有識者調査に見る野田政権の評価とニッポンの政治の行方

2012年2月02日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、言論NPOが毎回行なっている「政権の100日評価アンケート」を元に、有識者が見る野田政権の現在と今後を考え、日本の政治に問われていることについて議論しました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年2月1日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


有識者調査に見る野田政権の評価とニッポンの政治の行方

工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。
 毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。今日は、「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。さて、早くも1月が終わってしまいました。先月末からは国会も開会し、いよいよ政治の世界も本番ということです。

 実は言論NPOでは、この正月からWebサイトに、「2012年決断の年」というメッセージを流し続けています。これはかなり重い僕たちのメッセージなのですが、単に今年解散があるからということだけを言っているのではありません。つまり、日本の未来のために僕たちは今年こそきちんと自分で考えて決断をしていかないと、何も変わらない。そんなところに今の僕たちは立っているのだということを、正月に私はもう1回みなさんに伝えたかったのですね。そして私たちは、2012年がまさに日本を変える大きな出発点になると思っています。

 さて、国会も始まりましたし、私たちはこの国の政治をもう一度皆さんと考えてみたいと思っています。先日、野田政権の100日が終わったのですが、その際に有識者アンケート「野田政権の100日評価と日本の政治の立て直し」をやってみました。その集計が先日まとまったばかりなので、その内容をみなさんにご紹介します。それをもとに、「2012年、日本の政治は今、何を問われているのか」について考えたいと思っています。
 ON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」、今日のテーマは、「有識者調査に見る野田政権の評価とニッポンの政治の行方」です。


どんな政権も、100日を過ぎれば有権者による厳しい監視が必要

 ではまずこのアンケート調査ですけども、実は私たちは毎年、政権が変わる度に、100日間はハネムーン期間だということで温かく見守るのですが、100日を超えると、厳しくきちんと有権者側から評価しようということで、100日目から評価をすることにしています。私たちには、各分野の学者さんなど専門の評価委員が40名ほどいるのですが、この100日目だけは、有識者のアンケートでやってみようということで、これまでやってきました。

 今回も2000人くらいにアンケートを流して、434人が回答してくれました。大企業の会長・社長さん、メディアの編集幹部、官僚や学者さんなど、かなりハイレベルな方が回答してくれています。なので、この調査結果をやると、だいたい3カ月くらい前の先行の指標になるみたいな、そんな不思議な形になっているのですね。多分この結果は、みなさんも「なるほど」と思うところもあるかもしれないし、また、ひょっとしたらこの2012年の何かの流れをちょっと見られるような、そんな可能性もあると思いますので、ぜひ一緒に考えていただきたいのですね。


有識者は100日時点での野田政権をどう評価したのか

 まずこのアンケートは、2つの内容になっています。1つは100日目の野田政権の評価です。もう1つは、日本の政治が2012年どうなるのかということを、きちんとみなさんに考えてもらったわけですね。
 野田政権の100日というのは去年の12月10日なのですが、最終的には、予算が固まらないと評価ができないので、予算の政府案が確定した時点を待ってアンケートを行いました。なので、今現在の野田さんの評価と言ってもいいと思います。

 評価の結果、何がわかったかというと、1つは意外に善戦しているということです。この善戦というのは、前の菅さんが非常に低すぎたために、それから見れば少しプラスになっているということです。ただ、善戦はしているけれども、歴代の6政権もみんな同じような指標でやったのですが、やっぱりとても低いのですね。つまり、首相の100日目の評価は合格点とは言えず、野田さんもこの状況を変えるところまではいっていません。

 具体的にみてみますと、野田さんの首相の資質はどうなのかというと、これは8項目で聞いています。説明能力とか、チームの構成とか、人柄とか、それらの8項目の平均点なのですが、5点満点で、2.4点です。5点満点の半分もいっていませんから、やはり低い。普通でいえば合格ではありません。しかし6代政権、安倍さん、福田さん、麻生さん、鳩山さん、菅さん、そして今回の野田さんの中で、2.4点というのは最高点です。実をいうと、鳩山さんも2.4点でした。鳩山さんのときは、政権交代ということに大きな期待がありましたので、それを背負っての100日目だからそれなりに高かったのですが、その水準と同じ状況になっていました。

 ただその中身をみると、やっぱり人柄が良いというのが3.4点くらいで、他はそんな芳しいわけではないのですね。特に野田さんの首相としての資質で低かったのが、国民への説明能力。これは1.7点。それから閣僚などのチームや体制づくりが1.8点です。これもかなり低いといえると思います。これは閣僚が替わったり、日本の国会では説明しないで海外で説明したり、やはり何か説明をきちんとしていないのではないか、という状況があったのですが、そのあたりがかなり響いていました。


ほとんどの個別政策について、今後の対応に「期待できない」との声

 それからあともう1つ言うと、野田さんは国民に対して何の約束を実現するために登場している総理なのか、ということが全く見えないわけです。つまり、民主党のマニフェストは総崩れしている状況ですし、全然昔のマニフェストと違うことをしているわけですから。それをベースにしたらもう何やっているかわからないわけですね。本当はダメなのだけれども、野田さんが国会での所信表明演説をやった中で、これをやりますというのを数えてみたら、30項目ありました。その30項目をちゃんとやったのか、やってみたけど今後もダメなのか、もう全然やっていないのか、そのあたりを見てみたわけですよ。そうしたら、その30項目の中で、上手く対応できたという回答が40%あったものが3つありました。それは消費税の増税に対する決断、TPPへの参加検討に対する決断、復興庁を含めた震災に対する3次補正を作った決断、という3つでした。一方で、取り組もうとしたけど全然ダメだし、今後も期待できませんというのは、20項目もありました。全30項目のうち、3つはまあよくやったというもので、それも40%の人が思ったということですけども、後はほとんど全然無理だというのが20項目。これは50%以上の人がもうダメだということで、中には60、70%の人がダメだという項目もありました。米軍の普天間だけではなくて、無駄の削減、公務員の問題、社会保障の問題とか、あらゆるものが上手くいかないだろうとみているわけです。


半数が「解散すべき」と回答し、そのうちの8割が今国会会期中か会期後の解散を求める

 これをみてね、私はこう思いました。つまり、野田さんが頑張っている、善戦しているというイメージは、実をいうと消費税の問題やTPPなど、今まで歴代の政権が先送りし続けた課題に取り組んだので善戦したということであって、その他のほとんどに関しては、もう何もやっていないのですね。その3つですら、党内の対立があるから今後は上手くできない可能性がある、つまりその3つだけを何とかやって、それは野田さんも初めから言っていましたよね。集中して、震災問題とTPP、消費税の増税はやるということだったのですが、それもまだ、完全に実現したわけではない。今の国会の状況を見ると、本当にうまくいくのか、という段階にきている。このアンケートで浮かび上がっているのは、実は野田さんは土俵際でいっぱい、いっぱいになっているのではないか、ということです。

 つまり、消費税に関しては、今までの歴代政権もちゃんとやっていない。日本の社会の課題に対してやらないといけない、ということには踏み込んだけど、それができるかどうかがギリギリの段階で、それ以外はもうできないと。この先は、できるか、できないか、そして、解散か退陣か、というところまで来ているのではないか、と私は思ってしまうわけなのです。

 今回のアンケートでも、「この先の野田政権に期待できますか」ということになると、「野田政権に今後は期待できない」というのが49.5%。半分はもう期待できないと言っていますし、しかも「もう解散すべきだ」という人が半数を超えています。その有識者の中で、いつ解散するのかと聞いたところ、その8割が、なんと開会中の国会の会期中か、会期が終わった後に解散総選挙をすべきだ、と言っているわけです。

 日本の有識者はいいところを突いてきています。新しい年、野田さんは消費税を含めて、まさに覚悟を決めて踏み込んだのだと思います。それができるかどうか。できなければ解散でその信を問うていく、という話になっていく局面にきているのだと。つまり今年、僕たちは政治の大きな変化に見舞われる、という状況に来ているということです。

 ただもう1つ、このアンケート結果から僕たちが考えなければいけないことがあります。


既存の政治には期待できないが、新しい政治をどう作ればいいか分からない

 実をいうと、「総選挙の結果、日本の政治はどうなっていきますか」ということも聞きました。そうすると、「野田政権の継続」と答えた人がわずか5%、「野田首相は代わるが、民主党を軸とした政治への継続」というのは3.9%。併せてもだいたい9%くらいしかありません。「自民党への政権交代」も、6%しかない。4割くらいの人たちは選挙後は政界再編になるだろうと。また、それと同じくらいの人が、政治がどんどん混迷してしまうと予想しているわけです。

 野田政権は、かなりギリギリのところにきているのですが、選挙になっても今の既成政党については、日本の課題は解決できないのではないか、もう期待できない、ということなのですね。既存政党への期待についてもアンケートで聞いていますが、61.8%がもう「期待していない」と言っています。既成政党とは、今ある政党ですけど、これに期待しないという比率が高まったのは、皮肉なことに民主党政権になってからなのです。それからどんどん増えていっているのですね。

 それでは、なぜ期待していないかと理由をたずねたところ、73.8%の人が、「どの党も権力を持つことだけが自己目的化していて、選挙対策のためだけに行動しているようにしか見えず、日本の将来に向けて課題解決に挑もうとしていない」と回答しています。たぶん、私も同じような考えだ、という人が多いと思います。今の政治に期待できないとしたら、新しい政治に変えるしかない。しかし、新しい政治をどう作ればいいかわからない、というところに今きているわけです。


6割が代表制民主主義を機能させるために「有権者の当事者としての意識」と回答

 そこで少し視点を変えて、こんな質問をやってみました。日本は代表制民主主義を採用しています。代表制民主主義。つまり、私たちが政治家を代表として自分で選んで、その代表が、国民の代表として日本のために働く。そういう代議制民主主義、代表制民主主義。というのがこの国で機能していますか、と質問してみました。そうしましたら、なんと69.1%の人が「機能していない」と回答しました。

 では、なぜ、機能していないのか、その理由は3つに集まっています。1つは選挙制度や、選挙の関わる問題で、自分の代表を選んでいる実感がない。2つ目は、選ばれた政治家に課題を解決する能力がない。3つ目は政党が政策軸にまとまっておらず、政党としての体をなしていない。こうした状況に僕らが直面している、ということです。

 日本の政治はそういう状況だと私は思うのですが、この状況をどうして直していけばいいのか、という大きな問題があります。それについても聞いています。

 この代議制民主主義を機能させるためには、どうしたらいいか、という質問です。もっとも多いのは「有権者の当事者としての意識」が60.6%。これは、このON THE WAY ジャーナルで、私が去年からそればっかり言っていたことです。別にこれは誘導したわけではありません。多くの人達も、有権者が政治に何でもいいから任せたり、あてにしちゃもうダメで、自分でしっかり考えないといけない状況になりましたね、ということを有識者の方も思っているのです。

 それから、「政策軸に伴う政界再編」が2番目。そして「選挙制度の改正」、「一票の格差の是正」と続きます。僕たちも昔、佐々木毅さんと議論をしましたが、投票の問題をもう少し考えるとか、民主主義にかかわる色々なことを全部考えていかないと、たぶん今のこの状況は変わらないだろうと。それが多くの回答者の見方なのです。


当事者意識を持つ市民側の意見が政治に反映される循環が必要だ

 ではどうすればいいのか、ということです。そのためにはまず、有権者が自分の問題として、日本のいろいろな問題に関して、考えて決断していく。でも、決断しても、それに合った政治、政党ができないといけないわけです。その政党は、政策軸に基づいて政治家が集まっていく、そういう政界再編が望まれています。

 なんとなく今の社会が嫌だとか、こいつが気にくわないとか、そういうところで集まっている政党ではなく、ちゃんと政策軸が必要なのです。ということになると、有権者は当事者意識を持つだけではダメで、やはり政策もきちんと勉強して考えないとダメですね。一方で、考えたことを政治にぶつけていく仕組みが無いとダメですね。実を言うと、これは僕たち言論NPOが今それをやろうとして、色々、今考えて準備しているところです。

 つまり、僕たち市民側がちゃんと考えて、勉強して判断することが、政治に伝わる。そして、政治に緊張感を持ってもらって、政治が、俺たちがこの状況を変える、とか、新しい人が政治家になるでもいいのですが、そういう大きな循環が始まらないと、たぶんこの状況は変わらないのだな、と思います。そろそろ、有権者にとっては色々本気で考えなくてはならない局面になってきたなという状況です。

 先ほど出ました政策軸に基づいた政界再編で、何の政策軸が良いか、という設問で多かった回答は、財政再建、年金などの社会保障制度でした。今まで成長戦略が必要だということが、鳩山さん菅さんで話題になることが多かったのだけど、それが減少して、日本の将来どうするかということを、ちゃんと政党が国民に語らなければいけない。そういうことが、今回のアンケート結果にすごく強く出ました。その中ですごく大きいのが、先ほど出た財政再建と社会保障制度ということです。


民主主義の主役である私たち自身の決断が問われる新しい年が始まった

 最後の設問なのですが、日本の政治の混迷を打開できるのは誰かという設問では、多いものが3つあります。やはり「有権者」で54.6%と半数を超えています。もう1つ半数を超えているのが、「若い政治家」で55.3%でした。何故若い政治家か、これは僕も分かりません。なので、言論NPOでは若い政治家を集めて議論しようと思っているのですが、たぶん、今の古い政治家ではダメだと思っているのでしょう。あと、「NPO・NGO」が47.5%で、NPO・NGOにも色々な人がいますが、言論NPOは全然大丈夫なので、期待してほしいと思います。そして、なんと、一番低い、この人たちだけには期待できないというのは、既存のメディアで「期待できる」と答えた人が9.2%、1割しかいません。
 この詳しい内容は言論NPOのホームページで公開されているので、是非見ていただきたいのですが、さて、みなさん、この結果をどう考えたでしょうか。

 つまり、有権者も有識者も今の日本の状況を非常に敏感に感じ始めている。たぶん、それぐらいの状況に、今の日本はなってきているのだと思います。やはり民主主義は、僕たち市民が主役だと思うのですね。僕たちがきちっと考え、新しい流れを作っていかないとダメな流れになってきているのだと。

 僕たちの言論NPOもどこまでできるかわからないのですが、ただ、同じ問題意識を持っていますので、日本の民主主義を強いものにするために、2012年、何とか頑張ろうと思っています。
 そうした私たちの決断が問われる、新しい年が始まった、ということです。

 ということで、お時間です。今日は、「有識者調査に見る野田政権の評価とニッポンの政治の行方」について考えてみました。ご意見があったら、どんどん寄せてください。ありがとうございました。