医療分野のマニフェストをどう読むか

2012年11月30日

上 昌広氏
(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任教授)

持続可能な医療費負担をどう考える

 今回の選挙では、これまでの経験、特に政権交代以降の問題点、あるいは達成した点を踏まえたマニフェストになる必要があると思うのです。

 例えば、政権交代後に起こった大きな動き、1つは、中医協という医療費を決める審議会の中から、日本医師会のメンバーが一掃されました。その結果何が起こったかというと、従来開業医に偏重していた医療費が、病院サイドにあてがわれるようになったのですね。その結果、救急車のたらい回しのような問題がずいぶん減りました。また、大きな病院なんかの経営がずいぶん改善しました。大学病院などはほとんど黒字化しているのです。その結果、病院の雇用者、従業員がずいぶん増えたのですね。このことが民主党政権下で失業対策に大きく貢献したと言われています。こういうところを私は評価しなければいけないと思うのです。

 もう1つは、医療費を、自民党政権以来久しぶりに増やしました。このことも失業対策に貢献しました。ところが、医療費は、保険組合と国民の自己負担、税金ですね。保険サイドが破綻し始めているのです。国だけ医療費を増やすといっても、その仕組みが永続しないことが分かったのですね。この、持続可能な医療費負担の問題を議論しないといけないです。

 さらに、民主・自民・公明各党などが、高額療養費の問題、一部の患者さんは難病に指定されたりして医療費が減免されていますが、多くの患者は、医療費の2割あるいは3割の負担をずっと強いられるのです。難病患者の一部の方は、毎年数万円から数十万円の負担を被っているのです。こういう問題をみんなで改善しようと言いましたが、最終的に合意に達しませんでした。医療費を誰が負担し、誰に配分していくか。こういう議論をしないといけないのです。民主党政権の間にできなかったこと、それは、国だけがお金を払っても、健保組合の問題や、国民の合意を取り付けられない、こういう問題に直面したのです。


地域格差のある医師不足

 2つ目は、医療提供者、特に医師の不足です。これは、2008年くらいから議論されました。救急車のたらい回しなどが社会問題化したからなのですね。その結果、当時の高労働人、舛添要一さんの時に、医学部定員を毎年400名弱増やすことに決まりました。当時は10年間増やすと言ったのですね。民主党政権下でもこれは継続されました。その結果、医師不足は若干改善されているような感じがします。

 ところが、民主党政権下で明らかになったのは、医師不足にはずいぶん国の中で格差があること、特に深刻なのは東京のベッドタウンの関東圏です。埼玉県・千葉県・茨城県。もう1つは、東日本大震災で被害を被った東北地方なのです。この国の医師不足の問題は、世界平均くらいになっている西日本と、著しく少ない東日本という偏在の問題であるということに、ずいぶんコンセンサスが進んできたのですね。では、どうしたらいいか。実は、足りない地域に医学部を作ろうという議論が出始めています。宮城県・新潟県・神奈川県・あるいは千葉県成田市・埼玉県などからそういう声が出ています。今、この問題について、実がマニフェストの中でも多くは答えないと思うのです。なぜなら医師会が反対するから。民主党政権下でこの問題に強く取り組んできたのは、東京や西日本の国会議員だったりするのです。私が知る限り、肝心要の関東や東北地方の議員は、この問題にコメントを出していないのですね。選挙が近づいて、実は東北地方の自民党議員の方々がこの問題に声を上げ始めました。

 マニフェストでは、医師の数、特に偏在問題に絡めて、この点を述べてほしいと思います。非常に重要です。なぜ重要かというと、地域の復興というのは人づくりなのです。人づくりとは教育機関なのです。実は、医師数が重要なのは、医療関連産業の専門職は医師が不足しているところでは育たないのですね。例えば看護師、あるいはリハビリの技師さん、こういうコメディカルも完全に西高東低です。東京だって全国平均をはるかに下回るのです。例えば理学療法士さん。福岡県には養成校が15校あります。今話題の福島県はわずか1校なのです。これは国家資格ですからね、30~40歳になれば月給30万円以上確保できるのです。こういう仕事を養成しようにも、東日本では養成できないのです。実習病院の問題、指導者の問題があるのです。


 ぜひ、今回の選挙で、医療で問うていただきたいのは、持続可能な負担の問題、政府がやるだけでは無理です。保険組合の問題、国民負担の問題があります。増税しただけでは原理的に改善しません。

 2つ目の問題は、お金がついても、ある特定の地域、とくに関東・東北においては提供者が全然足りないのです。地元で養成していくことも踏まえて議論していく必要があります。この点を避けて、さまざまなバラマキ、こういうものにお金をつけます、補助金をつけます、こういうものは本質的な議論ではありません。選挙で問うものというのは、本質的な議論をピックアップして、国民の議論の題材になるような形で提示いただければと思います。