「安倍政権100日」評価 議論編/首相官邸からの回答

2007年4月02日

070316_sekoh.jpg世耕 弘成(内閣総理大臣補佐官)
せこう・ひろしげ

早稲田大学政経学部政治学科卒業。1986年日本電信電話(NTT)入社。90年より米国ボストン大学コミュニケーション学部大学院留学、企業広報論で修士号取得。NTT本社広報部報道担当課長を経て98年参議院議員初当選。参議院総務委員会理事、総務大臣政務官、参議院総務委員長を歴任。06年より現職。自民党では、党幹事長補佐(広報担当)も務める。


工藤  安倍政権は何を目指す政権なのか、小泉政権とはどこが違うのでしょうか

世耕内閣補佐官  まず、安倍政権がこれから取り組んでいく政策と小泉改革との違いについて触れますと、小泉さんの場合は目的がはっきりしていて、それは日本を経済危機から脱出させるというテーマでした。国民もそれを明確に小泉さんに求めていました。ですから、比較的課題がシンプルだった。改革をやると言って、経済危機から脱出すると主張していればよかった。

安倍政権はそれとは少し異なっていて、ある程度経済危機からも脱したという段階で、国民がこれから色々な問題を内閣に解決してほしいということで、格差と言われている問題や老後の不安の問題など、様々なテーマが一挙に出てきました。小泉さんの時は、政権の後半ではそうした課題も出てきつつありましたが、どちらかといえば、そうしたことよりも、とにかく日本経済はどうなるのかという話が優先でした。安倍さんの場合、ずらっとメニューが出てきている。それに対して、1つ1つ丁寧に応えていかなければいけない内閣なのだと思います。

現に政権発足以来6カ月弱の間に、既に様々なテーマに次から次へと手をつけてきて、方向性を示しています。それが小泉さんのようにシンプルで1つではないのは確かですが、教育改革から教育再生もやっていますし、道州制も地方分権改革も進めています。一方で、社会保険庁の解体から年金の一元化の議論も進め、NSC(国家安全保障会議)をつくるプランも立てています。ほかにも課題はたくさんあります。そのような色々なことにショットガン式に対応をしていかなければいけない。

これはもう時代の流れから言って宿命なのだろうと思っています。小泉のさんのように、「これだ」と言って「これだけやるぞ」というタイプではなく、こういうタイミングで、「わかりました。それも大変ですね。これもやってみましょう。こちらもやりましょう」という形で全部誠実に応えていくタイプの総理が出てきたというのも、やはり時代の要請なのだろう思います。

私は小泉さんが必ずしも「壊す構造改革」だったとは思いませんが、安倍さんも小さな効率的な政府を目指すという路線は変わっていないと思います。ただ、小泉内閣は極めて危機管理色の強い内閣で、ほかのことは少し我慢してくれと簡単に言えた時代でしたが、安倍さんの場合はそうではない。小泉さんと同じ構造改革をやっていますが、かなり幅広に細目に踏み込んだ構造改革をやっていかなければいけない。しかし、それは小泉さんの路線から後退させるという意味ではなく、小泉さんの粗削りでやった構造改革をさらにきれいに仕上げていくという意味での改革です。

市場原理をベースにした小泉流の構造改革の考え方からは基本的に外れておらず、その思想は完全に引き継いでいると思います。方向性は同じですが、小泉さんの場合はそれをとりあえず斧で粗削りにつくっていった構造改革だったのに対し、安倍さんはそれをサンドペーパーを使って具体的な姿につくり上げていくというフェーズだと思います。

ですから、人事の布陣もそういうシフトになっています。例えば官房長官は、政策についてはありとあらゆるテーマについてきちんとした勉強をしていて、総理に対して的確なアドバイスができる人物です。しかも、総理がもっと具体的な政策を総理のイニシアチブでやりやすいように、それぞれの分野に特化した補佐官が全部ついている。党側も、中川幹事長は国会議員の中では非常に政策に通暁した人です。改革を仕上げていくだけの体制になっていると思います。


工藤  「美しい国」とは一体、何なのでしょうか。
またその実現のために安倍政権は何を目指しているのでしょうか。

世耕内閣補佐官  「美しい国づくりプロジェクト」は私が総理から言われて、今、担当しております。

そのためによく「美しい国って何ですか」と聞かれますが、「美しい国」とは、安倍さんや政府が決めるものではありません。総理が言おうとしているのは、日本人よ、自信を取り戻そうじゃないかということです。

日本は戦後60年間の長い間、どちらかというと反省と謝罪ということをベースにやってきました。これは必要だと思っていますし、その精神を私たちも引き継いでいますが、しかし一方で、やはり日本にも良いところはたくさんあるだろう。それは世界の役に立つこと、あるいはもう既に立っていることもあるだろう。それを日本人1人1人がしっかり考えて、自覚をして、誇りを持って生きていかなければならないのではないかという思想体系です。これが「美しい国」という、安倍さんの言葉に現れているのです。

ですから、我々は「美しい国」づくりで何をやるのかということをみんなで考える。国民運動をまずしっかり起こしていく。色々な価値観がありますから、それぞれが考えることです。それをしっかり考える運動を刺激していくというのがまず1つだと思います。

そして、その中から、これはみんなの共有の財産にできるのではないかということが幾つも出てくると思います。

ただ単に「美しい国」といえば、歌舞伎や伝統文化、自然、あるいはポップカルチャーなど幅広くあります。あるいは、例えば電車が極めて正確に来る、日本人は契約をしっかり守る、大震災のような災害が起こったときでもスーパーから略奪されることがないなど、そういうことは日本人として生活の中で我々は当たり前に感じていますが、世界に自信を持って発信していっていいのではないか。そういうことを少しみんなで考え、あるいは、それが今まであったのがなくなっているとすれば、どうすればいいのか。これは政府も一緒に考えていきますが、そういうみんなで共有できるものをピックアップしていく。さらにそれを今度は対外発信していく。それも自慢ではなく、こういういいところがあるので、ぜひ皆さんのお役に立つようにしたいという形で発信する。そういうことを通じて国民が誇りを取り戻すということです。


工藤  そうした「美しい国」の実現で安倍首相が行っていることは、かつての小泉政権とはかなり考え方がことなっているように見えます。例えばその誇りを取り戻すために公教育の役割を安倍さんは主張しています。また最低賃金の問題でもこれまでの規制緩和の大きな流れから、政府の役割をある程度は果たすという形に転換しているように見えます。

世耕内閣補佐官  確かにそれはあると思います。それははっきりいえばあると思います。まだ我々も現在進行形で手探りの状態ですが、例えば「美しい国」づくりをしっかりやっていく、そこで景観という議論が出てくる、日本では美しい景観が失われているとなると、そこで規制を強化しなければいけないというファクターが出てくるかもしれません。そういう意味では、小泉さんのときの、何でも規制緩和をすればいいというところから、もしかすると、まだはっきりはいえませんが、この「美しい国」づくりという文脈において一部、これはどうしても守っていかなければいけないということが出てくる可能性はあるでしょう。ただ、経済面では基本的に規制緩和を継承していきます。


工藤  安倍さんの「美しい国」はナショナルアイデンティへの問いかけがありますが、その原点として安倍さんが主張するのは国家ですか、それとも郷土愛とかコミュニティーというものに近いのでしょうか。

世耕内閣補佐官 明らかに後者です。安倍さんはけっして国家主義者ではありません。例えば拉致問題に一生懸命取り組んでいますが、それはやはり個人が悲しみ、個人が不幸な目に遭っている、このことを何とかしなければならないという発想の中で考えていて、国家の主権が侵されたということをメインに考えているのではありません。拉致被害者の1人1人が生活を奪われ悲しんでいる。親も泣いている。これを政治家として何とかしなければならないという感覚です。これがすべてに通じています。

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