【プレスリリース】言論NPO 第10回日中共同世論調査の結果公表

2014年9月09日

2014年9月9日 認定NPO法人 言論NPO
  • 両国民の相手国に対する感情や認識は、昨年から日本が悪化したのに対し中国はやや改善するものの、依然として悪い状況です。過去10年間の調査を通して見ても、それぞれ悪化を深めています。
  • 日中両国民が考える日中関係の最大の懸念材料は、依然として「領土問題」。政府間や国民間に信頼関係がないことを阻害要因と見る人が、両国に目立ち始めています。
  • 日本人の8割、中国人の7割が、悪化する国民感情の現状を「望ましくなく心配」、「問題であり、改善が必要」と認識していました。


 言論NPO(代表 工藤泰志)は、2014年9月28日から開催する「第10回東京-北京フォーラム」に先立ち、「第10回日中共同世論調査の結果」を公表いたしました。今年実施した日中の共同世論調査から、両国民の相手国に対する感情や認識が昨年から依然として高い水準のまま悪い状況であることがわかるとともに、こうした状況に対して国民が問題意識を強く持っていることがわかりました。この調査は、言論NPOと中国の英字メディアである中国日報社が2005年から毎年共同で行っているもので、今年は7月から8月にかけて日本全国と中国では北京、上海、成都など5都市で実施されました。

 両国民の感情の悪化は、尖閣諸島での日中両国の対立がその大きな原因になっており、相手国の印象や両国関係、今後の両国関係など設問で大きな影響が見られます。その背景には、国民間の直接交流が不足し、相手国を知るための情報源の多くを自国のメディア報道に依存している構造も見られます。

 本調査および分析を行った言論NPO代表の工藤は「相互理解や基礎的な理解は、世論調査の動向で見る限りこの10年間、大きく改善はしておらず、むしろ2010年以降の政府間関係の再悪化が相互理解の改善を妨げている。その意味で首脳会談の再開など政府間外交の改善は、こうした状況を立て直す上で大きなきっかけになるものである。だが、それだけでは不十分であり、冷静なメディア報道や、何よりも国民間や民間の直接的で多様な交流に役割が不可欠となっている。」と述べています。

 なお、この調査結果を踏まえ、言論NPOと中国日報社は共同で「第10回東京-北京フォーラム」(※)を9月28日~29日に東京で開催します。両国の有識者が、国民間の感情対立をどのように乗り越えることができるか、安全保障上の問題をどうするかなど、日中の関係改善と課題解決に向けて公開の場で議論を行います。(※「第10回東京-北京フォーラム」開催概要についてはこちらをご参照ください。)


第10回日中共同世論調査結果

日本人の対中印象は昨年より悪化、中国人の対日印象は依然として悪いが昨年よりは改善

 日本人の「相手国に対する印象」は、「良くない」(「どちらかといえば良くない印象」を含む)が93.0%となり、調査開始以来初めて9割を超えた昨年(90.1%)よりもさらに悪化した。一方、中国人では「良くない印象」は86.8%となった。依然として8割を超えているが、過去最悪の92.8%だった昨年よりは改善している。


悪印象の理由は、日本人では「中国の大国的な行動」、中国人は「尖閣」と「日本人の歴史認識」

 日本人が中国に「良くない印象」を持つ最も多い理由は、「国際的なルールと異なる行動をするから」が55.1%(昨年47.9%)で、「資源やエネルギー、食料の確保などの行動が自己中心的に見えるから」が52.8%(昨年48.1%)で続いている。中国の力を背景とした行動を「良くない印象」の理由とする人が増加した。

 一方、中国人が日本に「良くない印象」を持つ理由では、「日本が魚釣島を国有化し対立を引き起こした」の64.0%(昨年77.6%)と、「侵略の歴史をきちんと謝罪し反省していないこと」の59.6%(昨年63.8%)の2つが突出している構図は昨年と同様である。ただ、昨年と比較するとこの2つを挙げる人は減少している。反面、「一部政治家の言動が不適切だから」が31.3%(昨年25.2%)と日本の政治家の言動を理由とする人が増加している。


日本人の8割、中国人の7割が、悪化する国民感情の現状を「望ましくなく心配」、「問題であり、改善が必要」と認識

 相手国に対する感情が悪化している現在の状況について、日本人では「望ましくない状況であり、心配している」と回答した人が32.5%、「この状況は問題であり、改善する必要がある」と回答した人が46.9%となり、合わせると8割近くが国民感情の悪化している現状を問題視している。中国人も同様で、「望ましくない状況であり、心配している」と回答した人が35.2%、「この状況は問題であり、改善する必要がある」と回答した人も35.2%で、合わせて7割が、国民感情の現状を問題視している。


日中両国民が考える日中関係の最大の懸念材料は、依然として「領土問題」。政府間や国民間に信頼関係がないことを阻害要因と見る人が、両国に目立ち始めている

 日本人が考える日中関係の最大の懸念材料は「領土問題」であり、58.6%で突出している。「中国の反日教育」を障害と見る人が42.9%で続く。「日中両国政府の間に政治的信頼関係がないこと」も35.0%と4割近くになっているほか、「国民間に信頼関係がないこと」を指摘する人も25.5%あり、合わせると6割が政府や国民間に信頼関係がないことが、関係改善の障害と捉えている。

 中国人も、「領土問題」が懸念材料と考える人が64.8%(昨年77.5%)で最も多かった。続いて、日本の「歴史認識や歴史教育」を指摘する中国人が31.9%(昨年は36.6%)いた。ただ、日本と同様に、中国でも政府や国民レベルの信頼関係がないことを関係改善の障害と見ている人は少なくなく、「政府間の信頼関係がないこと」は25.4%、「国民間に信頼関係がないこと」を障害と見る人は15.5%、と合わせて4割を超えている。


両国民ともに半数を超える人が日中首脳会談が必要と回答。特に日本人にその期待が高いが、4割近い中国人は「必要ではない」

 2012年5月以後、開催されていない日中の首脳会談の必要性については、日本人は64.6%(昨年64.9%)が「必要である」と答えており、「必要ではない」と回答したのは7.7%(昨年7.6%)と、1割にも満たない。一方、中国人で「必要である」と回答した人は52.7%と5割を超えているが、昨年の57.1%よりは減少している。「必要ではない」と回答した人も37.1%(昨年37.3%)と4割近くもあり、日本の認識と開きがある。


日中両国の直接交流は依然として乏しく、自国メディアを通して間接的に相手国を知るのが大半

 日本で中国に渡航経験がある人は14.3%(昨年14.7%)で、多少話をする知人・友人を持っているのは21.1%(昨年20.3%)と昨年とほとんど変わっていない。

 これに対して中国人の日本との直接交流はさらに乏しく、日本に渡航経験がある人は、最近の日本への旅行客の増加を反映して昨年の2.7%から増加したとはいえ6.4%に過ぎず、多少話をする日本の知人や友人がいるのはわずか3.1%(昨年は3.3%)である。これは10年間で大きな変化がない。

 そのため、両国民共に相手国の認識は間接情報に頼らざる得なくなる。例えば日本人は7割(73.9%)、そして中国人は8割(80.1%)とその大半が相手国の理解は、「自国のメディアを通じて知る程度」と答えており、情報源も日本人の96.5%、中国人の91.4%とほとんどが「自国のニュースメディア」であり、その大半の人が「テレビ」と答えている。

調査結果の詳細は、こちらをご覧ください。


日中共同世論調査とは

 日本の言論NPOと中国日報社は、日中の両国民を対象とした共同世論調査を今年7月から8月にかけて実施した。この調査は、最も日中関係が深刻だった2005年から日中共同で毎年行われているものであり、今回は10回目となる。調査の目的は、日中両国民の相互理解や相互認識の状況やその変化を継続的に把握することにある。

 この調査は2005年から2014年まで10年間継続して実施すること、そして調査結果を「東京-北京フォーラム」の議論の題材として取り上げることで、両国民の間に存在するコミュニケーションや認識のギャップの解消や相互理解の促進のための対話に貢献することを、言論NPOと中国日報社は合意している。


「第10回日中共同世論調査」概要

 日本側の世論調査は、全国の18歳以上の男女(高校生を除く)を対象に7月24日から8月10日、訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1000である。回答者の最終学歴は高校卒が45.8%、短大・高専卒が16.7%、大学卒が25.2%、大学院卒が1.6%だった。これに対して、中国側の世論調査は、北京、上海、成都、瀋陽、西安の5都市で18歳以上の男女を対象に、7月14日から7月25日の間で実施され、有効回収標本は1539で、調査員による面接聴取法によって行われた。標本の抽出は、上記の5都市から多層式無作為抽出方法により行われている。

 なお、この調査と別に、言論NPOと中国日報社は世論調査と同じ時期に世論調査と同じ内容の有識者へのアンケート調査を、日本と中国で行った。日本では、言論NPOの議論活動や調査に参加していただいた国内の企業経営者、学者、メディア関係者、公務員など約2000人に質問状を送付し、うち628人から回答をいただいた。回答者の最終学歴は、大学卒が62.9%、大学院卒が29.1%で合わせて93.0%となる。また、有識者の属性として79.5%が中国への訪問経験があり、78.9%が、会話ができる中国人の知人を持っている。

 また中国では北京大学が実施主体となり、学生・教員を対象としたアンケートを7月23日から8月3日の間に、北京大学、清華大学、中国人民大学、国際関係学院、外交学院の学生・教員を対象に行い、813人から回答を得た。また、同時期に会社員、政府関係者、マスコミ関係者などの有識者にも同じアンケートを実施し、201名から回答を得た。これらの回答を合算し、合計で1014人の回答内容を中国有識者として分析した。


言論NPOとは

 言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のシンクタンクです。言論NPOは、議論の力で、「強い民主主義」と「強い市民社会」をつくり出すことをめざし有権者が政治や政策を判断し、民主政治を機能させるために質の高い議論づくりや政策評価に取り組んでいます。

 また、民間外交を担うトラック2として、私たちが行う議論はアジアにも広がっており、特に中国との間では2005年より「東京-北京フォーラム」を9回開催しており、ハイレベルの民間対話を実現しています。更に、2012年3月には米国外交問題評議会(CFR)が設立した国際シンクタンク会議カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)の常設メンバーに選出されており、日本の課題のみならず、世界の課題に対して提言を行っています。


本件に関するお問い合わせ:
言論NPO編集局プレス・オフィサー 吉崎洋夫
TEL:03−3548−0511 FAX:03−3548--0512
MAIL:info@genron-npo.net