中間層・良識層の言論を育成し、 民主主義の根幹に据えていくことが重要 / 明石康(国際文化会館理事長、元国連事務次長)

2016年1月01日

明石 康
(国際文化会館理事長、元国連事務次長)


「回顧の年」を経て、周辺国との関係改善を進めていくことに期待

 2016年がどういう年になるか。2015年は、ある意味で戦後70年の回顧の年でした。安倍談話が8月14日に出て、いろんな評価がありましたが、私は、バランスの取れた、まじめな良い談話であったと思うし、基本的には日本の外交がその線で展開していると思います。
日韓関係は、今回の外相会談をもって結果が出るかもしれませんが、周辺国との関係改善を着々と遂げることが期待されていると思います。


外向きの姿勢を維持し、「積極的平和主義」を実践できるかが問われる

 2016年という年は、日本が国連に加盟してから60年の節目の年にあたります。そういう意味で、日本のバイ(二国間)の外交、日中、日韓、日米その他の外交が問われているというほかに、日本の世界的な姿勢がどのように展開するか。安倍さんは、「積極的平和主義」でいくと言っていますが、安保法制の採択にしても、実際にその内容が実施される年です。しかし、今年は参議院選挙が目前に迫っているということもあって、安保法制で示された積極的姿勢がまた国内志向に縮まりそうな側面があり、私も少し心配しています。

 例えば、南スーダンでのPKOにおける駆けつけ警護の問題に関して、自衛隊の人たちもリスクを懸念する傾向が出てきているらしい、ということがあります。外向きの、グローバルで積極的な姿勢を日本が維持できないならば、日本が目指している安保理改革もできなくなってしまいます。習近平主席は「中国はPKOに常時3000名の中国兵を出す」という声明を出しました。日本はやっと南スーダンに300人を出しているのが関の山です。これから状況が非常に難しくなってきた場合、もしかしたら、増加させるどころか、減少もしくは撤退させることになりかねません。そういう意味での、日本の積極的平和主義の鼎の軽重が問われる年になる可能性があると思います。


「言論外交」が更に重要になる1年に

 日本では、党派性の強い、右と左のイデオロギー的な争いが激しくなっていくでしょう。世界でも、特にISの問題、テロの問題で、例えばヨーロッパの団結が崩れかかっていますし、アメリカもまた、空軍力の投入を唱えているばかりで、地上軍の投入となると、オバマ政権も二の足を踏んで内向きになってしまっています。そのように、国内的にも国際的にも、世論が乱れに乱れています。

 今、日本に最も必要なのは、右でも左でもない中道的な見方です。情報過多の時代において不足しているのは、情報ではなく、きちんとした分析です。それを持っている中間層、良識層の言論を育成し、それを民主主義の根幹に置いて考えようではないかという思考が、ますます日本にとって大変貴重なものになりえます。

 最近はメディア批判も行われていますが、これは必ずしも不当な批判ではありません。メディア自身も鼎の軽重を問われているし、それに対する一つのオルタナティブ、打開策としてますます重要性を示すのが、言論NPOが行おうとしている言論外交、公共外交というものであると考えられます。それに基づいた重層的な市民の言動が日本の中核に位置し、積極的な役割を果たしうるのかどうか、それが注目される、そんな年になるのではないでしょうか。