電力危機は本当におこるのか

2011年7月27日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、スタジオに国立環境研究所の主任研究員・藤野純一さんと大和総研主席研究員・鈴木準さんをお迎えして、言論NPOのスタジオで収録された地球環境産業技術研究機構研究所長の山地さん・京都大学大学院教授の松下さん・東北大学教授の明日香さん、3人の議論を元に、原発停止による電力危機問題について議論しました。
ゲスト:藤野純一氏 (国立環境研究所 主任研究員)
    鈴木準氏 (大和総研 主席研究員) 

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年7月27日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


電力危機は本当におこるのか

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語るON THE WAY ジャーナル。毎週水曜日は私、言論NPO代表の工藤泰志が担当します。

 先週は、原発の安全性と電力の安定供給がどう両立するかという問題を取り上げたのですが、その後、政府は原発の再稼働の判断を、欧米で行われているストレステストをもとに2段階で評価を行うということで、一応の統一見解を出しました。
 統一見解を出したということは、その前に海江田経産大臣が違う発言をしていたり、つまり政府の足並みが乱れていたのですが、そこを何とかこの方針で統一したということです。
 ただ非常に気になっているのは、こういう原発の安全性とか、電力の問題でも、国民が考えられるような具体的な情報とか、政府がこういうことをきちっとやるということが、なかなか伝わってきません。何となく曖昧なまま事実だけが進んでいる。このままだったら、原発の安全性や電力供給の問題をどう解決するべきか、という議論の答えを出せないまま、原発は全国に54基あるのですが、来年の5月には全部ストップしてしまうのではないか、ということまで言われているわけです。

 そこから、電力危機が起こるのではないかという議論になってきているのですが、今週と来週は、この問題をきちっと冷静に考えてみたいということで、2人のゲストにスタジオに来て頂いています。大和総研の主席研究員の鈴木準さんと、国立環境研究所主任研究員の藤野純一さんです。鈴木さん、藤野さん、宜しくお願いします。

一同:宜しくお願いします。

工藤:今、54基ある原発のうち、今点検中とか、トラブルがあったりして、今17基しか稼働していないわけです。それが、またどんどん点検に入ってしまう。原発は、日本の電力供給の3割くらいを占めていますので、少なくとも原発が全部無くなってしまうと、大変な事態になるということは、数字上でも計算できます。さて、こういう問題について、藤野さんと鈴木さんはどういう風に思っているのでしょうか。政府のこういう問題への進め方と、電力危機が本当に起こるのかということで、藤野さんからどうでしょうか。


数字上は厳しいが、詳細なデータの公開を

藤野:はい。データの出方が一方的過ぎて、足りるという人もいれば、足りないという人もいる。政府は突然足りると言ってみたりする。一方で経済産業省のデータを見ると、そこでは足りないと言っている。そういった混乱の中で、どういう風に判断したら良いかというのは、本当に国民も困っていると思います。そのような中で、まずは共通となるデータ自体を政府がきちんと出す必要があるというのと、それの読み方についても、共通の見解はある程度そろえておかないと、同じデータを見ても足りると思う人もいれば、足りないと思う人もいますから、そこの見方を整理しないといけないと思っています。

工藤:ただなんとなくですが、原発分の3割がなくなるとかなり厳しくなりませんか。

藤野:正直、かなり厳しくなると思います。例えば、自家発電とか、または共同火力ですね。こちらの方を含めてやれば足りるという方もいます。確かにボリュームを全部足し合わせたら、足りるかもしれません。しかし、それがちゃんと、一機一機が系統につながるかどうか、今はそれほど動いていない発電所がちゃんと80とか100%で動かし続けられるのだろうかとか、そういう想定も含めていくと、色々な場合によって変わってくるのです。それの見方をそろえないと、足りる、足りないというのは分からないです。

工藤:大和総研はこの前、きちっとしたシミュレーションを出していました。今の原発の安全性の点から、原発の稼働は不透明になっているのですが、その中で電力危機は起こりうるのか、ということについては、どのような結論だったのでしょうか。鈴木さん。


なぜ電力危機の見通しは差が出るのか

鈴木:電力不足が起きるかどうかの結論を申し上げる前に、電力不足の定義、電力危機とは何なのか、ということが混乱していると思います。先程、藤野さんがおっしゃったように、まずデータがないとよく分からないということではあるのですが、火力発電1つにしても、稼働率を一体どこまで上げられるかという想定によって、供給力が大きく変わってきてしまいます。それから、電力需給のひっ迫は地域差が非常に大きい問題ですので、電力事業者間でどれくらい電力を融通できるのか。実際に送電線があっても、技術的にみて安定的な融通がどれくらいできるのかについては、実は十分な情報がありません。こういった点で、電力供給側の見通しにかなりばらつきがあるのだと思います。
 それから、電力の需要側について、私、とても不思議だと思うのは、電力料金が上がるのは負担だけれども、節電は負担ではないという雰囲気があることです。しかし、節電とか、生産のピークシフトは、色々なコストをかけてやらないといけないですし、経済に色々なストレスを与えますよね。我々が行ったシミュレーションでは、需要をとりあえずは一定として、厳しめに電力不足の影響を見ました。電力供給不足に対して、需要側で現実的にはどのような対応ができるのか。需要側で十分な対応ができるというふうな前提としてしまうと、危機は起こらないという結論にもなってしまいます。電力危機が起きるかどうか、需要と供給両方の中身を明らかにして議論する必要があると思います。

工藤:はい、分かりました。実を言うと私たちの、言論NPOでも、この問題をかなり議論していまして、先日、日本のエネルギー政策で非常に代表的な論者である、地球環境産業技術研究機構の山地憲治さんという研究所長さんと、東北大の明日香壽川さんと、京都大学の松下和夫さんと、3人で議論してみました。ただその議論の中でも、やはり意見が分かれてしまうわけです。何で意見がこうも分かれるのか、それを皆さんと議論する前に、この3氏の議論のポイントだけ聞いてみたいと思います。


先の言論スタジオでも識者の見方は分かれた

山地:今までは、東京電力、東北電力という東日本が問題でしたが、色々な企業が東から西に移動したり、また節電努力で需要そのものが低下しているので、今年の夏は何とかなりそうです。しかし、今度のように、定期検査に入ったらもう立ち上がれないっていう状況になると、最悪の場合、来年の5月末くらいまでにぜんぶ止まってしまうかもしれません。そうすると、問題は全国レベルの話になり、一番厳しいのは来年の夏です。日本全国で電力不足が起こるので、石油、天然ガス、石炭という火力発電所を動かさざるをえないでしょう。するとまず、値段が上がります。それから、供給の不安定さが増し、信頼度が落ちます。そういう中で、家庭も大変だけど、東から西に逃げていった産業が、今度は日本の中から外に逃げていくのではないか。それが一番心配です。

明日香:原発が止まった時に電力がどうなるかということなのですが、物理的には、電気は届くことになると思います。というのは、設備容量というものでは、火力発電所がありますし、今まで計算していなかった、揚水発電所なり、自家発電もある。プラス、省エネが10%、15%くらいいけば、少なくとも夏場の数日を除いて、供給は問題ないのかなと思います。そういうような議論は、アエラという雑誌にも載っていました。ただその時に、どういう風な経済的なインパクトが国民、国民にも色々な人がいますので、家庭なり、企業に影響を与えるのか、ということになると思います。で、家庭に関してはいくつか計算があるのですが、平均家庭の1カ月の電気料金は6000円ぐらいなのですが、そのうち一番高いところですと1000円くらい上がるという計算をしています。その計算はおかしいという別の計算もありまして、まあ100円ぐらいではないか、というような計算もあります。そこは、その計算の前提はどうなっているかとか、その辺りをクリアにしないといけないのかなと思います。

山地:来年の夏は、最悪、原発が全然動いてないという状態ですよね。そうすると、明日香さんは楽観的に言ったけど、僕はキロワットね、設備容量的にもバランスがとれないと思いますね。大体、供給力というものは、ギリギリあればいいというものではないのですよ。供給力は予備率を持っている必要があり、それも大体8%くらい持っているのが健全なのです。ぴったり合ったから間に合うと言っているのは危険です。つまり機械は故障するのです。これから緊急に立ち上げる火力発電所というのは、今まであまり長い間動かしてないものを今から動かしますから、関西電力でもありましたけど、ある程度の故障というのは常に勘案して、それでも供給力を維持していく必要があるわけです。

 それから自家発電から調達すると言っていますが、自家発電も最近の燃料費上昇で動かしていなくて、そんなに簡単ではないと思います。東京だけではなくて、他の地域、特に原子力の比率の高い関西電力、九州とか四国かな、その辺りは電事法(電気事業法)の27条を発動しないといけないぐらいの状況に追い込まれるかもしれません。

工藤:27条というのは使用制限ですか。

山地:使用制限です。そうじゃないと、電力会社自身の責任になってしまいます。それと、コスト上昇については色んな試算があるのですけど、原子力が全部止まって火力で代替するとして、燃料費の安い順番でいくと、石炭、LNG、石油という順で動かすのですが、エネルギー経済研究所が計算したところによると、原子力が全然動かないと、多分3兆円くらいかかるということです。電力全体の売り上げは、年間15兆円です。で、3兆円増ですから、5分の1、20%くらい上がることになります。

松下:さきほど、来年の夏が一番厳しいということに関してですが、非常に厳しいという前提としていわれているのが、最大需要ですね。非常に高く見積もっているという面もあるかもしれません。それから、もう1つが、省エネルギーがどこまでできるか、それから再生可能エネルギーをどこまで拡大できるか。それから、代替となる火力発電の稼働率自体はまだ余裕があるわけですから、その中で、できるだけ気候変動に対する影響が小さいLNGが増えるように、政策的に誘導するということで、状況は非常に厳しいと思うのですが、政策として取るべきものはいくつかあるわけですね。現在やっている省エネをさらに制度化することとか、再生可能エネルギーを拡大する法律制度を導入するだとか。それからLNGなどを活用できる仕組みをつくっていく。そういうことが必要だと思います。安全性については、これから大いに議論が必要だと思います。

工藤:今の話は、政策としてやることがあるという話なのですが、例えばもう来年原発が止まるということを前提にして、政策的にこういうことができるという風に、政府が腹を固めている状況とは思えませんよね。

山地:全然、そうは思えません。どうなっていくのが分からないから、みんな不安に思うわけですね。
 止まると決まったら、コストはともかく、答えは出るでしょう。需要を下げて供給量をできるだけ確保していくということです。


工藤:今3人の方に発言してもらったのですけれども、この3人で一番厳しいというか、来年の夏が最も厳しいと言ったのが山地さんで、最も楽観的に言っていたのが、先週この番組に出ていただいた明日香さんで、そして真ん中の議論が松下さんということになりました。ただ、さっきも話が出ていたのですが、確かに数字というか、信頼できる情報がなかなか伝わらない中で、それを分析するというのは難しいのですが、ただ、私も色々なシミュレーションを見てみたのですが、始めに結論ありきのシミュレーションが多いのですね。つまり原発は再開したくないとか、原発を止めてしまうと大変だとか。ただ、その中で予測の強弱があったり、影響の規模の違いがある。

 ただ、多くの予測で共通していることもあって、少なくとも、まず省エネ努力が徹底的に必要で、そうしないと電力危機は起こってしまうのではないかと。それから、代替エネルギーとして火力発電を当面使うしかないので、電力コストが上がると。それから、地球温暖化の問題では、CO2の排出が当面はやはり増えてしまうだろうと。そういうことがあるという状況なのですが、今の話を聞いて、藤野さんはどういう風に思いましたか。


プランニングは最悪のケースを想定すべき

藤野:まず、一番厳しいことを想定したプランニングをすべきだと思います。それも地域別にきちんと見ていく。やはり東北とか、東京は厳しくなると思いますし、関西もやはり相当厳しくなると思います。それを大前提にしながら、省エネがより進んだら、それは楽になりますし、それを何段階か考えないといけないのではないかなと思います。

工藤:大和総研はこの前、かなり詳細な分析を発表していたのですが、ここで結局、電力危機という点で、結論はどういうことになったのでしょうか。

鈴木:この問題を保守的に評価するために節電等は考慮せず、まず需要は一定と想定しました。そして、供給側の悲観シナリオは、原発がすべて止まってしまうという前提です。それで火力発電を目一杯やっていきます。それで計算をすると、やはり電力不足が大規模に起きてしまいます。不足が起きると、その分だけ生産ができません。生産しないと所得が増えませんし、輸出ができないし、消費ができないということが、経済全体として起きます。ですから、不足といっても、ブラック・アウト(停電)が起きるというのではなく、生産や所得を縮小させることで、電力需給を一致させることになります。火力発電のフル稼働で、化石燃料分CO2の排出が増えるわけですが、一方で経済が縮小することで減る面も出てきます。結論として、経済全体が非常に悪い状態になり得る。当然、化石燃料の輸入増で電力料金が上がってきますから、これによっても産業が影響を受けて、非常に難しい状況になる。

他方、楽観シナリオでは、原発の再稼働に加えて、再生可能エネルギーを大規模に入れていく想定です。ただ、実は再生可能エネルギー拡大の場合も、Feed in Tariff(固定買取価格制度)の形で、コストが増えていき、楽観シナリオでも電力料金は上がっていきます。ただし、再生可能エネルギーの導入は、経済的には新しい需要として効いていくことになります。私たちのシナリオは一例ですが、そうした楽観シナリオ、悲観シナリオを評価して、どういうやり方がいいのかということを数字で議論するべきだと思います。

工藤:楽観シナリオのときと悲観シナリオの違いというのは、再生可能エネルギーを戦略的に前倒しでやっていることの違いですか。

鈴木:楽観シナリオはそれをやっていくということですが、なにしろ原発が全部止まってしまうというのが、悲観シナリオのポイントです。楽観シナリオでの原発は、40年たったものは廃炉にしていくと想定していますが、それまでは...

工藤:まだ続いているわけですね。少しは。

鈴木:はい。点検後の原発を耐用年数を迎えるまでは動かしていくということです。2020年時点で20基くらいは動いているというのが楽観シナリオですね。


原発が一気に止まるのは悲観シナリオ

工藤:すると、来年のように一気に止まってしまうみたいな状況は、悲観シナリオなわけですね。

鈴木:そうです。
工藤:すると、かなり厳しい事態がずっと続いていくという...

鈴木:今、2012年度の経済成長率は3%くらいに上ブレするだろうという見通しが世の中に多いのですが、それは電力不足問題が顕在化してしまうリスクを考えると、ちょっと楽観的すぎると思っています。

工藤:なるほど。そうすると、そういう風に悲観的にならなくなるためには、原発を一気に全面的に止めるのを回避した方がいいということになってしまうのですか。

鈴木:もちろん原発の安全性の確保を徹底的にやるということや、ストレステストをきちんとやるということは、当たり前なのですけれども...

工藤:そうすると、次に、安全性の確認ができない限りは絶対再開できませんよね。ここのあたりの解をどういう風に構成すればよいのですか。藤野さんいかがですか。

藤野:何でストレステストなのか。
工藤:そうなのです。


原発の安全性はどう判断するのか

藤野:その辺りについて、やはり原子力のプロが今こそ自信を持って、どれくらいのリスクがあるかをきちんと国民に伝えながら、それをやって、危険度の枠を一つずつ外していく。もし、運転できるものは、やはり使えるものですから、使っていく方向も考えていく。幅広い中で選べばいいと思うのですけど、今は幅がなくなりすぎてしまっていて、または賛成か反対かの二元論になってしまっているので、冷静に選べない。それは、我々を不幸にしてしまうのではないかなと思います。

工藤:確かに今言っている話は僕もそう思っています。何でストレステストなのか。やはり、それぞれの原発において、安全性をチェックするための、それぞれの課題があると思うのです。それは福島原発だったら耐震性の問題で、揺れに対してどうだったのかとか、現実的には全然何もデータが出てきてない状況ですよね。津波だけが事故の原因になっているままです。本当に国民が安心するというのは、そういう原因に基づいたチェックをしていって、当面は大丈夫だと。その上で、皆が納得するかどうか。ただ、それにしても、これからも新規を作るかどうかというのは、また別の問題です。そこはまた議論しなくてはいけないということで、国民がきちんと議論するためには、まだまだ材料不足な状況なわけです。それが今の状況を招いていると思います。

 この話をさらに続けなければいけないので、次回この話を継続しながら、最終的に原発という問題と、電力安定供給というものが、本当に可能なのか。そこに地球温暖化の問題もあるのですが、そうことについて議論を進めていきたいと思います。
 今日は国立環境研究所主任研究員の藤野純一さんと、大和総研主席研究員の鈴木準さんにスタジオに来て頂きました。今日はどうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。