【論文】「視点」 小泉内閣の経済政策をどう評価するか

2003年11月07日

平成金融問題研究会

小泉内閣は、歴代内閣の中で初めて、根源的な改革の必要性を正面にすえ、国民に痛みを伴う構造改革の断行を訴えた。その最大の政策課題は金融と産業の再生を通じた経済システムの強化だった。しかし、この小泉内閣ですら、平成不況の問題の本質がいまだ十分に理解されていない。今日の金融システムの弱体化と経済の混迷は、戦後日本の基本構造そのものに遡って原因を求めるべきものである。日本企業は巨額な債務を積み上げることで成長した。信用拡大の基礎には企業の期待収益を超える資産の高い期待インフレ率があった。バブルの崩壊とその後の展開は、過剰な債務と信用が正常化する過程であり、過大な債務残高が解消するまで資産デフレは解決できず、結果、日本経済は低迷から脱出できない。正常化の基本は市場による調整機能の活用であり、問題の核心は企業や金融機関などの供給サイドにある。現在の信用収縮現象は資産デフレによる企業と銀行の資本の毀損やそのリスク、期待収益率の低下に起因しており、この分野に真のメスが入らない限り、日銀がいくら貨幣を供給しても事態は改善しない。激しい市場の暴力を阻止しつつ他方で市場の調整力を活用しながら非効率な企業や銀行を整理淘汰するのがこの問題に対する基本姿勢であり、ペイオフ凍結で預金取り付けを封じた以上、もう一段の政策介入で企業と銀行の再編と収益力の向上を進めなければ変革は完結しない。

小泉内閣の視点から欠落している論点は以下の3点である。第一は、金融と産業の一体再生の体制強化であり、金融と産業再生の担当大臣の兼務化、主要問題企業の負債・資本比率の100~110%程度までの引下げの数値目標化、産業再生機構や政策投資銀行からの資本提供を検討すべきである。第二は、地域金融機関の再編であり、地域の貯蓄のより多くを地域のために投資すべく、その機能強化のための再編、資本注入や自己資本の強化に加え、都道府県の役割や民営化を見据えた郵貯の地域金融システムの中への取り込みが必要である。第三は、ペイオフ解禁後の日本のあるべき金融システムのあり方の検討の正式な開始である。金融の自由化だけでは安定化の保証にはならず、特に間接金融のウエイトの大きい日本では信用創造の安定化をどう図るかを、マクロ政策を超えたシステムの問題として検討すべきである。


小泉内閣は、歴代内閣の中で初めて、根源的な改革の必要性を正面にすえ、国民に痛みを伴う構造改革の断行を訴えた。その最大の政策課題は金融と産業の再生を通じた経済システムの強化だった。しかし、この小泉内閣ですら、平成不況の問題の本質がいまだ十分に理解されていない。