COC グローバルイシューについての国際協力:レポートカード2017-2018

2018年5月08日

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各論

5 Successful 成功
4 Good 良い
3 Decent 適切
2 Mediocre 可もなく不可もなく
1 Poor 不十分
0 Failed 失敗


核拡散防止 :1 不十分 (Poor )
(新たに(イランなどの)国が核兵器を保有するようになることを阻止すること、法的・基準枠的組みの強化、核兵器廃絶への進歩) 

2017年における評価

 2017年、北朝鮮が15回(計:20発)の威嚇的なミサイルを発射し、その射程を米国に及ばすための質的向上が進み、2017年11月29日に発射された新型ICBM「火星15号」は米東海岸に到達可能と推定されている。北朝鮮はすでに20発以上の核爆弾を保有していると言われ、核弾道化を進めて、9月には一年ぶりの水爆実験を成功させている。こうした北朝鮮の核開発を抑え込めていない現状は、核拡散抑止で明らかに失敗と評価できる。

 ただ、国連安保理での国連決議はこの一年で4回に及び、経済制裁は強化され、制裁から外交プロセスに向かう努力が、国際社会や北朝鮮の周辺国で続けられていることを考慮し、失敗(Failed)ではなく、不十分(Poor)とした。平和解決への努力は今後も基本とすべきだが、それだけで北朝鮮の核廃絶を実現できるのか、見通しが立たない極めて危険な状況にある。北東アジアの周辺国での多国間協力も政府レベルでは機能していない。

 他方、イランとの核合意は、トランプ大統領の発言もあったが、JCPOAには影響はもたらさず、合意は継続されている。 






国際テロ対策 :2 可もなく不可もなく (Mediocre)

(活発なテロリストグループの抑止、テロリスト財源への対策、テロ防止・過激派抑制に関するサポート、人権に配慮したテロ対策)

2017年における評価

 2017年はISISの支配領域が、イラク・シリアにおいて解放され大きく縮小したことは評価できるが、テロリストが情報や資金を調達できるルートは確立しており、過激思想に共鳴した者、ローンウルフ型のテロリストが車両や簡易な武器を使用したテロが各地で多く見られるなどテロの形態が多様化している。これらの非組織化、日常化したテロに対する、情報共有などの協力も始まってはいるが、これらに対して国際社会の具体的な協力の枠組みが十分ではなく、明確な解決手段を持ち得ているわけではない。

これに対して、イエメンやレバノンで見られるサウジ対イランの対立やトランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と承認したことが、中東地域における不安定要因を増やしており、今後の国際テロにおける地域間、多国間の協力を難しいものにしている。



国内暴力紛争の防止と対応:2 可もなく不可もなく (Mediocre)

(大規模内戦や大量虐殺の予防、紛争仲介、平和維持活動の効果的実施、戦争直後の安定化)

2017年における評価

 過激派組織「イスラム国」は、シリアでほぼ一掃されたが、和平への道程は依然として遠い。国連の後押しによりジュネーブで17年11月から12月にかけて開催された和平協議は、アサド政権側が反体制派との対立を強めて進展なく終了した。一方で、シリアの和平に向けてはロシア、トルコ、イランの3カ国が別の枠組みをつくり、政治的解決を目指しているなど、国際社会が一丸となった協力体制が構築されているわけではない。

 他にも、中東やアフリカで内戦やテロ、難民の人道危機などの問題は依然として絶えない。特に、難民については、欧州や米国で受け入れの動きが鈍化し、トルコ、レバノンなど難民発生周辺国に大量の難民が来ているなど、難民の保護に対する国際協力は行き詰っている。全体として2017年の対応は「不十分」と判断するしかない。




グローバルヘルスの促進 :3 

(急速な病気流行の管理、感染症への対応、生活習慣病への対応、国際医療機関へのサポート)

2017年における評価

 エボラ出血熱での対応の遅れで改革が問われた感染症などへの緊急時対応は、WHOを中心に、世銀、危機段階によっては国連OCHAがサポートし、NGOや製薬会社とも連携する形での体制が一応整った。

 WHOもそれぞれの地域事務所の強化や緊急時に対応した基金や人材の派遣などの枠組みが決まったが、地域事務所は本部とは別に地域選挙で依然理事が決まっており、抜本的なガバナンス改革が実現したとは言い難い。テドロス新事務局長下の体制も2017年10月に動き出したばかりで、これらが本当に機能するかはこれからの課題となる。

 未知の感染症は状況を把握し、封じ込める初動対応が決定的に大事だが、そのためには緊急時対応だけではなく、各国が基礎的な保健医療システムを整えることが必要である。それをサポートするUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)はSDGsのゴールにも入ったが、まだ動き出したばかりである。結核など薬剤耐性菌への本格的な対応も遅れている。




サイバーガバナンスの管理 :1 不十分 (Poor )
(インターネットガバナンス基準の交渉、サイバースペースでの国の行動に関するルール策定、サイバースペースにおけるセキュリティーと自由のバランス、サイバー犯罪の抑止と対応)

2017年における評価

 2017年は、北朝鮮によると言われるアメリカへのサイバー攻撃など、国家がバックにいると思われるサイバー攻撃がアジェンダとして急上昇した年でもある。しかし、こうしたサイバー攻撃に対してのルールは存在せず、各国共通のルール作りは暗礁に乗り上げており、現存の法をどのようにサイバー空間にどう適応させていくのか、または新しいルールをどう構築するのか、議論の具体化を期待するのは難しい状況である。第5回目の国連政府専門家会合(GGE)は、15年に合意された報告書の内容をさらに具体化するために開かれたが、9月の国連総会に合わせた報告書の提出を断念している。ただ、17年G7ルッカ外相宣言では、サイバー攻撃に対して国連憲章に基づき自衛権行使が可能なこと、国際違法行為に対する対抗措置に国際法を適用することなど、先進国同士での考えの共有は一定程度進んでいる。

 インターネットが経済発展や市民生活の向上に大きく寄与したのは間違いない事実だが、国家が安全保障や国家統治の必要性から情報を管理する傾向がおり、自由な情報の流通が分断され、ガバナンス上の規範やルール作りへの合意も進まず、インターネット上の情報の信頼性が失われ、その魅力を失いつつある。17年のサイバーガバナンスの管理は失敗し続けているのが実態だが、努力が途切れていないことを考慮して不十分とする。




国際貿易の拡大 :2 可もなく不可もなく (Mediocre)
(貿易障壁の排除と規制の収斂の促進、貿易円滑化と貿易金融、開発経済の国際貿易への統合、国際貿易に関する交渉フォーラムへのサポート)

2017年における評価

 2017年、トランプ米大統領の自国ファーストの言動に国際的な自由貿易の体制が揺さぶられた年である。米国はTPPから離脱し、NAFTAの再交渉も始まった。これらは選挙の公約に掲げたものだ。

 また、12月にアルゼンチンで開催された第11回WTO閣僚会議も米国代表が閉会前に帰国し、6年ぶりに閣僚宣言の採択ができなかった。2017年のG7やG20でのコミュニケでも「保護貿易に対する対抗 - fight protectionism-」という文言が盛り込まれ様々な確執があった。

 ただ、こうした動揺が、当初懸念されたような国際的な自由貿易体制の分断にまでつながったわけではない。保護主義への軽率な傾斜を抑制しようとする動きも見られた。2017年12月のWTOの閣僚会議では、これまでのWTOができなかった電子商取引などの交渉が閣僚決定で決まり、G20の場でも鉄鋼に対する不当な補助金削減の見直しの合意もなされている。むしろこの2017年の国際貿易の交渉の動きを見てみると、21世紀に対応したTPPの合意が新しいルールのひな形として利用されていることが分かる。

 TPPは残った11カ国の参加で「TPP11」として正式合意されること決まり、英国も参加の検討を表明した。また日-EUのEPAも大枠合意された。これらの動きは、自由貿易に対する新しいルール作りがまだ止まっていない、ということを示している。もちろん、トランプ大統領が現在言及し、また交渉しているNAFTA交渉の最終決着や中国への通商制限の行方は現時点では判断することは難しい。そのため、現段階ではその危険性は認めつつも、2017年は「Mediocre」と、評価するのが適当と考える。

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