「麻生政権の100日評価」結果をどう読むか(2) 麻生政権が問われた役割とは

2009年1月29日

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◆◆◆◆ 言論NPO コンテンツメールマガジン 
◆◆◆◆ Vol.9(2009年1月29日発行)

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コンテンツメールマガジン第9号では、「麻生政権の100日評価」アンケート
結果を踏まえて行われた「『麻生政権の100日評価』結果をどう読むか」座談会
の第2話をお送りします。
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□■「麻生政権の100日評価」結果をどう読むか■□
第2話:麻生政権が問われた役割とは

第1話では、自民党政治の限界が麻生政権への厳しい評価につながったのでは
ないかとの指摘がありましたが、では、そもそも麻生政権に求められた役割とは
何だったのでしょうか。
第2話では「構造改革の総括と修正」「経済危機対策」「解散・総選挙」などが
麻生政権の役割であったとの意見が挙げられました。消費税増税を打ち出した
点については評価できるという見方が出た一方、「政局に踊らされている」
「総理として何をしたいのかというビジョンが明確ではない」など、実行力の
なさを厳しく指摘する意見もありました。

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<発言者>
添谷 芳秀(慶応義塾大学東アジア研究所所長 法学部教授)
若宮 啓文(朝日新聞社コラムニスト)
中谷 元(衆議院議員 元防衛庁長官)
仙谷 由人(衆議院議員 元民主党政調会長)
司会:工藤 泰志(言論NPO代表)

(工藤泰志)
麻生政権に求められていた政権の課題は、解散を行うということを除けば、
先ほど仙谷さんがおっしゃっていた2つのことだと思います。ひとつは、小泉さん
以降の構造改革の進め方についてきちんとした総括をしなければならないという
こと。もうひとつは、今の世界的な経済危機に対して、どうすればいいのかと
いうこと。それは麻生さんだけの課題ではなく、日本の政治に問われていること
だというようにも思います。
そこで皆さんにお聞きします。なぜそれがうまくいってないのでしょうか。

(仙谷由人)
政治的に見れば、洞爺湖サミット以降、完璧な公明党政局になっています。
それは与謝野さんに限らず、福田さんも麻生さんも2兆円の定額給付金なんて
絶対にやりたくないはずです。財政規律論からいっても、効果論からいっても
意味がない。では、何のためにやるのかといえば小選挙区の公明党票をいただき
たい、ただそれだけの話です。

(工藤)
ただ、麻生政権をあえて前向きにとらえれば、少なくとも消費税を3年後に
上げると言っています。福田さんは、社会保障財源と、財政再建の今後の展開に
ついては秋に答えを出すということが問われていましたが、麻生さんはそれに
消費税の増税の明示ということで踏み込んだとは言えませんか。

(中谷元)
麻生政権の役割は福田さんの後を継ぎ、基本的には小泉構造改革の是正です。
格差や地方など、痛みの出た所に手当てをするということで、現に年末の予算
編成においても、景気対策とか地方対策などかなり答えていますが、ばら撒き
ではないかという批判に対しては、景気が回復すれば3年後に消費税の増税を
行う旨も言っていますので、格差を是正しつつ、構造改革はやらなければならない
という、両者を求めている現状対応の政権だと思います。

(工藤)
では、なぜ麻生政権を支持する人は少ないのでしょうか。
経済的な認識が足りなかったのでしょうか。それとも、きちんとした将来の構想
を示し、それを実現するための準備が足りなかったのでしょうか。

(中谷)
色々な提案はしていると思います。総額2兆円の定額給付金や、1兆円の地方
交付税などはどれも必要なものですが、残念ながら事前に根回しとか総合
プロデュースができていません。麻生総理の主張は二転三転しましたが、
一方で、普通の総理なら言わないことをあえて言うことで一つの壁を崩して
しまいます。それにより、与党やマスコミなどからリアクションが起こり、
最後の落とし所はそれなりにひとつの形になっています。
要は、結果が大事なわけで、最初に提案をして、調整の結果落とし所を見つける
という意味においては、今やらなければならない所についてはやっています。
その象徴が総理としてやらないといけない、消費税の増税問題ですが、曲がりなり
にも閣議決定をしたという点は、非常に評価できると思います。

―麻生政権は早期に解散すべきだった―

(工藤)
添谷さんは、麻生政権はそもそも何を目指す政権だと思っていましたか。

(添谷芳秀)
私はただ一つ、選挙だと思います。
福田さんが総理を辞め、なぜ次が麻生さんだったのか、ということからも自明
です。前回の衆議選挙の結果は「小泉バブル」でしたから、次の総選挙で
自民党がそれなりに負けることは明らかでしたから、福田さんは負けるにしても
議席が減る分を最小限に抑えられるのは誰かと考えた時、自民党は麻生さんが
ベストだという選択をした。まさにそれにつきると思います。
今、皆さんがご議論なさっていることは、ある意味誰が政権をとっても、
責任を持って取り組むべき課題であって、別に麻生さんがどうとかいうことは
関係ありません。ただ、現に麻生政権が存在するから「麻生政権の課題」という
議論はできますが、麻生さん個人の問題とはまた違うと思います。やはり、選挙を
するということが、麻生政権が誕生した唯一の理由だったと思います。
では、なぜやらなかったのか。その理由は何が本当なのかはわかりませんが、
今選挙をやれば思ったよりも議席が取れないという結果が自民党独自の調査から
出たということで、その結果延ばさざるを得なかった。そう判断した時、幸か
不幸か、私は不幸だと思いますが、経済危機が起きて、選挙をやっている時期
ではないという言い方ができたわけです。すなわち、政局よりも経済だ、という
言い方自体が、政局の言葉だったわけです。
もうひとつ申し上げると、麻生さんはずっと総理になりたいと公言していて、
ついにそのポストに就きました。しかし、国民の立場から見て、どうして総理に
なりたかったのかが、さっぱり分かりません。国のリーダーとして日本をどのように
導くのかということが、残念ながら全然伝わってきません。
これまでにも何をしたいのか、分からない方はいましたが、多かれ少なかれ昔の
政治家は、総理というリーダーになった際のビジョンや構想なりを持っていました。
そういうビジョンや構想がないために、麻生さんの歴史問題、中国関係、台湾
関係等にまつわる、やや保守的な思想に着目した麻生論のようなものが際立って
しまうわけです。だから、国際会議では、麻生政権は日本を保守的な方向に導こう
としているのではないかという議論を、まともな日本研究者が真面目に議論して
いるのです。現実はそうではないのですが、これといったものがないために、
なかなか力強い反論ができず、日本にとっては非常に損な状況です。
もし、選挙ができなかったとしても、麻生さんに「選挙は止めたが、俺はこれで
やる」といった、強烈なものがあればまた違ったのかもしれません。しかし、
実際には経済危機を政局の具にしようとしている姿が透けてみえて、国のリーダー
としてはやや興ざめです。

(若宮啓文)
僕も添谷さんの意見に同感なのですが、麻生さんの政治哲学が何なのか、少し
右っぽいというだけではっきりしません。いうなれば、オポチュニストで状況対応型。
秋葉原的に人気があるということは分かりますが、中身がはっきり見えないまま
首相になってしまった。それでも強いて言えば、この経済状況のもと、本人も自分は
企業経営者だったから経済に強いと言っているし、大企業の課長みたいな福田さん
より、ベンチャー企業のオーナーみたいな麻生さんの方がこういう時期には案外
いいのかもしれない、という期待があったと思います。ところが蓋を開けてみれば、
ばら撒きのような定額給付金でしょ。首相の話は二転三転するし、2次補正を臨時
国会でやるのかと思えば、やらないとなってしまった。結局、政局に踊らされて
しまって手を打てなかった。本当に経済に命をかける意気込みで突破していけば、
逆に政局も開けてきたのかもしれないのに、自分でそれを塞いでしまったような
気がして仕方ありません。

(添谷)
麻生さんの中にも何もないというよりは、多分それなりに個人の思想や、哲学は
それなりにあるのだと思います。しかし、それを前面に出して、対応できない
という時代環境がある。
私は、麻生さんの思想哲学として、内向きの、アンチグローバリズム的なものが
あるように思えます。ただ、だからこそ、新しい体系を打ち出すことができず、
何も本質的な政策が出ないということかもしれません。
例えば、これまでの構造改革の議論に関しては、日本の旧来の政治・経済・社会
構造を改良していかなければ、これからの日本は新たに飛躍できないのではないか
という問題意識が、一般的感覚としてありました。他のうまい言い方がないので
使いますが、日本社会の「土建国家」的な体質とがっちり三位一体化した経済・
政治システムをどう変えていくのかというのが、一番大きな共通の問題意識であり、
それが改革論者の間の一定のコンセンサスだったと思います。しかし、その実現は
簡単な話ではなく、様々な障害にぶつかっているうちに、今回のアメリカの
サブプライム問題に端を発した世界経済の危機が起きてしまいました。
先ほど中谷先生がおっしゃったように、今の時代の構造改革路線というのは、
負の部分の手当てをしながら進めていくというのが、多分落としどころだと思い
ます。ここでいう負の部分とは、構造改革路線が全面的に間違っていたという
証拠ではありません。システムを変えるということは、当然負の部分、犠牲者が
出てくるわけです。ただそこに何らかの手当てをするということは、改革を進めて
行く上で政治の当然の責任であって、それは必ずしも違ったシステムを志向する
という話ではありません。
そうしたシステム全体にバランス感覚を忘れず目配りをしながらも、構造改革の
基本路線は踏み外さないという王道を歩むのが現在求められる日本のリーダー像
だとすると、麻生さんはミスマッチなのかなという感じはします。

 ~第3話につづく~(全5話でお届けします。次号もお楽しみに!)

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                     ※第5話は明日公開予定です。
<発言者>
内田 和人氏(東京三菱UFJ銀行企画部経済調査室長)
平野 英治氏(トヨタファイナンシャルサービス株式会社取締役)
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司会:工藤 泰志(言論NPO代表)
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