「未来選択」サイトについて

2009年8月21日

マニフェスト評価専門サイト「未来選択」について
(全3分50秒)

聞き手:田中弥生氏 (大学評価・学位授与機構准教授)


マニフェスト評価専門サイト「未来選択」について

田中: 言論NPOでは来る選挙を前に「未来選択」というマニフェスト評価専門サイトをオープンさせました。私も拝見させていただきましたが、今回の評価だけではなくて、小泉政権のマニフェスト評価と実績評価、そして安倍・福田・麻生政権に至るまでの評価が政策別に閲覧できるというものでした。多くの有権者が、今回の選挙ではマニフェストを参考にして投票したいと言っていますが、このサイトをどのように活用すればいいでしょうか。


工藤: マニフェストを評価するには、2つの視点からマニフェストを読み込む必要があります。
 ひとつはマニフェストが約束としての体裁を整えているのか、ということです。これを私たちはマニフェストの「形式要件」と呼んでいます。
 ここでよく話題になるのは数値目標です。実現すべき目標がスローガンのようで具体的で明確でないと、約束としてそれが実現したか、判断できません。だから、明確な目標は約束にとっては必要な条件となります。
 ただ、ここで気をつけるべきなのは、数値目標だけでは、国民との約束としては十分ではなく、むしろばら撒きリストに変わってしまう「落とし穴」があるということです。
 私が今回の選挙で、これはまずいな、と思ったのは、その政策の目的が明らかにされないまま、様々なサービスのメニューやサービスの目標だけが競われた結果、マニフェストが国民との約束というよりも、単なる支出リストに変わってしまったことです。
 支出には当然、その財源が必要ですから、選挙戦ではその財源がどうかということについて、激しいやりとりがありました。しかし本来は、何のための政策なのか、つまり目的を明らかにして、そのうえでその目標や政策手段がどうなるのかということを議論すべきなのです。

 マニフェストがなぜばら撒きのリストに変わるのか。ここで明らかになったのは、マニフェストには数値目標だけではなく、政策としての体系性が必要だということです。では約束の体系性と何なのでしょうか。
 言論NPOでは5年前に評価を開始してから、約束としての形式的な要件を満たすものとして、5つの評価項目に沿って、点数を分野別に公開しています。今回の「未来選択」サイトにも、それがしっかりと書かれていますので、そのチェックからしてみてはいかがでしょうか。
 私たちが評価項目として採用しているのは、まず①なぜその政策が必要なのかという目的や理念が説明されているのか、ということ。そして、その目的を実現するための②目標とそれを実現するまでの③期限や工程、さらにそれを実現するための④政策手段や⑤財源が書かれているのか、の5項目です。それらの政策の体系がそろって初めて、マニフェストが約束として十分なものとして判断できるという構成なのです。


田中: 具体的に説明してもらえますか。


工藤: たとえば民主党は、高速道路の無料化や揮発油税の暫定税率の廃止を掲げました。
 高速道路の料金が下げる、暫定税率をなくすという約束は具体的だし、その約束が実現できたかという結果は測定可能なものです。その点では目標は明確だと言えます。
 しかし、この2つの政策の目的は何なのでしょうか。料金などの引き下げは車の利用者にとっては朗報ですが、車社会に優しい政策は環境にはマイナスになります。
 また高速道路が料金収入で、過去の債務を負担している、ということを考えると、料金を下げた分は、租税でその穴を工面する、ということです。
 でも環境上ではマイナスになること、さらに負担は納税者に肩代わりされるのに、それをマニフェストで触れないばかりか、それでも無料化などを行なう理由を説明できてはいません。ただ、無料化すること自体が目的なのです。また、暫定税率をなくすといっても、必要な道路はつくると言っています。
 自民党のマニフェストも同じようなものです。料金を1000円にするということで無料ではありませんが、その根拠と財源の説明はありません。
 マニフェストでは明確な目標が書かれてはいますが、政策の目的や財源が体系的に説明されないために、単なるサービスリストになってしまう。これを、約束に基づいたマニフェストと呼んでいいのか、という問題があるのです。

 ここまではマニフェストの約束としての体裁に関する形式的な評価を説明しましたが、私たちは実は、こうした形式的な要件だけでマニフェストの評価を行っているのではありません。
 より重要なのは中身を吟味する、つまり、政策としての妥当性を判断することです。つまり、マニフェストを体裁ではなく、実質的に評価するということになります。
 ここにもいくつかの評価基準があります。「未来選択」では各政策分野の評価が、評価項目に沿って、説明されています。
 その中のひとつに関して簡単に説明しますと、マニフェストに書かれる政策は、日本が抱えるそれぞれの分野の課題に対する解決策を提起していないと、約束にはならないということです。そのためにはまず、現状や課題をどう認識するのかを明らかにする必要があります。それが間違ってしまうと、課題解決の処方箋以下が、全て間違ってしまうということがあり得るからです。
 マニフェストを評価する以上、評価する側が、その課題をどう認識しているのかを明らかにしたうえで、その政策の妥当性を判断する必要があります。
 この妥当性も基準を明らかにした上で評価をしています。例えば、政策目標と手段の整合性や、目標自体がその課題解決としてふさわしいのか、などかなり専門的な視点がそこでは必要になります 。
 その点で言えば、「未来選択」はまず政策を評価するにあたっての「視点」を明らかにし、そのうえで評価の結果を公開しています。
 つまり、言論NPOの評価は、政策の背景がよくわかるようになっているのです。背景を理解したうえで、皆さんも一緒に評価を考えてみよう、という構成になっているわけです。


田中: ただ、政策の背景を分析するためには、その分野に関する専門的な知識がかなり必要になると思いますが。


工藤: 言論NPOは約30分野の政策評価をやっていますが、各分野に日本を代表する専門家、学者などが評価委員として参加しています。委員のコメントもこのサイトでは同時に公開しています。同時に、私たちは政策を政党とか、霞が関の実際に政策をつくっている人たちとも議論をしています。討論会や座談会の様子も公開しています。つまり評価結果だけではなくて、そのプロセスもわかるようになっていますから、より深く政策の中身を理解できると思います。


田中: 専門性や信頼性が高い、のみならず、ある意味でいろんな方々の参加によるサイトになっていると言うことができますね。そういう意味では、サイトをご覧になった方々の中にも、何らかのかたちで参加したいと考える方も出てくるのではないかと思いますが。


工藤: 私たちは今後のオープンなフォーラムを何度かやっていきたいと考えております。マニフェスト評価というのは選挙の前にやるだけではなくて、選挙が終わった後も、その政策が実行できているかということをきちんと監視していくことが必要なんです。だから私たちは毎年、年間を通じて、このマニフェストに関するフォーラムや勉強会など様々な企画をつくっていきますので、ぜひご参加いただきたいと。それだけではなくて、私たちはこの評価結果を、メールマガジンなどを通して配信していきます。その中で皆さんの意見をいただいたり、疑問に対しては可能な限りこの評価サイトの中で答えていきたいと思っています。双方向でできるしくみを整えていきたいと思っていますので、活用していただければと思います。


田中: まさに、有権者のエージェントたりうるところだと思います。頑張ってください。ありがとうございました。

(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)