2013年参議院選挙を振り返って ―「強い民主主義」の実現に向けたスタートに

2013年8月01日

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2013年参議院選挙を振り返って
―「強い民主主義」の実現に向けたスタートに

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事)


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田中:工藤さん、こんばんは。参議院選挙が終わりましたが、この結果をどういう風にご覧になっていますか。


二度と許してはいけない曖昧な公約

工藤:結果的に安倍政権の実績が評価された格好ですが、アベノミクスを含めて、まだ成功したわけではありません。まさに、選挙後のこれからが正念場だと思っています。ただ、民主政治という視点から言えば、問題が大きい選挙だったと思います。

 今回の選挙で示された与党の公約は形骸化していて、非常に曖昧でした。野党も同じで、対案もなく批判ばかりの公約になっていて、多くの有権者がどの政党を選んだらいいか、悩んだと思います。しかも、社会保障や財政再建など、与党は何も説明せず、選挙後に判断を先送りしてしました。この3年間、選挙がないとすると、国民はその決定になんら関与できず、政治にお任せしなくてはいけない。

 こういう選挙は、二度と許してはいけないと思っています。

田中:何となく腑に落ちていないし、選挙後に野党を中心に非常に混乱をしているように見えます。こういう状況を見ていると、そもそも「政党とは何なのか」と思ってしまうのですが、この点いかがでしょうか。


政党は有権者に課題解決のプランを提示できるのか

工藤:私たちは、政治家に白紙委任はしない、という思いで、2005年から政党の公約の評価を行ってきました。つまり、国民が政党の公約を、国民との約束として判断し、その評価を次の選挙で行うことです。政治と有権者に緊張感ある関係を作り出したいと、思いました。

 こうしたサイクルが回るためには政党政治が機能していることが、前提となります。ただ、今回の選挙を見ていると、政党が、そうした課題解決のために機能しているのか、と疑問に思いました。政党の存在自体が目的化したり、選挙のためだけに集まっているような政党も現実的にあります。だから、まともな公約すら提示できないのです。

 今回大勝した自民党はその点では相対的に機能していますが、今回の選挙では比例区の上位で、農協など支持基盤の代表が占めるなど、昔ながらの古い自民党と、改革をしなければいけない自民党が共存しているわけです。衆参のねじれ現象は解決したけれど、党内のねじれは残っている。そうなると、政党としてはきちんとした課題解決のプランを提示できなくなってしまいます。今回、本質的な問題として、政党は課題解決のプランをつくって国民に信を問う、という組織体として本当に機能しているのか、有権者は考えるタイミングにきているのではないかと思います。

 さっき、田中さんが言われたように、選挙後に起こっている野党の混乱も、こうした政党の問題が表面化したのだと思います。この状況で、野党がまとまれば、というような議論に疑問を覚えます。政党は理念やその組織のミッションが統一されて、初めて組織としてなりたちます。数を集めるだけでは、同じ失敗を繰り返すだけです。

 私はむしろ、政治に世界では本当の意味での課題解決や理念を共有する、政界の再編は起こらないと考えています。つまり、有権者がそれを迫るしかない。そういう局面に今の日本の政党政治があることも、有権者が考えるタイミングに来たのではないか、と思っています。

田中:そもそも公約は掲げているけれども、実態は選挙が主たる目的となってしまった。その結果として、これだけの混乱になっているということですね。

 もう1つ工藤さんもおっしゃっていましたが、重要な政策課題について、明確な争点が出されないまま選挙になりました。そうなると、これから3年間、与党の中で選挙がないまま重要な政策が決められ、有権者が疎外されてしまうことがあると思うのですが、この点についてはどのようにお考えですか。


選挙がなくても政治を監視し、有権者と政治の間の緊張感を高めていく

工藤:私は、以前、民主党政権が混迷に陥った時に、自民党のある有力な議員から、「有権者が選挙で曖昧な決断をしてしまうと、こういう事態が起きてしまうということを有権者は学ぶべきだ」ということを言われたことがあります。

 確かに、選挙ということの意味はそうなのですが、しかし、今回はどうなのだろうか。自公政権が国民に対してきちんと説明できない公約を出し、それを選んでしまったということを僕たち有権者がどう考えればいいのかということです。

 今回の選挙は、安倍政権の中間評価ですし、その意味では仕事をしていただきたいとは思いますが、これから起こることに、全て白紙委任したわけではないわけです。しかし、選んだ以上、国民への説明を選挙後に再送りした事柄がどんどん進められていく可能性があります。それが、選挙だということも今回、私たちは考えていかなくてはならないわけです。

 これから日本が直面する課題は、どの政党が与党になっても非常に困難なものです。本当に経済の成長をつくれるかどうか、財政再建が本当にできるかどうか。また、社会保障制度国民会議も最終報告書を出しますが、高齢化が急速に進む中で、それに対するしっかりとしたプランを出せるのか。少なくてもこれらが日本に問われる課題ではあるし、政権与党の課題認識もそうずれているとは思っていません。ただ、これらの決断はこの国の未来だけではなく、私たちの人生にも大きな影響を与えるものだけに、政権は日本の課題に対して、まず国民に丁寧に説明していく必要があります。それに対して、我々有権者は、「違う」とか、「その通りだ」とかいう意見を持って行かないといけないし、3年間選挙がないからといってもあきらめるのではなく、場合によっては発言なり監視をしていくような形で、有権者との間で緊張感を高めていくことが必要だと思います。それぐらいの局面が、これから起こってくるのだろうと思っています。

田中:ただ、一人ひとりの声はどうしても弱いですから、その声をどうやって世論にして、社会的に聞き入れられるような声にしていくのか。言論NPOとしてのお考えを聞かせてもらえますか。


「有権者が強くなる」ためのスタートに

工藤:私たちは、「強い民主主義」とは「有権者が強くならなければできない」ということを主張してきました。僕たちにできることは、有権者の皆さんに判断材料を提供するということです。これまでは、政権の実績評価は選挙の時にやっていたのですが、もっと定期的にやり、公表していきたいと思います。

 一方で、課題解決のプランは、政党だけではなく、私たち有権者も含めて考えていかなければ答えが出せないようなことが沢山あります。例えば、消費税の問題、原発の再稼働、社会保障や財政再建の問題、アジア外交でも非常に緊張感がある状況です。そういうことに関して、言論NPOは様々な議論をオープンな形で行い、その結果を政治にぶつけていくような議論づくりをしていきたいと思っています。場合によっては課題解決で有権者側からの逆提案も必要な局面だとも考えています。

 あくまでも、有権者が自分で判断するということが基本で、そのためのお手伝いをするということです。私たちも今まで以上に、責任を果たせるような動きをしていきたいと思っています。

田中:ありがとうございました。お任せ民主主義から脱却したかなと思ったのですが、下手をすると、また戻ってしまう可能性もある。この点については、ぜひ言論NPOの活動に注目していきたいと思っています。

工藤:やはり有権者がそろそろ本気にならなければいけないと思います。強い民主主義に向けて健全な輿論づくりが、僕たちのミッションであり、僕らも冷静に、しかし心は熱く燃やしながら、この3年間に真剣に向かい合いたいと思っています。


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