化と多様化が進んできていると思います。それはある意味ではよりニーズに応えたきめ細やかな対応が可能であるというプラスの点もあります。しかし一方で、一般の人々のNPOへの参加の回路を狭めてきたという点も顕著になってきたと思います。つまり、専門家が前面に出ると一般の人々が関わりにくくなったり、そのプロセスに入っていくことができないという弊害が大きいということを感じています。今回の震災の際に、それぞれのNPOがどれだけボランティアを募り、活動をコーディネートできたのか、ということを振り返ると、期待以上の役割は果たせなかったのではないか、というネガティブな見方で私はこの2,3年の変化を見ています。

工藤:NPOの当事者のお二人のお話を、田中さんはどう思われましたか。

田中:確かにその通りだと思います。震災の時に矢野さんにも入っていただいて、「ボランティアは増えたのか、それとも減ったのか」という新聞報道でも大きく取り上げられた議論を行った時に、やはり普段からボランティアのコーディネーションをあまりやっていなかったNPOにとっては、仮にボランティアが来ても受け入れるのは難しかっただろう、という議論になりました。やはり、長年の経験の蓄積がない中で、震災という突発的な出来事によって露呈した課題であると思います。

ただ、寄付についてはちょっと状況が変わったのではないかと思います。これまでは5割以上のNPOが寄付を全然集めていませんでした。特に中間支援組織はNPOの支援をする団体だったので、なかなか市民と直接つながるということがなかったのですが、震災を機に一生懸命募金をするNPOが増えました。それまでは「寄付は大変だから」と言っていたNPOが、市民とつながるためには「寄付が必要だ」、「市民の声に応えていこう」という姿勢を見せてきているということから見ると、私は少しずつ変化が出てきたのではないか、と思っています。

工藤:今の田中さんのお話を少し解説すると、これまで多くのNPOは寄付も集めていない、ボランティアにも冷たいという姿勢で、NPOでありながら市民に十分に向き合ってこなかった、ということがNPOの課題として田中さんのこれまでの研究で出てきていたわけです。

もう一つ付け加えると、NPOの中には自発的に課題を解決していくのではなく、市民よりも行政との関係が非常に強く、いつの間にか行政からの委託事業だけをするようになり、存続していくことだけが目的化している団体もあるのだと思います。そのため、本来NPOが持っている可能性というのは十分に発揮できていないのではないか、という問題もあるわけです。田中さんのお話は「市民性」というところに関して見れば、少し改善されてきているのではないか、ということです。これについてはいかがでしょうか。

矢野:寄付について言うと、確かにその通りです。例えば、私たちのNPOでも災害の時には当然寄付を募るのですが、災害時以外でも貧困解消のためにもやるようになっています。災害時にボランティアとして「現地までは行けない」という人でも「寄付ならできる」、ということで行動を起こしやすいということはあると思います。つまり、一般の方々にとっては、ボランティアよりも、寄付の方がNPOに関わることができる可能性が広いということが分かってきたわけです。そこで、寄付を目的としたイベントなどを開催し、そこに寄付ではなくボランティアという形での参加も可、というように段階を踏んで市民参加の窓口を徐々に広げてきているNPOもあります。


ニーズの変化に対応できないNPO

工藤:震災時には日本国内からだけではなく、世界からも非常に大きな寄付が寄せられました。ただ、それを使って何ができたのか、ということを総括する段階にきたと思います。伊藤さんが見てこられたNPOに関する現場とはどのような状況なのでしょうか。

伊藤:私は2年間岩手県にいましたが、最後の半年は不祥事の話ばかり目にしました。山田町というところでは、行政があるNPOに被災者の雇用創出事業で仕事を委託していました。2年間で12億円という巨額のお金を支出していましたが、そのNPOが放漫経営のために事業費を使い切り、経営破たんをしました。その結果、そのNPOは町民を約140人雇っていたのですが、途中で解雇するという事態になり、何のために税金を使って雇用創出事業をしていたのか、という問題になりました。かなり経理がずさんだったにもかかわらず、役場が放任した結果、そのような事態になったようです。

今回の震災では、寄付金がものすごく集まり、政府のお金も被災地にたくさん入ったことで、かつてない程の市民によるチャレンジの舞台が用意されました。しかし、そのお金を有益に使った被災地支援が展開できたのか、というと、やはり疑問があります。今のNPOの話は一番酷いケースではありますが、その他の地域・団体においてもお金がうまく使えていないのではないか、という印象を受けました。もちろん、しっかりと活動している団体もあると思います。しかし、全体的には被災地の復興がなかなか進まない現状を見ていると、やや失礼な言い方になりますが、どうも外から入ってきているNPOというのは...「自分たちの自己満足のために被災地に来ているのではないか」と思ってしまうことが多々ありました。例えば、仮設住宅に来て、足をマッサージしたり、被災者のお話の相手になったりしているNPOをよく見かけましたが、相手にしているのは仮設住宅にいる元気なおばちゃんであって、本当にケアが必要な人は部屋にこもっているわけです。彼らを引き出さなければいけないのだけれど、NPOもずっと常駐しているわけにはいかないので、そこまではできない。そういうケースを見ていると、わざわざ被災地まで来てくれて、有意義なことをやっているというのはその通りなのだけれど、本当に必要なことには対応できていない。それが被災地の現状であることを考えると、市民社会からの被災地支援というアプローチは、頑張ってはいるけれど、しかしうまくいっていないという印象を受けます。

工藤:今、伊藤さんから重要な指摘がありましたので、それについて議論したいと思います。アンケートでは「震災時には多くの寄付が国内外から集まりました。あなたは、その使われ方に対して納得していますか」という質問をしていますが、これに対しては「納得している」と「どちらかといえば納得している」を合わせても肯定的な評価は27.9%しかありませんでした。逆に、「納得していない」が24.0%、「どちらかといえば納得していない」も24.0%なので、48.0%と半数近くの人が納得していないことになります。あとは「実態が分からず判断ができない」という回答が23.1%という結果になりました。つまり、被災地のための寄付の使途については納得が得られていないという状況になっています。

被災地支援で本当に努力されているNPOは数多いのですが、全体としては少し冷静に見ることも必要だと思っています。

田中:伊藤さんが指摘された問題は、現場のミクロの話と制度的な問題の両方の視点で議論した方がよいと思います。まず一つは、緊急雇用対策で基金が積まれて、さらに平常時でも補正予算が付くのですが、このお金の使われ方が昔からかなりずさんだと言われています。今回の震災向けの緊急雇用事業も問題が多く、かなり批判されています。したがって、この公的資金の制度設計のあり方と使われ方をチェックする必要があると思います。

それから、伊藤さんがおっしゃられたように、課題解決のためにNPOの力量が十分ではないという問題もありますが、もう一つの問題としては、被災地の復興がなかなかうまくいかず、問題が長期化している中で、被災者のニーズも変わってきているという点です。今のニーズは常駐型のNPOでないとなかなか対応できず外から来たNPOと現場のニーズとの間にミスマッチが起きているのではないか、という問題もあると思います。

工藤:NPOと被災地のミスマッチの問題ですが、確かに被災地支援の初期段階ではまず救援という具体的なニーズがあり、それに対して多くの人たちがボランティアなどの形で現地に入って努力していました。それはNPOだからこそできたという面もあると思います。しかし、時間の経過とともにニーズは変わります。つまり、被災者の自立や、被災地の復興など様々な新しい展開が必要になってきた時に、多くのNPOがそのニーズにうまく対応できなくなってきているのではないか、という指摘です。実際はどうだったのでしょうか。


日常の活動経験をどう応用するか

塚本:この新しいニーズに対応できないという問題については、NPOが専門化を進めてきたということの良い面をうまく発揮できなかったことが一因だと思います。つまり、それぞれのNPOが日々の活動でやっている強みを活かしつつ、現地に応用する形で活動を展開していく、という能力が足りなかったのだと思います。

私たちのNPOは一地方の中堅NPOくらいの規模ですが、それでも工夫によってはできることがたくさんあります。先程、伊藤さんがおっしゃいました引きこもっている被災者に仮設住宅から出てきてもらうような仕掛けをどう作るのか、という課題でも知恵を絞って工夫しながら対応してきました。例えば、お茶会を開いても男性の場合、なかなか参加しにくい。しかし、木工クラフトのような工作やモノを作るということであれば、得意だったり好きだったりする男性が多いだろうと思い、その活動を定期的に行ってきました。すると、やはり男性の参加率が高くて、5割を超える時もありました。

私たちのNPOは子供たちの木工教室をやっていることもあり、その経験をうまく応用できたと思います。しかし、多くのNPOはそういった経験の蓄積をどうすれば被災者のニーズに対応させていくことができるのか、ということを考える応用力が足りなかったのではないかと思います。

これからの被災地支援においては、ただ単に被災地に行けばいいという時期はもう終わったと思います。被災者が本当に求めていることに対して何ができるのか、自分たちのこれまでの活動と照らし合わせながら無理のない形で、かつうまくできる形を作っていくということが必要だと思います。

矢野:NPOの仕事のスタイルは、事業、予算がまずありきではなく、現地の人との関係性によって仕事をしていくことが基本だと思います。私はこれを「縁による支援」と言っています。つまり、まずお互いの関係性を育て合い、「一緒にできることがないか」という合意を得るプロセスを経た上ではじめて、仕事や目標を見出すということがNPOは得意だし、本来あるべき形だと思います。そこでは共同性や一緒に作り上げるという発想が重要です。それができないから「被災者のニーズに対応できない」という問題が出てくるわけです。ですから、行政がNPOの法人という側面だけに着目して、お金を出して、無理やり仕事を作っていくという形は非常に無理があると思います。


なぜNPOの不祥事が続発しているのか

工藤:先程、伊藤さんがおっしゃったNPOの不祥事の問題は、どう判断すべきなのでしょうか。「何でも良いからNPO法人という枠組みを使って、仕事をしてくれ」という行政側の期待が問題なのか、それとも能力がなくてもそれを受けるNPO側に問題があるのでしょうか。

伊藤:問題を起こしたNPOも、もともと北海道で活動していた年間700万円くらいの事業規模の団体でした。それが岩手に入ったら、どんどん仕事を役場から回されて、最初の年は4億円、次の年は8億円。つまり、100倍くらいの規模の仕事を急に任されるようになったわけです。明らかにキャパシティを超えているにもかかわらず、いきなりそれだけの仕事を任せる方にもかなりの問題があります。つまり受託したNPOだけでなく、委託した役場の方も成熟していなかったのです。インターネット上でそのNPOの会計書類は公開されているので、仕事を委託する前にチェックすればよかった。実際、そのNPOの会計書類はひどい内容でしたが、それさえも山田町の役場はチェックしていなかったのです。

田中:現地に行った人から聞いた範囲の話ですが、そのNPOは震災直後の緊急事態において、ご遺体の捜索など被災地が一番困っていたことを、率先してやったことで、一挙に町長の信頼を獲得してしまった。個人と個人のつながりの中で、どんどんと委託金が流れていったというケースのようです。

工藤:そのような個人の判断で、例えば、問題がある組織に対しても自由にお金が流せるということですか。

田中:それは山田町のガバナンスが問われる問題であると思います。外部からも「そのNPOは相当怪しい団体ではないか」と進言しようとした人たちもいるのですが、逆に追い出されてしまったという状況だったようです。

工藤:実際に、悪意をもって被災地の窮状に付け込んで、利益を貪っていこうとするような動きはあるのでしょうか。

伊藤:この事件のNPOの実態については裁判でこれから明らかになることですが、私はそこまでの悪意があったとは思いません。ただ、被災地の中に、そのような悪意をもったNPOが入ってきているのではないか、ということは、確かに各地で言われています。

工藤:アンケートでは、「最近、NPOの不祥事がマスコミに取り上げられています。NPOに不祥事が続く原因は何だと思いますか」と聞きました。回答で一番多かったのは、「NPOの設立が安易でNPOを悪用する人がいるから」で53.8%でした。次に多かった回答は42.3%で「不祥事に対する組織的なガバナンスが働いていない」でした。これに続いて「NPOの経営に透明性が欠いている」が23.1%でした。ただ、これはあくまでも有識者の意見なので、現場でNPOに携わっている皆さんから見て、この回答結果はNPOにおける課題認識として正しいのでしょうか。

矢野:当たっていると思います。ただ、これにもう一つ付け加えると、ガバナンスの問題にも近いのですが、多くのNPOが自分たちの団体がどういうことをやろうとしているのか、そしてそのための財源や人の資源をどこからどのように調達しようとしているのか、ということを中長期のビジョンで考えていない、という問題があると思います。自分たちの思いや勢い任せの行動だけでも、数年は活動していけると思いますが、このようなビジョンがないと、そこから先へは行けません。

塚本:この選択肢の中のどれに該当するのか分かりませんが、行政からの委託事業ばかりをやっているNPOは、その組織の行動原理が経済最優先になってしまうという問題があります。つまり、お金で物事が決まっていく、お金が物事の判断基準になっしまうということです。課題解決に向けた志の純粋性を担保するためには、ボランティア、インターンなどお金とは関係のない純粋な思いで参加してきている人たちが組織内に不可欠です。NPOの専門性が高まり、一般の人々にとってNPOへの参加の回路が狭まってきたという弊害が、不祥事にもつながってきていると思います。すごく純粋な思いをもって集まっている人たちが目の前にいて、一緒に何かをやろうという時に、「NPOを利用して利益を貪ろう」などのような悪いことを考える人はなかなかいないと思います。しかし、そういう純粋な志を持った人たちがいない中で、物事をお金を基準に判断していくようになると、「やはり悪いことをした方が経済的に効率が良いのではないか」などと悪知恵を働かせてしまうようになるのではないかと思います。田中さんもよくおっしゃっていますが、市民が参加するということは、もちろん協力という面もありますが、監視という面もあると思います。その監視の機能が現在のNPOにはきわめて弱くなっていると思います。


「望ましいNPO」とは何か

工藤:これまでの議論を通じて、NPOは多くの市民に開かれていて、透明性もなければならない、そして、市民の支持を得ていくような組織運営をしていく必要があると感じました。

さて、これまでの議論ではNPOに対する印象が非常に悪くなることばかりでしたが、アンケートで「あなたは、NPOの発展が日本の社会に必要だと思いますか」と質問したところ、「必要だと思う」という回答が86.5%でした。いろいろな問題がありつつも、有識者のNPOの必要性に対する評価はまだ高いといえます。

そうだとすれば、NPO、そして非営利セクターそのものが、今存在しているさまざまな問題をきちんと総括して、改善に向けて動き出し、市民の評価を得られるような組織に大きく変わっていかないといけないと思います。その点に関連して、アンケートでは「あなたが、考えるNPOの望ましい姿とはどのようなものですか」ということを聞いています。この質問に対して一番多かった回答は、「政府などでは困難な社会の課題に立ち向かい、実際に成果を出している団体」で43.3%でした。つまり、自発的に課題解決に取り組む団体が最も評価が高かったわけです。それに続いて、41.3%が「自立して課題に取り組むため、政府や自治体とは距離を保っている団体」でした。これは政府や自治体からお金を貰うためにその事業を行っているのではなく、まさに自立して自分で社会の課題解決に挑んでいる団体です。それから、「活動内容や資金の使途などがホームページで公開され、透明性を持っている団体」が39.4%でした。そして、「活動内容が、特定の政治や宗教などに関係しない中立の団体」が36.5%でした。

つまり、このアンケート結果からは、NPOには、いかにして成果をあげることができるのか、いかにして市民に対する透明性を保つのか、いかにして経営のガバナンスを確保していくのか、という課題が浮かびあがってきています。

また、非営利セクターが今後発展していくためには、これまでのNPOに対する様々な支援政策がどうだったのか、ということについても絶えず検証していく必要があると思います。田中さん、これまでのNPOに対する政府の支援政策の問題点についてご説明いただけますか。

田中:特に、民主党政権の当初は「新しい公共」という名目のもとで、NPOや社会企業を支援する政策が大きな柱になっていました。最初の鳩山政権下では2009年の補正予算で70億円の「地域社会雇用創造事業」、翌年の補正予算では87億円の「新しい公共支援事業」というものが盛り込まれました。この使途と、その具体的な成果がどうだったのかについては、報告書は出ていますが、その具体的な成果というのはよく分からないものになっています。というのも、もともと「10万円を分配する」などインプット目標にすぎないものが多くかった、また、報告書には「雇用した」、「起業した」などと書かれていますが、実はそれは実際に事業を立ち上げているのではなくて、事業所登録をしただけのものにすぎないため、成果の有無を判断しようがないわけです。しかも、その事業委託が、再委託、再々委託となっているので、一体、末端のどこまでお金が分配されたのかがよく見えない状況です。したがって、ここで一度、これまでの支援政策の成果も含めて、検証する必要があると思いますが、その検証は政府に任せるだけでは駄目だと思います。

工藤:行政と距離を置いて、自分たちの力で市民に向かい合いながら課題を解決して成長しているNPOもいっぱいあるわけです。ただ、支援政策に関連して実際に行政と関わっていくようになるといろいろな問題点が出てくると思います。そのような状況の中で、「NPOの望ましい姿」というものをどう考えていけばよいのでしょうか。

矢野:NPOは、行政と一定の距離を置かないと、補助金などのお金に対する依存度が高まり、団体としての性質が変容してしまう危険性を内在していると思います。どの団体も経営が苦しいので、どうしてもそうなってしまうのですが、それ自体がNPOとしての基本的な体力を弱めるし、自分たちのガバナンスにも影響してくると思います。

伊藤:私も先程からNPOに対して否定的なことばかり言っているのですが、このアンケート結果には共感するところがあります。NPOによる不祥事などを見ていても、これまで非営利セクターが担ってきた領域の仕事を行政が全部できるのかといったら、それは難しい。行政が昔のように直接的な緊急雇用をするということはもうできないわけですから、どうしてもNPOに頼らざるを得なくなる。したがって、私も「政府や自治体とは距離を保っている団体」に期待する、という回答が40%を超えたこのアンケート結果は、まさにその通りだと思います。

少しミクロな例で言えば、私もNPO関連の取材をしている中で、例えば会計士や企業の経理担当のOBで、自分たちの能力を生かしてNPOの会計をバックアップしよう、という取り組みをしている人たちに出会いました。彼らも「社会参加をしたい」と思っているわけですが、定年退職以降の年代の人は、若者と同じように肉体的なボランティアをするのではなく、今までの仕事を通じて培ってきた能力を生かしながら活動したい、という人々が世の中には多くいます。そういう志向を持った人々とNPOをうまく結び付ければ、別に行政が徹底的にNPOを管理していかなくとも、市民社会を強くすることで、ガバナンスなどNPOの課題を解決できるのではないかと思いました。ですから、私はこのアンケート結果に共感すると同時に、このような「望ましいNPO」がこれから増加してくる可能性はあると思います。

工藤:今、伊藤さんが言われたことは本当にその通りだと思います。現在、市民社会に起こっている変化、潮流というのはいろいろな業界で働いている人たちが、専門的な知識や豊富な経験を活用して、社会のために課題解決に向かい合う、というような動きです。そのプロセスにあると思います。

塚本:課題解決に対して成果を出しているNPOが最も望ましい、と捉えている方が一番多いというのは、本当に素晴らしいことだと思います。NPOの使命を考えた時に、やはりこの課題解決に対して成果をあげるということが一番重要な要素だと思います。

また、単なる思いだけではなく、実際に行動して結果を出す、そしてその結果も可視化して一般の人から見えるようにする、というその一連のプロセスを細分化していき、一般の市民がNPOの活動に参加できる入り口を増やしていく、ということも望ましいNPOの要素だと考えています。この調査結果では5番目くらいですが、「多くの市民や当事者に支持を得ており、多くの人が参加している団体」と「寄付金やボランティアなどを積極的に集め、市民に活動が開かれている団体」と市民参加に重点を置いて回答した人も多く、この二つを合計すれば40%台になります。NPOが良い成果を出そうとすれば、市民の協力は不可欠ですし、良い活動をしていればNPOが市民のシティズンシップを高めていくような役割を果たすのも、副産物として生まれてくる大きな成果だと思いますので、まずはNPOは自らの課題を解決することに集中をする。そして、そのためにはたくさんの人の協力が必要だ、ということを認識し、多くの人々を自分たちの活動に巻き込んでいくための方法を開発していくことが、これからのNPOにとって本当に必要だと思います。

矢野:今の社会では、災害時に特に顕著になりますが、ボランティアをしようと考えてもNPOのような存在がないと、現地・現場に行ってもうまく活動できなかったり、問題自体にアクセスできないわけです。つまり、ある意味NPOがメディアとなって、ボランティアなど市民参加を希望する人々が、NPOを活用することではじめて具体的に自分の能力を発揮できるという側面もあります。そして、NPOで課題解決に携わることによってその人自身が成長していく、という市民性が発露されるという面もあると思います。

工藤:このアンケート結果は別に誘導したわけではないのですが、田中さんも関わって作った「エクセレントNPO」の基準に限りなく近いので非常に驚いています。田中さんはこれを見てどうですか。

田中:この「NPOの望ましい姿」は、まさに市民社会と、そこで中核を担っていく市民の受け皿となる非営利組織の原点ともいうべき姿なので、このようなアンケート結果になったのだと思います。多くの人が共感するようなNPOの姿がアンケートの回答に反映されているということです。

ただ、エクセレントNPOの視点から申し上げれば、やはり「市民参加」に関連する選択肢についても、有識者にもう少し多く選択していただきたかったです。先程から議論になっている通り、一般の人々がNPOへ参加するための回路がここ15年で非常に弱くなってしまいました。だからこそエクセレントNPOは「市民性」「課題解決力」、それを支える「組織力」という3条件になっています。

もしかしたら、「成果を出したら私たちももっと参加するよ」、という、かなり当事者側の視点で回答しているのかもしれません。


成果を出していくための良循環を生み出すためには

工藤:難しいのは、成果を出してもそれで終わりではなく、それが世の中に広く知られなければなりません。つまり、課題に向き合って成果を出している人たちの存在が知られることによって、多くの市民が「この団体いいね」というように、ある程度の評価がベースとして出来上がって、みんながそこに注目するようになる。それに刺激されて他の団体も頑張り、競争し合って、さらに成果を出していく、というふうな循環を日本社会で始めていく必要があると思うのですが、どうでしょうか。

塚本:今の市民社会に欠けているのは、熱量みたいなものではないかと思います。あまりにスマートになりすぎたり、あまりにロジカルになりすぎたりするのではなく、もっと「みんなはこの問題をどうする?」というふうに熱く問いかけることができるリーダーのような存在が、日本社会で減ってきているような気がします。「この問題について一緒に考えようよ、どうする?」という問題共有や、アイデアを引き出そうとする力がちょっと弱くなってきている気がするので、人を巻き込んだり感化したりするような力、「自分もやろう」というような気持ちにさせるエネルギーの重要性をもう一度見直さなければいけないような気がします。

矢野:これまでの日本における15年間のNPO活動は、どの団体も自分たちの周辺にいる2割かせいぜい3割ぐらいの人たちを巻き込んできたものだったと思います。しかしこれからは、残りの7割や8割の人の人たちにいかにしてアプローチし、巻き込んでいくかが課題になると思います。社会的な成果をあげていくことは難しいし、そもそも成果とは何を意味しているのか、という問題もあります。しかし、そのことを含めてどういうふうに分かりやすく説明して人々を巻き込んでいくのか、ということがこれからNPOに問われてくると思いますね。


NPOの今後

工藤:アンケートでは最後の質問として「日本のNPOの今後に関して、あなたはどう考えていますか」と聞いています。これについて一番多かった回答は、「強いNPOと弱いNPOの二極化が進み、質の高いNPOが社会のリーダーとして機能するようになる」との回答が36.5%でした。非営利セクター間の競争が始まって、その中で良いNPOが社会的なリーダーとして機能するようになるのではないかということですね。2番目に多かった回答は、「大きな影響力は期待できないが、それなりのセクターとして機能する」という回答で25.0%でした。

田中:二極化するというのはその通りだと思います。また、そのような多様性がないと多分、セクターとして成長しないだろうと思います。だから、そういう意味では、「大きいNPOだから良い」、「小さいNPOだから駄目」というような言い方はやめた方がいいでしょう。ただし、今まで、チャリティーや非営利の世界では「競争、ライバル」という言葉が非常に毛嫌いされていたのですが、そこを乗り越えてNPO間で切磋琢磨していかないと組織としての成長ができないと思います。


エクセレントNPO大賞とは何か

工藤:田中さんに最後に「エクセレントNPO大賞」についてご説明していただきたいと思います。今回議論してきたように、まさに市民社会、非営利セクターに課題解決に対する競争を促し、その競争の中で活動が一般市民に評価されることによって、組織としてのさらなる成長につながっていくという好循環を作っていきたい、ということで、私たちはこの賞を作ったですが、この賞についてもう少し詳しく教えてください。

田中:「エクセレントNPO大賞」は、我々「エクセレントNPOを目指そう市民会議」と毎日新聞社との共催、さらに共同通信社にも後援をいただいています。我々がなぜ、この賞に力を入れているのかというと、二つの目的があるからです。一つはまさに賞の応募要項が評価用紙になっているので、応募することを通じて、自己評価をしながら自分の団体の経営診断をすることができます。そのような自己評価によって絶えず自分たちの組織を省みるということを非営利の世界に普及させたいということです。もう一つは、頑張っている団体を社会に「見える化」して一般の方々に紹介するということです。そのため、メディアとの共催ということに非常にこだわっています。

工藤:田中さんを含めて、一線級の学者さんたちが応募した団体全部に評価コメントを付けて返しています。こうした賞を通して、市民社会が良くなるための好循環を日本社会の中に起こしたい、日本の未来に向けて大きな変化を起こしたいと、思うからです。

ということで、本日は「非営利セクターに何が求められているのか」ということを議論しました。NPOの現状に対して厳しめの話も多かったのですが、しかしこれから向き合わなければならない課題なので、私たちもそれを真剣に受け止めながら、日本の市民社会を強くするために動いていかなければならない、と気持ちを新たにしました。「エクセレントNPO」の応募はまだ受付中ですので、この番組を見た方はぜひ応募いただければと思います。

ということで、本日は「市民社会」に関する第一回目の議論を行ってきました。みなさんどうもありがとうございました。