民主主義を考える時、自由なメディアの役割が重要だ

2016年3月15日

デビッド・ムンク
(英「ガーディアン」アジア太平洋地域国際ニュース編集者)

工藤:私たちは、民主主義や平和という問題が、世界中で非常に不安定な段階に来ていると考えています。こうした問題に対して、ジャーナリストの役割はどのように問われていると思いますか。

民主主義の力が失われようとしている時、自由なメディアの役割が重要になる

デビッド・ムンク:特に民主主義が不安定になっているというようなニュースは、マリとかモザンビーク、ラテンアメリカ、アジアなどから入ってきますが、そうした地域では、特に不安定な状況ではないかと思っています。ただ、アメリカやオーストラリア、インドなど、民主主義が活発的に議論されている国もたくさんあります。そうした健全な民主主義の対話がなされているという事はすごくいいことだと思います。ただそれでも不安の徴候というのは凄く見えてきています。

 色々例はありますが、例えば、ロシアはウクライナの侵攻もそうですし、最近だとシリア問題、ヨーロッパとの言論での厳しいつば競り合いというのもあります。それから、中国には民主主義というものが存在しませんが、その中国が世界的にも台頭している。中国の台頭イコール良いところもたくさんあると思いますが、かなり課題になってきており、様々なチャレンジになりうる課題もたくさんあると思います。

 私は、民主主義を専門にやっているわけではありませんが、ひょっとしたらトラブルになりかねない所は多々あるので、しっかりと見守っていかないといけないと思っています。どこかの国で民主主義の力が失われている場合には人々に声を与えるというか、力が失われないようなメカニズムが無ければいけないと思うので、自由なメディアというのはすごく重要になってくると思います。

工藤:続けて、日本に対してどのような印象を持っていて、日本に期待することはなんでしょうか。


メディアが疑問を呈し、自由で公平な議論環境が必要

デビッド・ムンク:日本というと、まず民主主義国家としては非常に先進的な国であるし、民主主義の属性というところも皆そろっていると思います。ただまったく日本の民主主義の評価が脅威にさらされていないかというと、そんなことはないという風に感じます。ただ、これがすぐに日本の民主主義の脅威になるわけではありませんが、そういうことを警戒すべきではないか、と思われるような兆候が見られるのではないかと思います。

 特に国内のメディアが自由に国内事情に関してレポートできるかという点に関して、危ぶまれるところがあるのではないかと思います。というのも、日本に限ったことではなく、他の民主主義国家であるイギリスなども含め、メディアが自由に発言できるという状態が維持できない可能性が出てきたので、常にウォッチしていかなければいけないと思います。1年ぐらい前からだと思うのですが、日本で政府から自由に報道ができないようなプレッシャーが政府の方からかかったとか、大臣級の人から党に対する批判的な発言をする、というような直接的ではないにしても、そのように伝わるような発言があったと耳にしています。そうしたことは、やはり少し警戒をしてかなければいけないのかなと思います。

 国内の事情に関しては、メディアが本当に自由に議論して報道すべきだと思いますし、批判をするにしても、オープンに批判できるという環境が必要だと思います。それが無くなると、例えば、アメリカのイラク戦争に突入する前がそうだったのですが、メディアがイラク戦争に対して疑問を呈することを禁止されたわけではありませんが、あの時点でメディアがもっと大量破壊兵器に関する政府見解にもっとクエスチョンするようなことが深くできていたなら、国民のムードも変わっていたし、歴史も変わっていたのではないかと思えてしまうのです。これは改めて、日本だけではなく、他の国も含めてですが、メディアがしっかりとそういうところの疑問を呈して、自由に公平な形で議論ができるような環境は、日本のみならず他国においても必要だと思います。

 政府が国民の意見を操作するわけではありませんが、影響を働かせようとしているところは、しっかりと見て行かなければいけないと思います。そして、政府が例えば、メディアはこういう風に線引きしなさいという事を、国内でも国外事情でも何かやってしまうと、政府としてはそんな意図はなかったのだ、みんなに公平に対応するためにやったと発表するでしょうが、そうした動きがあったというのは一つの懸念となります。インターナショナルメディアとしても、そうしたことはピックアップしていくし、我々としてもそうしたことを記事にしたこともありました。特にブロードキャストの中で、職を失った方がいたり、NHKの役割については、しっかり注意してみていかなければいけないと思っています。