【インタビュー】加藤秀樹氏 道路公団民営化論議を問う

2002年9月06日

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言論NPO代表・工藤泰志

言論NPOのウェブサイトは一ヶ月余り更新を中断していた。これまでのウェブ論争をより双方向の意見の場にするために、システム見直しの準備をしていたからだ。

新しいウェブサイトは私の問題提起などに会員が回答や論点を提起し、議論が建設的に発展するような形をとるようにした。これまでのように議論の成果物の一部だけを公開するのではなく議論の形成過程をできるだけ公開し、会員間の議論をより多く紹介するようにしたい。それが、今回のウェブサイト見直しの狙いである。

ウェブサイトの全面的な見直しは11月中旬になる。だが、それを待てないような状況に今の日本は追い込まれている。この間、株価は大きく下がり、経済の先行きはかなり厳しいものとなっている。それにも関わらず、政府の経済運営のクレディビリティ(信頼性)は著しく低いものになり、むしろペイオフ解禁の凍結などこれまでの政策を見直す議論だけが目に付くようになった。

この間、マスコミが大きく取り上げたのは、道路公団の民営化論議だったが、8月30日の「道路関係四公団民営化推進委員会」の中間整理に見られるように、民営化の目処は依然立っていない。しかも高速道路の問題はその処理だけではなく、戦後の高度成長期に進められた公共投資のあり方の全般的な見直し、国と地方の関係も含む将来の日本のシステム設計の見直しなどの大きな論点を含みながら、そうした論点の深化はなされず、道路公団の処理を巡って対立だけが浮き彫りになっている。

こうした問題に我々は次々に取り組み、議論を進めることにした。

道路公団の民営化論議に対する私の基本的な問題意識は(1)日本の高速道路はシビルミニマムを80年までに達成しており、それ以降は、経済採算性を担保されない道路は建設すべきではないこと、つまりその後始末とギアチェンジを進めるために民営化問題があること、(2)今後の道路建設、公共投資のあり方についてはこれからの日本が人口減少と長期的な低成長になることを考慮し、そうした日本のシステムの抜本的な見直し、将来的なビジョンの形成の中で再検討すべきであり、その判断は地方への財源、権限の移譲を始めとした地方分権の中で地方に任せるべきであること。つまり生活者の視点からの抜本的な見直しであり、税金で建設すべき、というものである。

この議論を進めるために、まず前者については、これまで道路公団問題で提言を行なってきた「構想日本」の加藤秀樹代表に先の中間整理に対する見解を伺うことにし、また後者については、9月2日に言論NPOの4氏で論点整理したうえで、9月6日には、三重県北川正恭、鳥取県片山善博、岩手県増田寛也、和歌山県木村良樹の4知事と「道路問題を考える知事座談会」を行い、我々の考えをぶつけた。

この具体的な内容については、来週中に公開したい。

加藤秀樹氏の意見は以下の通り。

工藤 今回の道路関係四公団民営化推進委員会の中間取りまとめを、どういうふうにみていますか。

加藤 マスコミ風に言うと、0点。

工藤 0点というのは。

加藤 まぁ、0点じゃなくても、可能性を考えると、10点くらいつけておいてもいいかもしれない。ただその10 点というのは、もっとよく出来る可能性があるというだけで、そんなものなら別にあの案からではなくてもいい。今の公団からあの案に行って、それを良くする作業よりは、今の案を撤回して、ゼロからスタートするほうがはるかにいいものが出来ると思う。でもあまりそんなことを言っても始まらないから、もう少し頑張って、何とか押し返す。その押し返す余地は、まだ、ゼロではないなという意味で10点ぐらいつけておいてもいいかな、という具合です。

工藤 それはどうしてですか。

加藤 先の中間整理では、民営化します、国民負担はありません、道路は凍結します、これがスローガンです。こうしたスローガンは、問題意識のある人なら誰も反対しない。ただ、そのスローガンを実現するための中身作りの議論をしてきたのに、そのスローガンばかりが走って、そのスローガンを実現するための中身に全くなっていない。つまり、この3つの中身がどれも、残念ながら今のままでは実現しない、ということです。

工藤 もう少し具体的に言っていただけますか。

加藤 中間整理の最大の問題は「保有・債務返済機構」の創設にあります。その実態は、現在の4公団を統合し、新たに巨大な「公団」を新設することにほかならない、公団改革の名に値しないものです。とくに、賃貸料を建設資金に回すスキームは、本来目指すべき債務の早期返済を妨げ、不採算路線の建設続行に道を開くものです。

このスキームでは、小泉総理が言う「上場」は未来永劫望むべくもなく、市場のチェックが働かないまま、野放図な建設が続けられる恐れが強いと言わざるを得ないでしょう。

それから、中間整理では国民負担なしとしていますが、この概念も不明確です。まず国民負担とは何かということをはっきり言わないといけない。「税金を投入するかしないか」ということで言えば、「投入しない」ということを言ってるにすぎないわけです。ではその半面で、「固定資産税を払わなくて済むように」とか言ってるけれども、固定資産税を払わないということ自体が、逆の面から見て、もうすでに、その分の補助金を与えられているというようなもの。それはもう国民負担そのものです。これは結局、金融機関の不良債権と同じで、最初の後出しで債務がどんどん膨らんでくるという状況に必ずなるわけですよ。そういう意味では、現実の国民負担というのと変わらないわけです。必ず後から、国民の目に見える形での負担というのが増えてくるし、そしてさらに長期的には、そうやって破綻の処理が後になればなるほど、実際の国民負担総額も増えてくるわけです。

工藤 先の中間整理では、本当に民営会社が実現化するのか、まだよくみえない。国の計画に基づく建設続行のスキームも残っているし、「機構」が負債を返済しつつ投資資金を生み出せるということも、今の膨大な負債額を考えると疑問です。

加藤 新たな建設をやるか、やめるのかというのは、結局市場で評価されるしっかりした民営会社をつくるしかないですね。今までは国があと2300キロ造るかを国が一方的に命令してきたわけです。民営会社になら、その採算も自分で判断できるわけです。上場できるかどうかは別にして、とにかく上場を目指した会社にしていく。そのためにはその懐具合をきちんと把握していないと話は始まらない。

例えて言えば、ある1億円の企業が、5億円ぐらいは借金を持っていても会社としてやっていける、としましょう。ところが今は、1億円の企業が、20 億円の借金を抱えているという、そういう状況なんです。そうしたら、15億円分は、とりあえずどこかに棚上げにして、それはある程度長期的に返していいよ、と。その間、若干、税金とか金利は負けてやってもいいよ、という仕組みを作らなければいけないわけですよ。その「負けてやってもいいよ」ということが「国民負担」なわけです。今言われている国民負担は何か、という定義は、そういう意味ではちゃんと行われていない。とにかく一生懸命やって、そこで稼いだものを返していく。それを何十年かで返していく、そのスキームをどうするのか。それもはっきりしていない。今の仕組みというのは、何年間で返済するというのもないし、今の15億円の切り分けもしてないわけですよ。全部丸ごと返すし、国が全部、資産を管理ですよ。資産、負債を分けて、負債の中の切り分けをしてないわけです。切り分ける所を切り分けずに、切り分けるべきでない所を分けてしまっている。

工藤 民営化推進委員会の議論の進め方についてはどうですか。

加藤 今回の中間整理を見ると、委員会での十分な審議を経て、集約されたものではないのではないかという疑念をもちます。

たとえば、中間整理の「2 基本認識 (4)厳しい財務状況」では、川本委員指導による試算結果を踏まえて、「道路四公団の財務状況は、...企業として存立していく上では極めて厳しい...」と指摘しています。

ところが、一方猪瀬委員によって最終的に追加されたとされる「1 改革の意義と目的」では、「...収益性の高い日本道路公団のみを超優良な民営会社として再生させる...」と述べていて、財務状況の認識において、明らかに「2 基本認識 (4)厳しい財務状況」と矛盾しています。

委員会では、「2 基本認識 (4)厳しい財務状況」に書かれた財務分析、試算結果を踏まえて、さらに幅広く議論を尽くすべきだと考えます。

 道路公団の民営化論議に対する私の基本的な問題意識は(1)日本の高速道路はシビルミニマムを80年までに達成しており、それ以降は、経済採算性を担保されない道路は建設すべきではないこと、つまりその後始末とギアチェンジを進めるために民営化問題があること、