「日本の知事に何が問われているのか」/松沢神奈川県知事

2007年11月24日

071028_kanagawa.jpg松沢成文(神奈川県知事)
まつざわ・しげふみ
1958(昭和33)年、神奈川県川崎市に生まれる。1982(昭和57)年、慶應義塾大学法学部卒業後、松下政経塾に入塾。1984(昭和59)年、米国ワシントンD.C.にて、ベバリー・バイロン連邦下院議員のスタッフとして活動。1987(昭和62)年、神奈川県議会議員に初当選。1991(平成3年)年、同2期目当選。1993(平成5)年、衆議院議員選に初当選。1996(平成8)年、同2期目当選。2000(平成12)年、同3期目当選。 2003(平成15)年、神奈川県知事に就任。2007(平成19)年、同2期目就任。[主な著書]「破天荒力-箱根に命を吹き込んだ「奇妙人」たち」(講談社)「インベスト神奈川-企業誘致への果敢なる挑戦」(日刊工業新聞社)「拝啓 小沢一郎殿 小泉純一郎殿」(ごま書房)「知事激走13万㎞!現地現場主義-対話から政策へ」(ぎょうせい)「実践 ザ・ローカル・マニフェスト」(東信堂)「僕は代議士一年生」(講談社)

第4話 首長の多選制限を条例で

 私は首長の多選禁止論者です。20年近く前から主張しています。大きな自治体の長には権力が集中します。予算権、人事権、許認可権、政策決定権。権力が1人に集中すると、長い間には必ず腐敗します。多選を制限しようというのは、民主主義の国ではみんな考えることです。日本はその発想があまりなかった。でも、平成19年5月、総務省の「首長の多選問題に関する調査研究会」から、多選制限は「必ずしも憲法に反するものとは言えない」という報告が出ました。

 この問題に関し、今、全国の知事の意見は3つに割れています。1つは、絶対そんな制限は要らない、選挙で有権者が選べばいいのだからという意見。有権者がいいと言えば、5期も6期もやっていい、選挙でチェックすればいいのだという制限反対論ですね。もう1つは、多選禁止論。その中には、やるなら国で全国一律にやってもらった方がいいという意見がありますが、私は法律で全国一律にやるというのには絶対反対です。私は多選制限論者ですが、地方が自ら政治の仕組みを考えて、必要があればそれを条例でできるようにするというのが地方分権ですから、条例で多選制限ができるよう、地方自治法と公職選挙法を改正してくれという運動を今やっているのです。

 自民党は参議院選挙の公約に全国一律による3期12年の多選制限を掲げましたから、私は全国の知事さんに対し、「このまま私たちが何にも闘わず、手をこまねいていれば、全国一律に3期12年の制限が制度化されてしまいますよ。それでいいんですか。地方の自立と言うのなら、そんなのは許さないと、今闘わないでどうするんですか」と言っているんですけれども、反応は鈍いですね。

 東京とか、神奈川、大阪のように大きな自治体は、首長の権力が長期化すると、様々な腐敗につながる恐れがあります。選挙の自由はあっても、3期12年やれば十分じゃないですか。やはり定期的に政権交代があった方がいいわけです。

マニフェスト評価は県民を政治に近づける

 広域自治体の長である知事は、市民との接点が少ないものです。最近はメディアによく出る知事も出てきているので、知事のイメージが伝わるようになりましたが、やはり都道府県というのは多くの市民には理解しにくいものでしょう。「中二階」と言われたりする中間自治体だからです。自分の県の知事の名前を知らないという県民も少なくないかもしれません。市町村長の場合は市民に近いです。市民に直接訴えて1つの世論をつくって改革を進めようとしても、県では市民との接点が少ないために、市民の皆さんも一緒に動いていただくような改革の進め方はなかなかできません。

 これは知事の動き方やスタンスにも原因があったと思います。これまでの知事は、県庁から出掛けるというと、行き先の多くは霞が関の中央官庁でした。交付税を減らさないでくれとか、補助金をつけてくれと霞が関に陳情することが主な仕事になっていたわけです。事務次官を回って、あるいは国会議員を回って、それでうまく仕事やお金を中央から引っ張ってくるというのが知事の仕事でした。そうした知事像を変えなければだめです。つまり出て行く方向を変えることです。県庁を出たら県民のもとに向かう。「現地現場主義」の徹底が肝心です。県民の皆さんとの間に、「知事が自分たちのところに来て、自分たちと一緒にこの地域の将来を考えている」「あの知事だったら文句も言える」というくらいの関係を築いていかないと、都道府県の改革というのはなかなか進まないと思うのです。

 私のもう1つの県民とのコミュニケーションの仕組みが「マニフェスト」なんです。マニフェストは政策の情報公開です。今までの政治は美辞麗句だけを言っていました。票がふえるような政策ばかりを並べる。選挙のときに、財政は厳しいのに増税は絶対言わない。増税を言ったら負けると思うからです。私のように増税(水源環境税の導入)をマニフェストに掲げた知事候補者は珍しいと言われました。しかし、有権者におもねるようなリップサービスで選挙をして、当選後にやることは全然違うというようでは、政治に対する信頼が生まれません。

 政治・行政の改革を本気で進めるために、私は、まず選挙のやり方から変えることしました。それがマニフェストです。当選後に実行することをすべてパッケージにして、検証可能な具体的な政策として公表し、有権者と約束する。当選後は、毎年、外部の評価機関からチェックしてもらい、自分自身の自己評価も実施し、それらをマスコミに公表して、県民のチェックも受ける。私は横浜国立大学の小池治教授にお願いして、「松沢マニフェスト進捗評価委員会」を結成していただきました。委員は小池教授が指名された学識経験者が5名と公募で選ばれた県民委員が6名です。中立性を保つために、私は一切審議には関わりませんし、すべての審議はマスコミに完全にオープンです。この委員会のほかにも、北川正恭教授(前三重県知事、早稲田大学マニフェスト研究所所長)や、東京のNPOにも私のマニフェストを評価していただきました。

 こうした評価結果を毎年公表することによって、県民は自分が選んだ知事がどこまで成果を出したか、マニフェストの政策はどこまで進んでいるのか、この辺はまだ遅れているなとわかる。また、知事も遅れている政策を確認し、なぜ遅れているのかを検証し、翌年には一層進めるために対策を講じ、改善することができる。
 
 こうして毎年、マニフェストの評価を通じて有権者と知事がキャッチボールしながら改革を進めていく。有権者には、知事がきちんと政策を進めているかをしっかりチェックしてもらう。知事は、必死になってマニフェスト実現のために努力をする。そうしたインセンティブが、県民にも知事にも働くわけです。このようにマニフェストは県民に政治を近づけるツールなのです。

 この4年間でマニフェストはかなり浸透してきました。今後、大切なのはこうした「マニフェスト評価」や「マニフェスト・サイクル」の実践だと思います。

 それから、選挙のときには「公開討論会」を必ず開催することが大切です。マニフェストを掲げた候補者が、お互いのマニフェストを踏まえて、公開のディベートをするのです。それで、どのマニフェストが一番評価に耐え得るのか、どの候補者が最も信頼がおけるのか、県民のためになるのかを有権者に比べてもらう公開の機会が必要なのです。私は、公開討論会を法律や条例に定めて、選挙管理委員会が主催し、候補者の義務としてもいいと考えています。

全4話はこちらから

 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
 現在の発言者は松沢神奈川県知事です。

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