【座談会】小泉改革で景気は回復したか

2004年7月05日

nakamae_t040416.jpg中前忠 (中前国際経済研究所代表)
なかまえ・ただし

1962 年東京大学卒業後、大和證券入社。本社調査部での勤務を経て、73 ~85 年ロンドン駐在エコノミスト。86 年退社。株式会社中前国際経済研究所を設立し、現在に至る。著・訳書に『三つの未来』『目覚めよ!日本』他。またThe International Economy 、日本経済新聞等に寄稿。

sheard_p040416.jpgポール・シェアード (リーマン・ブラザーズ証券東京支店チーフエコノミスト・アジア)

1954年生まれ。リーマン・ブラザーズ証券会社東京支店経済調査部マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト。オーストラリア国立大学にて博士号取得。スタンフォード大学、日銀金融研究所、大阪大学等に在籍。経済審議会部会委員等歴任。著書は『メインバンク資本主義の危機』等。

mizuno_k040416.jpg水野和夫 (三菱証券株式会社リサーチ本部チーフエコノミスト)
みずの・かずお

1953 年生まれ。80年早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了、八千代証券(81年合併後は国際証券)入社。以後、経済調査部でマクロ分析を行う。98年金融市場調査部長、99年チーフエコノミスト、2000年執行役員に就任。02年合併後、三菱証券理事、チーフエコノミストに就任。主著に『100年デフレ』。

概要

デフレにあえいでいた日本経済に、やっと景気回復の兆しが見えてきた。小泉首相は、自ら公言した構造改革の成果だとしているが、果たしてそうなのか。エコノミストは、口をそろえて「ノー」と診断し、むしろ中国特需などによるもので、自律的な回復ではないという。そして金利の適正化によってオールドエコノミーの解消、さらに財政支出の半減といった大胆な処方箋を提示しない限り構造改革は実現しないばかりか、デフレが長引くリスクがある、との指摘もしている。

要約

日本の景気回復の動きについて、小泉内閣は自らの構造改革路線の成果だとしているが、果たしてそうだろうか。3人のエコノミストによる議論の過程で浮上したのは次のような論点であった。

まず、日本経済は現在もデフレが続き、企業のリストラで分配が家計から企業に移っているに過ぎず、株価も外国人投資家によって支えられ、アメリカや中国特需に依存しているだけの現状は本物の自律回復ではない。特に問題なのは、この中で一部の勝ち組みとその他大勢の負け組みとの格差が拡大しているという二極化現象である。景気局面に無関係に所得が構造的な低下を続ける人々が人口比でも相当のウエイトを占めている。

現実の小泉政権の政策をみると、それは構造改革路線に反し、逆に金融危機対応型で管理的な色彩を強めてきた。ゼロ金利、ペイオフ延期、株価の維持、債券市場での極端な国債管理政策、為替市場への極度な介入など、市場原理に背を向けた無原則性が日本を社会主義的な経済へと後退させている。本来とられるべきハードランディング路線よりも、時間をかけて痛みを治す忍耐政策の下にソフトランディング路線が採られ、過剰能力問題というデフレの最大の要因を温存させている。実際に、3年間の「集中調整期間」においても改革は実質的進展を見せていない。

オールドエコノミーを整理合理化し、新分野の創出で生産性を高めていくという本来の構造改革に向けて、構造改革特区を超えた大胆な規制改革、金利の上昇など、市場原理をより一層活用した政策に踏み込む必要がある。むしろ、前例のない規模での為替介入こそが小泉内閣が採った最大の経済政策であり、それによるアメリカへの資金供給が世界に流動性を供給し、それが日本を潤している。これが構造改革路線の中でどう位置付けられるのかの説明が全くなされていない。

今求められるのは、公約された名目2%の成長率と財政のプライマリーバランス達成に向けた政策の整合化であり、金利の正常化による規律の回復に加え、財政支出の思い切った削減といった大胆な処方箋を提示しない限り、構造改革は進まないばかりか、デフレが長引くリスクがある。

デフレにあえいでいた日本経済に、やっと景気回復の兆しが見えてきた。小泉首相は、自ら公言した構造改革の成果だとしているが、果たしてそうなのか。エコノミストは、口をそろえて「ノー」と診断し、むしろ中国特需などによるもので、自律的な回復ではないという。そして金利の適正化に...