「日本の知事に何が問われているのか」/新潟県知事 泉田裕彦氏

2007年5月31日

camp4_nigata.jpg泉田裕彦(新潟県知事)
いずみだ・ひろひこ
1962年生まれ。87年京都大学法学部卒後、通商産業省入省。資源エネルギー庁石炭部計画課、中小企業庁小規模企業政策課、資源エネルギー庁石油部精製課総括班長、産業基盤整備基金総務課長、国土交通省貨物流通システム高度化推進調整官などを経て、04年10月に新潟県知事に就任。知事就任直前の10月23日に新潟県中越地震が発生し、その当日から被災住民の救済と被災地の復興に奔走した。タウンミーティングを定期的に開催し、様々なテーマで住民との対話の場を設けている。

第5話 地方分権で魅力的なエリアづくり-地域経営は自立できるのか

「金の卵を産む鶏を育てたい」、私は就任以来そう思ってきました。地方の自立を考えた時、一番肌身で感じるのは地方は働く場、中でも本社機能を持つ企業が少ないことです。意思決定は大都市の本社でなされ、また、官庁の中央集権的構造が続く限り、地方に本社を持てません。アメリカを見てください。マイクロソフトの本社はシアトル、ボーイングの本社もシアトルです。ハリウッドもロサンゼルスにあるわけだし、その周辺でさまざまなベンチャー企業が生まれています。それは国の規制が日本のように強くないから、それぞれの地域で本社機能を持てるわけです。そうなると、働く場が地方にできる可能性が出てきます。

例えば、サンフランシスコで生まれた人が、大学を出た後に東海岸目指してニューヨークへ行きたいとみんな思っているかというと、そんなことはありません。ところが、残念ながら、日本では、地方で生まれ育って教育を受けた多くの人は東京を目指しています。そこで、2LDKぐらいのマンションしか持てず、子供も合計特殊出生率が1を割るということになってしまっています。それでは日本全体が不幸だと思います。

親子3代、笑顔で過ごせるような地域づくりを目指して、教育、医療、福祉など多方面にわたる施策をやろうと思えば、税収を自分で稼がなければなりません。それができるような魅力的な地域にするために、分権を進めた上で企業から選んでもらえるような環境をつくっていく必要があります。多少、国からいろいろな制約がかかっていても、自治体で直せるものは直せるように努力すべきだと思います。条例と政省令では、政省令の方が上と言われると、もうどうしようもないのですが、なるべく規制緩和を進める特区を使っていくなどして、地域の中で働く場をつくっていくことが重要ではないかと思います。

経営にはビジョンやそれを実現するための戦略が必要です。これからの新潟について考えたとき、私が注目しているのは健康サービス産業です。アメリカのミネソタ州にメイヨークリニックがありますが、最高の医療を受けるため人口9万人の町で40万人ぐらい人がやって来ます。ここに行くと命が助かるからです。夜になれば氷点下20度、30度になる町ですが、そこには医療関連の機能が集積し、地域経営の一つの成功例だと思います。

「日本列島改造論」の中に、魚沼地域の浦佐駅の辺りに新幹線で首都圏と1時間でつながるという前提で学園都市構想がありました。いま、ここには、メディカル系の北里大学保健衛生専門学院があり、世界とつながる国際大学があります。私はこの構想にもう一度光を当てたいと考えています。首都圏と1時間でつながっていて、都会で同様のサービスを受けるよりコストが低く、病院機能と直結して、温泉も日本で3番目に多い。そして日本一うまいコシヒカリと美しい山並みがある、最先端と最素朴が融合できる場所はそんなにありません。

一方で、日本海の広さは、ちょうどアメリカの五大湖と同じぐらいですから、新潟を基点に産業集積が起きても全然不思議ではないのです。新潟は日本海に面した最大の港で極東ロシア圏とつながり、さらにシベリアランドブリッジを使えば船で一カ月かかるものが十数日でヨーロッパと結びつきます。また、これからの重要地域としての中国東北部から最短距離にあります。したがって、新潟が日本海のゲートウエーを目指していくというのは重要な基本戦略です。ちなみに今、毎年10%前後伸びている新潟港のコンテナ貨物取扱量は日本海側の港ではトップですし、韓国の束草とロシアのザルビノと新潟を結ぶ定期航路も開設される予定です。

マクロでとらえれば、極東ロシア、中国、それからシベリア鉄道を通じてヨーロッパとの交易が想定されます。時間距離も含めて、経済発展をしている地域との距離感で新潟は比較優位にあるという認識の下で、その途中に新潟の奥座敷、かつ首都圏の奥座敷の学園都市、医療メディカルタウンなどが同時に出てくるということになると、新潟の位置付けは相当変わってくるのではないかと思っています。

地方分権というのは結局は、一番身近なところでものごとが決められるようにしていくことであり、そうした中で地域が競い、日本全体が良くなっていくのではないかと私は思うわけです。

私は庁内との関係では、基本的には方向を出した後のやり方は任すというタイプです。一方、県民との関係では、21世紀型の行政は情報の交差点になれるのかどうかということが勝負だと思います。権限とお金で縛る情報は、質の悪いものしか来ません。正規の情報のやりとりのほかに、ダイレクトで来る情報があります。オープンディスカッションでは気恥ずかしいという人もDMで提案があり、また、その中からさらに議論を進めていくというような情報の結節点になれるということになると、本当の生のいい情報が集まることになります。頼られる行政、愛される新潟県庁をつくっていくと言っていますが、それは情報の結節点になれということです。

権限とか予算で縛りつけた情報で行政をやる時代は20世紀のものでした。そうではなく、いかに県民、市民、住民の皆さんが、新潟県庁に相談するといいことがあるねという形で、ポストを離れても相談され、追っかけられるような情報の交差点になるような行政を実現したいと思っています。

全5話はこちらから

 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
 現在の発言者は泉田新潟県知事です。

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