市民社会に必要な変化とは

2012年2月17日


第3部:これからの市民社会の課題は何なのか

ボランティアはNPOの表情

工藤:さて、先ほどの続きなのですが、NPOの姿が見えないのはむしろ良いことじゃないか、という気もするのですが。

山岡:良いかどうかは別として、もともと見えないものだということですよ。

工藤:中で動いている人達は見えるのですが。

山岡:ボランティアが見える。ボランティアがNPOの表情なのですよ。

工藤:そうですね。そうすると、ボランティアの受け皿としてきちんとNPOが機能したかどうかということですね。

山岡:事例を1つ挙げると、夏休みに岩手の県立大学のボランティアセンターが「GINGA-NETプロジェクト」というのをやるわけですよね。あれはNPOとして、ユースビジョンという阪神淡路大震災の時に赤澤さん達が立ち上げた団体と、さくらネットという、これも阪神淡路大震災の時に出た西宮の団体で、現地の災害ボランディアセンターで立ち上げを行った石井布紀子さんという人がいたのだけど、そこと、現地の学生ボランティアセンターと、現地の社教(岩手県社会福祉協議会)との4者でつくったプロジェクトなのですよ。それでね、日本全国から1000人のボランティアをボランティアバスで三陸に運ぶわけです。それは見えるけど、それを動かしていたのは5、6人か、10人もいません。だからNPOは見えないけど、動かしているボランティアは見えるわけ。NPOは見えなくてもいいの。赤澤さんも石井布紀子さんも見えないし、学生ボランティアセンターのオフィスも見えないですよ。だけど現地で動いているボランティアは見える。それが健全なので、NPOだけが見えて、ボランティアが見えなかったら、それはダメですよ。

工藤:先ほどのアンケート結果は適切だったのですね。


支援金なしにはボランティアも動けない

山岡:それで、その時にボランティアだけで、彼らはどれだけ使ったかというと1000万円のお金を使ったわけですよ。日本財団とか赤い羽根共同募金とかいろいろな所から、それから参加費もあって約1000万円。だから1000人のボランティアを全国から三陸に全国から運ぶために、1人1万円かかっているわけです。それはみんなの寄付で行っているわけですよね。その資金、今回でいえば、支援金が無ければボランティアはあんなに動けなかった。ボランティアが活発になるかどうか、NPOが活発になるかどうかは支援金の問題と一緒に考えないとね、ボランティアだけ良かったね、じゃなくて、そこまで本当は見ないといけない。

工藤:どうですか田中さん、今のお話。

田中:それはそうだと思うのですよね。ただ、平時の時のデータを見ていますと、寄付を集めないNPO法人が、去年の内閣府のデータですと全体の7割。それからボランティアが全然いませんと回答しているのが、私たちのアンケートですけれど2割近くになっています。要は介護事業だとか補助金の仕事に専念しているNPO法人がある。それ自体は悪いことではないのですが、増えてきてしまっています。なんとなく、今までの政策的な風潮の中で、ボランティアと寄付は古いもので、チャリティからは脱却しましょうという風潮もあったのです。その結果として、寄付やボランティアの受け皿がなかなか機能しない団体もあって、実際被災地に行って寄付のオファーがあったのだけれど、受け方がわからなかったからとりあえずお断りしました、と。そういう慣れていない所はあったと思います。


社会の課題解決に向けた力強い動きが始まるために、何が問われているか

工藤:確かに、ある意味でNPOは縁の下の力持ちみたいなところはあるのだけれど。しかしNPOが見えない、というのもあって、どこに寄付をしたらいいかわからない、ということも確かにあったのは事実ですよね。

アンケートをベースに話を戻したいのですが、日本のNPOについて聞いてみました。「日本には約4万団体のNPOが存在します。しかしその実態はまだまだ脆弱なものです。非営利の世界で社会の課題解決に向けた力強い動きがより広範に始まるために、あなたは何が大事だと思いますか」と聞いたところ、1番多かったのが「NPOの課題解決の力」と「NPOと市民とのつながり」、3番目が「NPO活動の見える化」でした。見える化ということは活動が見えないってことなのですね。

基本的に、NPOに対して、市民とのつながりや見える化を選ぶ人が6割ぐらいいて、あとNPOそのものの課題解決の力、本当に市民社会が大きく強くなるための力を問われている、ということがありました。この結果はどうでしょう。


大きな組織が小さな非営利組織をつくり、育てるプロセスがもっとあってもいい

小倉:やはり、さっきのPRの問題とも関係するのですが、NPOの活動についての情報を-提供をする人がいないといけない。NPO自身は事業をすることに精一杯だし、組織をちゃんとすることに精一杯で、やっていることをPRするということは、だれか第三者がやらないといけない。自分でやれと言っても無理です。NPOについての情報を収集して、それを外に出す、そういう組織というものがもう少し力強く成長してこないといけない、というのが1つあると思います。

もう1つは、私が思うに、大きな財団や大きな組織、会社でもいいのですが、それが小さなNPOをつくっていく、そういうプロセスも大事だと思います。市民から湧きあがってくるものも大事ですよ。それはもちろん一番大事なのだけど、なかなかそう簡単ではない時に、例えば大きな財団なり、大きな社会貢献活動をしている団体に、小さな団体をつくってもらうということが、もう少しあって良いのではないかと思います。その両方が、マッチングしてうまくいけば、そこでNPOが育っていく。何故なら、私が日本のNPOの最大の問題だと思うのが、あまりにも規模が小さいということ。先ほど田中さんが言われたように、あまりにも規模が小さいからPRしようといったって無理な話なのですよ。小さいNPOがあってもいいのですけど、規模を多少なりとも少しずつ大きくしていく。そのプロセスをどうしたら良いか考えるとね、私は、一緒になるということもいいけれども、大きな財団なり大きなところが、小さなものをつくって育てていく、そういう動きがもう少しあってもいいように思います。

工藤:田中さん。このNPOの課題解決の力、NPOと市民とのつながり、というのは、これまで私たちが開発して普及に努めてきた、エクセレントNPOの評価基準そのものだと、思うのですが。


「エクセレントNPO」の評価基準を通じて社会的信用度を上げていく

田中:私も非常に驚いたのですけれど、私たちがエクセレントNPOの基準をつくるにあたって、ベースになる調査を行った結果、NPO自身が答えていることと、この有識者アンケートがかなり同じなのです。

まず、やはり自分たちの力をもっと強くしなくてはいけないし、もっと市民と繋がらなければいけない。でも、市民と繋がるためには、自分たちの姿を見せなければいけない。見せるためには方法が必要で、そのひとつが評価なのでしょう、ということだと思うので、ストーリーとして良くつながっていると思います。

小倉:1つ、言い忘れたのですが、社会的信用度なのですよ。いいことやっているけど、やっぱり企業なり財団なりとくらべると規模が小さいでしょ。率直に言うと、社会的信用度が分からないのですよ。ですから、NPO活動の第三者評価が何故重要かというと、それによって社会的信用度がついて、ある程度、客観的なものを出せるということなのですね。それを見ればどういう団体かが分かりますからね。それが色々な意味での資金集めとか、そういうことにリンクしていくということではないでしょうか。


多くの人が、市民と一緒に課題解決をしていきたいと強く感じ始めている

工藤:アンケート結果を逆から見ると、少ないのもあるのですね。「行政からの委託や支援」が7.1%。それと、僕はもっとNPOは、何でもいいから色々なところと競争し合って勝ち抜かなければいけないぐらいの気持ちを持っているのですが、こうした「競争」を選んだ人は5.4%と、意外に支持が無いのですね。

一つ教えてもらいたいのですが、この「課題解決の力」というのは何を言っているのですかね。

田中:これはまさに、NPOが非常に好んでいる社会変革性ですよ。社会の課題を解決することによって、社会を良くしていく、自分たちの力で変えていく、というそのアスピレーションそのものです。

工藤:そうか、それが1位で、市民とのつながりが2位で並んでいるのですね。

田中:まさに、市民と一緒になって課題解決をしていきたい、と思っているのです。

工藤:山岡さん、どうですか、これは。

山岡:これは非常に僕らの実感とぴったりです。NPOについて認識の高い人たちが答えている感じです。まさに、課題解決の力、例えばさっき言った放射能測定をしよう、ということは普通なら今まで思い付かないと思います。これは市民の立場からやらなければいけなくて、そして課題解決に繋がっていくわけですよ。ただ淡々と測って公表するだけなのだけど、そのことが意味を持ってくる。僕らもNPOセンターで、現地NPOの応援基金という形で関わりましたが、本当に色々なアイデアを持っていて、避難所の中から小さなNPOが立ち上がってきている。もちろん全国から来たのもたくさんあるのですけれど。でも今度については、いろいろな現場からの課題解決、避難所における女性の問題、障害者の問題、誰も考えていなかったものにNPOが気付いていくわけです。気が付いたところはそこで仲間を集めて何とかやっていく。そういう意味で言うと、僕はこの課題解決の力が本当に重要だということを実感しています。


「本物のNPOがやるべきこと」についての認識が前向きに出始めている

工藤:ただ、「市民とのつながり」の回答が多いのは、つながりが無いということの裏返しではないでしょうか。

山岡:繋がったのは良い例として出てくるわけですよ。だからやっぱり、つながりは重要だなと実感するわけですよね。もちろん今までは無かった、ということなのかもしれない。

田中:1998年にNPO法ができた頃は、つながりは非常に強かったと思うのですけれど、少しずつ薄くなってきたのです。

山岡:これは、やっぱり必要だということですよ。萎えてきたものが、今回見えてきた。

工藤:田中さんが一番批判的な「行政からの委託」は少ないし、「NPO活動のビジネス化」もそんなに多くないですね。

田中:そうなのですよ。社会的企業とか、ビジネスブームでしたからね。

山岡:これはおそらく、震災という経験の中で見えてきたことなのだと思います。震災の直前にやったら違うのが出てきて、震災によって、本物のNPOのやるべきことは何か、ということについての認識が、非常に前向きに出てきたものだと僕は思います。

工藤:すると、それは課題解決の力と市民のつながりだと。

田中:市民性と社会変革性ですね。

工藤:それで、「見える化」。第三者評価というのは、信用力を付けなきゃとか環境をつくらないといけない、という話ですよね。意外にいいとこついていますよね。


アンケート結果から浮かび上がる「エクセレントNPO」評価基準の必要性

工藤:多かった3つの回答に関しては、エクセレントNPOの宣伝にもなります。誘導したわけじゃないのですが、田中さん、NPOの評価基準としてみた場合のこのアンケートの結果をどう見ますか。

田中:はい。エクセレントNPOの評価基準というのは、こちらの先生方、工藤さんにも入っていただいて、3年ほどかけて、NPOと市民の間のつながりをもっと厚くして、お互いに質を高めていこう、ということでつくりました。この評価基準は3つの基本項目からできていまして、それが「社会変革性」と「市民性」と「組織力」です。まさに課題解決力というのが「社会変革性」であり、市民とのつながりというのが、市民参加の受け皿に非営利組織がちゃんと機能していますかという「市民性」を尋ねていますし、見える化とか評価というのは信頼できる組織であるかを問うわけですから「組織力」ということになります。NPOも、それからNPO以外の方達が見る目というのと、私たちが提示させていただいた-評価基準が、非常に整合していると思います。

工藤:さっきの山岡さんの話が非常に興味深かったのですが、震災の前なら違っていたかもしれないけれど、震災の経験の中で、本当に必要なことが見えてきたってことは、NPOの世界から見れば良いことですね。

山岡:僕はそう思いますよ。

工藤:なんでそう気付いたのでしょうか。

田中:ボランティアと寄付ですよ。

工藤:圧倒的にボランティアと寄付ですよね。市民の大きなエネルギーですね。

山岡:それと色々な報道場面でしょうね。阪神淡路大震災の時は、テレビしか見えるものが無かったけど、今はソーシャルメディアなどを通じて、色々な形で情報が伝わったでしょ。だから、色々な現状を多面的に見る機会があって、そういうところで見えたもの、聞いたもの、あるいは新聞の報道、雑誌の報道、そういうものがベースになって、こういう認識に至ったのだろうと思います。

工藤:そうですね。ただ、やっぱりそれを動かしたのは、市民の圧倒的に大きな参加ですよね。被災地に関する善意とかも含めて。

山岡:それと、やっぱり現地の住民の影響もありますよ。

工藤:ありますよね。

山岡:今回は、ある意味で言うとNPO空白地帯で起こったわけですよね。今、現地でNPOは新しく出来始めていますけれど、当時、即座に現地のNPOが動いたのかというと、そうではない、ちょっと近くの都市のNPOが動いて、あとは全国のNPOが動いた。そういう中で、今、NPO的なものがそれぞれの地区で立ち上がりつつあるという現状です。


課題解決のため、NPOは「闘うNPO」にならなければならない

小倉:阪神淡路大震災もそうだし、今回の東日本大震災もそうですが、NPOが日本の社会に育っていく上で良いと思います。ある意味では「禍を転じて福と為す」です。でも、冷静に考えると、今回はものすごいお金があったのですよ。それから、「助ける」という善意。今回は助けを求めている人がいて助ける、ピタっといくわけですよ。しかしこれからは大変です。課題解決型というのは、ある意味で反対者と闘わないといけないのです。反対者を押し退けて、ある意味では「闘うNPO」にならないといけない。今は「助けるNPO」ですよ。だからこれはいいのです、誰も皆、良くやってくれたと言ってくれますから。しかし、闘うNPOになった途端に、「やれ、やれ」って言う人もいるけど「何やっているのだ」と言う人も出てくるわけです。この「闘うNPO」になれるかどうか。課題解決といった時には闘わなくちゃいかんわけですから。それが日本の風土の中で、どのように育つかというのは難しい問題だと思いますよ。

工藤:今日の議論は、非常に良い結論になったのですが、まさに市民社会の中に大きな気付きがあり、大きな変化が始まっている。しかし、それはひょっとしたら、今の「闘い」とか、政治的な課題に関しても向かい合わないといけない、大きなそういう段階まできている。ただ闘うためには軍資金が必要で、信用力も得なきゃいけないし、市民の本当の理解を得なければいけない。そういう形の非営利組織が、今後出てこないといけないし、それを適正に評価できる仕組みが必要だと思います。市民がそれをきちっと理解できないとまずいですよね。

NPOが市民社会の大きな本当の担い手になれるかどうか、市民社会が大きく日本を変革する、そのスタートに立っている中での担い手になれるか。そういう段階に来ていると思います。どうでしょう。


NPOにとっては、チャンスであると同時に正念場だ

田中:まさにそうだと思います。NPO側に立って見れば、すごく大きなチャンスなのですが、同時に正念場だと思いますね。まさに「闘う」という言葉を使って下さったので、引き締まった感じがあります。やはり良いことだけではない、つらいこともあるし、だれかと争わなければならない時にも、どのくらい踏んばれるか、ということが求められます。そして、先ほどの白紙委任の話になりますけど、自分たちで選び、自分たちで考えて、最後まで責任を持つということが、本当に闘うことだと思います。


5年ぐらいで、現地のNPOが育ち、活動を継続していけるように

山岡:もうちょっと具体的に言いますと、今、1年近く経って、被災地は救援期から生活再建期に入っている。今までのNPOの力というのは、見えている部分は全国各地から集まった応援NPOなのですね。今、小さく育ちつつあるのが現地のNPOです。次第に現地のNPOにバトンタッチして、現地のNPOがきちんと育って、継続的な活動をしていくようにならないといけない。その状況をどうつくるか。全国規模のNPOは金を集める力もあるし、見える化も相当なされている。現地ではない応援NPOは、立派なところ、実力のあるところが行って入り込んでいる。それに対して、小さいのはこれから生まれつつある、それはまだよくは見えないし、力もそれほど無い。それを持続的に、そういう風にきちんと育てていけるか。さっき財団という話もありましたが、財団以外に色々な企業の支援も使っていく。そういう状況をつくっていかないといけない。個人も、企業も、瞬間的にこの1年に寄付がバーンと集まったけど、これから減っていく。この1年に集まった寄付を、僕は5年かけて使うようにと言っています。僕らは企業から相談があったら、5年かけて使わせて下さいと言っています。少なくとも5年、10年でもいいのだけど。10年というと大抵企業はちょっと待って下さいとなるので、5年ならやりましょうということでやっています。瞬発的に集まったお金を、5年ぐらいかけることによって、地元のNPOのキャパシティビルディングをどうつくっていけるか、という点に僕はかかっていると思います。そのことによって全国から応援したNPOは少しずつ手を引いていく。いつまでもそこに居座っちゃダメなので、そういう状況をどうつくっていけるか、っていうのがこれからの、この5年ぐらいの課題だと思っています。

小倉:立派なNPOを育てる、育てるためのNPOが必要なのですよ。それを言論NPOがしっかりやって下さい。


「エクセレントNPO」を目指して切磋琢磨していく状況を作り出したい

工藤:今日の話は、これから市民社会がいろいろな意味で強くなっていくこと。市民社会が強くなることが目的ではなくて、強くなることによってこの国の社会が変わっていく、それだけの大きな原動力になりたいということです。ただそれは一部の人に期待するのではなくて、市民がみんなで考えてそれに取り組むという、大きくて強いエネルギーを僕たちはつくっていきたいと思っています。その意味で今日ちょっと話が出たのですが、エクセレントNPOという、ある1つのNPOにとって必要なモデル、目指す評価基準がありまして、それを私たち、「エクセレントNPOを目指そう市民会議」は色々な形で普及しながら、その中で切磋琢磨していくような状況を作っていこうと思っていますので、そのようなことも皆さんに見てもらって、注目して、期待していただきたいと思っています。今日は市民が時代を大きく動かす時代になった、これからが勝負だという思いを強くしました。皆さんどうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。


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