安倍政権1年実績評価 個別項目の評価結果 【地方】

2013年12月20日

総論

 地方分権は、地域の政策決定権を中央から、住民に身近な自治体に移すことであり、それに伴い必要となる財源を都道府県や市町村に移すことである。こうした分権はいわば中央集権体制の改革であり、主役である住民に地域の経営や将来に責任を持たせ、地域の創意の発揮により地域活性化に繋がる制度設計でなくてはならない。

 自民党が示している「地方出先機関の広域災害対応力の一層の強化」とは地方出先機関を残すということであり、これまで政府が進めてきた地方分権の動きと道州制とは完全に矛盾している。自民党の公約は、これらを整理するということにある。そこで、政府は13年3月8日に首相を本部長とする地方分権改革推進本部が設置したが、ほとんど会議は開かれておらず、国と地方の出先機関の強化と道州制については着手し、一定の動きはあったものの、現時点でそれらを整理する取組みはない。

 道州制については、自民党の道州制推進本部で議論がなされていた道州制推進基本法案では、有識者らによる国民会議(首相の諮問機関)が区域割りや国との税源配分などを答申し、政府が法整備をするという内容のものであり、地方6団体から反対意見が出されている。確かに、同法案からは自民党が道州制についてどのような考え方を持っているのか理念や目的は読み取れず、国民に説明しているとはいえない。

 国から地方への事務・権限の移譲については、一定の成果が認められるが、農地転用等地方が特に以上を希望している事務・権限については引き続き検討となっており、依然として国と地方の議論がかみ合っていない。報告徴収や立ち入り検査に限った権限などそれだけでは地方が何ら役割を果たすことができないものなど、単純に移譲の件数を成果とするのではなく、移譲により住民の利便性や自治体の政策形成力の向上などにどう寄与するかの視点に立ち、許認可・措置命令など他の事務・検眼を併せて移譲することを今後、検討していくことが重要である。また、地方法人税については、地方法人税課税のあり方検討会を16回に亘り開催し、議論を煮詰め、2014年度税制改革大綱原案で示されている。しかしながら消費税増税導入に対応する大都市圏と地方圏の財源の配分の仕方からの議論であり、地方分権改革の視点からは税財源の国への集中といった逆方向での結論とも言え、根本的な税財源の地方への移転について再検討が必要である。

 全体的な自民党の政策からは、安倍政権は、国と地方の役割を大きく変えていこうという今までの思想と違い、民間事業者を縛っている規制を緩和して経済を活性化しようというのと同じように、地方を縛っている規制から地方を開放して、好きなことをやらせよう、という発想である。つまり、地方分権を規制緩和という視点で実施しようとしており、権限を委譲しようという発想にはなっていないと考えられる。

国と地方の役割について、どのように考えているのか、安倍政権は国民に説明する必要がある。


安倍政権1年実績評価 個別項目の評価結果 【地方再生】

評価項目 評価 評価理由
地方出先機関の広域災害対応力の一層の強化と国と地方のあり方と道州制の議論を整理
2 自民党が示している「地方出先機関の広域災害対応力の一層の強化」とは地方出先機関を残すということであり、これまで政府が進めてきた地方分権の動きと道州制とは完全に矛盾している自民党の公約は、これらを整理するということにある。政府は13年3月8日に首相を本部長とする地方分権改革推進本部が設置したが、ほとんど会議は開かれておらず、国と地方の出先機関の強化と道州制については着手し、一定の動きはあったものの、現時点でそれらを整理する取組みはない。
国から地方への権限、財源等の移譲を促進
3 政府の地方分権改革推進本部は9月13日、国から地方自治体に44事務を移譲する方針を決定した。関連法案を次期通常国会に提出する。一方で、調整が付かなかった農地転用許可など24事務、「義務付け・枠付け」の第4次見直し方針を決定に盛り込まれた57項目のうち、目途がついた1項目を除いた56項目についてはこれからの課題であり、現時点でどこまで達成できるかは判断できない。
権限の移譲については、その後も議論は続いているが、具体的な案が出てくる段階にはきておらず、それに伴う財源の移譲などについても、まとまった議論が動いているわけではない。
そもそも安倍政権は、国と地方の役割を大きく変えていこうという今までの思想と違い、民間事業者を縛っている規制を緩和して経済を活性化しようというのと同じように、地方分権を規制緩和という視点で実施しようとしており、権限を委譲しようという発想にはなっていない。
一括交付金は廃止し、地域の経済や雇用増のための新交付金制度を検討する
2 民主党時に実現した一括交付金は13年度の予算編成から廃止。その枠は元の各省庁に戻したことで、一括交付金分は元に戻った。公約では一括交付金の廃止後、当初予算でしっかりと組めるように新しい制度をつくることが求められている。しかし、現状では、補正予算で単発的に交付金をつくり(12年度:1兆3980億円、13年度870億円)、地方に配分しているだけであり、現時点では新しい制度の検討には至っておらず、目標を達成できるかわからない。
新地方成長モデルを確立するため、都道府県の産学官が決定の事業に当面5年は国が支援
3 「日本再興戦略」(6月14日閣議決定)において、産学金官が参画する「地方産業競争力協議会」をブロック単位で設置することを示し、11月から順次協議会が立ちあがった。しかし、まだ協議会が発足したばかりであり、現時点ではこの協議会が新地方成長モデルを確立できるかは判断できない。
一方で、総務省も同様の取り組みを行い始めた。産学金官ラウンドテーブルで話し合い、地域の資源を使って原材料を仕入れるなどを示した事業者に、金融機関が融資する場合、初期の経費について都道府県を通じて交付金を出すなどの取り組みを行うなど、動き始めた点は評価できるが、地方の新たな成長モデルが確立するか、現時点では判断できない。
「コミュニティー活動基本法」を制定。NPO等新しい主体との協働を図る
0 コミュニティ活動基本法の制定について特段の動きはない。

NPOに関する動きとしては、内閣府が「共助社会づくり懇談会」を開催し、「共助社会づくりの推進に向けて」と題して論点整理と今後の議論の進め方について発表している。ただ、その内容については以下のような疑問がある。

(1)共助社会とは、そもそも、国のカタチを問うものであるのに、今回の内閣府の文書は共助社会を枕詞に挙げているものの、実際にはNPOとソーシャルビジネスの議論に特化している。
(2) 内閣府は、共助社会はNPOや地縁団体、そして住民など多様な主体から構成されていると述べている。そのベースは、住民たる個人であるはずだが、本論では市民参加に関する言及がいかにも希薄で、NPOが、市民参加の受け皿としての役割を果たし切れていないという問題について、言及されていない。
(3) 内閣府は、本論で、ソーシャルビジネスが新たな雇用と市場の創出を担うものであることを強調している。
だが、平成22年度に70億円の補正予算を投じて地域社会雇用創造事業が実施されたが、「目的や効果が不明瞭」等の指摘を受け、廃止や抜本的改善が言い渡されている。まずは、これらの事業について検証した上で、地に足のついた議論をすべきではないか。
(4)内閣府はNPOの信頼性の向上の取組の促進を掲げているが、この2年ほど公的資金がNPOセクターに大量に投入された結果、様々な不祥事が一挙に噴き出した。NPOの信頼性の問題についてはより深刻なものとして受け止め、先の公的資金の投入のあり方も含め、きちんと検証すべきではないか。
また、エクセレントNPO評価はじめ、民間による評価の取組を整理するとあるが、ここで掲げられている評価は、いずれも第三者評価のみであり、第三者評価の前提として重要な自己評価について触れられていない。

せっかく「共助社会」という言葉を掲げたにもかかわらず、大局観をもったこの国のカタチについての議論は展開されていない。また、ソーシャルビジネスの育成を行うというのであれば、検証をしっかりと行い、HPから削除されてしまった地域社会雇用創造事業の実績報告などの情報を即刻、復活させる必要がある。
郵政は新たな事業展開と3事業のユニバーサルサービスを確保する
3 自民党がマニフェストに示したように、日本郵政が新たな商品を開発し発売しているわけではないが、アメリカンファミリー生命保険(アフラック)と提携し取扱いする商品を発売し始めたという点では、一種の新たな事業展開だといえる。また、現時点では、全国津々浦々までのネットワークを利用しながら、ユニバーサルサービスを確保している。しかし、今後、新たな事業が展開できるかについては現時点で判断できない。


各分野の点数一覧

安倍政権通信簿は2.7点(5点満点)
経済再生
財政
復興・防災
教育
外交・安保
社会保障
3.2
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2.7
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3.3
防災・復興分野の評価詳細をみる

教育分野の評価詳細をみる
3.1
外交・安保分野の評価詳細をみる
2.3
社会保障分野の評価詳細をみる
エネルギー
地方再生
農林水産
政治・行政改革
憲法改正
2.6
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2.2
地方再生分野の評価詳細をみる
3.3
農林水産分野の評価詳細をみる
2.7
政治・行政改革分野の評価詳細をみる

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実績評価は以下の基準で行います

・未着手
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明していない
0点
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明している
1点
・着手し、一定の動きがあったが、目標達成はかなり困難な状況になっている
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に説明していない
2点
・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に対して説明している
3点
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
4点
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
5点