2016年、日本国民が世界的な課題に対して真剣に考えていく1年に / 田中明彦(東京大学東洋文化研究所教授)

2016年1月21日

田中明彦
(東京大学東洋文化研究所教授)


中露の行動を抑制しつつ、建設的な役割を求めることが重要

 2016年は、世界的に大きな難しい問題が登場する可能性のある年だと思います。年明け早々から北朝鮮が核実験をしました。また、アメリカでは大統領選挙が行われます。その中で、とりわけ中国やロシアのような国々が、建設的な国際秩序を作っていくことにどれだけ貢献するのかが問われています。南シナ海あるいはウクライナの問題に見られたように、ロシアや中国が地政学的な軍事行動をとる可能性も否定できません。

 他方で中東を見ると、イスラム国の問題がある中で、サウジアラビアとイランの関係が非常に悪くなっています。こうした中東問題が、今年、どのように展開していくかということが非常に大きな問題になっていると思います。

 その中で、アメリカの大統領選挙が行われるということは、世界の最も強いパワーを持っている国の方針がどうなっていくのかが非常に不透明であることを意味すると思います。一方で、中国やロシアの行動自体が問題であるのと同時に、中国やロシアを巻き込まないと、中東、あるいは北朝鮮などの問題解決の道筋が非常に探りにくい、ということです。中国やロシアに対して抑制的な行動を迫りつつ、建設的な役割も果たしてもらわないといけない。


世界の難題を前に、日本外交の実力が試される年

 このような難題がある中で、今年は日本にとって、とりわけ日本外交にとって非常に重要な年になってくると思います。今年の1月1日から日本は、国連の安全保障理事会の非常任理事国になりましたし、夏には安全保障理事会の議長国を務めなければなりません。世界全体の平和と安全の問題について責任ある行動、言動をしていかなければならないし、加えてG7サミットのホスト国でもあります。したがって、日本は今年、地球的な課題でいえば、戦争と平和に加えて、それ以外の重要な社会経済の問題、運営の問題にも積極的な役割を果たしていかなければならないと思います。さらに、昨年後半に中国や韓国との関係が改善の動きを見せた中、日中韓サミットのホスト国でもあります。

 今年、世界の難題を前にして、日本外交の実力が試される年になるのではないかと思っています。


昨年12月の慰安婦問題での日韓合意は、安倍政権にとって良い材料

 今年の7月、日本では参議院選挙が行われます。G7サミットは5月末、日中韓サミットもそれよりも前にやるということですから、おそらく今の政権の視点でいえば、これから春にかけて外交面でできる限り積極的な活動を行った上で選挙に臨みたい、というのが大きな方針になるのではないかと思います。幸いなことに、日本自身の抱えている大きな問題は、今年の世界情勢の大きなテーマというわけではありません。そうした点で見れば、外交によって選挙に大きな影響が出ることはないだろうと思います。昨年12月末に韓国との間で慰安婦問題についての合意を作ってしまったということは、安倍政権にとってみると、非常に良い材料だろうと思います。


アジアや世界に対して「日本に何ができるのか」ということを真剣に考える年に

 日本は安倍政権になる前、自国の国内政治を動かすだけで精いっぱいという状況が6年続きました。その過程で、いささか日本国民は、世界全体について考えるというより、日本自身の問題をどうするかということだけで精いっぱいだったのではないでしょうか。確かに、依然として日本経済の現状には解決しなければならない問題が数多くあるので、自国のことを考えるのは当たり前ですが、世界の国々と比べてみると、日本は比較的安定した政権が誕生し、周辺国ともそれなりに良い関係が築けています。また、依然として世界第3位の経済大国でもあります。

 ですから、やはり日本国民としても、自国の問題を超えて、北東アジア、東アジア、そして世界全体に対して「日本に何ができるのか」ということをもう少し真剣に考えていく必要があると思います。