バイデン政権発足1か月―ワシントンを代表するシンクタンクの3名に聞いた国際協調の修復は民主主義国との密接な連携や協力以外に策がない

2021年2月12日

 バイデン政権発足から約1か月。バイデン大統領はこの一か月でパリ協定からWHO脱退の撤回など矢継ぎ早に大統領令名し、トランプ前政権のアメリカ・ファースト的政策から国際協調路線に舵を切った。

 言論NPOは、政権発足1か月にあたり、バイデン政権下での米中関係についてワシントンを代表するシンクタンクの専門家3名にインタビューを実施。バイデン大統領が進める国際協調の修復や、中国との競争と協力の両立が本当に成功するのか、率直に尋ねた。

 その中で3氏が一致したのは、短期的には米国はリーダーシップを回復し、世界の課題に取り組むが、国際協調の修復が成功するかは、米国単独ではなく、同盟国・友好国の密接な協力とコミットメントが必要であり、それがあって中国との交渉も可能になる、ということだ。また、今後の国際秩序にとって重要である中国との関係については、バイデン政権も長期的な競争・対立関係が基調になるとしながらも、中国の封じ込めに向かうことは否定。それよりも自由で民主的なシステムを守るために、ハイテク技術やデータ管理などの重要分野で中国とは切り離したルールや制度作りで対抗すべきとの考えが示された。

 ブルッキングス研究所国際秩序・戦略プロジェクト・ディレクターのブルース・ジョーンズ氏、外交問題評議会副会長のジェームス・リンゼイ氏、ハドソン研究所シニアフェローのロバート・スパルディング氏の3名がインタビューに応じた。

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国際協調の修復は米国単独では不可能-同盟国や友好国との密接な協力が必要

 バイデン政権は、短期的にはアメリカのリーダーシップを何とか回復し、国際協調の修復に取り組むが、同盟国や友好国の信頼や協力なしでは成しえない―ワシントンのシンクタンクの識者3名の一致した見解だ。

Lindsay.png アメリカ政治を専門とする、外交問題評議会副会長のジェームス・リンゼイ氏は「アメリカはできる限りグローバルなリーダーシップを回復させようと努力はするが、それは単独行動ではなく、同盟国や友好国との対話や合意の下、進めるだろう」と新政権の外交姿勢を分析する。リンゼイ氏は、アメリカの特異な世界における指導力は続くとしながらも、国際協調の修復のためには「他国との協力以外に策はない」と断言する。

BruceJones.png 米外交政策を専門とするジョーンズ氏も、今後の国際協調の修復の成否について、「アメリカが自身のリーダーシップを回復するだけではなく、貿易や安全保障の面で主要な民主主義国家とより一致した協力を行えるかにかかっている」としている。ジョーンズ氏は、「新政権は、中国との協議で物事を進めるのではなく、まず民主主義国家と密接に調整し、これらの国々と多国間システムの中で対中交渉や国際協力を進めるだろう」と加え、これまで多く議論された、米中二か国のグランド・ディールについては否定した。

 一方で、両氏は、「国際協調の修復は時間がかかるプロセス」とも語る。多くの国がバイデン政権との協力に前向きな一方で、前政権時代に同盟関係は傷付き、大きく低下したアメリカへの信頼をどう回復するかという課題が残るからだ。

 ジョーンズ氏は、多くの国は、「たった一回の選挙で米国の方針が変わることも知った」とアメリカとの関係は、約10年前を比べ、一歩引いたものになると話す。特に、アジアやヨーロッパではアメリカ一国への依存ではなく、中国との強い関係も引き続き維持すべきという姿勢がみられる中、「いかにアメリカが同盟国と協力して、経済的な問題、戦略的な問題に対しても理にかなった一貫したアプローチを取れるかが重要だ」と話す。


米中関係は、長期的に競争・対立関係

 アメリカの指導力と民主主義国との緊密な連携の他に、国際協調を進める上で、一つの大きな要素は超大国であるアメリカと中国との関係がどう展開するかだ。

Rob.png この点について、「中国とは長期的に競争・対立関係が続くというのがアメリカ政治の中でのコンセンサスだ」と長年国防総省や国務省で外交・安保政策にかかわってきたハドソン研究所シニアフェローのスパルディング氏は語る。同氏は、バイデン政権は口調は多少穏やかになるが、その滑り出しを見ても方針はトランプ政権時代と変わらない、との認識を示した。

 厳しい対中姿勢は前政権時代から変わることなく今後も長期に続くというのは、3氏の一致した見方だ。「関与を続けても、中国が責任のある国となり、国際的ルールを守ることはない、というのが超党派での認識だ」とリンゼイ氏も話す。


中国が実際に行動を変容しない限り、感染症や気候変動分野での協力さえ難しい

 では、長期的な対立関係が米中関係の基調であるなら、バイデン政権の言う、「感染症や気候変動などでの中国との協力」は可能なのか。

 ジョーンズ氏は、冷戦時代でも米ソ間に国際保健や核不拡散分野での協力が進んだ例を挙げながらも、「米中間の協力は冷戦時の米ソ間より難しい」と話す。その一つの理由は、唯一の協力分野である感染症や気候変動対応面でも中国の説明と行動が食い違っているからだ。

 リンゼイ氏は、中国が新型コロナのパンデミックで透明性あるデータを提供していない点、また気候変動で「2060年排出量ネットゼロ」を打ち出しながらも「一帯一路」プロジェクトで石炭火力発電の新設を数百単位で進めている点を挙げ、グローバル課題への対応での中国の行動の不一致を指摘した。

 スパルディング氏も、中国政府が言葉ではなく実際の行動と変革で国際秩序に対する姿勢を正すべきだ、と断じる。同氏は、中国が国際社会に対しグローバル課題に取り組む積極姿勢を表明しながらも、実際の行動は温暖化や感染症対策、海洋資源問題を悪化させている点を指摘。合意を守らない中国共産党の姿勢を「法の支配の欠如」にあるとして、中国との協力は難しいと結論づけた。


中国封じ込めは不可だが、自由で民主的な制度を守るために他の対抗策を

 では、米国は今後どのように中国と対峙するのか。

 まず、中国の封じ込めについては、二国間の経済・貿易面での相互依存の深さから現実的でないとの見解を3氏は示した。加えて、スパルディング氏は、中国が自由世界の開放性を利用し、金融システムや企業構造、ロビイング、大学などを通じて社会のいたるところに足場を築いていることも封じ込めを難しくしていると伝えた。

 この点について、リンゼイ氏が強調したのは、「国際的なルールを無視し、南シナ海における主権の主張や香港・台湾に対する攻撃的な態度を続ける中国に対し、アメリカは封じ込めではなく、自由で民主的なシステムを守るために同盟国・友好国と共に取り組むべきだ」ということである。

 特に重要となるのは、ハイテク技術やデータガバナンスだ。3氏はこの分野で中国の影響力を排除するため、対抗措置を講じるか、別の仕組みの確立を主張する。

 まず、リンゼイ氏は、対抗手段として、中国がハイテク技術を米国に依存していることからエンティティー・リストの活用を挙げた。「トランプ政権に引き続いてエンティティー・リストを維持、場合によっては拡大することがバイデン政権が取りえる一つの大きな手段だ」と話す。

 ジョーンズ氏も同様の指摘をしている。貿易面では切り離しができないが、テクノロジー分野では、アメリカとその同盟国が協力し、中国抜きの仕組みをつくる重要性を伝えた。さらにジョーンズ氏は、ルールやシステムが確立され、グローバルに共有されていない分野については、民主主義国家がルールづくりの面で協力し、場合によっては中国も巻き込んでいくことの重要性を示した。

 スパルディング氏は、データ管理の分野で、民主的な秩序を守るために、中国とは別の秩序を構築する選択肢を挙げた。「中国式のデータが人々を管理する社会ではなく、民主主義国はプライバシーやデータセキュリティが守られる独自の制度を確立しなければいけない」と主張する。


長期的には、米国率いる民主主義陣営と中国との2つのグローバル化が進む
民主的なシステムを守るには、同盟国や友好国との密接な協力が必要

 一部の重要分野では、中国とシステムを分断すべきとの見解が示されたが、今後の世界秩序はどうなるか。米中競争関係が強まり、より分極化が進むのか。

 この質問に対し、ジョーンズ氏は、「短期と長期で分かれるが、長期的には民主主義陣営のグローバル化と中国型グローバル化で分断したグローバル化が進む」と話す。中国が民主的なルールに従うのであれば歓迎するが、ルールに従わないのであれば別の仕組みが必要だからだ。

 そして、最後に強調したのは、ルールに基づく秩序をつくり、維持するためには、中国のみならず、他の民主主義国もルールを守り、相応の負担をすべきだということだ。国際協調の未来は、米国のリーダーシップや大国間関係だけではなく、各民主主義国が相応の責任を果たし、一致した協力体制を取れるかにもかかっている。  


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記事:
西村友穗(言論NPO国際部部長)
インタビュー編集アシスタント:
畑仁美(国際教養大学4年)


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