20周年を迎える言論NPOへのメッセージ

2021年11月18日

藤崎 一郎(中曽根平和研究所理事長、元駐米大使)

 世に七不思議ありという。言論NPOにもあるだろうが、そのうち3つだけ書く。

 ひとつは、中韓という手ごわい相手と世論調査を武器に厳しい年月もつないできたことである。これは国益に大きく貢献した。

 ひとつは、シンポジウムにこれはという人を連れてくることである。現役の政治家、官僚が忙しい日程を差し繰って参じてくる。英語もしゃべらない工藤代表が世界のトップランクのシンクタンクを回ってスピーカーを連れてくる。永年語学を鍛錬してきた身から見ると「どうしちゃったんだ」という気がするくらいだ。

 ひとつは、組織の身軽さである。よくあんな数人であんな大規模な会議がアレンジできるものだと思う。たった数人のブレーンが怒涛のように集まるインターン学生を率いて会議を遺漏なく運営する。終わると、その日のうちに結果がウエブで詳細閲覧可能になる。

 20年間、工藤マジックを見せてもらった。次の20年にも期待している。

松元 崇(言論NPOアドバイザリーボード、国家公務員共済組合連合会理事長)

 「日本の民主主義を強くする」という目標を掲げて、工藤代表が言論NPOを発足させて20年。心から、お祝いを申し上げたい。

 この間、政権交代が行われ、多くの政党が政権参加の機会を持った。しかしながら、政策議論が十分に深まったかと言えば、まだまだであろう。国際的にも民主主義は、中国政府による香港の言論統制に見られるように多くの課題を抱えている。実は、言論NPOの活動も、ポピュリズムが跋扈する中で、一部ジャーナリズムからのいわれのない誹謗中傷に直面したりした。

 そのような様々な事態を乗り越えながら、言論NPOは、世界的シンクタンクである米国の外交問題評議会(CFR)が2012年に設立した世界20カ国のシンクタンク会議「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」に日本から唯一選出され、しっかりとした評価を確立している。これからも、工藤さん以下の言論NPOスタッフの一層の活躍を期待したい。日本の、そして世界の民主主義のために。

近藤 誠一(言論NPO理事、近藤文化・外交研究所代表、元文化庁長官)

 人類社会にはいま大きな危機が忍び寄っている。気候変動やパンデミック、民主主義や資本主義の綻び、そしてAIの悪用・誤用である。いずれも自ら引き起こした問題でありながら、その巨大さと複雑さ、そして短期成果主義という風潮ゆえに、政府も大企業も根本的解決策には手をつけられない。メディアも事態の表層を追うのみで、問題の本質を論じる意識に乏しい。

 いまこそ市民自ら過去の叡智と試行錯誤の成果である民主主義の価値を再認識し、社会の基盤に引き戻さねばならない。

 この問題意識を最も鋭敏にもち、活動してきたのが「言論NPO」である。時代のうねりや社会の無理解に翻弄されながらも、まっしぐらに健全な言論による社会の成熟化のために進んできた功績は大である。これからも様々な困難に立ち向かいながら活動を発展させていけるよう、人的にも財政的にも支えていかねばならない。テクノロジーの発展に目を奪われて、人間の良心を置き去りにしてはならない。

田中 弥生

 20周年おめでとうございます。

 営利企業という形態をとらず、また、資本を有しないNPO法人という形態で20年にわたり活動を続けることは大変だったと思います。

 また、当事者意識に基づいた責任ある言論空間を作るという活動は、災害救援や弱者救済のような活動とは一線を画すものですので、一般にはなかなか理解されにくいという苦労もあったかと思います。

 こうした中で、多くの人々の想いと支えがあるからこそ、20周年を迎えることができたものと思います。

 言論NPOの使命に基づけば、未だ道半ばだと思います。人々への感謝の気持ちを忘れずに、初志貫徹で突き進んでいって欲しいと思います。

松田 学(松田政策研究所代表、言論NPO監事)

現職の小泉総理(当時)を始め、政、官、財、学、メディア界など、日本の各界を代表する論者たちが勢ぞろい...20年前の言論NPO設立パーティーが昨日のことのように思い出されます。当時は、工藤代表とともに、私が属していた財務省の有力OBなど多数の方々に「日本に本格的な政策論の舞台を創りたい」と協力を求めて行脚していたものですが、運営自体は資金面の制約から常に「今が正念場」...。

 その後、様々な困難を克服して、現在では、世界的に危機に直面する民主主義を立て直していく上でも、国際社会では日本を代表する言論機関とされる存在にまで成長しました。健全な民主主義のインフラ創りは、言論NPO設立以来のミッションですが、先般の総選挙をみても、日本の未来に向けた意味ある選択肢を有権者に提示できる政治は未だに実現していません。

 今後、言論NPOが議論の場にとどまらず、現実を動かす大きな力へと育っていくよう、皆様と力を合わせていきたいと思います。

篠沢 恭助(公益財団法人資本市場研究会顧問)

 多種多様多重の情報が生み出されている中、言論NPOは20年に亘る実体験、実評価を踏まえた情報と主張と発信をしつづけています。

 多量の情報がとびかう中で、これほど貴重なものはありません。特にこれから最重要となって来る中国との情報についてその真正な価値は益々注目されるでしょう。

岡村 健司(内閣官房参与、前財務官)

 言論NPOは、有識者達が、傍観者にとどまらず当事者として、日本の針路に責任を持って発言・行動するためにローンチされたと聞いた。この20年を振り返る時、そのユニークな強みは注目に価すると思う。

 第一に、「包摂性」。官民学のコミュニティをつなぎ、分野横断的な事象を取り扱う。自分は、政府の一員の立場で、また国際経済・金融の分野から参画してきたが、ビッグピクチャーの中での意見交換に目を開かされることが常であった。

 第二に、「非組織」。組織の枠やマンデートから自由であるがゆえに、柔軟性・機動性・変化への即応性が確保される。いわゆるビューロクラシーの対極である。

 第三に、「東京からの発信」。国際社会にとって有意なメッセージを、日本発で世界に送ることに軸足を置き、実績を積み重ねてきた。これは一朝一夕にして成るものではなく、日本にとって大きなアセットである。国際社会の現場で汗をかいてきた私にとって、その思いは特に強い。

 次の10年、言論NPOの更なる前進に強い期待を寄せている。

水野 雄氏(匠総合研究所代表)

 工藤泰志代表が、"議論の力"をキーワードに、政府とは独立した非営利のシンクタンクとして「言論NPO」を創立し、「既存メディアの報道のあり方等の課題に取り組み、民主主義の機能を強化させる」という命題に尽力されてこられた姿に共感してきました。

 私の場合は、例えば「東京‐北京フォーラム」の実行委員等を務めさせていただきましたので、悪化する日中関係の将来を憂いての活動ぶりを肌感覚で実感し、また代表の真剣さも承知しています。国益を第一義に考え、日本の課題解決に対するミッションに挑み続け、その本気度にも感銘してきました。

 今では活動領域も広がり、「東京会議」を舞台に、地球規模の課題にも取り組み、国際的なオピニオン形成にも尽力されています。日本を代表する多くの知識層も理解・支援し、いつしか20年も継続されていることに敬意を表すると共に、この活動が今後も発展を遂げながら、継続されることを祈念しています。

河野 克俊(前自衛隊統合幕僚長)

 日本の安全保障環境は厳しさを増している。とりわけ米中対立が我が国の安全保障に及ぼす影響は深刻だ。本年4月の日米首脳会談で「台湾海峡の平和と安定の重要性」が明記された意味合いは大きい。日米同盟は、基本的に日本有事の際の同盟だったが、今後は地域の平和と安定を創造する同盟へと深化していくことになろう。今年3月デビッドソン前インド太平洋軍司令官は、米上院軍事委員会で「台湾への脅威は今後6年以内に明らかになる」と証言した。台湾有事は日本有事に繋がる可能性が高い。中国による台湾軍事統一を抑止する体制の整備が日米の今後の最重要課題だ。

 一方で、中国との対話も重要だ。防衛交流については、2012年の尖閣列島国有化を契機に閉ざされた。対話がなければ疑心暗鬼を生む。言論NPOは20年に渡り中国との対話を継続しており、このような厳しい状況だからこそ言論NPOの果たす役割は益々大きくなるものと思う。

小野田 治(日本安全保障戦略研究所上席研究員、元航空自衛隊空将)

 言論NPO創設20周年誠におめでとうございます。

 言論NPOの活動にお招きいただいた2012年当時は、尖閣諸島の問題で日中関係は最悪の時期でした。互いに非難の応酬で建設的な議論が困難な中で、両国の間で戦争を起こしてはならないと工藤代表は説き続けました。日中の民間外交だけでなく米国や韓国、欧州を交えた多国間の議論の場で平和と非戦を訴えて来ました。多くの外国人有識者が率直に議論を展開する場が生まれました。国会議員の積極的な参加により、より現実的な議論が展開してきました。

 こうした議論の発展と深化は、工藤代表を中核とする言論NPOのたゆまぬ創意と努力によるものだと思います。今日、我が国を取り巻く情勢は、ますます複雑性と困難性を増しています。「議論の力によって平和をもたらす」言論NPOのバイタリティ溢れる活動に今後も大いに期待しております。

河合 俊明

 言論NPO創立20周年おめでとうございます。

 民意に添いながらも人間の劣情に支配されたポピュリズムに陥らない為には、深い知性と高い倫理に裏打ちされた政治・行政が求められます。係る理想の民主主義実現の一助となるべく積極的に活動されて来られた言論NPOのこの20年の活動に敬意を表します。最近は複雑化する国際情勢下、特に各国有識者との交流、意思疎通を通した言論外交に注力され、主に中韓との関係改善に貢献されていると思います。

 しかしながら、茲許本邦に於いて公文書改竄等、「民主主義の根幹」とも言うべき「情報公開・共有」が蔑ろにされる事態が散見されます。健全な民意は正確な情報共有の上に築かれるものと思います。係る面の状況改善についても従来以上に粘り強く発言・活動して行かれる事を期待します。今後共、日本に於ける民主政治の質向上にご尽力されますようお願い申し上げます。

近藤 久洋(埼玉大学大学院人文社会科学研究科教授)

 言論NPOが2021年11月21日に創立20周年を迎えることに大変喜ばしく思います。独立した社会科学系のシンクタンクが、20年間に渡り顕著な活動を行ってきたということは、少なくとも日本においては非常に貴重なことといえます。

 言論NPOが活動の柱として重視する「日本の課題」、「世界の課題」、「北東アジアの平和」など、現在の高度に複雑な社会的課題は、一般的知識や単一の専門分野の知識があれば対処できる問題ではありません。言論NPOはまさに「言論の舞台」を提供することで、各研究分野の知識人が各分野の知見を「発散」し、学際的な提言に「収束」させることに寄与してきました。そのことで、公共政策の決定・選択に不可欠な専門的かつ広範なインプットを、政治家・官僚だけでなく、国民にも提供してきました。

 今後も、言論NPOというプラットフォームにおいて日本国内の知識人が切磋琢磨し、世界各国のシンクタンク・知識層とも連携し、政策の質的向上がなされるものと期待をしています。

和田 大樹(オオコシセキュリティコンサルタンツアドバイザー、清和大学非常勤講師)

 言論NPOの皆様、20周年おめでとうございます。

 私は地球規模課題や国際テロ問題でお世話になっております。この20年間で国際的なテロ情勢もイスラム過激派だけでなく、極右テロのグローバルな拡がりも大きな問題となり、今年夏のアフガニスタンにおけるタリバンの実権奪還が今後のテロ情勢に与える悪影響も懸念されます。

 国際政治の主軸が伝統的な安全保障に回帰していますが、テロや気候変動、感染症、貧困や経済格差などグローバルイシューは依然として多くの課題に直面しています。また、私は研究者だけでなく、民間のセキュリティコンサルティング会社にて企業の危機管理(駐在員の安全・保護、地政学リスクなど)に従事していますが、経済アクターの間でも国際政治や安全保障の知識が求められる時代になっていると強く感じます。

 言論NPOはさまざまなイシューを取り上げるだけでなく、学者や政治家などと企業人との交流がもっと盛んになる最前線のプラットフォームとしてご活躍されることを大いに期待しております。

古谷 浩一(朝日新聞論説委員)

 20周年、おめでとうございます。

 外交には、政府だけではできない領域がある。そう訴え、民間の立場から積極的な言論活動を続けてきた工藤泰志代表の問題意識に深い敬意を表したいと思います。特に隣国との複雑な関係において、言論NPOの役割とその存在感は年々、確実に高まってきているのではないでしょうか。

 様々な日本の声を海外に発信し、またその逆に他国の多様な知見を日本に伝える。今後も言論NPOの活動がさらに活発に広がっていくことを祈念します。

山岡 浩巳(フューチャー経済・金融研究所所長)

 言論NPOが20周年を迎えられた事を、心よりお慶び申し上げます。

 歴史上の大国が衰退や失敗の途を辿るとき、そこには内向・排他的傾向の強まりが共通してみられます。他民族を積極的に登用し、外の情報を熱心に収集したローマ帝国が、末期には内向きになり、情報から遮断され、滅んでいった姿は象徴的です。私がかつて勤務したIMFでも、対話自体を拒むようになった国々の経済が、破綻に突き進む姿を見てきました。

 そして今、本来ならば世界の交流と相互理解を促すはずの情報技術が、新たな分断の要因にもなっています。人々の嗜好に合わせ、データ分析やAIによって自動的に選択され提供される居心地の良い情報の中に、各人が閉じこもる傾向も強まっています。

 この中で、各国間で意見を率直にぶつけ合える関係を民の力で築く言論NPOの取り組みは、まさに時代が求めるものと感じます。これまでの活動に敬意を表すると共に、益々の発展を願っております。

前田 浩智(毎日新聞社主筆)

 民主政治のほころびが目立っています。合意過程を重要視するが故に、意思決定に時間がかかりすぎるというのが大きな欠点だというのです。

 その疑念を新型コロナウイルスとの闘いが増幅しました。米国で感染者が世界最悪となったことが象徴的に映りました。一方で、感染者が最初に確認された中国は都市封鎖や国民監視などの対策を強権政治により一気に進め、感染拡大を抑え込んでみせました。

 しかし、だからといって日本が民主政治の旗を降ろすという選択肢などないでしょう。より多くの人が参加する政治の方がより大きなエネルギーを生み出すと考えるからです。

 そこで大切になるものは国民の納得です。たとえ手間がかかっても、議論を尽くし、納得の基礎ができていれば、合意は大きな推進力を持つはずです。

 20年前、言論NPOが責任ある議論の舞台を作ろうとスタートしたのはいまのような事態を見据えていたようにも思います。その役割はさらに高まり、言論NPOにとっても、日本の民主政治にとっても、ここからが本当の正念場なのかもしれません。

 創立20周年、おめでとうございます。ますますのご奮闘、ご発展を祈念申し上げます。

伊藤 俊行(読売新聞東京本社 編集委員)

 たしか13周年か14周年か、あまり切りの良くない記念パーティーで、工藤泰志代表から突然、一言話すように「無茶ぶり」されたことがあります。

 その時、言論NPOが七転八倒しながら、ともすれば「青臭い」と切り捨てられがちな理念を掲げて活動している姿が共感を呼ぶのだという趣旨の話を、させてもらいました。

 今も組織の図体は小さく、そのくせ、やっていることは手を広げすぎではないかと心配するぐらい、国際的で野心的です。数年前と同様、「相変わらず七転八倒を続けているな」というのが、設立20周年に寄せての感想です。

 20年も続けるだけで立派です。とはいえ、どれだけ工藤さんが信念やエネルギーを持っていても、スタッフのみなさんが代表の"暴走"に付き合い、支えなければ、何一つ継続できなかったはずです。スポンサーや支援者の中にも、「やれやれ」と思いながら、青臭い理念を信じてつきあっている方もいらっしゃることでしょう。そんな「財産」を失わなければ、25周年、30周年と活動は続くことでしょう。期待を込めて、願っています。

川北 省吾(共同通信社編集委員室次長・論説委員)

 20年前に発足した「言論NPO」。一人の占者がそれを見通していた事実はあまり知られていない。

 当時、出版社で論壇誌を手掛けていた工藤泰志さんは、既成ジャーナリズムの限界を感じていた。多くの人と出会い、数々の論考を世に出してきたが、日本は政治・経済の課題解決を先送りし、一向に変わらない。

 もんもんとする日々の中、知り合いから占い師を紹介された。ジャーナリズムの対極にある占術の世界。半信半疑で会ってみると、こう告げられた。「あなたはこれから自立する局面に追い込まれます」

 「自分は何をすれば」と問い返す工藤さんに、占者は告げる。「何もしなくていい。そのうちに物語が始まる」。程なくして、その言葉が現実となる。論壇誌の休刊。出版社退社。小林陽太郎氏との出会い...。言論NPOは「天の時」を得て産声を上げたと言えるのかもしれない。

 この20年はそこから「人の和」を育み続けた歳月だったろう。心を通わせ、民主主義に水を注ぎ、平和をつくる-。粘り強い取り組みに深い敬意を表するとともに、「言論の場」を通じた「より良き市民社会の形成」に少しでも参画していければと思います。

 言論NPOのますますのご発展をお祈り申し上げます。

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