日本人留学生はなぜ減ったのか

2011年11月11日

第1部:学生の留学熱は高いが、男性の留学生数は減少

 工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて、今日の言論スタジオでは、「日本人の留学生はなぜ減ったのか」をテーマに議論を行いたいと思っています。日本全体が未来に向けて非常に閉塞感がある中で、これからの日本を背負うはずの若者が内向きになっているとよく言われます。調べてみると本当に海外への留学生がかなり減っています。この問題を今日は皆さんと話し合って、これからの日本を考える1つの契機にしたいと思います。さて、ゲストを紹介します。まず、私の隣が、前は企業経営者で、今はロンドンのNPOの、クリントン財団で働いている脇若英治さんです。脇若さん、よろしくお願いします。

 脇若:よろしくお願いします。

工藤:続いては、おなじみだと思うのですが、参議院議員で、前文部科学副大臣の鈴木寛さんです。鈴木さん、よろしくお願いします。

 鈴木:よろしくお願いします。

工藤:その隣が、東京大学政策ビジョン研究センター特任専門職員の村上壽枝さんです。村上さん、よろしくお願いします。

 村上:よろしくお願いします。

工藤:そして隣が、福島大学総合教育研究センターの特任準教授の丸山和昭さんです。丸山さん、よろしくお願いします。

 丸山:よろしくお願いします。

工藤:さて、私もデータも見たのですが、2004年以降、日本人の留学生がかなり減っています。特にアメリカへの留学生は特に半分近くになっています。留学生に何が起こっているのか、ということを真剣に考えてみたいと思います。丸山さんから簡単に説明してもらいます。

米国への留学生が大幅に減少

丸山:それでは、初めに、日本から海外の大学等に在籍している学生さんがどのくらい減ったかです。2004年がピークですが、このとき8万人ほどいました。これが、2008年の段階では6万6833人ということで、1万3000人ほど減ってしまったということになっています。もちろん18歳人口や高等教育在籍者の比率とかを合わせて考えなくてはいけないのですが、高等教育在籍者比率で見ても、海外の大学に在籍する学生が占める割合は2004年の段階では3%弱ほどあったのですけれど、2008年の段階では2%強ということで、これも減ってしまっているということが明らかになっています。

この比率よりも、非常にショッキングなのは、海外にいる日本人の学生と、日本に来ている海外からの学生のギャップではないかと思います。受け入れの学生は、日本に来ている留学生の数ですが、2004年の段階では11万7302人いました。これが2008年になると、12万3829人となっています。日本人の学生が海外にいる数と、日本に来ている学生の数のギャップは2004年の段階では3万7000人でした。これが2008年には6万人ということになります。この現象がなぜ起こったのかということを細かく見ていきますと、大きくはアメリカに留学する学生が減ったことによります。日本の留学生の一番多い留学先はアメリカなのですが、このアメリカの留学生は、2004年の段階では4万5000人でした。これが2009年の段階では2万5000人になりました。約半数まで減ってしまったということです。この約半数に減った内訳を見ると、学部レベルでの留学生が減っていることになります。学位を求めない留学生というのは、実は徐々に増えてはいるのですが、この学部の減りというのが非常に大きくて、結果的に日本人の留学生の減少につながっているということがデータから見てとれます。

工藤:村上さん、何か付け加えることはありますか。

村上:UCバークレーですと、海外留学生の受け入れが、2004年から2011年の間で、中国は、420名から1004名に、そして韓国は、279名から853名に、日本ですと139名から120名になっていて、日本からは横ばいもしくは減少というような結果になっています。

工藤:脇若さんはロンドンにいらっしゃいますが、何か感じていましたか。

脇若:ロンドンでは逆で、特に早稲田の学生がいっぱい来ていますし、だから、あまり人が減ったという感じはしないのですが、今、アメリカの話ですよね。だから、今、少し驚いていますけれど。ただ、新聞等で「日本の学生が減っている」というのは知っているので、そういう意味で驚きはないのですが、ロンドンで生活する限りでは、そんな感じはありません。もともと日本人が5万人くらいしか住んでいないロンドンの中で、人も減っているわけではないし、だから、あまりそういう印象はないです。

工藤:鈴木さんは、副大臣時代にこの問題に取り組み、政府でも留学生をとにかく送り出そうという動きを、やっていましたよね。つまり、それくらい、結構少なくなってしまっているという認識があったということですね。

男子大学生が海外留学したがらない

鈴木:そうですね。今、村上さん、丸山さんからご紹介いただいたように、減っています。これは国家戦略上も、きちんと考えていかなくてはいけないテーマだということで、文部科学大臣、外務大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、この4大臣でグローバル人材育成推進会議というものをつくって、そこに幹事会をつくり、その幹事会の座長を私がやらせていただいて、今年の夏に中間報告をとりまとめたということです。もう少し中身をフォローすると、女子の日本人留学生と男子の留学生の比率は、今は2対1です。ですから、特に男子大学生が留学しないということが問題であります。それと、アメリカの比率は下がっているということは、行き先が増えているということですから、それは1つの現象として、それは望ましいことだと思います。アメリカももちろん増えてほしいと思っていますけど。

それから、背景はやはり経済的な理由と、就職活動との兼ね合い、それに、そもそもの内向き志向ということがあります。特に2008年から、さらにリーマンショックで、いわゆる留学資金の経済的負担ができる学生が減っているということがあります。ここは、23年度予算でショートビジットの補助金を出すようにしました。そうしたら、まず試みでやってみようと思って、2万人くらい用意していたのですけれども、これがもう瞬く間に売れてというか、手を挙げる人が続出して、本当に残念ながらお断りした方が大分いて、やはり経済的な支援をすると、そこは少し戻るなということはよくわかりました。

就職活動については、これは留学のみならず、そもそも大学3年生の途中から就職活動が本格化してしまうので、留学というのは大学2年生の秋から3年生の夏くらいが一番集中する時期なのですけど、そうしていると就活に乗り遅れてしまうと心配して留学をためらうという傾向もありました。留学への影響のみならず、就活の早期化というのは問題なので、ここは経済同友会とか経団連とかにかなり働きかけをさせていただいて、日本貿易会がその先頭に立ってくださったのですけれども、就職活動は4年生に戻すというメッセージも伝わって、就活上は問題なくなってきたということは、今、学生に伝わっているので、少し戻りつつあると思います。一番厄介なのは、内向き志向問題であって、先ほどの韓国とか中国の学生に比べると、留学したいと思わないという人の方がはるかに大きい国ってもう日本くらいです。ここは相当問題で、特に男子学生の保護者問題というのも背景にあるということです。

アンケート結果は留学生減少を憂慮

工藤:言論NPOの関係者に急遽アンケートをやってみたのです。「留学生の減少が日本の将来に大きな影響を与えると思うか」と質問したところ、「大きな影響があると思う」と回答した人が77.4%ですから、8割くらいが「大きな影響がある」と。それで、「それほど大きくないが、必ず影響がある」が9.4%ですから、9割がこの「留学生の減少が日本の将来に対して影響がある」という風に回答しています。それから今回びっくりしたのが、アンケートのコメントが多いこと。つまりいかに留学生の減少問題に強い関心があるかというのが、非常にびっくりなのですが、どうですか。脇若さんは非常に大きな問題だと思っていますか。

脇若:僕も同じ意見で、やはり問題あると思っていて、急にではないと思いますが、じわじわと影響が出てくると思います。ですから、皆さんが言われているように、日本ではこの間TPPの議論があったようですけれども、やはり国際社会の中で日本がこれから生きていくためには、単なる経済活動だけではなくて、人の交流とかいうことをやっていかなくてはいけない。そのためにはそういう人間が必要だということで、皆さんもそれは分かっていると思います。

工藤:脇若さんは、日本の企業経営者だった人で、そこからNPOに行くというのには、かなりびっくりしました。ただ、それよりびっくりしたのが、帰国された時にうかがった話。クリントン財団にいる若い人たちは世界から集まった優秀な人たちで、グローバルアジェンダを解決をしたいという若者がどんどん活躍している、と。そこに日本人がどうかということもあると思うのだけど、やはり世界はそういう風に変わっているわけですね。

脇若:そうですね。日本の場合は、色々と政府が施策を打つのはいいのですけど、基本的に成功例というのは、いい大学に行って、いい会社に行って、最後まで勤めるというものです。社会のシステムがそうだから、NPOにいくとか、そういうことをやるのは、マイナスになってしまう。鈴木先生がおっしゃったように、留学もその一部ということです。そういう社会を変えていかなくてはいけない。これはかなり時間がかかる話だと思うのですけれども、その辺のところをインフラ、バックグラウンドがそういうことを助長させているというのです。

私が留学したのは1976年から2年間、アメリカにMBAを取りに行ったのです。その当時は企業が海外に行かないといけないというので、ハングリーな企業はいっぱいあったわけで、その先兵隊として、我々団塊の世代は行ったのです。ところが今の世代の人間というのは、日本で、ものが何でもあるし、海外までわざわざ行って、できない英語を話してやるよりも、日本でネットでも見られるし、食べるものもあるし、みんな「ステイハングリー、ステイフーリッシュ」でなくてもいいわけです。ただ、そういう世代だから、やはり行かないのではないかなと思うのです。

工藤:鈴木さん、この現象は日本の将来にとってどうですか。。

20歳代前半でバイリンガルを同世代の1割に

鈴木:これは大問題だと思っています。私たちは18歳段階で1学年バイリンガル3万人。それから20歳代前半でプラス8万の計11万人、要するに同一世代の中で1割を20代前半でバイリンガルにしようということです。そのためにも、やはり半年とか、1年とか、とにかく留学するのが一番いいわけです。それは語学の面だけではなくて、これから語学ができることは当然というか、とにかく、そういう人材が1割とか2割必要だと思っています。また、製造業にしても、交通産業とか住宅産業にしても、日本のいろいろな良い付加価値というのがあるわけです。日本の中では、これは成熟産業になってきているけど、アジアもアフリカも本当に必要としているのに、こういう日本の良いものを外に出していく人材とか、あるいは世界の人たちと一緒に無から有をつくっていく人材とか、こういう人材はやはりあるボリュームを養成して行かなくてはいけないということでやっています。

ただ、私はやりようによってはすぐ戻ると思います。というのは、この報告書を書くため、秋田にある国際教養大学の中嶋嶺雄先生とか、元国連の明石さんとか、あるいは日本貿易会の槍田会長とかにご尽力いただいたのですけれど、今、国際教養大学は全員留学します。今や国際教養大学卒業生のための、あるいは在学生のために、企業は特別の採用スケジュールをつくっているぐらいで、就職率もどこの大学よりも良いです。このことは実は色々なところで言いまくっていて、そういう情報が学生に非常に伝わっています。企業も留学している経験をポジティブに評価すると。これは私とのコミュニケーションの中で、留学した人向けの採用スケジュールを別途組んでくれるということを、もうすでに約束してくれています。これは日本貿易会の大変多大なるリーダーシップのお蔭なのですけど、そういうことがもう学生に伝わり始めているので、ビヘイビアは相当変わっていくというふうに思います。ただ、あとは、保護者の問題。

工藤:村上さん、丸山さん、若者が内向きになっていて、昔と今は違うよと言われていますが、それについてはどうですか。教育の現場なりについて。実際、おふたりは僕たちよりも若い感じがするので。

留学に対する学生の関心は非常に高い

村上:若手に加えていただいて、ありがとうございます。私の方から申し上げますと、昨年ちょうど就職支援、なおかつ留学にかなり力を入れている大学に聞いてみました。そうしたら、留学の説明会をすると、部屋が満員になるほど、立ち見が出る程留学についてすごい関心があるという学生さんが多い。実際、私も見にいったのですけれども、果たして学生は内向きなのだろうか、本当に確認したくなるくらい満員でした。

丸山:では、私はデータで捕捉させていただきます。社団法人のKIP知日派国際人育成プログラムが学生約1000人にアンケートを実施したのですが、「留学に行きたいと思うか、過去に思ったか」ということを尋ねました。実に86%が「はい」と答えていますので、若者の留学に対する関心は実は非常に高いということが分かっています。

工藤:若者は内向きになったと思いませんか。僕も何となくそういう気がするのですけど。
丸山:僕もこのアンケートの結果を見るまでは、内向きになったと思いこんでいました。

鈴木:ただ、一方で商社の若い社員などは、商社に入ってきているにもかかわらず、「海外勤務がいやだ」とかいう人が増えていることは事実なので、内向きはあると思います。

脇若:それは昇進のためですよね。多分。

鈴木:だけど、昇進は海外に回らないとできないよね。それでも、日本にいたい人が増えている。

工藤:国内にいた方が昇進できやすいのですか。

脇若:意外とそうですね。意外と。ちょっと分からないでしょうけど。私も商社出身ですから、我々の時代は先ほど言ったように、経済成長がすごくあるときには、外に行くというのは重要だったのですけれども、こういうような成熟した世界になってきて、やはり日本国内に良いポジションをとっていた方が、上に行きやすいというところも出てきているので、そういうことを考える人が出てきているのではないですか。

工藤:そうですか。わかりました。休息をちょっと入れて、次の話に移りたいと思います。

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