日本の政党、こんな状況で本当にいいの?

2010年12月01日

 放送第9回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、自民党政調会長・石破茂さんのインタビューを交え、財政破綻・社会保障の問題など山積する日本の状況について、政治的側面から考えました。
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「ON THE WAY ジャーナル
     工藤泰志 言論のNPO」
―日本の政党、こんな状況で本当にいいの?

 
(2010年12月1日放送分 20分1秒)

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「日本の政党、こんな状況で本当にいいの?」

工藤: おはようございます。ON THE WAY ジャーナル水曜日、言論NPO代表の工藤泰志です。さて、今回も私がインタビューをしてきましたので、そちらを聞きながら話を進めていきたいと思っています。

 今日のテーマは「日本の政党、こんな状況で本当にいいの?」です。今回、私が会ってきたのは、自民党政調会長の石破茂さんです。

 この間、私が特に気になっていたのが、財政破綻とか、社会保障とか、日本が取り組まなければいけない課題がたくさんあるのに、日本の政治はなぜそれに向かっていかないのか、なぜ課題解決ができないのかということなのですね。そこの中には政党のガバナンスが崩れているという大きな問題があると思うのですね。つまり政党は形では1つにまとまっているけれども中身はばらばらで、しかも政党として日本の未来を競い合えないという状況があると思うのですね。そこで、今日はこの政党の問題を考えたいと思います。

 石破さんは自民党の政調会長なのですが、別に自民党だから彼に会ってきたのではありません。実は石破さんが昔、今の日本の状況は政界再編に向かう過渡期にあると言っていたことが、すごく頭に残っていたんですね。そこで石破さんになら、日本の政党がなぜだめなのか、ということを話していただけると思ったのですね。では石破さんの話をさっそく聞いてみたいと思います。


政党のガバナンスは機能していない

工藤: 僕たちはNPOなのですが、僕たちですらミッションを支援者にきちんと語って、それに基づいて活動の成果が評価されて、それから中立性とか何かを証明するために事後評価をして、すごいガバナンスで苦労してやっているのですけど、政党はある意味でNPOなのですが、そういう経営のガバナンスと政策のガバナンスなのですが、機能していないのではないかという気がするのですが。

石破: していません。
工藤: ですよね。
石破: 全然していないです。
工藤: これを機能させなければいけないという動きが出ていないのですかね。

石破: 何かを実現したくて、その手段として大臣になったり、はたまた内閣総理大臣になったりするわけで、今は、目的と手段がひっくり返ってしまっていると思います。だから、政治家になること自体が目的だ、政権を取ること自体が目的だということになってしまって、何のためになるの、何のために政権を取るのということが、分からなくなってしまっているのだと思います。だから、ガバナンスは利かないですよ。

工藤: でも、それはすごい深刻です。つまり、日本に今、財政や社会保障、経済にかなり大きな課題があるときに、その政治の統治がきちんと機能しないと、誰がこの課題解決をできるのか。これは、日本の危機だと思うのですが、それをどういう風に考えればいいのですかね。

石破: それは、政党が国民に向けて語りかけるという本来の姿を取り戻すことだと思います。私は、この程度の国民にこの程度の政治家、という言葉がすごい嫌いで、それは政治家の側が語りかけない限り国民は変わらないと信じているのですね。リーダーはそういうものであると思います。
 今はダメ比べになっているわけです。去年の総選挙は、別に民主党がすばらしいから勝ったというよりも、自民党があまりにダメなので、何か替わるものはないかと思って、民主党を選んでみた。だけど、どうも自民党よりひどいらしいということになって、また自民党に戻る。というのは、あっちがダメだからこっち、こっちがダメだからあっちというネガティブ競争になってしまっているわけです。

工藤: 永田町のゲームみたいに、国民と関係なく動いているという感じがしますよね。これを直すエネルギーは永田町にあるのでしょうか。

石破: 私は、それは自民党がやるべきだと思っています。

工藤: 政調会長としては当然そういう話なのですが、冒頭に、政界再編の過渡期だとおっしゃっていましたよね。つまり、自民党という枠組みそのものも、色々な考えの違いがあって、最終的に課題型で政党が機能していない、集まっていない。そういう限界を指摘されているということなのでしょうか。そこを、課題別に政治が集まり直さなければいけない。


国民の手による政界再編

石破: そうだと思います。だから、一度だけ特別措置法で中選挙区に戻してみたらどうかと、私は言っています。その代わり1回だけです。党を離れて、みんな無所属で出ればいいと思います。基本的に、消費税を上げ、法人税を下げるべきだということについて、賛成か反対か。集団的自衛権を行使可能とすることについて、賛成か反対か。これだけでもいいと思います。何人の候補者が出るかは分かりませんが、この設問に対して、○か×かを掲げて、選んでもらって、それで意見があった者が政党を作ればいいのだと思います。それが、国民の手による政界再編だと私は言っているのだけれど、なかなかそれは難しいのです。

工藤: 政治家一人ひとりが、どういう立場かが問われる仕組みは、政治の中でできる事なのですか。それとも、国民側から要求していかないとだめなのですか。

石破: 私は、国民側から要求していただいた方がいいと思います。


工藤: すごく率直な意見でね、ここまで日本の政党が機能していないということの現状や原因をきちんと話してもらって、非常によかったと思いますね。政治家になるという、また権力を握るということは、何かを実現するためだと思うのですね。つまり今であれば日本の置かれている課題に対して、困難に対して、実現するために政治があって政党がある。それが、政治家になることや権力を握ることが自己目的化しているのではないか、という指摘です。僕はすごく興味深かったのは、そういう風な政治が、もう一度立ち直るきっかけはどこにあるのかといったら、それは国民側から政策を軸に政界の再編を要求するしかない。そういうかなり刺激的な発言がありました。ここが非常に重要だと思いますね。続いてお聞き下さい。


工藤: 僕たちはマニフェストの評価をやっているのですが、それには前提があって、政党が機能していないとマニフェストを評価するということは難しいのですね。党の中で、政策立案についてかなり激しい議論があってもいいのですが、そのプロセスが公開されて、その中で意見がこういう形でまとまった、まとまらなかったら分かれてもらうとか、そのプロセスが見えることがまず必要で、それだったらわかりやすいですよね。そういうプロセスを政治側で動かすということは、難しいですか。

石破: 私は、もっと国会議員が政党から自由であるべきだと思っています。今、工藤さんがおっしゃるように、嫌なら出ていく、ということがなぜできないかというと、それは第一番に、無所属になってしまうと政党助成金が配分されなくなるわけですね。あるいは、民主党であれば、民主党を離れてしまうと、労働組合の支援がうけられなくなるということもある。あるいは自民党を離れてしまうと、なんとか団体の支援がうけられなくなる。選挙に落ちるのは嫌だよなと。お金もらえなくなるのも嫌だよなと、みんな思うわけです。だから、民主党のマニフェストだって、本当に全部の議員が賛同したかといえば、そうではないわけですよ。

工藤: 政治問題で気になっていることが、政権は自分の任期中にコミットメントしているものは何なのかを、国民に明らかにしてほしいと思っています。この前、G20で財政再建の目標が2013年だったのですが、日本だけ2015年になりました。ということは、(任期が2013年に終わる)菅政権はそこまでは責任を持っていないわけですよね。

石破: 持っていないです。

工藤: ということは、今の政治は何を約束して、かならずやるということで動いているのかよく分からないのですよ。ただ、国会ではお互いに自民党と民主党がやり合っているだけになっていますから、結局国民からすれば、今の政治が何の課題を実現するために、いつまでに、何に危機感を持って取り組んでいるのかということが、非常にわかりにくい状況が続いて、それが政治不信に繋がっている感じがします。


国会議員でいることは目的でない

石破: 本当のことを言って、選挙に落ちようがそれでいいではないか、と言えないとダメなんでしょう。国会議員でいることが目的ではなくて、日本を変えることが目的なのだから、本当のことを言って、選挙に落ちるのは、それはそれで構わないのだといえる議員がどれだけいるのかということでしょう。

工藤: 自民党の中に何割ぐらいいるのですか。
石破: 3割ぐらいはいると思います。
工藤: 民主党にはどれぐらいいると思いますか。
石破: やっぱり3割ぐらい。でも、1期生が多いから2割かもしれない。

工藤: つまり、2割しかいないわけですね。本当に政策立案能力があって、きちんと課題解決に対する構想力があり、実務的にそれをこなせる人たちというのは。

石破: でも、どの社会でもそうじゃないですか。できるの3割、どうでもいいのが4割、できないのが3割。大体そんなものでしょ。ちゃんとした3割がちゃんとした発信力を持てば、4割は付いてくると思います。

工藤: そこがすごく重要です。ちゃんとした3割がリーダーシップを発揮できていないから、政治が混乱している状況に見えるわけですね。その人たちが今動かないといけない。

石破: 例えば、私と民主党の政調会長で国務大臣の玄葉光一郎さんというのは、二人で話していると95%は一致するわけです。

工藤: 2つの政党に分かれているのはどうしてなのですか。

石破: それは、選挙区事情でしょう。ここは、前原さんとも前に論争したことがあるのだけど、同じ考え方を持った人間が、2大政党の両方にいるべきだというのが前原説です。私は、そうなのだけれど、今はそういうことを言っている場合ではないだろうと。財政も外交も安全保障もみんな危機なのに、こういう同じ考え方の持ち主が両方にいて、政権交代なんていうのんびりしたことを言っている場合ではなくて、同じ考え方の者同士が集まって、大政翼賛会にしないような配慮は必要ですが、国民に向けて語りかけるということをやらないとまずくないか、ということを、言った覚えがあります。

工藤: だから、まとまってそこから脱出しないわけですね。
石破: そうなんですね。


工藤: 日本の政党が課題解決に向かえないというのは、僕は非常に危機だと思っているのですが、しかしそれは政党のあり方という問題がね、ここで非常に問われているということがわかってきたんですね。ただこの政党が、政策課題、本当にそれをきちっと実現するような、本当の意味で未来に向けて競争するという状況になるためにどうしたらいいのかということが非常に疑問なんですね。僕は石破さんにずばり聞いてみたんですよ。そういうふうな政治をつくるために、有権者つまり国民は、何をするべきなのかと。


石破: やはり、政治のトップ、例えば、民主党代表・内閣総理大臣、あるいは自由民主党総裁、そういうトップが揺るがぬ信念を持って、ぶれないことだと思います。同時に、その人は法律をある程度知っている。官僚機構を統制できるぐらいの法律的な知識はあるということ。それから、外交・安全保障などの知識もあること。そして、本当に心ある官僚達が、よし一緒にやろうという思いを持つ。上がきちんとした考え方を持って、俺はこの党をこう導く、この国をこう導くということがあれば、相当に変わると思っています。で、国民はどうすればいいのかという話ですが、誰の言っていることが本当なのだろうかということ...


国民には政治家のうそを見抜いてほしい

工藤: 嘘を見抜けなければダメですね。

石破: 見抜いてくださいという事なのですね。政治家は選挙の時に、結構でたらめを言いますからね。で、誰の言っていることが本当なんだろう、この通りやったら何が起こるのだろうということを、1回立ち止まって考えてほしいなと思います。
 私は、民主党政権の壮大な実験の失敗、私は失敗と断じていいと思うのですが、国民は、あれはまずかったのではないだろうか、そして、外交・安全保障を考えてこなかった人をトップにしたということは、やはりまずかったのではないだろうか、という思いは、持っていただいていると思うのです。「だから自民党を選んでくれ」と言っているのではありません。民主党が変わればそれもよし。自民党がきちんとしたものを出せばそれもよし。本当に、今度こそいい加減に政治家を選ぶと、自分たちの身に降りかかってきますよということを、ぜひご認識いただきたいと思います。

工藤: 最後は、政界再編のイメージ。自民党と民主党は残っている状況なのでしょうか。

石破: そこは、それぞれの党で突き詰めた議論をすると、自ずから差が明らかになってくると思います。自民党でも、私が防衛庁長官を辞めてから、防衛大臣になるまでの3年間の間に、安全保障基本法というのを書いて、日米安全保障条約の改正案を書いて、日米地域協定の改正案というものを書いたのですね。大臣ではないときというのは、そういうことをやるのが仕事です。で、私の小委員会ではまとめたのだけれど、党の決定にはならなかった。そんなのを党の決定にかけると、党が割れてしまうかもしれないからでしょうね。

 だからダメなのです。それぞれの党の中で徹底的に議論すると、自ずから「合わない」人というのが出てきます。自民党でも、民主党でも。だったら、「もういいではないか、合う者同士でやろう。選挙に落ちてもいいではないか、選挙に通ることが政治家の目的ではないのだろ?、何のために政治家になったのだ」ということを、誰かが言わないとダメなのでしょう。

 やはり、自民党であれ、民主党であれ、何党でもいいのだけど、お前達何のために議員になるのか、ということを問いかけるべきだと思います。そうすると、変わる人は必ず出てくるだろう、と。


工藤: 自分たちが下手な決断をしてしまうと、大変なことになるということを、今痛感していると思います。だからこそ、有権者側がしっかりしていくことによって、政治も強くなりますよね。

石破: はい、そうだと思います。


今ならまだ間に合う、むしろ今しかない

工藤: その流れをどうしても、これから作っていかないと、と思っています。
石破: まだ間に合う。
工藤: まだ間に合いますか。
石破: まだ間に合う。今ならまだ間に合う。
工藤: そうですか。徳俵から足が出ていないですか。

石破: 出かかっているのですが、やはりまだ国債が暴落しないというのは、日本に一縷の望みがあるからなのだと思います。日米安全保障条約がまだあるということは、やはりアメリカにとって日本はまだ利用価値があるのですよ。だから、本当に(徳俵から)足が出かかっているのだけど、まだ出ていない。まだ間に合う。でも、今しかないということだと思います。だから、政治家達が、今しかないのだという思いを本当に共有するならば、それはまだ間に合う。

工藤: そういう風な一歩を踏み出したいと思っていますね。
石破: はい。
工藤: どうも今日はありがとうございました。
石破: はい、ありがとうございました。


工藤: 石破さんの最後の言葉で、若干、救われたな、ほっとしたなという感じを持ちましたね。つまり、まだ間に合う、今ならまだ間に合うと。今しかないと、政治家がそういう思いを本当に共有したら、ここからがスタートになれるという話だったわけです。

 僕はこの間、日本の政治の統治の崩れが日本の課題解決に向かいあえないという日本の危機を生み出している、とこの場で指摘してきたのですが、こういう政治家が日本にいるのだということを喜んだし、非常にうれしいことだなと思いましたね。ただ、石破さんだけではなくて、今から始めれば大丈夫だというようなことを、日本の政治家がどれぐらい思ってくれるかということなのですね。


僕たち自身が強くならないと、日本の政治は変わらない

 その中で石破さんは、いい加減に政治家を選ぶと、自分たちの身に色々なことが降りかかってくるということをぜひ理解してほしい、とおっしゃってました。冒頭に、「政治家は選挙のときはでたらめをいうものだ」と言って、そこまで言うのと思ったのですけどね。しかし、やっぱりこの言葉も非常に重いなと思いましたね。つまり僕たちが嘘とか本物をきちんと見分けて、何が大事かと言うことを見分ける目をつけない限りは、何も始まらないのです。僕たち自身が強くならないと、日本の政治は変わらないんだなと、そういう段階に日本の政治はきているんだなという感じがしました。これから日本が未来に向けて、僕たちは何を考えればいいかという段階にきていると思います。僕はこのON THE WAY ジャーナルで、みんなで考えたいということを主張しているのは、まさに未来をつくるのは僕たちだからということで、今日の石破さんは僕の思いと非常につながってくれたなと思っております。

 さて、時間になりました。今日は「日本の政党、こんな状況で本当にいいの」という問いかけをしました。かすかですが、光が見えた感じがしたのですが、またいろいろと議論していきますので、みなさん、ご意見を寄せて下さい。今日はありがとうございました。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)

【 前編 】

【後編】

 放送第9回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、自民党政調会長・石破茂さんのインタビューを交え、財政破綻・社会保障の問題など山積する日本の状況について、政治的側面から考えました。
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。