2013年参議院選挙 マニフェスト評価(外交・安全保障)

2013年7月15日

評価の視点

世界的なパワーバランスの変化の中で、日本の外交・安全保障の理念をどのように設定し、いかなる政策体系によって日本の安全・繁栄・価値の実現を図っていくかが求められている。

第一の評価の軸は大国間関係である。米国はアジア太平洋に軸足を移して、中国の台頭、特に海洋進出に対する警戒を強め、同盟国・友好国との戦略的関係を強化している。しかし同時に、中国との戦略対話の枠組みを維持しつつ、抑止と対話の枠組みのバランスを図ろうとしている。こうした潮流をとらえ、日米関係をどのように位置づけているのかが問われる。

急速に台頭する中国とどう向き合うのかは、現在の日本外交の最大の課題といってよい。日中関係は依然として尖閣諸島問題をめぐり緊張が続いており、中国の軍事的台頭を含め地域の懸念材料ともなっている。同時に、中国経済がアジア太平洋の成長エンジンであることに変わりはなく、日本は中国との共存・共栄も模索しなければならない。中国との緊張関係をどのように管理しつつ、戦略的互恵関係の具体化を目指していくのか、という課題は重要な評価の指標となる。

第二の評価の軸は、地域および多角的な外交の展開である。アジア太平洋地域に台頭する経済・エネルギー・環境・安全保障といった様々な地域枠組みに、日本がどのような戦略をもって臨むのか。どのような国々とパートナーを結びつつ、地域枠組みの構築に主体的に関与し、日本のプレゼンスを向上していくのか。ODAや平和維持・平和構築にどのように関与すべきか。世界の人権・民主主義・法の支配といった価値にどのように貢献していくのか。こうした秩序構想、戦略的外交のありかたを評価の指標とした。

第三は、緊張を増す我が国の安全保障環境の認識と、これに対応する防衛政策のありかたである。北朝鮮の核・ミサイル開発問題、中国の空海軍力の増強と海洋進出といった問題に対して、どのような防衛力のあり方が望ましいのか。またそれは単に強硬的又は融和的態度の提唱に止まらず、日本の目指すべき国際秩序、同盟関係、外交関係、法的基盤のありかた、予算的制約といったなかで、どこまで現実的に追求可能なのか。総合的な観点から評価することとした。




【 評価点数一覧 / 自民党 】

  項 目
自民党
形式要件
(40点)
理念(10点)
6
目標設定(10点)
5
達成時期(8点)
1
財源(7点)
2
工程・政策手段(5点)
3
合計(40点)
17
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
12
課題解決の妥当性(20点)
8
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
10
合計(60点)
30
 合 計
47


【評価結果】自民党 マニフェスト評価   合計 47 点 (形式要件 17 点、実質要件 30 点)

【形式要件についての評価 17 点/40点】

「さあ、外交・防衛を取り戻そう」というスローガンの下、「日本が世界の真ん中へ。国際社会と共に繁栄する道を歩みます。日米同盟を基軸とした戦略的外交の展開と揺るぎない安全保障政策で、国民の生命と国益を、断固として守り抜きます。」を主題として、「戦略的な外交の展開」「国益にかなう経済連携」「強靭で機動的な防衛力と安全保障体制の構築」「北朝鮮問題の解決」など、13項目の個別の政策を掲げている。

その理念・目標として掲げられているのは「自由で豊かで安定したアジア」、「共通の価値」に対する挑戦には秩序維持に努めることなどが謳われている。しかし主題に掲げられた「日本が世界の真ん中へ」という際の世界のありかたや、「真ん中」が何を意味しているのかなど、判然としない。世界経済システムのありかたや、国際・地域枠組み等についての言及も特にない。

達成時期や財源などが明示された政策は少ない。経済政策・新興国政策として「新興国等の成長を最大限取り込むため、2018 年までに、貿易のFTA比率70%(現状19%)を目指します。」という項目は目新しい点であった。

工程や政策手段については明示されているのは、マニフェストの性格上わかりやすさと具体性が相反関係にあるのは致し方ないが、「国際協力銀行による融資や国際協力機構によるODA」「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を見直し」「自衛隊・海上保安庁の人員・装備を強化」「自衛隊法改正案の早期成立」「国家安全保障会議の設置」など約半数の項目に対しては、具体的なアジェンダが明記されている。


【実質要件についての評価 30 点/60点】

「自由で豊かで安定したアジアを実現」するという目標のために、「不断に日米同盟を強化しつつ、中国、韓国との関係の発展、ASEAN諸国をはじめ近隣諸国との友好協力関係の増進に努めます」と述べており、その体系性については評価できる。しかし、その核心となる日中関係は緊張し、そして日韓関係は停滞したままとなっている。こうした状況をどのように打開していくのかが外交政策の焦点となるべきだが、具体的な政策手段は述べられていない。

ODAの戦略的活用に対しては、ODA予算が減額する中で国際協力銀行による融資などを組み合わせ、途上国支援と企業の海外進出支援をパッケージとして提示したことは評価できる。TPPに関しては「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めることにより、国益にかなう最善の道を追求」するという曖昧な書きぶりになっている。

「強靭で機動的な防衛力と安全保障体制の構築」には6項目が提示されており、参院選後に焦点となる政策への意気込みが感じられる。また「日米防衛協力のガイドライン」の見直し、「自衛隊・海上保安庁の人員・装備の強化」、「自衛隊法改正案」の早期成立による在外邦人の安全確保、「国家安全保障会議」の設置、防衛省改革など、その目標設定が明確なことも評価できる。しかし、停滞している普天間飛行場の辺野古への移設については、日米合意に基づいて推進する、と述べるにとどまり、どのように事態を打開していくのかは述べられていない。また、北朝鮮の「拉致問題の完全解決と核・ミサイル問題の早期解決」に対しても、これまでと異なる目新しい政策の提示は見当たらない。

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【 評価点数一覧 / 公明党 】

  項 目
公明党
形式要件
(40点)
理念(10点)
4
目標設定(10点)
3
達成時期(8点)
1
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
3
合計(40点)
11
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
6
課題解決の妥当性(20点)
7
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
合計(60点)
19
 合 計
30


【評価結果】公明党 マニフェスト評価   合計 28 点 (形式要件 12 点、実質要件 16 点)

【形式要件についての評価 12 点/40点】

公明党の参院選重点政策では「安定した平和と繁栄の対外関係」を題目として、「日米関係の基盤を強化するとともに、近隣諸国とは、対話と協議により領土を巡る外交問題を解決に導き、関係改善を図ります。また、憲法の「平和主義」や非核三原則を堅持し、日本独自の平和外交を進めます。」という目標を掲げている。やや外交・安全保障全体の目標設定としては、国際・地域秩序構築の理念に欠け、個別のテーマへ傾斜していると言わざるを得ない。

実際の政策項目で掲げられているのは「中・露・韓など近隣諸国との関係改善」が4項目、「経済連携、資源外交の推進」2項目、「『核軍縮』や『人間の安全保障』で世界の平和に貢献」が2項目となっている。外交政策全般としての包括性は感じられないものの、公明党の重点領域としての論点・立場を明示するという役割は良く果たしているように感じる。

達成時期や財源に関して具体的な記述がある項目は2015年の核廃絶サミットの提案、ODA予算の20%を人間の安全保障分野に優先配分するとある。工程や政策手段に関しては、中・韓・露と「定期的な首脳会談の実施」、日中「海上連絡メカニズム」の構築、日中韓の環境協力、TPP交渉と並行して東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)、日・EU経済連携協定(EPA)に取り組む、などがある。


【実質要件についての評価 19 点/60点】

大国間関係については、題目に「日米関係の基盤強化」とあるが、具体的な政策として日米同盟をどのように強化していくのか、という点についての記述はない。中国については、「定期的な首脳会談を実現」、偶発的な衝突回避を目的とした「海上連絡メカニズム」の構築、環境協力などを目指すとされている。それぞれが妥当な提案であるが、大きな理念や目標設定は表明されず、小ぶりな政策項目の提示にとどまっている。公明党の山口代表は、日中関係改善のために訪中するなど、連立与党の一員として対中関係への配慮は重視してきたはずだ。日中関係をどのように位置づけたいのか、その理念が提示されてもよかった。

TPPに対する具体的な立場は明示していないものの、地域内における多角的な貿易交渉(RCEP/FTAAP)や日・EUFTAに同時並行的に取り組むという姿勢は評価できる。また「資源確保のための外交を推進する」という方向性は妥当なものであり、連立与党のパートナーである自民党の政策とも連携が生まれやすい領域であるといえる。

安全保障分野についての目標提示が「核ゼロの世界へ核軍縮を推進」、「『人間の安全保障』を推進」という項目は提案としては妥当であるものの、党の独自の主張の域を出ておらず、それをどう実現するのか、これだけでは読み取れない。北東アジアの厳しい安全保障環境にどのような政策が望ましいのか、北朝鮮の核・ミサイル問題や中国の海洋進出への対応に対して、いかなる防衛力・同盟関係が必要とされるのか、多国間での安全保障関係はどうあるべきか、といった構想についての記述はほとんどみられない。

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【 評価点数一覧 / 民主党 】

  項 目
民主党
形式要件
(40点)
理念(10点)
6
目標設定(10点)
4
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
2
合計(40点)
12
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
7
課題解決の妥当性(20点)
7
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
6
合計(60点)
20
 合 計
32


【評価結果】民主党 マニフェスト評価   合計 32 点 (形式要件 12 点、実質要件 20 点)

【形式要件についての評価 12 点/40点】

民主党のマニフェストでは「戦略的な外交・確固たる防衛」を旗印に、「国民の生命・財産、領土・領海等を断固として守ります。日米同盟を基軸に、共生のアジア外交を展開します。国際社会の平和と繁栄に積極的に貢献します」という目標を掲げている。こうした安全・繁栄・価値の追求に対するバランスは評価できる。

しかし実際の政策項目で掲げられているのは「主権」が3項目、「防衛」1項目、「日米関係」1項目、「アジア外交」1項目、「拉致・核・ミサイル」1項目と、理念・目標と比べてその具体性への対照性に欠けているを言わざるを得ない。

達成時期や財源に関して具体的な記述がある項目はない。工程や政策手段に関しては、「主権」の項目において「海上保安庁を中心にした警戒監視や警備態勢の拡充・強化」、「北方領土問題におけるロシアとの交渉」がある。また「防衛」に関しては「動的防衛力の強化」等の対策が記述されている。「日米関係」「アジア外交」「拉致・核・ミサイル」については、一般的な記述にとどまっている。


【実質要件についての評価 20 点/60点】

大国間関係について、日米同盟の深化、米軍再編を進め抑止力を維持することなど一般的な認識が展開されているが、具体的な深化の方法や抑止力維持のありかたについての方策が明示されていない。

また焦点となる中国との関係についても、具体的な解決方向が提示されていない。「共生実現に向けたアジア外交を展開します」という目標提示に対して、その具体策が「海洋分野における日中間の意思疎通」や「日中韓FTA」というだけでは迫力に欠ける。

「主権」に関する項目で「海上保安庁を中心にした警戒監視や警備体制を拡充・強化して領土・領海等の守りに万全を期します」という項目、さらに「防衛」における「動的防衛力の強化、南西重視、サイバー空間・宇宙・海洋でのリスク対応、インテリジェンスの強化やNSCの設立」等は、自民党との連携が期待できる分野であり、政策実現性という点で評価できる。しかし北方領土については特に目新しさはなく、竹島についても「韓国に対し国際法に従った解決を強く求めます」という宣言にとどまっている。

民主党が元来得意としていたアジアへの地域外交の具体的展開や、多角的な国際枠組みへの積極的参加、経済・環境・人権分野に関する言及はなく、外交・安全保障分野への積極性が感じられない内容となっている。

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【 評価点数一覧 / 日本維新の会

  項 目
日本維新の会
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
3
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
1
合計(40点)
7
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
6
課題解決の妥当性(20点)
6
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
12
 合 計
19


【評価結果】日本維新の会 マニフェスト評価   合計 19点 (形式要件 点、実質要件 12 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

日本維新の会のマニフェストは、全体の構成・編集上の一貫性に大いに問題がある。マニフェスト3頁の見出しには「主権・平和・国益を守る外交・防衛」として、「安全保障政策の強化(NSC、武器輸出三原則の見直し、集団的自衛権の見直し)以下5項目が列記されている。その後、「基本方針」と「政策実例」に分類し、それぞれの重点項目を掲げているが、「見出し」「基本方針」「政策実例」に記載されている内容は、それぞれバラバラである。後者の「実例」では基本方針に掲げられた10項目のうち2項目に関する「実例」を提示するにとどまり、他の8項目で何をするのかは明示されていない。また「実例」のうち第1項目は「基本方針」と文言が異なり、第3項目の「地球規模課題の解決に貢献するODAを実施する」に至っては、「基本方針」に全く提示されていない内容が、唐突に記述されている。党内の調整不足であろう。

またマニフェストの記述内容が不鮮明な箇所も多い。例えば、見出し項目には「安全保障政策の強化(NSC、武器輸出三原則の見直し、集団的自衛権の見直し)」とあるが、NSCという単語を挙げて何をどうしたいのか、全くわからない。武器輸出三原則については、野田佳彦内閣の下で2011年12月に事実上緩和されているが、さらに何を見直すのだろうか。また「集団的自衛権の見直し」というのも、集団的自衛権そのものを見直すのか、集団的自衛権の行使を可能にするのか、何を言いたいのかわからない。すでにまた同項目には「実効支配力の強化」とあるが、何をどう実効支配するのかについても記述がない。


【実質要件についての評価 12 点/60点】

大国間関係については、見出しには「日米同盟を深化」を掲げているが、具体的な政策としては「日米地位協定の見直し」、「普天間基地の固定化を避けるための辺野古移設推進」というきわめてドメスティックな内容のみ記載されており、日米同盟をどのように位置づけるのかという発想はみられない。「基本方針」には「日米同盟を深化させるため、日米ガイドラインや日米地位協定を見直す」という「見出し」と首尾一貫しない項目が立てられているが、ここでも何を目的にどのような見直しをするのかは判然としない。中国については、日中関係に関する具体的な記述はみられない。そのほとんどは周辺国に「隙をみせない」対象として位置づけられているのみである。

国際組織・多国間外交・アジア外交等についての記述は、見出しに「TPP参加。自由貿易圏の拡大」と漠然と述べられている他、「ODA額の減少に歯止めをかけ、環境破壊、感染症、貧困、気候変動、災害対策などの課題に日本の経験を活かして積極的に取り組む」という項目がある。後者については、他の項目と比べれば目的と手段が見合った内容となっている。

安全保障・防衛政策に関しては、多くの項目が掲載されている。「政策実例」で目立つのは「バランス・オブ・パワー戦略に基づく防衛力を整備する。実質的な防衛費GDP1%枠を撤廃する」という項目である。前回の評価でも指摘されていたが、勢力均衡戦略がどのような内容を伴うものなのか、そのために防衛費をどの程度増額させるのか、理解はできない。その他の内容としては、平時の領域警備、集団的自衛権の行使などを定める国家安全保障体制の整備、南西諸島への防衛力強化や、サイバー攻撃への対応については比較的妥当な内容であろう。その他、「領土に関する紛争については国際司法裁判所の活用も含め、国際法による解決をはかる」とするが、領土に関する紛争とは何を指すのか。どの問題を提訴するのか、これだけだと判断できない。ロシア、韓国、中国も日本に促されて国際司法裁判所に提訴することは考えにくく、領土問題の解決のアプローチとしては稚拙である。

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【 評価点数一覧 / みんなの党 】

  項 目
みんなの党
形式要件
(40点)
理念(10点)
6
目標設定(10点)
5
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
3
合計(40点)
14
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
8
課題解決の妥当性(20点)
6
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
6
合計(60点)
20
 合 計
34


【評価結果】みんなの党 マニフェスト評価   合計 34 点 (形式要件 14 点、実質要件 20 点)

【形式要件についての評価 14 点/40点】

みんなの党のマニフェストは、外交安全保障分野について主題に「激動する国際情勢の中で戦略的外交を!」、副題に「日本は世界に通ずる海を擁する海洋国家、領土・領海をとことん守ります」というスローガンが掲げられている。全体の構成としては、序盤に国際情勢の認識と、それに基づく日本の外交の方向性が述べられている。その後、「戦略的な外交安全保障体制の構築」、「尖閣諸島、竹島、北方領土問題の解決」、「新たな脅威に備える防衛力の見直し」、「世界の平和と安定に貢献」という項目が記載されている。国際情勢の認識、国家目標の設定、具体的な政策課題の提示、という順序での記載方法は、理解しやすく、また党内での丁寧な議論が実施されたことを伺わせるまとめ方になっている。

達成時期や財源などが明示されている項目はない。工程や政策手段が明示されているものは、具体的な法律や予算の整備といった内容は少ないが、それぞれの小項目の説明は比較的丁寧になされている。外交政策としての包括性には欠けるものの、みんなの党が目指す具体的な政策については、その方向性が示されているといってよい。


【実質要件についての評価 20 点/60点】

まず大国間関係について「相互信頼に基づく日米同盟体制を日本の安全保障の基軸」とする内容は妥当であるが、その具体的な提案事項が日米地位協定の見直しと、思いやり予算の見直しという、きわめてドメスティックな内容に留まっており、日米同盟を地域の安全保障にどのように活用していくのかといった視点は欠落している。中国の台頭と日中関係のありかたがこれほど問われているにもかかわらず、対中政策についての直接の言及はない。

日本を取り巻く領土をめぐる論争については、一律に毅然とした対応主張するのではなく、それぞれ異なる対応を推進していることは評価すべきである。他方で、「尖閣諸島は・・・(中略)領土問題は存在しない事を広く国際社会に周知」「竹島は・・・国際司法裁判所等で国際法に即し」「北方領土問題の平和的な解決に向けて話し合う」という立場表明にとどまり、具体的にどのような行動をとるべきかという指針はない。

防衛力の見直しを論じた項目では、「自衛権の行使の範囲や限界等を法律により明確化する」とある。しかしこれが集団的自衛権の行使に踏み切るべきといっているのか、何を制限として考えているのかは類推できない。「陸海空のバランスを再検討」では、陸上自衛隊の人員偏重を改め、海上自衛隊と航空自衛隊に予算と人員を配分するとした提案は具体的で評価できる。

「世界の平和と安定に貢献」という項目では、「平和構築・平和維持を外交政策の柱」とすることや、「広島、長崎で軍縮会議を開催する」、「パブリックディプロマシーを強化」することなどが掲げられている。東南アジアのインフラ開発、アフリカのエネルギー開発をODAによって促進するという提案は、具体性はないものの提案の方向性が積極的であることは評価したい。

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【 評価点数一覧 / 共産党 】

  項 目
共産党
形式要件
(40点)
理念(10点)
4
目標設定(10点)
1
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
1
合計(40点)
6
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
4
課題解決の妥当性(20点)
1
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
3
合計(60点)
8
 合 計
14


【評価結果】共産党 マニフェスト評価   合計 14 点 (形式要件 点、実質要件 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

日本共産党の「参議院選挙政策」は、他党と異なり選挙公約の項目提示という形式を採用せず、全編にわたって政権与党の批判と独自の主張を行う論説によって貫かれている。したがって、上記の評価シートによって評価することがそもそも馴染まない。しかし、あくまでも仮に政権党の一員になったとしても、通用する公約が提示されているか、という点から評価をすすめることとする。

同選挙政策の外交・安全保障分野と認定しうるのは、「3.『アメリカいいなり』をやめ、国民の利益を守る外交に―基地も安保もない日本をめざし、自主外交でアジアと世界の平和に貢献する」という項目、および部分的には「4、安倍政権の改憲への暴走と対決し、憲法を守り、生かす政治を」に記載されている。両項目の下には、TPP交渉参加の撤回、基地のない平和な沖縄、日米安保の廃棄、憲法第9条の保持などが語られている。これらは同党がこれまで繰り返し述べてきた主張であり、理念としては判断できるが、それをどう実現するのか、道筋が描かれているわけではなく、また、提示された政策を実現するための達成時期、財源、工程などの記述は、日米安保廃棄にむけた手続きを例外として、特にない。さらに、同党の公約では緊張する東アジアと、いわゆる領土問題に対する解決の方向が提示されておらず、台頭する中国とどのような関係構築をしていくのかの視点が乏しい。


【実質要件についての評価 点/60点】

米国との関係において、日本共産党は「日米安保を廃棄し、対等・平等・友好の日米関係を築きます」と宣言している。日米安保体制は米国に対する危険な従属構造であると認識し、日米安保条約を廃棄することによって国民が米軍基地の重圧から解き放たれるとしている。しかし、北東アジアの厳しい安全保障環境を眼前にして、中国の軍事拡張の根源が日米安保条約にあると認識し、「日米安保条約を解消してこそ、日本は中国や東アジアの国々に対して、『ともに軍縮の道に転じよう』と、軍縮へのイニシアチブを本格的に発揮することができる」というのは、あまりに非現実的な提案である。こうした米国の軍事政策や対米関係に対する強烈な批判を行う一方で、対等な日米友好条約の締結を望む態度も理解困難である。
また、尖閣諸島をめぐる領土問題に関しては、日本の実効支配や主権を強く主張しているが、その解決策については、日本が領土問題の存在を認めることで、冷静な外交交渉と中国の自制を求めることしか打ち出せないでおり、中国も主権を主張する現状下では提案となっている。

「憲法9条を生かし軍事に頼らない『平和安全保障』を」では、北朝鮮や中国との関係を考えるなかでも紛争の対話による解決を主張している。その際に東南アジア諸国連合(ASEAN)が「平和安全保障」を実践しており、これを北東アジアにも広げようという構想を示している。しかし、実際にはASEAN諸国は南シナ海問題等をめぐり国防力強化や、米国との関係を重視しており、日本共産党の考え方とは異なる。同党の安全保障政策をめぐるモデルを他国に求めるのは難しいであろう。

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【 評価点数一覧 / 社民党 】

  項 目
社民党
形式要件
(40点)
理念(10点)
4
目標設定(10点)
3
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
2
合計(40点)
9
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
6
課題解決の妥当性(20点)
3
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
2
合計(60点)
11
 合 計
20


【評価結果】社民党 マニフェスト評価   合計 20 点 (形式要件 点、実質要件 11 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

社民党「参院選政権公約」は、5つの約束・5つの提案という構成によって成り立っているが、ここでは後者の第15項目に記述されている「外交防衛」を評価対象とする。外交安全保障分野について特に理念の設定はないが、5つの約束で掲げられた「改憲を阻止し、憲法をいかそう」という方針が基礎となっていると思量する。全体の構成としては、領土問題、オスプレイ配備反対、朝鮮半島非核化、平和憲法の理念の実現と自衛隊の縮小、国連中心の外交政策、北東アジアの非核化と、包括的な外交政策という視点からは脈絡に欠けるが、社民党の理念を実現する政策の体系という視点からは評価できる。

達成時期や財源などが明示されている項目はない。工程や政策手段については、実現可能性という観点からはかなり見込みの薄い内容が多く、多くはこれまでの与党の外交安全保障政策の批判という色彩が強い。しかし、沖縄基地負担の軽減、(北朝鮮の)拉致問題の解決、アジア諸国との歴史共同研究、(海賊問題に対する)海上保安庁の機能強化、国連安全保障理事会のあり方の見直し、ODA予算の増額、ミレニアム開発目標の実現、人間の安全保障の重視、海外の大規模災害への緊急援助、アフガニスタン復興支援や南スーダンに対する人道支援など、与党とも協力可能な領域は多く、外交政策に対する責任の共有という視点も伺える。こうした姿勢が国会への法案採決などに反映されると、外交政策をめぐる与野党対立の構図も変化すると考える。


【実質要件についての評価 11 点/60点】

米国との関係については、軍事同盟依存から多国間主義への転換、という従来からの方針が堅持されている。在日米軍基地や思いやり予算に関する負担の軽減をすすめながら、日米安保条約を将来的には経済や文化面での協力を中心にした平和友好条約への転換を目指す、としている。しかし北東アジアの厳しい安全保障環境に対し、米軍の抑止力への考察を忌避し、自衛隊の果たす役割を検討せずに、単に外交による緊張緩和を願うのは、安全保障に対する姿勢として不誠実である。

こうした非軍事的アプローチは全項目に貫かれているが、北朝鮮の非核化に「非軍事面でのあらゆる手段を用いて北朝鮮に核開発・保有の断念を迫ります」というのは、過去の交渉経緯を考えてもナイーブに過ぎるであろう。また「肥大化した自衛隊の規模や装備を最小限の水準に改編・縮小します」とあるが、国際環境の変化に即して自衛隊の何が肥大化し、何を最小限として定義するのか、防衛力に関する基本的考察なくして提起できようはずもない。

他方で、人道支援・災害支援・対外援助・平和維持活動といった領域においては、従来よりも積極的な姿勢が提示されている。ただ海外での大規模災害への緊急援助や、(憲法の枠内での)平和維持活動への参加といった内容には、自衛隊の役割の規定が不可欠であり、その意味では自衛隊の海外派遣のための恒久法への反対ばかりでは、上記の積極性は担保できない。領土問題は長期的な視野で解決を目指すという主張は理解できるが、ただ、それで中国との対話や東シナ海での緊張緩和が可能かは疑問である。

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【 評価点数一覧 / 生活の党 】

  項 目
生活の党
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
2
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
1
合計(40点)
6
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
5
課題解決の妥当性(20点)
3
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
2
合計(60点)
10
 合 計
16


【評価結果】生活の党 マニフェスト評価   合計 16 点 (形式要件 点、実質要件 10 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

生活の党の「参院選公約」は、外交安全保障分野について主題に「平和を自ら創造する」を掲げ、その理念について「日本国憲法の理念に基づき、国家を守り、世界の平和、地球環境の保全に貢献する。憲法第9条を堅持し自衛権の行使は専守防衛に限定する。米国とは対等な日米関係を築き、中国、韓国をはじめ、アジア諸国との信頼関係を醸成するとともに、世界の先頭に立って核軍縮を促進する」と記述している。全体の構成は、「真の日米同盟の確立」「善隣友好関係の推進」「拉致問題の早期解決」「自衛権の行使は専守防衛に限定」「国連平和活動への積極参加」「核軍縮の先頭にたつ」「国民主導外交の推進」の各項目に従って、方針を打ち出している。

達成時期や財源などが明示されている項目はない。工程や政策手段については、スローガンの体裁が多く、具体的な法律や予算の整備といった内容は航空法特例法の改正といった事項を除き記載されていない。


【実質要件についての評価 点/60点】

米国との関係について「対等な真の日米同盟の確立」を掲げているが、その内容は日米地位協定改定、航空法特例法を改正、普天間基地の県外・国外への移転など、単にドメスティックな内容だけであり、日米同盟をどのように安全保障のために機能させていくかといった発想は皆無である。中国・韓国との善隣友好関係については、具体的な提案が機能するかどうかは別として、アジア諸国との信頼関係の構築に全力を挙げるという方向性は評価したい。

日本の防衛に関する問題では自衛権の行使を日本国憲法の平和主義、第9条に則り行使し、それ以外での実力行使はしないとしている。ただ、上記に掲げられた「対等な真の日米同盟」と全く矛盾する内容ではなかろうか。また昨今の国連平和維持活動はより強い権限(マンデート)による業務が拡大しており、その意味においても実力行使の範囲をより目的志向的に定義しなければ「国連平和維持活動への積極参加」にも支障をきたすことは明白である。

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【 評価点数一覧 / みどりの風 】

  項 目
みどりの風
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
0
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
1
合計(40点)
4
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
1
課題解決の妥当性(20点)
0
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
1
 合 計
5


【評価結果】みどりの風 マニフェスト評価   合計 5点 (形式要件 4 点、実質要件 1 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

みどりの風の「約束」には、外交安全保障に関する記載事項は、「国際関係」に掲げられた7項目のみである。その主題は「奪い合うより分かち合う外交」と題され、「対立を克服する共存の世紀を目指す」と記述されている。みどりの風が、どのような外交安全保障政策の理念に基づき、いかなる国際情勢認識に従って、政策を提案しているのかは判然としない。


【実質要件についての評価 点/60点】

「国際関係」で提起された7項目はそれぞれランダムな体裁なので、あまり論評することが適当でないかもしれない。「人間の安全保障を基礎とする外交」、と言われても何を具体的に目指すのかは分からない。「沖縄本意に日本全体で考える沖縄基地問題」も同様である。「尖閣諸島問題について台湾やアセアン諸国との連携強化」とあるが、そもそも台湾は尖閣諸島の領有権を主張する主体であり、連携するというのは非現実的である。またASEANが尖閣諸島に関して特定の立場をとるとは考えられない。

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