ワールド・アジェンダ・カウンシル発足記念フォーラム「世界秩序の不安定化と今後の世界の行方」

2016年2月11日

第6話:世界秩序が変化する中、今後の日本の立ち位置とは

工藤:最後のテーマになると思います。国際政治の中心がアジア・太平洋にシフトしてきています。アジア・太平洋には経済的な可能性はあるのですが、不安定な勢力均衡があり、共通の価値観というものがなかなか共有されにくく、領土や海洋の問題で対立している。ただ、ここでの行動は大きなグローバル的な秩序の変化に大きな影響を与えかねないという問題があります。その中で、日本の立ち位置をどう考えればいいのかというのが、最後の質問です。

 これについても、有識者にも聞いてみました。そうしたら、日米同盟をさらに強化して、アメリカを軸とした世界的な秩序を補完する、という回答が一番多いのかと思っていたのですが、それが25.8%で、それより少し多い32.6%が、アメリカもそうですが、中国などの多様な国と関係を構築していくことで、平和的な土台をつくることが必要ではないか、という回答となりました。この結果も踏まえながら、日本はどういう立ち位置を考えていかなければいけないのか、ということをお話しください。

外交上、リーダーシップを発揮できる位置にいる今年の日本

細谷:今年は、日本がサミットの議長国になるわけですし、日中韓の首脳会談も日本で行われる可能性があります。そう考えると、日本外交にとって非常に重要な年になると思います。私は、日本はG7の中で、リーダーが国内の政治的に一番安定を得ていると思っています。政党もそうですし、議会との関係もそうですが、衆参どちらでも多数をとっているということで、日本の政治はかつてないほど国内的に政治基盤が安定している。加えて、かつてないほど外交安全保障について、強い関心を持ったリーダーがいる。そういった意味では、世界の中で外交をリードできるいいポジションにいるのは、個人的にはドイツのメルケル首相と日本の安倍首相だと思っています。

 昨年、メルケル首相は議長国として、今年は日本の安倍首相が議長国のリーダーとなるわけですが、そう考えると、問題を解決していく上で、日本のリーダーシップは我々が通常考えている以上に、重要になる可能性があるし、それがいい方向に行く可能性もある。

 もう一つは、アジア太平洋ということで申し上げると、安倍首相と習近平主席、朴槿恵大統領は過去のリーダーと比べて非常に強く、優れたリーダーだと思います。私は、稚拙なリーダーが横に並ぶと大体、戦争が起こったり、不安定化すると思っています。そう考えると、日中間のリーダーに比較的見識があり、合理的な思考をする、また現実主義的なリーダーであったからこそ、昨年1年間で日中関係、日韓関係が大きく前進したと思っています。

 第二次世界大戦から100周年の節目である2015年、アジアで戦争が起きるのではないか、ということが、日中、米中で指摘されました。それから考えるとこの間、飛躍的に安全保障上の関係はよくなっていると思います。その背景にある外交努力というものを見たときに、いくつかの難しい問題を抱えながら、楽観的な材料があるのかなという気がしています。

アジア・太平洋の将来にとって重要な3つの視点

藤崎:東アジアの体制を考えたときに、何が日本にとって一番いい姿かというと、アメリカをインボルブしながら、皆で東アジアの秩序をつくっていく、というのが日本にとっては一番得なのだろうと思います。その観点からすれば、今はある程度いい状況ができている。有識者のアンケートでは、これからの日本の進む道として、日米同盟を強化し、アメリカを軸とした体制をつくる、という回答と、中国など多様な国との関係を構築するという質問、回答が別々にありました。しかし、多くの人は、むしろこの二つを併せ日米同盟を強化しつつ中国などとの関係を構築することが日本の立ち位置としていいと思っているのではないでしょうか。そのためには、去年、大きな前進が2つありました。安保法制を新たに整備した。そして、日米同盟を強化した。これは大事なことで、アメリカでの大統領選挙でも日本はタダ乗り論という人がいるわけですから、そのことを考えてもやはりきちんとやっておくことが大事だったと思います。

 2点目はTPPというシステムをつくった。これはGATT体制を補完するものですから、非常に重要です。こうしたことが進んでいくということが、これからの東アジアの秩序で非常に大事なことだと思っています。

 加えて、これからの日本にとって大事なのはASEANです。これは今まで、一体としてやってきたといっても、2つ大きなチャレンジに直面しています。1つは南シナ海の問題、それからTPPに入っている国、入っていない国があります。そうした中でも、ASEANの一体感は失われないようにしなくてはなりません。それは彼らの問題ですが、日本にとってASEANは大事な存在ですから、そのことは常に念頭に置かなくてはなりません。それがアジア・太平洋の将来にとっても大事なことではないかと、私は思っています。

アジアが安定した地域であるために、日本の果たす役割は大きい

古城:アジア・太平洋が世界的にも重要な地域であることは間違いありません。ただし、これはよく指摘されますが、安全保障の関係と経済の関係が非常に異なっている。安全保障ではアメリカとの同盟関係の二国間関係と中国の台頭ということで、緊張した関係が続いていて、昨今の北朝鮮の動向も非常に緊張をもたらすような関係です。他方、経済は非常に相互依存が進んでいて、緊密化している。こういう異なった関係性の中で、アジアがこの先も世界にとって安定した地域である、ということに対して、日本が果たす役割は大きいと思います。

 また、先ほど出ましたTPPもルール形成という点で、日本がそこまで入っていて、ルールの形成に寄与した、ということは非常に大きなことだったと思います。TPPもややもすると中国に対する対抗的な枠組みという形にとらえられますが、結局は、それが魅力的なルール形成となり、ほかの不参加の国から多くの国を取り込むことがいかにできるか、ということにかかっていると思います。その点において、この地域でどのようなルールを作っていくか、ということに対して常に日本が関与しながら、自らその分野から撤退しない、ということが重要ではないかと思います。

日本は、アジア・太平洋においてリーダーシップを発揮できる国に

田中:本件については、ほとんど皆さんと同じ意見です。細谷さんがおっしゃったように、安倍政権になり、3年をかけて中国との関係も、韓国との関係もほぼノーマライズしたということは非常に重要な功績だと思います。しかも、ノーマライズするにあたって、日本側が不必要な譲歩などをしないで、日本の立場を堅持しつつ、中国とも韓国とも正常な関係を打ち立てる、ということができたことは大変な外交上の功績だと思います。

 そして、藤崎さんがおっしゃったように、アメリカとの関係をますます強化する基盤をつくったわけです。これを背景に考えれば、世界秩序に貢献する優良国という点で、ドイツと並んで日本は非常に重要だと思います。

 アジア太平洋においては、中国や韓国とも首脳レベルで話ができるということを背景に、先程から問題になっていたような中国経済の減速が起こすような世界経済の不安定、それが地政学的な影響を受けないように阻止するために日本として様々な機会を利用して、行動ができると思います。今年は日本で、日中韓首脳会談をやることは非常に大事ですし、日中韓の合意をもとにASEAN関連の会議、東アジアサミットなどを利用して、この地域の安全保障環境を保つだけではなくて、経済が悪くならないようにするためのリーダーシップは取れるのではないか、と感じています。

共通の利益の拡大に向けて、勢力均衡の基礎はできた

工藤:細谷さんは先ほど3つの条件を言われました。勢力均衡という問題、その中で、共通の理念と共同体とおっしゃっていたのですが、少なくとも、昨年の安保法制をベースに勢力均衡の基礎はできているので、その基礎を背景に何かルールなり、共通の利益の拡大とか、そういうことに向かう段階にきているということでしょうか。

田中:ただ国際政治においては何が起こるかわかりません。国内問題が国際政治に飛び火して、変なことが起きるということが常にありますので、こういうことはしっかりと注意しておかなければいけないし、それを注意するためにも、抑止力というのが機能しているのが大事だと思います。その抑止力を機能させ上で、一緒にこういうことをやりましょう、ということが提案できるような状況に日中韓の首脳の関係はなりつつあると思います。

工藤:ということで、時間になりました。今日は言論NPOにとっては、ワールド・アジェンダ・カウンシル(WAC)の設立を記念した議論となりました。今日は、世界の秩序や今後を考える大局的な議論ができたと思います。私たちはこうした議論を継続的に行って、日本の社会の中で国際的な問題を考える場をつくると同時に、世界に日本の考え方を幅広く発信する取り組みを始めたいと考えております。

 ということで、みなさん、今日はありがとうございました。

報告
第1話:現在の世界秩序をどう考えればいいのか
第2話:アメリカの力の現状
第3話:中国の台頭と中国経済への期待
第4話:グローバルガバナンスの在り方
第5話:世界は今後どうなっていくのか
第6話:2016年、日本に求められるリーダーシップ

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