テクノロジー、金銭、人材を問題解決に活用することが問われる /リチャード・ブッシュ(アメリカ:ブルッキングス研究所シニアフェロー)

2015年9月30日

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リチャード・ブッシュ
(アメリカ:ブルッキングス研究所シニアフェロー)


Q1:地球規模課題の中で、現在あなたやあなたのシンクタンクが一番関心のある、または取り組んでいるテーマはなんですか。また解決のためどのような努力をされていますか。

 我々は、ブルッキングスの海外政策プログラムに関して、その行動規範と目的を以下のように定義している。

目標
 相互関係がより密接になり、相互依存が進み、国境や安全保障に関する既存の理解を技術革新が凌駕するに至った今日、米国の国レベルの外交政策は、新たな脅威やチャンスに正面から取り組む必要が出てきた。そうした観点から、外交政策研究プログラムは、以下に示す2つの目標を設定している。
1. 世界情勢を動かす原動力と、それが国際社会にいかなる影響をもたらすかを理解すること。さらに
2. 持続可能な平和、安全保障、および地球規模の繁栄を推進する米国内外の政策や施設の方針に影響を与えること。

我々が特に強調して取り組む分野

•先進国と新興国
 中国やインドのパワーの再構築や彼らの急激な工業化は、安全保障や経済、さらには貿易、拡散、貧困や環境問題に関連したガバナンスを、彼らがどこまで行うのかという問題を提起するまでに至った。このように、米国、ヨーロッパ、日本およびロシアといった先進国は、新興国の急激な発展によって生じるテロや民族紛争、エネルギー資源の安全確保、および伝染病等の問題に対して、共通したアプローチを構築する必要がある。今日、一国が単独で絶対的に優位な存在にはなれないとの理解から、我々ブルッキングスは、変化の力学に影響を与え、先進諸国が一致団結して集団的な安全を確保することで初めて解決する問題に対して、各国がゼロサム的な解決方法を選択するのを阻止することを目的としている。

•安全保障の再定義
 さらに貧困にあえぎ、弱体で、法治も出来ず、国民の期待に応えられないような失敗にあえぐ各国からの国際的な挑戦もまた、日に日に強まっている。海外における政情不安は、地域を不安定な状況に陥れ、やがてはテロや麻薬の密売ルートや組織的犯罪の温床に成りかねない。米国は、このように新たに出現してくる脅威に立ち向かい、適切な対応を取ることが、国として求められているのである。さらに民間も軍事的組織も共に近代化を図り、技術革新に努め、レスポンス能力を高める必要がある。我々の経験からも、不安定な地域で我々の利益を高めるには、他の諸国と協力することが必要であることがわかっている。そしてこうした状況を形成するには、国際的な関係構築と今までにない能力に対する新たな知識が必要となってくる。

•政治、経済、安全保障
 米国の外交政策はブルッキングスのグローバル経済と発展(Global Economy and Development)プログラムと緊密に連携して経済の政治に対する影響力や、政治の経済に対する影響力についても研究している。例えば、おもな消費者や生産者の動きを推進する地政学的な要因だと我々が理解する、米国のエネルギー保障需要の達成を促したり、あるいはまた、こうした動きがグローバル市場にどのような影響を与えるかも、研究しているのである。さらに、国連における国際安全保障に関する投票パターンですら、投票権のある国の経済的利益によって左右されることがわかっている。

•組織の変容
 国際関係が抜本的に変容すると、健全な政策推進を可能にする組織変更が必要になる。地域・国際機関の現行モデルは、果たして有効だろうか?世界全体を当事者にしようとする我々のシステムは、我々が対峙している課題や機会をうまくとらえているだろうか?冷戦後や911後の課題に取り組むにあたり、米国は世界におけるその役割を再定義し、多国間組織や地域組織の形成を手助けできるという、稀な機会に恵まれている。逆に言えば、もしこうした組織変更に失敗すれば、激動するこの世の中で、我々は自らの安全保障や繁栄を追及できなくなるのだ。


Q2:その地球規模課題の解決に向けて、あなたは日本にどのような役割を期待しますか?また、地球規模課題の解決に向けた取り組みに日本がより大きな貢献をするために、あなたは何が必要だと考えますか。

 まず最も大切なことは、様々な問題解決にテクノロジーを含むいろんなアイデアを、いかに適応していくかということである。第二に金銭を用いてそうしたアイデアやテクノロジーを広範に広めていくこと。さらに第三はそうしたアイデアやテクノロジーを必要とする場所に行ってそれらを広め、現地の人たちが使えるようにトレーニングが行える人材がいるかどうかが問われるのである。


Q3:国際社会では日本の発言力は弱いと言われていますが、その原因はどこにあると考えますか。また、この言論NPOのプロジェクトにどのような期待を寄せていますか。

 今までも各方面にわたり日本は長期的な視野に立ち、グローバルな問題に真摯に取り組んできた。冷戦が終結する前でさえ、日本は他の人たちのために尽くす良き地球市民であった。重要なのは、そうした努力を維持することで、日本が主戦場を離れ傍観者を決め込んでしまったと思われないことである。


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▸日本は世界・地域・2カ国間の舞台で課題解決の役割を果たせる/ロヒントン・P・メドーラ(カナダ:センター・フォー・インターナショナル・ガバナンス・イノベーション(CIGI)会長)

▸東アジア地域の安全保障で、地域協力の推進者となるべき/セリーヌ・パジョン(フランス国際関係研究所(IFRI)リサーチ・フェロー)

▸経済成長と国際秩序を両立させた経験を活かすことが重要/ホセ・マリア・ラドス(アルゼンチン・カウンシル・フォー・インターナショナル・リレーションズ(CARI))

▸日本の政治的プレゼンスを強化するためには積極的な発言と行動が必要/セルゲイ・クリーク(ロシア現代発展研究所ディレクター)

▸発展途上国に寄り添う形で支援し協同してきた経験は今後、日本にとって役立つだろう/サンジョイ・ジョシ(インド:オブザーバー・リサーチ・ファンデーション ディレクター)